疑念2
確か、私がはじめ認知したのは領地の端にある小さな村での怪事件 。2人の青年のうち一人が失踪、もう一人が惨殺したいとなって発見されたものだ。子供ではなく、青年だったということに違和感を覚えたことに加え、その発生時期というのが、私がその村の周辺に滞在していたためだ。
はじめは、その凄惨な事件にこんな怖い事件もあるんだなと単に思っただけだったが、それだけでは終わらなかった。
私の身の回りで立て続けに事件が起きたのだ。いつも暮らしている屋敷がある地域で起きているだけなら、偶然だと笑うことができたのだが、私が旅行や仕事で滞在した王都やその地域で次々と類似した事件が起きていった。
類似した事件が積み上がっていくたびに、民衆が私に向ける目がだんだんと厳しくなった。貴族たちの格好のネタになっていく。初めは面白半分のゴシップとして流行っていたが、事件が続きだんだんと変化していく周りの目に私が耐えられなくなったのも時間の問題だった。
真実が嘘に取って代わられていく。エリオットもその噂を気味悪がり私との婚約の解消を求めてきた。使用人の中にも、失踪したり惨殺されたりする人が出てきた。それも加わり、人々は私と関わろうとしなくなっていった。
人の噂は75日という言葉もあるように、いつか収まると思っていた。いや、そう思いたかった。
父が亡くなった後、私に降りかかったのは私がその数々の事件に関与していたという身に覚えのない証拠たちだった。それまで、静観していた貴族や平民たちもその動かぬ証拠とあまりにも残虐な事件を前に流石に怒り、私は処刑されてしまったのだ。
しかし、私としてもタダでやられっぱなしというのも癪だった。父の不自然な死に、身に覚えのない証拠によりでっち上げられた罪の数々、そしてそのせいで離れていってしまった使用人、領地民、そしてエリオット。
あまりにも出来すぎていた。こんなにいとも簡単に私を犯人に立てあげるた奴らは裏で何を目的としていたのか気になった。父も死に、私を犯人に仕立て上げるなんて回りくどいやり方をしなくても、私一人を殺す方がずっと楽なのではないか。
拘束されるまで一刻の猶予もない。こんな状況で証拠が捏造されたものであり、私が無実であることを証明し逆転するなんてことは不可能だ。そんなことはわかっていた。しかし、このまま何もせず死ぬよりも、誰かの陰謀と思い込み復讐を胸に誓う方がずっと楽だった。
そんなあくる日の夜、夢を見た。平時は悪夢ばかりを見ていたが、この日だけは違った。夢の中の私は子供で、時刻は使用人たちも寝静まった深夜。月明かりだけが部屋を照らし、あたりは静まり返っている。ひんやりとした空気の中、ベットから飛び降り、扉を開いた。ギィっと音を立てた扉から廊下を覗き見る。やはり誰もいない。月明かりだけが頼りの中、私は何かに導かれるように迷わずに歩みを進める。
子供の頃の私なら、絶対にしない行動だ。子供なら、その特有の想像力を働かせてしまい、夜中に目覚めても布団に潜り込み、朝が来るまで待っていたことだろう。しかし、この夢の中の私は違った。一寸の迷いもなく、布団から出たと思えば部屋から出て、どこかへ向かっているのだ。この光景を第三者視点から見ていた私は、この光景にふと既視感を覚えた。
そうだ。私はこの景色を知っている。
確か、あの人は私が人生最大の窮地に陥った時にこの記憶の封印は解かれると言っていた。まさに今がその時なのだろう。それを思い出せば、あとは記憶が澄んだ川の流れのように頭の中に入ってくる。
そうあの人は、あの廊下を歩いた先にある図書室の窓辺に佇んでいたのだ。その体は透けていたにもかかわらず、私は恐怖心というものを抱かずにその人に話しかけた。
するとその人は、この家に伝わる秘宝の在処と時を一度だけ戻す魔法を教えてくれたのだ。
回帰前は、魔法を発動させるための魔法陣やその術を発動させるのに必要なアイテムを秘密裏に入手するために昼夜を問わず動いていたせいで、この家に伝わるという秘宝については残念ながら取りに行く余裕はなかったし、術を発動させる準備が丁度出来た頃、騎士たちが私を拘束した上で貴族用の牢獄に収監したため、やはりその秘宝とやらを探すことは叶わなかった。
だがしかし、あの人が時を戻す魔法と共に教えてくれた物なのだから、極めて重要な物で間違いないだろう。
その秘宝が眠る場所につながる秘密通路の位置についてはすでにあの人から聞いている。
そうなれば、私のすることはただ一つ。その秘宝を早急に入手することだ。