第1683話 思いがけない提案
レオニスがパレン達とともにラグナ宮殿に登城した日から、遡ること二日。
ライトがマキシやラウルといっしょにフラムと炎の女王のお見舞いに、炎の洞窟に出かけた日の夜のこと。
ライト達四人、カタポレンのコテージでラーデやフォルとともに皆で晩御飯を食べていた。
「フラムも炎の女王様も、すっかり元気になっててホント良かったよー」
「本当ですよねー。お二方とも思ってた以上にお元気そうで、僕も安心しました」
「それもこれも、全てライトが俺とラウルに分けてくれたエリクシルのおかげだ。ライト、本当にありがとうな」
「あのエリクシルが早速役に立って良かった!フォル、あんなスゴいものを拾ってきてくれてありがとうね!」
「クルルゥ?」
話の流れでエリクシルの礼を言われたライト。
七夕イベントで頑張って獲得したエリクシル。それが早速役に立ったことは、ライトとしても嬉しい限りだ。
しかもそれがフラムや炎の女王の命の危機を救い、体力回復に大いに役立ったというのだから、七夕イベントで二週間もの間必死こいて笹魔人をペコペコハンマーで叩き続けた甲斐があったというものである。
しかし、それはそれとしてエリクシルの功績をフォルに擦りつけることもライトは忘れない。
一番最初のエリクシルこそフォルがかつて本当に拾ってきたものだが、二個目のエリクシルはBCOイベントで稼ぎました!とは口が裂けても言えない秘密。
そのため、二個目のエリクシルの出処もフォルのおかげ!ということにしたのだ。
身に覚えのない功績で褒められたフォル。
何のことやらさっぱり分からない、といった顔で小首を傾げている。
しかし、フォルの功績を信じてやまないフォル教信者第一号のラウルが「フォル、本当にありがとうな!これは俺からの礼だ、エリクシルに比べたらささやかなもんだが……もし良ければ好きなだけ食べてくれ」という言葉とともに差し出した、一口サイズのどんぐりクッキーは喜んで美味しそうに食べていた。
そうして和やかな晩御飯を食べた後、四人は食後のデザートを食べながら炎の洞窟での事件について話を続けた。
「レオ兄ちゃん、明日はピィちゃんといっしょに炎の洞窟に現場検証に行くんでしょ? 何か有力な証拠が見つかるといいね」
「ああ。ただ、証拠を見つけたところで分かるのは闇ギルドに雇われた実行犯の傭兵のことくらいで、その背後にいる黒幕にすぐに辿り着けるとは思えんがな」
「まぁね……」
レオニスが語る厳しい現実に、ライトだけでなくラウルやマキシの顔も曇る。
実際レオニスの言うことも尤もで、炎の洞窟に残る証拠類から割り出せるのは実行犯である侵入者四人組のことのみ。
そこから黒幕に至るのはそう簡単なことではないだろう。
しかし、そうした暗い空気を払拭すべく、レオニスが努めて明るい声で話を続けた。
「それでも何もしない訳にはいかんからな。どんな小さな手がかりでもいい、そこから黒幕を暴くに至る道筋を見つけなきゃな」
「……うん、そうだよね!レオ兄ちゃん、明後日のラグナ宮殿登城も頑張ってね!」
「ぉぅ……ラグナ宮殿の本丸に入るのなんて、すんげー久しぶり過ぎてちと憂鬱だがな……」
「そこはほら、いっしょに行ってくれるマスターパレンさんやアレクシス侯爵様達に任せれば安心だよ!」
「まぁな……」
ラグナ宮殿登城の話題になると、明るい声で意気込んでいたレオニスの勢いが途端に萎びていく。
この登城にライトやラウルがついていくのはさすがに無理なので、ここは一つレオニスに頑張ってもらうしかない。
しかし、貴族嫌いのレオニスにとっては憂鬱なイベントでしかない。だからといって、個人的な好悪の問題で登城拒否できる問題ではないので、嫌々ながらでも行くしかないのだが。
するとここで、ラウルがレオニスに声をかけた。
「なぁ、ご主人様よ。今回の事件の黒幕ってのは、ダリオ・サンチェスとかいう貴族なんだよな?」
「ああ。マスターパレンに話を聞きに行った時、お前もいっしょにいただろ?」
「ああ。だが俺は、人族の中にある階級ってのが今一つ理解できていないんだよな。同じ人族の中でも貴族と平民ってのがあって? 俺が普段市場や冒険者ギルドで会って話をする人達は平民で? この屋敷の近所に住むご近所さん達は全員貴族なんだよな?」
「ぁー……確かに妖精のお前には、人族の階級なんて分かり難いだろうなぁ……」
ラウルの素朴な疑問に、レオニスとライトが納得したように頷いている。
ラウルが生まれたプーリア族には、王や女王といった階級は一切存在しない。
母たるフォレットの木と、そこから生まれるプーリアの妖精族という親子関係のみ。
そのためラウルは、王だの貴族だの平民だのといった身分的区分の意味がよく分からないのだ。
「まず、今俺達がいるこの国、アクシーディア公国。その中で、一番偉いのがラグナ大公だというのは一応分かる。俺も人里に住むようになってから、もう十年以上は経つからな」
「そうだな、それくらいは知っておかんと不味いわな」
「だが、ラグナ大公以外の貴族となるとさっぱり分からん。ご近所のウォーベック家やグレアム家、メレディス家とかを見てると、市場や冒険者ギルドで会う連中とは何から何まで違うということだけは分かるんだがな」
「まぁ、そうだろうなぁ……平民と貴族じゃ、着るもの食うもの住む家全てが違うもんな」
ラウルの言い分は全て真っ当なものだ。
衣食住という外見的に見えるものなら、ラウルにもその質の良し悪しは分かる。
だが、伯爵だの侯爵だのといった階級や血統といった身分的区分は目に見えない要素であり、人族特有の階級差が妖精のラウルにはどうしても理解しきれないのも無理はない。
「俺が無知なのを承知で改めて聞くが……ダリオ・サンチェスという貴族を裁くのは、そんなに難しいことなのか?」
「ンーーー……人族じゃないお前にも分かるように説明できりゃいいんだが……」
ラウルの素直な問いかけに、レオニスが難しい顔をしながら考え込んでいる。
どうやって分かりやすく説明すればいいか、懸命に思案しているようだ。
「貴族ってのは、基本的に平民より力を持っている。ここで言う力ってのは、腕力とか魔力とかの純粋な力じゃなくて、権力とか財力なんかのことを言う」
「財力が金のことを指すのは分かるが、権力ってのは何だ?」
「権力とは、他人を支配し強制的に服従させる力だ。例えばマスターパレン。彼は冒険者ギルドの総本部マスターで、全ての冒険者達に命令や指示を出す権利を持っている。事件が起きた時、マスターパレンは事件解決のために様々な指揮を揮い、冒険者ギルドに所属する俺達はそれに従わなきゃならん。これも権力の一つだ」
「ふむ、それなら俺にも分かる」
レオニスの説明に、ラウルも納得しつつ頷く。
先だってのビースリー勃発未遂事件の時に、冒険者ギルドはマスターパレンのもと一丸となって様々な活動をした。
その中でラウルも、他所の街に避難できずラグナロッツァに残る住民達のために、炊き出しやら配給物資を毎日運んだりしていた。
そうした実体験もあって、権力というのがどういうものなのか、ラウルにも何となくだが分かってきたようだ。
「で、だ。ラグナロッツァの貴族を冒険者ギルドに例えると、一番偉いラグナ大公はマスターパレンで、その次に偉いのは副ギルドマスター、その次が部長とか課長とかになっていく訳だ」
「ほーん。権力を使える者達の中にも、細かい区分があるんだな」
「そう。で、問題のダリオ・サンチェスなんだがな。奴はラグナ大公家の血筋で、そこら辺にいる貴族よりかなり強い権力を持っているんだ」
「ふむ……だからダリオ・サンチェスを追い詰めるのは難しい、てことになるのか?」
「そゆこと。ラグナ大公の縁戚、はとこってだけでも厄介なのに、祖父が先々代ラグナ大公の実の弟だってんだからな。後ろ盾が強過ぎて、生半可な捜査や証拠じゃ絶対に通用しねぇ」
「「「………………」」」
顔を歪めて苦悩するレオニスに、ライト達は思わず黙り込む。
権力とは、人族社会において必要不可欠なものだ。
法律などで悪しき行動を抑制したり、犯罪を犯した者の家に踏み込んで強制捜査するのだって権力のうちだ。
しかし、権力が正しいことにだけ使われればいいがそう簡単にはいかない。
心根が悪い者が権力を持てば、あっという間に濫用や悪用されてしまうのが世の常である。
ライト達が暗く沈む中、衝撃的な言葉を発した者がいた。
『ならば、属性の女王達の力を借りればよかろう』
この強烈な言葉を発したのは、ラーデだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「「「………………」」」
ラーデの斬新過ぎる提案に、ライト達は呆気にとられた顔のまま固まってしまった。
そんなライト達を、ラーデが不思議そうな顔をして見ている。
『??? 何だ、我はそんなにおかしなことを言ったか?』
「ぃ、ぃゃ、おかしなこととは言わんが……属性の女王達に助けを求めろ、ということか?」
『うむ。だってそのダリオとやらはレオニス、其方であっても表立って詰問することはできぬということであろう? 同族という立場や柵が問題解決を阻むというのであれば、人族の柵など無関係の精霊達の力を借りればよいではないか』
「そりゃそうなんだが……ぃゃ、もしかしてこれ、実はかなりアリかもしれんな?」
最初のうちこそ呆気にとられていたレオニスだったが、ラーデの提案の有用性にすぐに気づいて思案している。
ダリオ・サンチェスを追い詰めるのが難しいのは、ひとえに闇ギルドとの関連性を証明するのが困難なことにある。
闇ギルド自体が拠点不明で、根絶どころか捕縛さえもできない状況だし、そんな正体不明の相手とダリオが契約関係にあったことを証明するなど、もはや不可能に等しい。
しかしそれは、あくまでも正攻法で挑んだ場合の話。
正攻法での攻略が不可能ならば、裏技でも何でも使える手段を使って証拠を確保して追い詰めればいいのだ。
ラーデの提案を受けて、レオニスが真っ先に思い浮かべたのは闇の女王。
闇ギルドは、その名の通り夜の暗闇に紛れて活動することが多い。
空き巣、強盗などの軽めの犯罪から拷問、暗殺といった重罪まで、それらが行われるのは昼日中ではなく夜中に遂行されることが多い。
そして夜の暗闇は、言わずもがな闇の女王の領分。
闇の女王が闇の精霊を総動員すれば、闇ギルドの拠点を探し当てることなど朝飯前に違いない。
また、夜以外の日中の捜索に光の女王の助力を得るのも悪くない。
全ての光の精霊は、光学迷彩という独自のスキルのようなものを持っている。
それを使えば、余程のことでもない限り光の精霊の存在はバレない。
夜中の捜索だけでは洗い出しきれないことでも、日中も光の精霊に捜索を依頼することでカバーできるだろう。
ただ、唯一の懸念は『女王達や精霊を相手に、使い走りにするような扱いをしていいのか?』という点。
しかし、それも今回に限っては問題ないだろう。
何故なら、今回の事件解決を強く望んでいるのは火の女王と炎の女王であり、炎の女王を害した犯人を他の女王達が許す訳がない。
大事な姉妹に魔の手を伸ばす輩など、他の属性の女王達にとっても不倶戴天の怨敵である。
そうした様々な計算や算段を、レオニスは頭の中で素早く組み立てていく。
思案を始めてから十秒後くらいに、レオニスは顔を上げて小さく叫んだ。
「……よし、そしたら明日の朝早くに闇の女王と光の女王のところに行って、助力を頼んでくるか!」
『うむ、それがよいぞ』
「ラーデのおかげで、黒幕の真犯人を無事期限内に捕まえることができそうだ。本当にありがとうな!」
『どういたしまして。我が其方達の役に立てたなら何よりだ』
ラーデに対して心から礼を言うレオニスに、当のラーデは事も無げにすました顔で受け答えしている。
そして明日にも闇の女王と光の女王に会うというレオニスに、ライトが速攻で食いついた。
「レオ兄ちゃん、暗黒の洞窟と天空島に行くの? そしたらぼくも行きたい!」
「おう、いいぞ。ついでにっつーか、もともと火の女王のとこにも行くつもりだったしな。ただし、いつもみたくゆっくりしちゃいられんぞ? 俺は午後から炎の洞窟に現場検証に行かなきゃならんからな」
「うん、分かってるよ!」
ライトのおねだりに、レオニスが快く応じる。
こうしてレオニスは、ラーデの助言により炎の洞窟で起きた事件の捜査に大きな光明を見い出していったのだった。
前話にてパレンが語っていた『とっておきの秘策』、それが生まれた経緯を明かす回です。
その途中に、人間が日々何気なく使っている身分差を理解できないラウルのためにいろいろ解説したり、作者の想定以上に文字数が嵩んでしまいましたが(=ω=)
しかーし!正体不明の闇ギルドに対する有効手段が何とか見つかったのは、間違いなく朗報にして事件解決の糸口となるはず。
というか、ここ最近レオニスがものすごーく扱き使われているような気がしますが。多分気のせいでしょう。キニシナイ!(・з・)~♪




