神実況者、追放される・呂里馬場の視点
怜たちが異世界を発展させていっておるのじゃ。わらわはその世界を管理する神として、発展の方向性を示し、導いてやらねばならぬ。じゃから怜たちとは定例会議を開いておるのじゃ。不定期じゃがのう。
「皆の衆、よく聞くのじゃ。順調に発展してきたこの世界じゃが、新たなステップアップが必要なのじゃ。というのも、わらわの動画の再生数が伸び悩んでおるのじゃ」
怜がやる気なさそうに言うた。
「そんなことよりもっと優先すべき問題が色々あるでしょうが」
この娘はいつも文句ばかり言うて、わらわの力になろうという気がまるで無いのう。それに比べて杉輝と心はやる気たっぷりじゃ。
「もう何回も同じような動画ばっかりだもんねー。みんな神様の動画に飽きちゃってるんだよー」
「そうだよな。なんか新しいこと始めないと、クソ動画が積みあがっていく一方だ」
改善したい気持ちはありがたいのじゃが、言い方がきついのじゃ。本人の前でそこまで批判することもなかろう。
「ようし、今度はドラマを撮らないか」
杉輝が意外なアイデアを出しおった。興味深いのう。
「ほう、わらわのチャンネルには無い方向性じゃのう」
「ああ。ドキュメンタリーってのは伝えたい事実を伝えきったら終わりだからな。フィクションならいくらでもネタを供給できる」
わらわのチャンネルはドキュメンタリーじゃのうて「やってみた」動画のはずじゃが。ネタはいくらでも企画できるはずじゃぞ。そんな疑問を口にする前に、杉輝のやつは自信満々に語りだしおった。
「俺はそろそろ長い話を書いてみたいと思ってたんだよ。せっかく異世界転生なんて面白い事やってんだから、イタズラ仕掛けるような小ネタじゃなくて、最初から最後まで台本に沿った冒険譚を俺たちの手で作ろうじゃないか」
全部杉輝の思い通りにやるとしたら、わらわの立場は何なのじゃ。
「わらわの動画チャンネルじゃぞ。杉輝が脚本を書いたら、それはもう杉輝チャンネルではないか」
杉輝は考え込んでおる。今までこやつがこんな真剣な顔を見せたことがあったじゃろうか。世界を創るのはふざけ半分でよくて、動画の脚本なら本気で取り組む価値があると思うておるのじゃろうか。
「じゃー神様が主役やってよー」
心の一言に、杉輝は目を丸くしおった。
「それだ! ロリババアが主役の冒険物語なら、ロリババチャンネルにふさわしい動画になるぞ」
「なんじゃ、わらわが冒険者になるというのか」
今まで誰かが戦っておるのを見て実況ばかりしておったわらわが、今度は自分で戦うというのか。しかも台本通りに。そんなの視聴者が見たいかのう?
「ええい、やめじゃ。実況者のわらわが台本通りに戦うなど、茶番が過ぎるわい」
「ねー杉輝、主役の神様が台本を無視して実況するお話を書いてよー」
心は何も考えずに言うのう。そんな話ができるわけなかろうに。
「よーしわかった! 全部アドリブの主役が実況しながら冒険する話を書いてやる」
「できるのかー! 杉輝よ、そなたは心の頼みであればどんな無茶でも引き受けるのか」
「無茶なんかじゃないって」
さっきまでの真剣さはどこへやら、杉輝はいつもの無責任な笑顔に戻っておる。何か良いアイデアでも思いついたのじゃろうか。
「まあ良かろう、台本の無い実況者役であれば普段通りじゃ。わらわが主役をやってやるから、杉輝は脚本を書くのじゃ」
そんなやりとりから1か月経ち、なんだかんだでドラマ撮影の協力者が集まってきておるそうじゃ。天国で退屈せぬようにするのが異世界転生の目的の1つじゃから、撮影を皆で楽しむのであれば大いに結構な事じゃ。
ドラマのタイトルは「勇者パーティーを追い出された役立たず実況者がとんでもなく有能なんだが」だそうじゃ。なんじゃろう、こういうタイトルが現世で最近流行しておるらしいが、そもそも実況者が勇者パーティーで役立つはずがなかろう。追い出されて当たり前、というか勇者パーティーにおる時点でおかしいのじゃ。タイトルの前半だけを見れば、出オチにも届かぬタイトルオチ感満載じゃのう。
そしてようやくクランクインの日が来たのじゃ。冒険者ギルドの一室に十人以上が集まっておる。わらわだけは全部アドリブなので台本を受け取っておらぬが、これからわらわが勇者パーティーを追放されそうな雰囲気がなんとなく漂っておる。
「はーい、最初の場面の撮影いきますぅ。3、2、1」
カナエルが撮影指示を出しおった。あやつが監督なのか。そういえば杉輝は役者として席についておる。
「お前をこのパーティーから追放する!」
開口一番、杉輝がタイトルを回収しおった。なんという予想通りの出だしじゃ。
「僕らが命がけで戦っている間、ロリバーさんはしゃべってばっかりだったからね」
そなたは最初の冒険者の堀田放ではないか。穴あけ能力があるのじゃったな。ロリバーというのはわらわの冒険者名か。
「役立たずは我々『ブレイブアックス』には不要。それだけだ」
こやつは確か、ダンジョン交渉人と呼ばれておる変わった冒険者じゃ。名を根越瑛太と言うたか。こやつらの言う事は正論すぎるのじゃが、言われっぱなしなのも腹が立つのう。
「わらわはわらわの出来る事を精一杯やっておるのじゃ」
「そもそも実況者などという輩がこの勇者パーティーにいること自体おかしくてよ。おーっほっほっ」
それはわらわも同意するのじゃ。じゃが、それは貴族が平民を馬鹿にするときの言い方じゃー!
「誰のおかげで動画の人気が出たと思うておる! そなたこそ、なぜ悪役令嬢が勇者パーティーにおるのじゃ、アクヤ・クレージョー!」
「あらあ、わたくしは魔法の才能を買われて、魔法使いとしてここにいるのですわ。あなたは何の戦闘能力をお持ちでして?」
「実況には互いの戦力の分析が重要じゃ。わらわは高度な鑑定スキルで能力を見抜くことができるのじゃ」
「戦力を分析した結果を、あなたは脳内で敵を倒すのに活用していらしたのかしら」
悪役令嬢というのは、相手をムカつかせる技術は天下一品じゃのう。こんなのを相手にしとったら放の能力を使わずとも胃に穴があくわい。
「ええい、こんなパーティーはわらわのほうから願い下げじゃ! とっとと出てってやるわい! 後になって後悔しても知らぬぞ!」
わらわは会議室を飛び出したのじゃ。なんじゃあのパーティーは。穴あけ能力者に交渉人に悪役令嬢に変態。どこが勇者パーティーだというのじゃ。……って、わらわは飛び出してしもうて良かったのかのう? 台本はどうなっておるのか知らぬが、ドラマは続けられるのじゃろうか。
何やら後ろから走ってくる足音が聞こえる。振り返ってみると、心がこっちに走って来ておる。
「おう、どうしたのじゃ?」
心はわらわの問いかけに答えずにまっすぐ走り寄り、そのままジャンプしたかと思うたら、わらわの顔にドロップキック!
「どぅわああああああっ!!」
ものすごい衝撃でわらわは吹っ飛んで壁に激突してしもうた。意識が遠のいてゆく……。




