幕間 その頃の彼等
---sideロアン---
ひび割れた大地、見た事もないような気味の悪い色をした空。そしてこちらを窺うように遠巻きに見ている生き物達は、どう見ても人間には見えなかった。
(十中八九、強制的に転移させられたんだろうが・・・ここは、もしかしなくても・・・)
ロアンはヒクヒクと口元をひきつらせた。
周囲をもう一度見渡してみるが、ユーナはもちろん、ラグもアランもハルトの姿も見当たらなかった。
どうやら別々の場所へと飛ばされてしまったらしい。
じりじりと輪を縮める様にして近づいてくる奴らに腰元に差してある剣に手を触れる。
手に入れたばかりの聖剣がどれほどの威力をもっているかはわからないが、つい先日上位魔族にしてやられた身である。それなりに腕に自信があり、聖剣を持っていたとしても、敵地に一人で乗り込むのがいかに無謀な事かよくわかっている。
(あの大神官長、何考えてやがる!)
心の中で悪態を付きながらも、死ぬつもりなど毛頭ないロアンはこの場を切り抜けるための策を頭の中で巡らせる。
(先制して・・・一点突破!)
決めるが早い、ロアンはすらりと聖剣を抜くと、大地を蹴りまっすぐに駈け出した。
(ユーナ、待ってろ! すぐ迎えに行くからな!)
こうしてロアンは、同じくどこかへ飛ばされたであろう少女を思い魔族の群れへと飛び込んだ。
---sideラグ---
「まっさか、ここに飛ばされるとはなぁ・・・」
感慨深げに呟きながらも、ラグは見知った土地をぐるりと見渡す。
木も草もない不毛の活火山。火口からは若干離れているが、相も変わらず魔物がうじゃうじゃと居る。どれもこれもラグの手にかかれば一瞬で消え去るものばかりだが・・・。唯一変わった点と言えば、空を見上げても空以外何も見えない、という点だった。
「とりあえず、下山するか・・・」
少しばかり感傷に浸っていた自分に喝をいれ、ラグは足を動かした。
そうして歩き出せば、ぼんやりとしていた頭が働きだす。
(あいつらは大丈夫だろうが・・・嬢ちゃんは心配だな・・・。仕方ねぇ、あいつら使うか・・・)
都合良く、ここら一帯はラグにとって思い出深く、そして関わり合いの多かった土地だ。
人探しに協力させる人員も簡単に掴まるだろう。
やることが決まるとラグは足を少し速め、下山を急いだ。
---saideハルト---
さびれた村の小さな神殿内。
そんな小さな神殿には似つかわしくない、強烈な魔力の収束が突然沸き起こり、そこを任された地方神官である老神官は慌てて神気の源へ駆けつけた。
あらわれたのは、まだ少年の域を抜けきらない青年で、金の髪、碧眼を持ち、特級を示す神官服を着ていた。
老神官は突然彼が現れたことと、先ほど急遽通信によってもたらされた勇者、および聖女の誕生の知らせとを合わせ、中央神殿で何かが起こった事を察した。
「・・・それでは猊下は・・・」
ハルトに話を聞いた老神官は、とてつもなく大きな事件に自分が巻き込まれた事を知った。
神殿に対し、ガイアレンがとうとう牙を剥いたのだ。
「うん。たぶん、もう・・・。僕らを国外へ転移させるので精一杯だったと思う」
ハルトは小さく頷き、グッと唇をかみしめて俯いた。
言葉にして出してみると、その事が事実として胸に重く圧し掛かってきた。
あの大神官長は、天空神をあがめる神殿の中で上から二番目というかなり高い地位を頂いていた。
その彼が失われてしまった事は、恐らくほぼ確実で、そしてそれにより教会が今後混乱するのは確実であろう。
中央神殿で実際に何があったのかはわからないが、結果、大神官長は力の全てを使いハルトはじめ、勇者となったロアンや優奈を逃がした。
「そうですか・・・。教会も一枚岩ではありませんから、・・・もしかすると猊下と対立する派閥がガイアレン王に協力したのやもしれません」
ハルトもその可能性には気づいており、苦い表情のまま頷いた。
もしもクーデターの様なものが神殿内で起こったのであれば、大神官長だけでなく、他にも少なくない人数の犠牲者が出ているであろう。
ハルトは瞑目し、失われた命が正しく導かれるようにと祈りを捧げる。
大神官長であったシニアタはハルトの育ての親と言っていい存在だった。
幼くして神殿に入ったハルトを公私にわたって教え導いてくれたのは、他ならぬ彼であった。時に厳しく、時に優しく。特異な存在であるハルトに対し、他の子らと変わらぬ態度で接し続けてくれたのは彼だけだった。
(猊下・・・)
今さらながらに、何の恩も返せなかった悔いが募った。
同時に、大神官長を死へと追いやったガイアレン王と不確かな協力者の存在に深い恨みを抱いた。
(必ず、あなたの仇をとります・・・)
---アラン---
見渡す限り真白な大地に降り立ったアランは、すぐさま自分の周囲の温度を調節した。
(北方の大地か・・・)
周囲を見渡すが、人の気配はもちろん、魔物、動物の気配もなかった。
むろん、優奈やロアン達もいない。
(強制転移か・・・やられたな)
中央神殿の恐らく最深部から、転移させられるとはアランもさすがに考えていなかった。
しかも大がかりな魔術が使用できないように制限されていたにもかかわらず・・・だ。
制限を破った上での、大がかりな強制転移・・・となれば、まず間違いなくあの大神官長は命を引き換えにしたであろう。
(・・・強制突破すればよかったか)
ハルトの境遇を知っているアランとしてみれば、あの大神官長がどれほどハルトにとって大切な人物か知っていた。実の父母などよりもよほど大切であったであろう・・・。
(しかし・・・それにしてもここはどのあたりだ?)
自分のいる場所が正確につかめなければ、転移もできない。
全員がバラバラの場所に飛ばされたとしたのならば、優奈も一人になっているはずだ。
あの強力で複雑な防護魔術がかかっているからには、まず命の危機におちいるような事はないだろうが・・・。それに加え天界の主の所有印に・・・もう一つの所有印・・・。彼女に害悪をもたらす事のできる者がこの世界にいるかどうか・・・。
(とりあえず、人をさがすか・・・)
アランは思考をきりかえ、白い大地に足跡を刻み始めた。




