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異世界転生、裏から見れば  作者: 黒魔
7章 勇者パーティーを追い出された役立たず実況者がとんでもなく有能なんだが
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審判の時・大塚怜の視点

 私の作ったドキュメンタリー映像「プロジェクトH」の上映が終わった。杉輝は顔面蒼白(がんめんそうはく)だ。


「何だよこれ! まるで俺がひどい事ばっかしてきたみたいだろ!」


 自分が今までやってきた事のひどさをわかってなさそうだ。


「実際にひどい事ばっかりやってきたじゃない」


「こんなの公開したら、俺が虫にされてしまうぞ!」


 カナちゃんも焦っている。


「私の扱いもひどいですよぉ!」


 巨人化した女神様が頭上から私に怒鳴(どな)った。


「怜よ、何故(なにゆえ)そなたがあの菩薩と()うておるのじゃ! まさかわらわのインタビュー映像を奴に見せておらぬじゃろうな!」


 みんなの慌てよう、狙い通りだ。このドキュメンタリーの仕上げといこう。私は声を張り上げて言った。


「スペシャルゲストをお呼びしています。この世界の創造を依頼された、慧羅僧菩薩様です」


 私が手招きすると、奥の部屋に隠れていた菩薩様がやって来た。


「なんじゃと――!」


 女神様がうろたえながらその場に正座した。でもまだ落ち着かないようで、土下座するように深々と頭を下げた。菩薩様を上から見下ろす気まずさに耐えられなかったのだろう。


 私はウィンドウを開き、アイテムリストから椅子をたくさん出した。菩薩様に座っていただき、私も椅子に座った。心ちゃんたちにも座ってもらった。


「ようこそいらっしゃいました」


 私が菩薩様に言うと、菩薩様は女神様のほうを見て言った。


「ご紹介にあずかりました、どこぞの仏です」


 映像の中で女神様が「どこぞの仏」と言ってたからか。女神様は土下座したまま巨体を縮こまらせている。杉輝は椅子に座ったまま硬直している。


「菩薩様、この世界の印象はいかがですか?」


「私がこの世界の動画を初めて拝見したとき、仰天(ぎょうてん)しましたよ。極楽ですので(あお)いでも天はありませんけどね」


 そういう冗談は笑えなくて反応に困る。


「私が呂里馬場さんに依頼したのは、転生者が楽しむための娯楽たっぷりの世界を創ることでした。しかしこの世界の最初の動画は、何もない世界に転生者を放り込んで、行動を観察して面白がるものでした。その後も、転生者をからかって遊ぶような動画の多いこと多いこと」


 女神様も杉輝もカナちゃんも、固まって目線を下に向けたまま汗をだらだら流している。


「これはとんでもない世界になってしまったな、と思っていたんですよ。そしたら先日、怜さんからメールで相談を受けまして。それで実際に行ってみることにしたわけですよ」


「実際にこの世界をご覧になって、どうでした?」


 菩薩様は微笑(ほほえ)んだ。


「印象が変わりましたね。皆さん、いきいきしています。世界を発展させようと頑張っている人。面白い動画を撮ろうとしている人。純粋に冒険を楽しんでいる人や、何気(なにげ)ない穏やかな暮らしをしている人もいます」


「先ほどの映像はいかがでした?」


「たくさんの方々が迷惑をこうむっているということですよね。天国だからといって何でも自由にしてよいわけではなく、他人に迷惑をかける行為は(つつし)まねばなりません。天国にふさわしくないということになれば転生をやり直すことになります。杉輝さん、あなたはどう感じましたか?」


 杉輝は涙目で立ち上がり、深々と頭を下げて声を震わせながら言った。


「俺のやった事で周りの人たちがこんなに怒っていたなんて、知りませんでした! 面白い動画を配信するために傷つく人がいるのなら、やるべきではありませんでした」


 そして周りのみんなに対して頭を下げた。


「皆さん、申し訳ありません!」


 菩薩様はカナちゃんのほうを向いて言った。


「加奈絵さん、あなたはどうですか?」


「軽はずみでしたぁ。転生先を決めるという立場だったのでぇ、皆さんを下に見る気持ちがあったように思いますぅ。ごめんなさぁい!」


 杉輝は心ちゃんに向き合って言った。


「心。俺がいなくなっても、お前はやっていけるよな」


 それから(さわ)やかな笑顔で私に言った。


「怜。今まで迷惑をかけたけど、お前は頼りになったし、お前がいてくれて俺は楽しかった。ありがとな!」


 杉輝は今まで虫にされることを恐れていたけど、もう覚悟を決めたのだろう。なんだ、かっこいいこともできるじゃん。


 菩薩様は拍手をした。


「素晴らしい。天国には悪い事をしない人もふさわしいですが、悪い事を反省する人もふさわしいのです。杉輝さん、加奈絵さん。今後もこの天国で活躍していってください」


 私は拍手した。みんなも拍手した。杉輝はあっけにとられた顔をして言った。


「えっ、いいんですか?」


「ええ。私は仏です、他人に罰を与えるようなことはしたくありません。それに、私もイタズラに加担したわけですし」


「イタズラ? ……おい怜、どういうことだ!」


 杉輝は私の意図に気付いたようだ。よし、今がネタばらしのタイミングだ。


「これは杉輝をターゲットにしたイタズラ動画だよ。今までみんなが散々からかわれてきた事の仕返し。どう、怖かった?」


 杉輝は(くず)れるように椅子に座って顔を伏せた。


「なんだよ、マジで虫に転生するかと覚悟してしまったじゃんか」


 数寄さんが杉輝の前まで来て、上から見下ろすようにして言った。


「わたくしの受けた(はずかし)めは到底(とうてい)許せるものではありませんが、あなたのしょぼくれた姿を見て少しは気が晴れましたわ」


 雄烈くんも言った。


「俺はお前のそんな姿が見たかったんだ」


 根越さんがカナちゃんに言った。


「お前がしっかり反省したのなら、それでいい。これからはしっかりやってくれ」


 心ちゃんが杉輝に抱きついた。


「杉輝、どっか行ったりしないよね! これからもずっと一緒にいるよねー!」


 杉輝は照れくさそうに答えた。


「ああ、お前を置いてどこかに行ったりしないさ。ごめんな」


「よかった――!」


 女神様が安堵(あんど)の表情を見せた。


「これで安心したのじゃー。わらわが責任を取らされるのではないかと冷や冷やしたわい」


 菩薩様は女神様の肩に手を置いて笑顔で言った。


「私はあなたも許すとは一言も言っていませんが、あなた、反省しましたっけ?」


 女神様は笑顔のまま固まった。菩薩様も笑顔のまま続けて言った。


「この世界の動画の多くはあなたが主導して作ったものですよね。そして世界を創る仕事の進み具合について、私に噓の報告をしましたよね」


 固まっている女神様をよそに、私たちは魔王がやられた姿を撮影してドラマの撮影を終えた。




 後日、このドラマを本編とメイキング映像の2本立てで公開した。メイキングは私のドキュメンタリー映像を交えていて、最終的に杉輝をだますイタズラ動画の構成になっている。このメイキングのほうが大人気となって、女神様のチャンネルの視聴者数が飛躍的に伸びた。


 それからは、この世界では冒険をすることだけでなく動画を撮影することも転生者の楽しみになっていった。転生してくる人も、俳優、ミュージシャン、映像技術者など様々なプロがやって来るようになり、この世界で製作される動画はどんどん充実していった。様々な映像を撮影するためには、その舞台となる様々な景色の場所が必要になる。私たちは世界をどんどん広げていき、街に森に海に山に砂漠に城にダンジョンに、とバラエティに富んだ景色を創っていった。もう魅力的な動画を次々と生み出せる世界になったから、杉輝のイタズラに頼らなくても面白いものを作れるし、女神様も無茶振りをしてこなくなった。


 私は相変わらず忙しい。でも私の仕事がたくさんの人の役に立っているという実感があるから、毎日が充実している。これが私の幸せ、私にとっての天国だ。


   おしまい

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