第1685話 様々な根回し
暗黒の洞窟の暗黒神殿前から、天空島の天空神殿前に移動したライト達。
そこでもライト達は熱烈な歓迎を受けた。
『レオニス、ライト、久しぶりね!』
「光の女王様、雷の女王様、ご無沙汰してます!」
『ラウルとは時々畑の島で会うんだけどねー。貴方達ももっと天空島に遊びに来てくれていいのよ?』
「あー、ラウルか、あいつはなぁ……天空島の野菜作りの手伝いやヴィーちゃんグリンちゃんへの差し入れやらで、結構天空島に通ってるらしいな?」
来訪者を歓迎する二人の女王と和やかに会話するライト達。
ライトとレオニスは、この天空島に来るのは四ヶ月半ぶりのこと。今年の夏休み初日に、ラウルとラーデとともに四人で天空島を訪問して以来だ。
その目的は神鶏達の羽根をもらうことにあったのだが、ラーデの存在を知ったサマエルまで大量の天空竜とともに襲来してきてしまった。
あの時は、ホンット大変だったなぁ……と、ライトもレオニスもしみじみと思う。
しかし、ライト達が頑張ったおかげで天空島同士の戦争勃発は避けられた。
死者や怪我人が出ることなく、今日もこうして二人の麗しい女王達とのんびり話すことができて何よりである。
するとここで、レオニスが早速今日の目的を二人の女王に伝えた。
「光の女王、すまんがあんたの力を借りたい」
『私の力? いいわよ、私でできることなら何だって協力するわ』
「ありがとう。実は地上で今、厄介なことが起きていてな―――」
レオニスは、先程暗黒の洞窟で闇の女王に話したことを二人の女王にも聞かせていった。
『なるほど……私達精霊を付け狙う不届者を捕まえるために、光の精霊達を使って犯人を突き止めたいのね?』
「ああ。炎の女王が瀕死の重傷を負ったことで、火の女王が激怒していてな……人族が招いた自業自得とはいえ、事件とは全く無関係の大勢の人達まで殺させる訳にはいかないんだ」
『確かにねぇ……私だって、もし光の女王やヴィーちゃん、グリンちゃんが殺されかけたりしたら、絶対に許さないもの。それこそ私の全ての力を使ってでも復讐すると思うわ』
レオニスの話に、二人の女王が真剣な眼差しで応えている。
彼女達精霊は総じて身内意識が強く、例えそれが相性の悪い属性同士であっても女王仲間という理由で無条件で信頼を寄せている。
強欲な人族のせいで炎の女王が殺されかけたと聞けば、心情的には復讐するという火の女王寄りになるのも無理はない。
『……いいわ。レオニス、貴方の望み通り私も力を貸しましょう』
「ありがとう!恩に着る!」
『いいえ、これくらいのことで恩に着ることはないわ。闇の姉様だって力を貸すならば、私だって貴方に力を貸して当然よ。それに、もとより私達は既に貴方達からたくさんの恩を受けているのだもの。私達だって、少しは貴方達に恩を返さなきゃね』
『そうよ!……って、今回も私は貴方達の力になれなさそうだけど……』
「いや、雷の女王のその気持ちだけで十分にありがたい。本当にありがとうな」
レオニスの要請を快諾した光の女王に、レオニスが嬉しそうに破顔する。
一方で、光の女王とともに賛同していた雷の女王はすぐにしょんぼりしてしまった。
人族に気づかれないように秘密捜査するにあたり、さすがに雷の精霊を使う訳にはいかない。それくらいは雷の女王とて理解している。
今回も役に立てそうにない、としょんもりとしている雷の女王に、レオニスが懸命にフォローの言葉をかけていた。
『闇の姉様は、中級精霊と上級精霊を遣わすのよね? そしたら私もそれに倣い、光の中級精霊と上級精霊に情報収集させるようにするわ』
「ありがとう。何か手がかりを見つけたら、俺にもすぐに教えてくれ。火の女王が提示した期限、次の満月の日まであまり日数がないんでな」
『分かったわ。調べる場所は貴方達がいつもいる人里、ラグナロッツァという街だけでいいのよね?』
「ああ。事件の黒幕と闇ギルドと呼ばれる犯罪集団、どちらもラグナロッツァにいるからな。もし万が一、ラグナロッツァを調べ尽くしても何も手がかりが得られなければ、その時は他の近隣の街まで調べてもらうことになるかもしれんが……とりあえずはラグナロッツァ全域を調べてくれ」
『そしたら今日から早速取りかかるわね』
「よろしく頼む」
サクサクと話を進めていくレオニスと光の女王。
闇の女王だけでなく、光の女王の助力も得られればこれ程心強いことはない。
その後ライト達は天空島からエリトナ山に移動し、光の女王の協力=ラグナ宮殿登城時の直接降臨の約束を取り付けていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その翌日の、レオニスのラグナ宮殿登城。
登城時の移動の馬車の中で、レオニスは同行者であるパレンやピース、アレクシスにジョシュアにも属性の女王達の協力を取り付けたことを話して、きちんと情報共有しておいた。
「おお、さすがはレオニス君、完璧な計画だな!」
「うんうん、属性の女王用転移門が活用できてて何よりだぁね♪」
「「………………」」
パレンとピースはレオニスを大絶賛し、アレクシスとジョシュアは規格外過ぎる根回しに言葉も出てこない。
そうして臨んだ玉座の間でのラグナ大公との謁見は、レオニスの計画通り進んだ。
アレクシスとジョシュアの念願だった洞窟探索申請許可制は無事通り、レオニスが火の女王を玉座の間に顕現させることで彼女の報復の意思をラグナ大公他多数の者達に知らしめることができた。
これは文句なしに大成功である。
そして今、レオニスとパレンとピースの三人はラグナ大公の要請に応じ、私室にて『とっておきの秘策』をラグナ大公だけに伝えていた。
「なるほど……昼間は光の精霊、夜は闇の精霊にラグナロッツァ全域を調べさせるのか……確かにそれなら、表立って動けない人族に代わり調査が捗るであろうな」
「ああ。闇の女王と光の女王に協力を頼んだのが昨日の朝。昨日のうちに既に動いてもらっているから、早ければ今日明日にも何らかの手がかりが得られるかもしれん」
「それに期待する他ないな……」
レオニスの話に、ラグナ大公は終始驚きつつも安堵したような表情になっている。
するとここで、レオニスがラグナ大公に問うた。
「光の精霊や闇の精霊が闇ギルドの手がかりとか、あるいは何らかの証拠を抑えた場合、すぐに俺に連絡してくれることになっているが……その先はどうすればいい?」
「ふむ……では、此度の事件が完全に解決するまでの間、其方にラグナ宮殿への出入りを完全自由とする許可証を出そう。それを持って、俺のもとに直接来い。ダリオを捕らえるに足る証拠と認められれば、俺の権限で即時警備隊を遣わそう」
「分かった」
証拠を入手した後の手筈を整えるレオニスとラグナ大公。
精霊達の力を借りて証拠を手に入れたとして、そこから先でまたいろいろと紆余曲折して無駄に時間を食っては敵わない。
一日どころか一刻も早く完全解決しなければならない事件だけに、アクシーディア公国最高権力者であるラグナ大公とのホットラインが用意されるのはありがたいことだ。
事件の黒幕のことや当面の方針が決まり、ラグナ大公がのっそりとソファから立ち上がった。
「さて……では俺の方でも、俺ができることを今のうちにしておくとするか」
「先々代ラグナ大公やサンチェス公への根回しですかな?」
「正解。正直なところ、お祖父様や大叔父上に何かしてもらえるとは微塵も思っていないがな。それでも有事の前に事前通告しておいた方がいいだろう」
「それがもとで、ダリオ・サンチェスが逃亡することにはなりませんかな?」
「逃げたら逃げたで黒確定だろ。大手を振ってとっ捕まえることができるわ」
「まぁ、確かにそうですな」
パレンの問いかけに、ラグナ大公が適宜答えている。
ラグナ大公の祖父である先々代ラグナ大公とサンチェス公は、現在はこのラグナロッツァにはいない。
大公の地位から引退した者は、ラグナロッツァの南のはるか遠くにある『コート・ダジャーレ』という超高級別荘地に住まう慣わしがあるのだ。
そのため、先々代ラグナ大公は息子の先代ラグナ大公とともにコート・ダジャーレの大公家専用別荘に住んでいる。
一方でサンチェス公は、同じくコート・ダジャーレ内にあるサンチェス公爵家の別荘地に移住していた。
ダリオ・サンチェスの捕縛は、ラグナ大公の中ではもはや確定事項。遅かれ早かれその一報は、嫌でも先々代達の耳にも届くことになる。
ならばもう今のうちに、とっとと手を回しておこう!という訳だ。
ソファから立ち上がったラグナ大公が、拳で己の腰をトン、トン、と叩きながら解す。
「……ま、ダリオのやつもそろそろ年貢の納め時ってやつだ。今まで散々好き放題してくれたが、今度ばかりは許さん。闇ギルドもろとも叩き潰してくれる」
「ラグナ大公、我らにもできることあらば何なりとお申し付けください。冒険者ギルド総出で尽力いたします」
「小生もパレンちゃんと同じく、ラグナロッツァを守るために頑張ります!」
「マスターパレンにマスターピースもありがとう。其方達を頼りにしておるぞ」
ダリオの捕縛に意欲を燃やすラグナ大公に、パレンとピースも大いに賛同して尽力を誓う。
そしてラグナ大公は、改めてレオニスに向かって声をかけた。
「特にレオニス……精霊の女王達との架け橋となる其方に、このアクシーディア公国の命運がかかっていると言っても過言ではない。事件解決のために尽力してくれ」
「ああ。言われずともそのつもりだ」
「ククッ……其方は本当にブレないな」
ラグナ大公の言葉に、レオニスはさして敬意を払うこともなく平常運転でタメ口をきいている。
大勢の人間がいる公の場ではさすがに窘められるところだが、ここには四人しかないので特に咎められることもない。
レオニスの貴族嫌いはラグナ大公も承知しているし、権謀術数渦巻く政の世界を疎む気持ちもよく分かる。
ラグナ大公に物怖じすることなく物が言える人物というのは、本当に極少数に限られる。
その極少数の中にレオニスも含まれていて、ラグナ大公自身はそれを不快に思うことはなかった。
「レオニス、其方はラグナロッツァに謎の亀裂が発生した際にも獅子奮迅の活躍をしてくれたそうだな。そこにいる筋肉だるまから聞き及んでいるぞ」
「ぁー……あの時のことは、あんま思い出したかねぇんだがな……とりあえず、俺は俺にできることをしたまでだ」
「あの時とて、本当は其方を玉座の間に呼び寄せて褒美を取らせたかったんだぞ? それをパレンに相談したら『断られてお終いでしょうな』とか言われたから諦めたが」
「おお、さすがはマスターパレンだ。俺のことをよく分かってくれてるぜ」
話はビースリー勃発未遂事件のことに及ぶ。
あの事件でも、最大の功労者はレオニスということになっている。
しかし、本当の功労者は自分などではない。勇者候補生たるライトであることは、レオニス自身が一番よく知っていた。
だがそれは、大々的に喧伝していいものでもない。
真相を知るのはライトとレオニス、ラウルにマキシくらいのもので、パレンやピースでさえ知らないことだ。
「此度の件も、其方の力に頼りきりだが……よろしく頼む」
「おう、任せとけ」
改めて頼み込むラグナ大公に、レオニスがニカッ!と笑いながら快諾する。
そして四人は私室の外に出ていった。
ラーデの提案で生まれた『とっておきの秘策』をラグナ大公に伝える回です。
つーか、途中出てきた超高級別荘地『コート・ダジャーレ』。
見たまんま、フランスに実在する『コート・ダジュール』をもじったものなんですが。
モクヨーク池以来の、すんげー寒ーーーい地名の爆誕ですぅ_| ̄|●
何というか、もうレオニスの名付けセンスを笑えなくなってきた気がする…(=ω=)…




