雷刃竜
~64
オーガとの戦闘も終わりが見えてきたところで思わぬ来訪者が現れた。
「グゥルオオオオオオオ!」
その大きな口から放たれた咆哮に全員が硬直し動けなくなった、そんな彼女たちを睨みつけ、肉塊となったオーガは自分のだと、これは渡さないぞと、主張しているかのように強靭な前足でがっちり押さえつけている。
その場にいるみんなが動いていない隙に俺はさやから飛び出しブレドの体の許に急ぐ。
失神して倒れたニナと、腰を抜かして失禁中のサラとライカ、尻尾を丸めたサン太郎に立ったまま気絶した雪鱗・・・このままじゃ皆殺しだろうからしょうがなく自分で体の元に急ぐ。
「ガウ!」
と来訪者が短く鳴くとオーガの首を食いちぎる、確実にとどめを刺したかったようだな、おかげで何とか間に合ったが。
「そっそんな!なんでここに?前に遭遇した場所からかなりに離れているのに!」
サラが奥歯を鳴らしながらも力の入らない足を動かそうとしながら目の前にいるそいつを見る。
そいつの大きな口が鋭い爪が視界に映る目の前の脅威が絶望的な戦力差を教えてくる。
そしてオーガの首を簡単に食いちぎった襲撃者、「雷刃竜」サンダーエッジの牙が今だ立ったまま武器を構えて気絶している雪鱗に向けられる。
サラの脳裏には諦めが走る・・・こんな事なら意地悪しないでさっさとレッドが動けるようにしてあげるべきだったという後悔と共に。
「ごめんね・・・レッド・・・」
呟くと。
「後でちゃんともっかい謝ってもらうぞっと!」
という声と共に何者かがサンダーエッジの横っ面にコブシを叩きこんで雪鱗に迫っていた長めの首を殴り飛ばす。
「かった!これはカニより硬いんじゃね?」
サラの前には動けないはずのレッドが拳にフーフー息を吹きかけている閉まらない姿があった。
「グゥルオオオオオオオ!」
再度咆哮をあげるサンダーエッジ、今回は牽制じゃなく怒りからの咆哮だな・・・まぁどうってことない。
「サン太郎!いいかげん動け!」
サン太郎に檄を飛ばすがサン太郎は動けない、全く・・・やれやれだぜ。
「んじゃあ俺らが場所を変えるほうがいいか・・・幸いこいつはもう俺に夢中みたいだしな」
というとニナたちが失神している場所から遠ざけるようにサンダーエッジを移動させることにする・・・殴って飛ばす方法で。
「シュッシュッシュッって言いながら殴ると速く殴れてる気がするな」
「グゥルオオオオオオオ!」
「はい残念、俺は此処だ-!・・・まぁもういないけど」
サンダーエッジの前足による薙ぎ払いを巨体の内側腹の下に行くことで躱しそのままストレートパンチを叩きこみ巨体を殴り飛ばす、が俺の腕にかかった負担も大きかったらしく肩の部分から骨が飛び出しコブシが砕けた・・・割ともろいなこの体。
「それでもだいぶ離れたし、良しとしとくか」
つい口から声が洩れた、右腕が使えそうにないので左手でファルシオンを抜こうとするが左側に鞘を差してたためにちょいと手間取る・・・おかげで竜の爪に捕まっちゃった。
「レッド!」×2
悲痛な叫びが聞こえる、どうやらサラとライカが戦いの行方を観察していたようだ、まぁ当然なんだがね。
さて奴さんの次の手で展開が変わるんだが・・・。
サンダーエッジがレッドを爪で捕らえ地面に押し付ける、レッドは腕ごと押し付けられているためにせっかく抜いたファルシオンを振るうことができない。
そんなレッドに対してサンダーエッジは慎重にとどめを刺すべくその背びれのような鱗を逆立たせて雷を纏う。
「そんな!あれじゃレッドはブレスを躱せない!
ライカ援護しなきゃ!」
「わかった!でもどうするの!」
ライカも逼迫している空気のためか、いつもと違い言葉遣いに余裕がない。
「私が”ファイアボ-ル”で・・・ああ!」
サラがライカに作戦を伝えようとした時にブレスが放たれる。
が、しかし。
「賭けは俺の勝ちだな、これでお前は俺の配下だ!」
サンダーエッジに組み敷かれ回避不可能のブレスはファルシオンに触れた瞬間かき消され、その瞬間にレッドが突然そんなことを言いだした。
そんな勝ちを確信してニヤリと笑みを浮かべたレッドなのだが・・・。
「グゥルオオオオオオオ!」
「へっ?」
サンダーエッジは暴れはじめて、地面に押し付けていた俺をがっしり掴み、俺をそのまま思いっきり投げ飛ばした。
投げ飛ばされた俺は木を2本ほど倒木に変えると地面に落ちた。
「クハッ!まさかレジストしたのかよ!?信じられないけどできるもんなんだな”マインドハック”も完璧に決まるモノじゃないって事か!」
ファルシオンを剣の形状のままで杖として使いフラフラ立ち上がる、さて安全を考えるならもう殺すのがいいが・・・せっかくボロボロになってまで手加減してるんだしもう一度試すか。
「グゥルオオオオオオオ!」
唸り声と共にサンダーエッジはフラフラな俺にブレスを放とうと魔力を高める、まぁそんなのは俺に効かないんだが。
「ガァァァァ!」
放たれたブレスは至近距離で撃たれたブレスでは分からなかったのだが距離と比例して広範囲になっていく、ここまで広いと普通ならこのまま逃げられずに消し炭になっていただろうが・・・俺には無意味、なんせ俺はファルシオンなんでね!
「効かんさ」
フラフラした足に活を入れてしっかり立ち、杖に使っていた剣を前に構え周囲の魔力を喰らう”ソウルイーター”の応用である、高密度のドラゴンのブレスも魔力だし”ソウルイーター”でも喰らい尽せる。
必殺のブレスを2度も防がれたサンダーエッジは俺に向かって突進してくる。
体の損傷が思ったよりひどいせいか躱すのは無理そうだ・・・勿体ないが仕方ないか。
殺意を込めて左手に握ったファルシオンを強く握るとサンダーエッジは足を慌てて止める、こいつ・・・俺の間合いもわかってるのかぎりぎり届かない。
まずいな・・・そう思っていると。
『その力、人のものではないのだろう?貴様は何者だ!』
なんか大気が震える、声っぽいものが聞こえた気がする。
『貴様たちの言語に合わせたつもりだが聞き取れなかったか?』
また聞こえた、これはあれか俺がジジイを仕留めた時に使った魔力で空気を振動させて声を出したやつとおんなじもんか。
「ナニヲイッテルカワッカリマッセーン!」
『むう、そうか・・・いや通じて無ければ今のタイミングでその言葉は出まい』
「気づいたか、で?会話するってことは何らかの交渉でもする気なのか?」
『そうだ、貴様は我に何の術式を施したのだ!」
この反応は・・・なるほど。
「教えてやってもいいが、今の俺の状態をみろよ?
見たらわかるようにもうフラフラなんだよ、大声あげるのも辛いからもうちょいよって来い」
『ならん、貴様の力は未知数だ!これ以上近づくのは嫌な予感しかしない』
勘のいい奴だな、ならこうしたらどうだ?
「だったらこうしよう、俺はこの武器をここに置いて5歩下がる、そうしたら来るか?」
と提案するとファルシオンを地面に突きたて5歩下がる。
『まて貴様、我はまだ了承しておらんぞ!』
「ここまでしてもらってんのにまだビビってんのか?
興ざめだな・・・もう興味も失せた、尻尾を丸めて帰ってもいいぞ、失せろ!」
俺は低い声でもう興味が失せたとばかりにシッシッと手でジェスチャ-する。
と案の定、頭に血が昇ったサンダーエッジは。
『なめるなよ人風情が!』
と跳びかかろうと踏みだしてきた、はいおしまい。
「”マインドハック”」
さっき抵抗されたのは、こいつがただの魔物だと思い刻み込むのに使った魔力が少なかったからのようだ、知恵や理性を持っていると魂に刻む魔力がより多く必要になるらしい、なんでかは分かんないがそういうものらしい。
とりあえず・・・配下が増えたわけだ。
『主よ、数々の非礼容赦してもらいたい』
「やっと眷属化ができた・・・ったくこの体がボロボロじゃねーか」
うまく(?)サンダーエッジを眷属にしたのはいいのだが体のダメージは大きく身を包んだ衣服や防具はボロボロ、全身には大小裂傷が多々あり木に打ち付けた背中はぶつかった木の形に皮がベロンとはがれていて、右腕はコブシも砕けてるし肩から骨が飛び出ているしそこに折れた木の破片が入り込んでいる。
『申し訳ない』
「まぁいい、とりあえずお前は明後日、俺らがシーフォートからケイベルに帰るときに合流しろ!人目がつかないように森の中で移動するようにな、それまでツーサン太郎と一緒に自由行動しといていいぞ!」
『御意!』
指示を出したら元気よく返事をしてサン太郎の許に歩いていく・・・サン太郎はいまだにビビっているようだな。
「レッド!大丈夫なの!?」
俺とサンダーエッジのやり取りを遠目から見て戦いに終わりを感じたのかサラとライカが俺の戦闘中に目が覚めたニナと雪鱗を引っ張ってやってきた。
「大丈夫に見えたら目を医者にでも見せるほうがいいな」
「うわ~遠目からじゃ分かりにくかったけどこの怪我は~」
「サラの魔法でも治癒しきれるかわかんにゃいよ?ここまでひどいと」
この世界の回復魔法は魔力依存で治癒力が上下するのだが、かける側の魔力がかけられる側の魔力より強くないと対象の纏っている魔力に妨害されてうまく治療ができない、自身を回復する分には自分の魔力ってこともあり妨害はないに等しいのだが。
「問題ない自前で治癒くらいできる・・・が手が届かないから肩に刺さってる木片はとりだしてもらえるか?」
「分かったわ・・・よくこれだけの怪我をしているのに平気な顔してられるわね?」
と不思議そうに訊きながら木片を鷲掴みにして取り出していく、結構入ってたのね。
「痛みに泣き喚いていたほうがいいか?
俺の中ではやせ我慢は「男の美学」の一つなんだが」
軽口で応えてみる、実際は痛覚を戦闘が終わった時に遮断したんだけどね。
というか一人静かな気がする。
「レッド!」
静かだと思った矢先にこれか。
「レッド!あんたすごいね!あんな強そうな竜を従えられるなんて!
今度から師匠って呼んでいい?」
俺から何をどう学んでいくつもりか知らないが弟子志願者が来た。
「いいぞ!ただし、俺は厳しいからな、泣くなよ?」
許可を出してやる、俺に今日、新しく眷属と弟子ができた。
サンダーエッジのあだ名はなんにしようかな?
戦闘が終わり森に静寂が取り戻される頃には既に日が落ち始めていた。
夜の森は道に迷いやすい、なのでサンダーエッジの背に全員で乗ってさっさと森から抜け出した。
そのころには傷口に入り込んだ木片もほとんど取り出せたので傷口を軽く洗ってからこの体にかけられる回復魔法である”リペアゴーレム”を無詠唱で使う。
この体はフレッシュゴーレム、死肉で構成されている為分類はアンデッド、下手に治癒系の魔法を使われると怖いな~っていう気持ちがあったので故障したり損傷したゴーレムを修理する方の魔法を使う、効果は普通の回復魔法に比べると弱いがまぁ安全第一ってことで。
でシーフォートに着く前にサンダーエッジと分かれる、一緒にいたら多分ろくでもない事になりそうだし、町の門をくぐるときに門番が心配してくれる・・・と言うこともなく、まぁすんなり通れたならいいかな?
因みにサラとライカは一応着替えている、まぁ理由は気持ち悪かったからってことらしい。
取り敢えずオーガの角を回収してすでに回収していたゴブリンの耳を20匹分を冒険者ギルドに持っていく。
「よくEやFのランクで一匹だったとはいえオーガを倒せましたね!・・・ですが相当無理をされたようですね」
報告すると受け付けた職員が驚き、俺を見て何やら納得に近い雰囲気を出す。
「取り敢えず、この辺のゴブリンを狩りにオーガが出てくる可能性があるみたいだから、しばらくはこの依頼を受けるFランクの冒険者に注意を促しておいたほうがいいと思うわ」
雪鱗と一緒に報告してくれてるサラが職員にそう提案している。
「はい、おそらくギルドもそのように何らかの対応をすると思います、ところで彼はその状態のままでいいのですか?」
と職員は俺の方に手を向けて訪ねてくる、まぁ見た感じ大けがっぽく見えるしね・・・実際大怪我なんだけど・・・。
「宜しければ包帯などを安く提供させていただけますがどうでしょうか?」
と職員がセールスしてくる。
「んじゃあ頼むよ」
断るのもめんどくさいので頼むと「こちらです」と案内される、どうやら医務室があったようだ。
中には医者みたいに白鬚に白衣を着たじいちゃんが座っていた、みたいじゃなく医者か。
「君これ大丈夫なの?」
爺さんの第一声がこれである。
「やせ我慢中だ、大丈夫に見えるなら引退考えるべきだな」
「だよね~これは痛いとか言ってられない怪我だよね~」
呑気な爺さんだなと思いつつ。
「取り敢えず傷口は軽く洗って弱めの治癒魔法をかけてある・・・昔から回復魔法が効かない体質で特殊なタイプの魔法しか効果がないんだ」
「ほう、そんな体で無茶をしたもんだEランクでオーガに向かうなんて正気とは思えんよ」
「まぁいきなり出くわして、しょうがなかったんだ・・・それよりどう処置してくれるんだ?」
と話題がそれつつあったので話を戻す。
「そうじゃの、背中の傷口は消毒してから傷口に薬を塗ってその肩の穴は縫うしかないのう」
ということになった、実は砕けた拳と飛び出た骨なんかは”リペアゴーレム”で早々と治ったのだ、関節部や骨なんかの修理はすぐに済まされるらしい。
というわけで医務室から一人の包帯男が姿を現すこととなった。
「兄さん!なんですかその姿は!」
これがニコルと合流した俺たちにニコルが最初に放った言葉だった。
まぁ気持ちは分かる、何せ体中包帯でぐるぐる巻きで顔は見えてるがミイラ男にされているからな・・・。
「無茶しましたね・・・」
と今日ニコルたちと別れてから起きたことを説明しておく。
「しかし、これで帰りの憂いは無くなりましたね」
「ん?なんのことだ?」
ニコルが安心した顔で呟いた言葉が気になって訊いてみる。
「気づいて無かったんですか?ここに来る途中にあのサンダーエッジとニアミスしたということは帰り同じ道を行くなら今度こそ”出会う”可能性があったんですよ?」
「おお!なるほど、ニコルは賢いな」
「え?いや・・・そうですか?」
褒めたらニコルが照れる、顔が真っ赤だ。
「明日は雪鱗にEランクの昇格依頼をしてもらうんだが俺はこんな状態だ、だからニコル、お前に任せるぞ」
「分かりました、兄さんは明日は大事を取って寝ててくださいね」
「まぁ、この体に休養が意味あるかわからないが、まぁ分かった」
と明日の打ち合わせをしつつ一日が終わる。
フレッシュゴーレムの体はどうやら紙粘土の人形で例えるとにベースとなる割りばしがこの体の骨にあたるモノのようだ、だから”リペアゴーレム”は真っ先に骨が修復したんだと思う、じゃあ肉はどうしたらいいのか・・・明日は肉料理でも食べればいいかな?




