【第94話】メリーさん、冒険者になる(2) 鎧を買う
店を出てからニコニコしているメリーさんに提案する。
「では次は盾屋さん・・・と思ったんですが」
「うん?」
「剣を選んだ時に今更気付いたことなんですけど」
「うん」
「やっぱベースになる鎧を見てからにした方が、デザインを統一しやすいかなと思いました」
「ん~、そうね。 出来れば合っている方がいいかな」
「はい、では色々飛ばして鎧屋さんへ行きましょう。 こちらです」
冒険者ギルドの前の通りに出ると、やはりまだ冒険者達が多く居た。
冒険者も、他の職業と同じで基本的に朝から働く。
でもよく見ていると、その朝でも2パターンの動きがあるようだ。
例えば今ギルド周辺にいる冒険者たち。
彼らは全体的に年齢層が低く、だらだらとやっている。
本人達に聞いたわけではないけど、多分独り者だろう。
その日暮らしな緊張感のない雰囲気を感じる。
勝手な想像だけど、そこに必死さは感じない。
それ以外の早朝からギルドに行く人達は、家族を養うためか、自分の将来の貯蓄の為か、さっさと依頼を受けて仕事へ向かうようだ。
アレスさんの言葉を思い出す。
「お金を沢山稼ぎたいヤツは早起きして依頼を受けるためにギルドへ行く。
依頼を受けられなかったヤツとか、ダンジョンでいいと思っている奴はダンジョンに行く。
まあランクが高くなれば、依頼でダンジョンに行くこともあるどな」
聞いたことをそのままフローラさんに話してみる。
「・・・そうなんだね。
そういえば友達の冒険者さん・・・ 女の人だよ?」
「え?」
「今、面白くなさそうな顔になってた」
「・・・失礼しました」
「ふふふ。 こほん。
それでね? その冒険者さんが言ってたんだけど、依頼を受けられるのは全体の1割程度、9割ぐらいの人はダンジョンに入る事になるって」
「あ~。 やっぱりそんな感じなんですね。
うまい依頼も沢山、全員分ある訳じゃないですものね」
常設クエストというものもあるけど、薬草が近場に生えていないので効率は悪い。
その後も二人で冒険者トークを楽しみながらしばらく歩き、鎧屋さんに着く。
「さて、ここです」
「ここ?」
「はい、ここがおすすめの鎧屋さんです」
「おお~」
ちょうど店員さんがお店から出てきたので挨拶する。
「おはようございます」
「あ、ケイタさんおはようございます。 ・・・例の?」
「はい、例ので」
店員さんがメリーさんを見て気づいたように確認してきた。
ちなみに今の店員さん、以前杖屋への道を教えてくれた人だ。
俺がここを通るたびにめげずに、飽きずにおしゃれ鎧をおススメしてくれるので、とうとう雑談をするぐらいまでなってしまった。
彼は元々人と会話するのが好きらしいのだが、頑張ってお客を呼び込むのにはしっかり裏もあった。
それはうまくお客をそそのかして、鎧を買わせられたら売り上げの10%を貰えるというものだ。
実際にはそれさえもネタにしてしまうぐらい、お金の方はオマケぐらいに考えているので、俺も彼とは気兼ねなく話すことが出来る。
「少しお待ちくださいね」
「はい」
店員さんは来た道を戻り、お店に入っていった。
「例の?」
「うん、メリーさんの鎧について、ここで相談してたんですよ」
「へぇ~ そうなんだ」
メリーさんが怪訝な顔から笑顔に変わった。
メリーさんはコロコロと表情が変わる。
「ほら、あの飾ってある鎧、いい感じじゃないですか?」
「うわ、かわいい」
「ここの鎧は機能性もさることながら、こういった装飾にも力を入れているんで、メリーさんの美しさに合うと思ったんですよ」
「えええっ!? ・・・もう。 でもいいわね、これ」
メリーさんは今度は照れながらディスプレイされている鎧を見た。
「お待たせしました、奥へどうぞ」
「はい」
店に入り、売り場を過ぎて奥の部屋に通される。
そこには顔なじみのデザイナーさんがいた。
「ケイタさん、お久しぶりね」
「お久しぶりです」
「あなたがメリーさんね」
「はい、よろしくお願いします・・・」
「丁度各パーツが仕上がったところなの。
後は正確なサイズを測ってからくみ上げるだけよ」
「ありがとうございます」
そういって目の前の、存在感のある布がかぶせられた人型の方を見る。
「見てみる?」
「ぜひ」
「ぜ、ぜひ」
ちょっと噛みながらもメリーさんも見たいと言った。
「これよ」
デザイナーさんがゆっくり布を外すと、そこには正にドレスアーマーといった鎧を着せられたマネキンが。
それを見たメリーさんは立ち上がる。
「すごいかわいい!」
「いいですね」
「すごいかわいいわ!」
「そうですね」
「着るのもったいないぐらい・・・」
メリーさんがテンションマックスになっている。
「言われた通り、これはデザインを重視してあるわ。金属部分も、本当に強く叩くとすぐ凹んじゃうわよ」
「じゃあ、今やっちゃいますか」
「そうね」
彼女は俺が付与を使えることを知っている。
以前ここで相談している時に、アテがあるから多少なら耐久性を落としても問題ないと説明していたが、最後の方で誤魔化しきれず、アテが何なのか説明することになった。
信頼できそうだったので簡単な耐久性アップの付与が使えると説明した。
その後、デザイナーさんの、”俺が2人目の付与士の知り合い””今は城にいて会えない”という発言から、1人目が師匠だと判明した。
師匠が城に入る前に、同じ職人として何度か会っており顔見知りなのだそうだ。
「じゃあこれにお願いね」
デザイナーさんが金属部分を鎧から外して並べてくれた。
約束通りまだ完全に固定していなかったようだ。
「私もケイタさんの付与は初めて見るなあ」
「そうでしたね」
これは仕事をしている姿を見てもらい、カッコいいと惚れ直してもらわねば。
俺は自分の収納からMPタンクのベスト(満タン)を取り出し着こむ。
次に木で出来たトレーと、魔石が入った袋を取り出す。
1つのパーツを手に取り見定める。
「これは魔石3つ、消費MP60」
木のトレーにジャラジャラと魔石を出して、ガサガサとやってから、その内のこれだと思う3つを手に取る。
この魔石を選ぶ行動には特に意味はない。いつも気分で選んでいる。
左手に魔石を3つ持ち、金属のパーツをその上に乗せて、更に右手を上に置く。
「鋼鉄1cmの耐久性アップ・・・付与」
バシュウ、という音と共に魔石が溶けて薄い金属パーツに浸み込んでいく。
10秒ほどで光が止んだ。
「成功です」
MPタンクのベストからMPを補充しつつ成功したと伝える。
「おお~」
「流石ね・・・」
いつの間にか鑑定眼鏡を掛けていたデザイナーさんがうなずく。
「じゃあ残りもよろしくね。メリーさんはちょっとサイズを測りたいから借りるわね」
「わかりました、じゃあ後で」
「うん、じゃあ後で」
メリーさんは俺の肩をさわさわとしてから出ていった。
俺は同じような感じで各パーツに耐久性アップの付与を行った。
「・・・よし、これで終わり。ちょうどMPタンクのベストのMPも無くなったな」
「お疲れ様にゃ」
「ありがとオモチ、ちょっと魔石をこの袋に補充したいから、・・・30個ほど出してくれるかな」
そういうと、オモチは木のトレーにザラザラと魔石を30個出した。
「ありがと」
俺は魔石を袋にしまい、木のトレーと共に指輪に収納する。
それからはメリーさんとデザイナーさんが戻ってくるまでオモチを撫でつつ、ベストにMPを注いだ。
「ただいま~」
「おかえり」
「ケイタさん、予備の鎧まで用意してくれてたんですね」
「ふふ、実は」
「ありがとうございます・・・」
「いえいえ」
「ふふふ」
「予備の比較的シンプルなドレスアーマーは明日の朝には渡せるわ。
今強化してくれた方も長くても2~3日あれば出来上がるから、その頃に来てね
鎧の下に着る服も同じぐらいかな~」
「わかりました、では予備の方は明日、俺が取りに行きましょうか」
「うん、お願い。ではローズさん、よろしくお願いしますね」
「はい、任されました」
メリーさんはぺこりとお辞儀をした。
俺はそそくさとMPタンクのベストを指輪に収納してから店を出た。
「じゃあ、次はカバン屋さんです。
その後ぐるりと戻る形で他のお店を巡りましょうか」
「は~い」
メリーさんは元気よく返事をしてまた腕を組んできた。
◇◆◇◆◇◆
結局、ドレスアーマーに合うカバンが無かったので、俺が荷物持ちをしている感じのイメージで、大きな登山が出来そうなリュックを買うことにした。
これも後で耐久性を上げておこう。
「メリーさん、カバンで思いついた。
このまま道を進んで、杖屋に行きましょう」
「うん、いいよ」
杖屋に入るとすぐに主人が呼ばれた。
慌てたように主人がやってきた。
「この前はどうも。 今日はどうされましたか?」
「こんにちは。 今日は普通のお買い物です。
デザインはいつものでいいので、また収納の指輪を買いたいです」
そういうと主人は慌てた顔から、安心したような笑顔になった。
「喜んで。認証付きですよね、いくつご用意しましょうか」
「3つ下さい」
「はい、では奥の部屋に案内しますね」
「よろしくお願いします」
案内され歩いているとメリーさんが袖を引っ張ってきた。
「どしたの?」
「これ私の?」
「そうだよ」
「3つも?」
「うん。部屋で説明するね」
「わかったわ」
ガチャリ。
「・・・では少しお待ちください」
部屋に通され、俺とメリーさんに席を進めてから主人は退出した。
さっそく説明する。
「指輪3つなんだけど、2つは、装備を入れる用。
鎧の大きさも今日ので分かったし、もろもろでも2つあれば足りると思う。
後はポーションとか、他の道具を入れるために1つ、ですね」
「な、なるほど?」
「ちょっと無骨なデザインですけど、メリーさん、意外とそういうのも似合うと思いますよ」
「え、そう? なるほど。 ふふ。 そっか、ありがと」
そういうとメリーさんはきょとんとした顔から、一気に花が咲いたように笑ってぎゅっときつく俺の腕を抱いた。
メリーさんのほっぺをぷにぷにしているとノックされる。
メリーさんの肩をたたき、俺から離れたことを確認してから返事をする。
「どうぞ」
「失礼します」
主人は机の上にトレイを置き、指輪が入っている箱と、認証用の端末、相殺の書類を机に並べた。
「すいませんね、指輪ばっかりで」
杖屋で、武器ケースとして売られている収納の指輪ばかり買っている状態にちょっと気が引けている。
「いえいえ、全く問題はありませんよ。むしろしっかり、売り上げとして貢献して頂いています・・・」
「価格は20万円×3で60万円。 問題なし、サラサラっと」
俺は収納の指輪3つ分を現物で受け取った、という書類にサインをする。
メリーさんが60・・とつぶやいているのが聞こえた。ニヤニヤ。
「・・・はい、確かに。 では早速指輪に個人認証の登録をしていきましょう」




