【第95話】メリーさん、冒険者になる(3) その他諸々を買う
「はい、お疲れさまでした」
「どうもありがとうございました」
無事、3つの指輪の個人認証が終わったので店を出る。
今日は予定が立て込んでいるのだ。
今日もご主人とお手伝いさんが表まで出て見送ってくれた。
ちなみに今回3つの指輪は装飾ありの指輪に収納してもらった。
使うときにだけ取り出して指に付けてもらうのだ。
収納の指輪は1つ20万円で、頑張ればだれでも買うことが出来る。
でも、かなり余裕がないと買わないような贅沢品でもある。
いくつも指輪を買う余裕があるという事で、下手に狙われる可能性がある訳だ。
その点、装飾ありの指輪はリング部分が違う金属だし、オシャレな感じになっている為、見ただけで収納の指輪だとは分からないはずだ。
杖屋の主人がさっき言ってたから間違いない。
簡単に言えば
・収納の指輪1=ポーションや小物など
・収納の指輪2=鎧
・収納の指輪3=鎧以外の防具
・装飾ありの収納の指輪=冒険していない時、上記1~3を入れておく。
指輪1は冒険中に毎回指にはめる。
指輪2と3は準備の時に鎧を出すときに取り出し指にはめる。
鎧を出したら脱いだ服を収納する。
着替えが終わったら装飾ありの指輪に戻す。
歩きながらそう説明したら、
「うん、そうするわ」
俺の提案はすんなり聞き入れられた。
◇◆◇◆◇◆
「さて、お昼、どうしましょうか」
以外と時間を食ってしまい、あまり回れていない為相談する。
「ん~、一回戻る?」
「戻るって、教会にですか?」
「そうそう」
「それもいいですけど、どこか行ってみたいところとかあれば、そちらでもいいですよ?」
「ん~。 無いよ。 私、実はあんまり知らないの・・・この街のお店・・・」
メリーさんがちょっと儚なげな顔をしながらそう言った。
「あはは。まあそうですよね」
「なに~」
メリーさんがぽふりと叩いてきた。
オモチは反対に居るので無傷だ。
「え、今、自分で言ったんじゃないですか、俺はただ、そうだなって肯定しただけですよ?」
「笑いながらね。 なんて言おうと思ったの?
”そうですよね”の後に続く言葉をいいなさい!」
「・・・メリーさん、引きこもりだから?」
「!」
「あ、ダメですか?」
「うわーん、オモチちゃん何か言ってあげて~」
「むむむ。ケイタ、謝るのにゃ」
「・・・悪かったよ」
メリーさんをぎゅうとしながら形だけ謝る。
「適当だわ・・・」
「ええ・・・なんでわかるんですか? そういうの・・・」
聞いちゃいけないとは思うけど思わず聞いてしまう。
「う~!」
「今のはごめんなさい」
今度は本気で謝罪をする。
小さく唸りながら、俺の胸に顔をうずめてぐりぐりとやっていたメリーさんは、しばらくして顔を上げた。
「はあ。 あれ? ・・・ごめんなさい、なんだっけぇ」
「・・・いえ」
なぜか満たされた顔のメリーさん。
ちょっと危ない顔をしている。
時々なるんだよなあメリーさん。この顔に。
とりあえずさっきの会話につながらないよう気を付けながらお昼を食べるために教会に帰るように促した。
「最近の教会のごはん、すごくおいしくなったんだよね~」
「料理自慢の方々が頑張っているんだと思いますよ」
「あ~・・・」
何かに気づいたような顔をしてメリーさんは、はいはいとうなずいた。
とりあえず、お買い物午前の部はこれで終了となった。
◇◆◇◆◇◆
「お二人ともお帰りなさい」
「ただいまです」
「ただいま~」
「思ったより時間を食ってしまって、全部巡れませんでした」
「そうでしたか。
ではちょうどいいのでお昼にしましょう」
「間に合ってよかったです」
「色々買ってもらって、なんか私やる気出て来ちゃったわ」
「張り切ってケガしないようにしてくださいね」
「そんな危ない場所には行かないつもりよね?」
「はい、薬草摘んだり、初級のモンスターをちょっと討伐するくらいかな?」
「後は慣れて来たらキャンプするのよね?」
「そうですね」
「ふふふ、楽しみだわ」
「私が言うのも変ですが、メリーさんの事をお願いしますね、ケイタさん」
「はい」
「私の事、よろしくね」
そういってメリーさんは手を握ってきた。
「もちろんですよ」
「やった」
何をいまさらと思ったけど、今はその反応をただ楽しむだけに留めた。
今日のお昼ご飯は試作の冷たいスープが出てきた。
パンにも何か入っているようだ。
さっそく頂きますを言い食事がスタートした。
とてもおいしいと褒めると料理自慢の人達が嬉しそうに笑った。
お昼を食べてから、みんなで少し雑談をしてお腹が落ち着いたら解散となる。
俺とメリーさんは買い物の続きだ。
午前中で終わらなかったが、オーダーメイド系も鎧ぐらいだし流石に午後で終わるだろう。
「ではまた行ってきます」
「はい、気を付けて行って来てください」
◇◆◇◆◇◆
「さて、残りは盾屋さんと、ブーツ屋さんです」
「そしてギルド登録にゃ」
「そうだった」
「そうだった」
まず近い順番で盾屋さんに行く。
「盾か、うまく使えるのかな~」
「受け方を間違えるとひっくり返っちゃうので難しいですよね」
「角度が大切なんだよね?」
「そうですね、角度と力の入れ具合、ある程度構えのようなモノもあると思いますね」
「ケイタさんは盾を使わないのよね」
「今はそうですね、本当は持っていたほうがいいんだろうけど・・」
「私もショートソードのつもりだったからにゃあ」
メリーさんは急に猫語になった。
「予定が狂っちゃいましたねえ、まあショートソードで悪いという事でもないので、ある程度リーチがあるソードで慣れて来たら色々やってみたらいいと思いますよ」
「ん~ そうね~」
「今はお金の事より、どうやったら自分が納得出来そうかと言うのも考えましょう」
「うわ~ かっこいいなあケイタさんは・・・」
「でしょ」
「うん」
「そこはオモチも否定できないのにゃ」
「うふふ、そうよね」
おどけたつもりが、肯定しかされず、ただただ俺がむずがゆくなったけだった。
そんな感じのたわいもない雑談しながら盾屋さんにつく。
「さっきの鎧に合いそうなもので、サイズ中型で探しましょう、無ければサイズは拘らず、最悪なしでもいいですね」
あのドレスアーマーは単体でかなりチートな感じに仕上がる予定なので。
「りょうかーい」
盾屋さんはなかなかの広さで地下を合わせると4階もあることが分かり、瞬時に相談しようという事になった。
「ん~ その鎧がどういうのかが分かればいいんだけど・・・」
「鎧は10日後くらいの納品予定なんですけど、そうだ、剣を取り出してみてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
俺は収納の指輪から先ほど買った装飾がされている剣を取り出した。
「ああ、こういう系ね、それで中型だったらこっちだよ」
店員さんに連れられて階段を2階上る。
「こちら一帯が、要望のものに近いかな」
「おお、本当だ」
「ありがとう」
「いえいえ、では後ろに控えておりますのでごゆっくり」
「はい」
「この盾も蔦と花で、似ていますよね」
「本当だ」
ざっと見ていくと感じがいい盾を見つけたのでメリーさんに見せる。
作者は違うのだろうが、コンセプトが似ている。
剣とは葉っぱや花の形など、植物の種類に若干の違いはあるものの、大まかな系統が同じだ。
「ひとまずこれにしてみましょうか」
「そうね」
「その剣の絵柄を写させて貰えれば、オーダーメイドでもっと似せることも可能ですよ」
「本当ですか」
「どのぐらいで作れそうでしょうか」
「盾のベースの形を当店が用意しているものから選んでもらえれば、装飾は数日でやれると思いますよ。 変わった形のだと、・・・まあ形状によりますかね」
「なるほど、じゃあ五角形の、あ、これだと大きさ的にも合う気がします」
すぐ後ろにある盾を指さす。
「これだと、握力が結構力が必要ですよ」
俺が選んだのは裏の持ち手が真ん中にだけあるシンプルな作りの盾だ。
腕をベルトで固定するようなタイプもあるようだが俺のイメージとは違う。
「レベルが上がれば気にならない程度ですよね」
「そうですね、でも上がるまでがきついと思います」
「分かりました、・・・ではこれでお願いします」
「そうですか、分かりました、では手続きをしますので下へどうぞ」
ちょっとムッとしてしまった店員さんに続いて手続きを行った。
カウンターで他の女性店員さんが絵柄をトレースしていく。
きっとこの店員さんの言う事が正しいんだろうけど、それは一般人の場合だ。
元々ドレスアーマーからして、俺の趣味で来ているのでこのままでいいかなと軽く考えている。レベリングも、付与もあるし。
「デザインはこんな感じになります、どこか直したいところはありますか?」
デザイン図を見せてもらうと俺が選んだ形の盾に、ツタと花の絵柄が書かれている。
かなりセンスがいい。
「とてもいいですね、メリーさんはどうですか?」
「私もこれでいいわ、すてき」
早くて3日、遅くても5日には完成するそうだ。
予備用の鎧に合いそうな、シンプルな盾と共にオーダーメイドの料金も支払い終え引換券を貰い店を出る。
◇◆◇◆◇◆
「では最後にブーツですね」
「そうね」
「みゃ・・・冒険者登録・・・」
「ああ、そうだった」
「そうだったわね、おもちちゃん偉い」
「偉いぞオモチよ。略してエラモチよ」
「にうう、変な呼び方しないでほしいにゃ」
オモチがてしてしとしてくる。
俺とメリーさんで頑張ってナデナデして何とか機嫌を直してくれた。
その後、メリーさんにサイズぴったりのレザーブーツを2足購入してから来た道を戻る。
「ねえ・・・」
「なんですか?」
「冒険には、いついく?」
「予定は特に入っていないので、予備の鎧を受け取ったらすぐにでも」
「は、はやい・・ううん。でも早くいかないとね・・・」
「そうですね」
「あ~あ。フローラを見ていると嬉しい反面、体調が悪くなるのが怖いなって」
「そうですね・・・」
「何か付与で作れない? こう、気持ち悪いの止められるやつ」
「え~と・・・」
付与じゃ無理でしょ。
体調を治すのではなく、気持ち悪いのを止める。
ふと頭の中で何かの薬のCMが流れた。
痛みの信号をブロックするアニメーション。
「なんてね・・・あれ」
歩みが遅くなった俺に気づき振り返るメリーさん。
「何を書いてるの?」
「出来るか分からないけど、アイディアメモだけ」
「何を思いついたの?」
「え~と、いやいや、今メリーさんが言ったやつだよ」
「え、出来そう?」
「まだ分からないけど、付与で出来るかは・・・」
メモを書き上げる。
それは脳に行く信号の一部を横になった壁で遮断するイメージだ。
他の必要な信号は止めないので生活に支障は出ないだろう。
でもこれだと付与と言うよりは、完全に魔法の領分な気もする。
あ、でも俺は魔法自体を物に付与することが出来る。
「それが出来たら、本当に凄いと思うよ・・・ 世界が変わっちゃうレベルで」
メリーさんが目を丸くしている。
「フローラさんの為にも、メリーさんの為にも、ちょっと頑張ってみようかな」
「うん!」
メリーさんの目が輝いているのに思わず笑ってしまった。




