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高嶺の花な幼馴染が、俺の前だけボクっ娘でいる件  作者: 四乃森ゆいな
第2章

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第13話 過去回想 その1

第2章に入ります。

まさかここまで続くとは……

 ◆水無月 蒼真◆


『月ノ宮学院』――中学、高校、大学までのエスカレータ―形式の学校で、在籍している生徒のほとんどが中等部から所属している内部生となる。勿論、高校や大学からこの学校に籍を置く生徒もいるが、入学するには超難問試験を突破する必要があるため、途中入学の生徒は必然的に注目の的となる。無論、称賛の意味で。


 ただそれだけじゃない。


 月ノ宮学院の生徒には実業家や政治家、有名会社のご子息、ご令嬢などが多く在籍していることもあり一般的に見れば超エリート校でもあるのだ。


 学院を指揮する生徒会は勿論、学内の治安を維持する風紀委員もまた然り。


 とはいえ、この学院で最も重視される項目は学問。それ故、いわゆる一般家庭で育った人であっても学力が高ければ問題は無いし、資格があれば学費免除の対象にもなる。


 外から見れば憧れの学園。

 そんな月ノ宮学院中等部には、才色兼備の八方美人――『咲良(さくら)優花(ゆうか)』という生徒がいる。


 今年の新入生代表挨拶をも務めたその少女は、クラスメイトのみならず、他クラス、更には学年の幅をも飛び越えて注目されるほど。


 そしてその少女は、俺――『水無月(みなづき)蒼真(そうま)』の幼馴染でもある。





 入学式を終えてから数週間。


 未だ彼女の知名度は落ち着くことを知らず、昼休みを迎えれば、他のクラスから男女問わずに訪ねてくる。連日の対応に疲れていないはずもなく、家に帰れば早々に彼女は〝理想〟から〝現実〟へと戻り、俺のベッドを占領する。


 そう、彼女が学園内で見せる顔は言わば表の顔。

 誰の視線も無く、無数の本が散らばる俺の部屋へと上がってくれば忽ち裏の顔へ豹変する。


 裏の顔と言っても、彼女の本質はあくまでも『素』のまま。


『高嶺の花』と呼ばれる彼女にだって、思いっきり発散して、崩したいこともある。――裏の顔とは言うがそれもまた()()()()()。だからこそ、本質を知るからこそ、彼女に好意を向ける男子達に現実というものを教えてやりたいと思うこともしばしば。――『咲良優花』を好きになるのだけはやめておけ、と。


(まぁ、今のところそれを実現しようとは思わないけど……)


 ふと、考え事をしながら自席で本を広げていた俺のスマホに新着メッセージが入る。



『ごめん、時間かかるだろうから先に食べてて――12:40』



 宛先は、現在進行形でクラスメイトも含む大人数と話をしている優花からだった。


 顔を上げ、彼女の方へ向けてみれば、丁度いいタイミングで目線が合う。あの調子では、今日も一緒に昼休みを過ごせそうもないな。



『了解。無理はすんなよ――12:41』



 二言のみ送信し、すぐさま既読が付いたことを確認してメッセージを閉じる。


 弁当が入った袋と財布、そして読みかけのラノベを1冊手に持ち、いつもの中庭へと向かうため廊下に出た。教室を出て行く中、背中に感じ慣れた視線を受け止めて。


(……けど、良かった。思ってたより、この学園での生活が上手くいきそうで)


 最悪のパターンを常に想定していた故に、思っていたよりも優花がこの学園での生活に馴染めていることに、ふと安堵の息を吐く。


 ただ油断はしない。


 かつて、俺の家の前で泣き崩れた数年前の彼女を思い出す。


 背負っているランドセルには、まだ使って2年目とは思えないほどの大量の傷跡。僅かながらに泥がついた腕。俺の腕の中で涙を大量に流しながら、語る一人称が徐々に変わっていくほどの不安定な精神。


 小さい頃からずっと隣にいた可愛い幼馴染。


 どこか自分に姉ができたかのような気分になったことも、一度や二度だけじゃない。――それでも知らなかった。いつでも笑顔で笑いかけてくれたキミが、こんなにも涙を流すほど心を痛めていたことを。


「……変なことまで思い出したな」


 と、考え事をしている最中、暖かな風が頬を(かす)め、髪を(なび)かせる。


 いつの間にか隣の校舎へと繋がる渡り廊下へと出ていたらしく、その廊下から外れ、近くに設置してあるベンチへと腰かける。


 この渡り廊下は、昼休みの学生が主に利用する食堂とは真反対の場所にあり、この時間は特に人気が少なく居心地が良い。


 それに加え、校舎の隙間を通ってくる春風が暖かく、入学初日にこの場所を見つけて以来、のんびりした時間を過ごしたいときや人の目を避けたいときにはよく来ている。昼ご飯を食べたいときなんかも同様だ。


「……ん?」


 弁当箱を取り出そうとした矢先、その存在にふと気づいた。


 渡り廊下の壁にもたれかかり、規則正しいリズムの寝息を立てながら昼寝をしている男子生徒を見つけた。それも、まるで()()から身を隠しているかのような場所で。

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