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12初めて街の外へ

 スノーはオーサの家の扉を軽くノックをする。ゲーム内のフレンドメッセージでホノカがすでにスキル習得のために移動しているのを把握済みだ。

 オーサが顔を出し、お面にある彼女の両目を覗き込む。


「オーサさん、おはようございます」

「……ホノカはもっと早く来てわしを叩き起こしたぞ」

「あの子は元気ですから」

「ふん。冥の女神に鎖を渡したか。お前さんは本当に行動が早いの」

「わかるんですか?」

「ひと目見ればな。……お前さんは気にしとらんと思っておった」

「私は気にしません」

「……なるほどな」


 本当にこのゲームはなんて優秀なAIだろう。彼女はそんなことを思いながら、室内に入ってとことこ歩いていたレアンを抱き上げる。

 いつものように不満げにペシペシと叩くレアンをよしよしと撫でながらテーブルに付いた。


「今日は舞踊スキル覚えてこようと思います。でも、もらってる地図に載ってないんですよね」

「舞踊スキルはこの街であれば、紹介が必須じゃからかの」

「あれ、そんな条件あるんですか?」

「舞踊など本来は趣味人と娯楽の物でしかない。スノーとホノカに取ってもらいたいのはスキルじゃ。スキルにしてるのは決められた人間のみでスキルの習得方法を他人に教えることはない。自分たちの食い扶持じゃからの」

「えー、結構俗世的な理由ですね」

「スキルの熟練度と人間の位階というレベルで新興の家が乱立して揉めた反省じゃ」

「やっぱりとっても俗世的ですね。舞踊スキルを取得すると何が変わるんですか?」

「自由は減るが自由が増える」

「矛盾してますよ」

「むむ、お前さんにはまだ戦闘をしてもらっておらんかったからの。他の旅人たちと交流があればもう少しわかりやすくなったかもしれん。戦闘スキルと舞踊スキルを組み合わせるのが重要なんじゃが」

「いやー、思ったよりもスキル取得って時間かかりますよね。他の旅人だともう狩りを試してみてる人がいるみたいです。それを見たことはありますよ」


 オーサが顎に手を当てて考え事をしてる間、スノーはレアンの前足をそれぞれとってテーブルに乗せたりひっこめたり遊んでいると、我慢の限界が来たのかレアンがハグハグと噛み付いてくる。


「あれ街中なのにダメージが」

「……ホノカのスキル取得に時間がかかりそうじゃ。一度ぐらいは外に出て戦ってみなさい。気晴らしにもなろうし、戦うということがどれほど窮屈かわかるであろう」

「良いんですか!? 」


 そうしてスノーはオーサの許可も降りたため意気揚々と装備を整えて、街の外へ向かう。街の周辺にいるモンスターはうさぎっぽいものと半固形物っぽい体をもつスライムだ。

 朝にスノーが動画で見たウルフ系のモンスターはもう少し街から離れなければ出現しない。

 街の外壁に作られた門をくぐり抜ければ、遠景を阻むものはなくなる。

 なだからな高低差を持つ草原がスノーを出迎えた。風が吹き抜けて白髪を揺らし、息を吸い込めば鮮やかな香りが広がる。

 彼女が今持っている装備はお面が増えただけで、アイテムストレージの中に初心者の槍と盾、そして身につけている初期の旅人の服だ。それでもスノーは目の前の光景を見て、前へ進もうと足を踏み出しすぐに駆け足になった。

 背後から誰かが彼女を止める声が聞こえたが、それを無視して彼女は全力で走り出す。

 今まで持っていたVR機器のゲームには無いリアル。踏みしめて跳ねるように走る感触がスノーの足の裏や指、膝、そして全身を駆け巡っていく。

 街中の舗装された上を走ったのとは全く違う。


「これだ! これだよ!」


 期待してプレイし続けた数多のVRゲームで落胆し続けた日々は、ようやく今「CJO」によって――。


「おおおお! ふべらっ」


 無視しようと思っていたスノーの斜め前にいたスライムが、全力で走る彼女をあっさり捉えて体当りし、スノーは吹き飛ばされて地面を何度もバウンドし地面に叩きつけられた。

 吹き飛ばされた衝撃でくらくらするスノーはスライムに悪態をついて起き上がろうとするが、ぬっと目の前に影がさし、それを見上げた。

 武器も盾もストレージから出しておらずスノーの装備は初期の防御能力もまともにない旅人の服だけだ。


「待っ!」


 モンスターは淡々と助走をつけてスノーへ接近し、小柄ながらも勢いの乗ったアタックをみっともなく地面に伸びているスノーへぶつける。スライムが淡々とスノーへ向けてアタックを行えば、面白いようにスノーは跳ね飛ばされてみっともなく地面を転がっていった。

 無防備な状態へのアタックによるスタン状態で立ち上がる間もなく、スライムからの攻撃が繰り返されてあっさりとスノーはHPを全損して死に戻りした。

 街の初期転送位置にリスポーンしたスノーを、レアンが分かっていたように間抜けを見る目で出迎える。

 そして、スノーの周りにも同じようにどんどんとリスポーンの光が点滅し、続々とプレイヤーたちが復帰してきていた。

 スノーはぷるぷると体を震わせて思い切り息を吸い込み、


「「「初期雑魚なのに敵強すぎいいいいいいいいい」」」


 甘えた考えで初期mobモンスターに挑戦して初狩りされたプレイヤーの声がハモって街に響いたのだった。


次話は明日18時更新予定です。

お読みいただきありがとうございます。ブクマ評価していただいた方、まことにありがとうございます。

また、よろしければブクマ評価感想いただければ嬉しいです。

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イラスト作成:詰め木様(@tumeki_kou)
ユキナとホノカをお描きいただいたものです。
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