【第70話】遠征の計画(2) 準備
冒険者ギルドから、・・・いや、ギルド嬢からの嬉しくない個人的な呼び出しから数日後。
今日はモノづくり職人展覧会最終日。
午後からは会場にいる師匠に会いに行く。
城に戻ったら当分会えなくなるだろから最終日には来いと言われていたのだ。
あとは、後々の為にも弟子たちとの顔合わせをしておきたいとの事だった。
俺は末っ子で、会うのは全員、兄弟子という訳だ。
立場が一番下というのがちょっと億劫になる要因だけど仕方ない。
さくっと終わらせよう。
まあまずは朝ごはんだ。
俺は眠い目をこすりながら起き上がった。
◇◆◇◆◇◆
この数日の間に色々準備を進めた。
その1つがキャンプ。
トレント素材を取りに行ったときに分かった問題点とか、思いついた便利そうな道具を作成した。
最終的に、ゴブリンの魔石は底をついてしまったが、有用なモノが出来た。
また、前回は神官さんに借りた寝袋とか、こまごましたものも、自分用のものを購入した。
このお買い物に関して、この教会屈指のキャンプの達人たちに知恵を借りた。
教えてくんは好きじゃないが、あまり本が普及していないこの世界では仕方がないと割り切った。
心配とは裏腹に、みんな楽しそうに相談に乗ってくれたので助かった。
そんなこともあり、いつもお世話になっている教会の人達へのお返しを考えているが、最近はこういった話題を提供するのが一番喜んでくれている気がしている。
という訳でどんどん巻き込んでいこうと思う。
今自分は一人で離れの部屋の、ベッドの上に居る。
今日はフローラさんが朝ごはんの当番で先に部屋から出ていったからだ。
少しして合流してきたオモチを少しのあいだ愛でた後、部屋を出る。
ちょうどキャンプの達人の1人が歩いてきていた。
「おはようございます」
「おはようございます、ケイタさん」
幾重にも折りたたまれた布を手渡される。
「キャンプ用品ですか?」
「ええ、広げてみて下さい」
広げてみると一枚の大きな布だった。
テントのように丈夫な感じではなく、薄くてビニールに近い素材だ。
「これは雨などを防ぐシートだよ。
テントの上部にかぶせるように張るとテントと外の間に空間が出来て、
寒さをやわらげられたり、出入口側にはちょっとした空間が作られるから
テントに入る前に濡れた服を拭いたり、靴を脱いでおけたり、
あとはちょっとした火を使う料理もできるんだ」
「へぇ、いいですね。
という事は、あのままだとあまり良くなかったんですね」
「天候によるよ。
まあケイタさんは水魔法で水を一か所に集めて乾かすことが出来るから、
あんまり重要じゃないかもしれないんだけど、でも付与とは相性いいでしょ?」
「ええ。確かに装甲が2倍になります。安心感が違いますね」
出来ることを話しておいたから的確なアドバイスを貰うことが出来た。
装甲1枚は鋼鉄1cmの耐久性がある。
鋼鉄1cmといえば、人が歩けるレベルだ。車も行けるかな?
ゴブリンなんかだと、上位種でもなかなか歯が立たないのではないだろうか。
今は魔石が無いけど、シートにも耐久性アップをかけたらもう殆どの下位モンスターなら手出しできなくなるはずだ。
「あのテントを見る限り、シートを固定するバーがあるから最初はセットだったのだとは思うんだけどね。ないんだもんね?」
神官さんはオモチを見ながらそう質問した。
色々不都合があって、オモチの収納はここの神官さん達には明かしてある。
「え? にゃるほど、確かにこれは中古品だったにゃ。
ほとんど使っていない新古品だって説明だったけど・・・」
「そうでしたか」
「あのポールはそういう役割のものだったんですね。
わざわざシートを用意してもらってすいません」
「いえいえ。実はこの自立式用のシートはもう使っていなかったので。
なのでボクのおさがりっていう事になっちゃうんだけどね」
そう言えば彼は、その辺に落ちている棒とか、立っている木などの地形を利用してタープ(大きな布)で屋根を作って、下にはレジャーシートを敷いて終わりだと言っていた。
昔はテントも張っていたらしいけど、今はロープとタープ(大きな布)、レジャーシート、後は寝袋のみで行くのが楽しいらしい。
あ、ちなみに調理器具等は別だ。
「今は魔石を切らしてしまったので、今日にでも取りに行ってこようと思います」
「にゃ、これを使うにゃ」
オモチが俺の手を、てちてち叩くので手のひらを上に向けると、魔石が入った袋が乗せられた。
「あれ、まだあったか」
「うに、隅っこの方に」
オモチの収納は、そういう管理の仕方じゃないでしょ。
でもまあオモチがそうやってキープしておいてくれたから、予備用の柵に付与することなく、今からもっと重要になるこのシートに付与が出来るんだ。
「オモチでかした」
「ふに・・・」
俺はオモチの頭を撫でる。
付与が終わったら取り付けてくれるとの事なので、さくっと付与を行うことにした。
朝ごはんの時間も迫っているのでさくさくっと。
「・・・付与」
耐久性アップの付与はもう手慣れたものだ。
魔力と溶けた魔石がシートに浸み込んでいくのを待つ。
「お見事です」
神官さんが布を受け取り早速シートを装着してくれる。
勿論俺もそれをサポートする。
「このシート、かなりしっかりしたものですね、おさがりでも助かります」
「いえいえ。・・・はい、終わりです」
シートを装着したテントは一段と頼もしく見えた。
色合いも同じ暗めの緑系統でいい感じだ。
「うん、サイズもぴったりでよかったです」
「サイズはまあ、元々あるこの外側のバーにロープで固定するだけだから、
多少は布が足りてなくてもロープの方を長くすれば無理がきくんですよ」
「なるほど」
「そうですね、よかったと言えば、テントの形が同じだったという所の方かな?
製造元は違うけど、沢山売れた人気の形のテントなんだよ、これ」
「へぇ」
「でも少し風が強いときは、やっぱり杭を打った方がいいかな、
飛ばされ無かったとしても、不安定だし、何かこぼれたりすると面倒だろうし・・・」
俺の、杭を打つのが面倒そうだ、という発言を覚えていたようだ。
あれは絶対やりたくないという事ではなく、ただの感想だったのだが。
そう言えば杭を打ったまま収納してもらったらどうなるんだろう。
「そうですね。確かにテント自体も重いけど、強風だったら俺が中に入っていても関係なさそうですもんね」
「そうだね。この辺りはそんなに風が強くなることはないんだけど、やっぱり杭は打っておいた方がいいと思うんだよね」
ジャラリと杭を見せてくる。持っていたのは気付いていた。
別に杭が絶対に嫌なわけではないので素直に受け取る。
「ありがとうございます。
いつか、みんなでも行きたいですね」
「あはは、それは楽しそうですね」
テントを収納してアウトドアな会話をしながら食堂へと向かった。
◇◆◇◆◇◆
付与テント自体も補強出来たことで、東の森の中層以降でのキャンプが更に現実的になった。
とりあえず朝ご飯を頂いた後に、メリーさんのお店に行く。
チリンチリン
「ケイタさん、おはようございます」
「おはようございます、メリーさん」
メリーさんが最高の笑顔で迎えてくれた。
でもこの時間に開店準備しているということは・・・・。
「森でのキャンプで相談があってきました」
相談と言っても、実際には何か困っている事がある訳ではない。
むしろキャンプだと相談できそうな達人の心当たりがあるし。
本当は雑談10割なんだけど、朝一からそんな事をしに来ていたら、流石にどうかなと思って。
何かお店視点のいいヒントとかマメ知識的な事がないかを聞きに来たという設定だ。
別にこの前若い冒険者がメリーさんに食事のお誘いをしたのを気にしている訳ではない。
あの時は完全に営業スマイルでお断りして、お会計が終わったとすぐに俺との会話を再開した事で、その若い冒険者の肩を落とさせていたので平気だとは思うけど。
「まあ、どんな事かしら?」
「今すぐ話さないといけない訳ではないから、お店の準備があるなら続けてね」
「うん、私で役に立てるといいけど。
じゃあちょっと待っててね、朝ごはん食べてるとき、つい夢中になってしまって・・・」
メリーさんは本に夢中になり開店準備がちょっと遅れてしまったらしい。
そそくさと残りの作業を始めた。
俺も手伝いたいけど、メリーさんこだわりの謎配置があるからそれは出来そうにない。
メリーさんの嬉しそうな顔を見ながらふと思う。
・・・メリーさん、俺のどこがよかったのだろうか。
元々落とされていたけどって、どこで?
ただお買い物していただけなんだけどな。いや本当に。
それから10分後に終わったと声を掛けられる。
早速相談をする。
「まあ、いいわねキャンプ。
森の中で焚火を囲んで仲間と語らうのよね」
メリーさんが俺の斜め上を見ながら語りだした。
「・・・それは楽しそうですね」
「うふふ、絶対楽しいわ。
かなり前に、教会の人たちと行った事はあるけど、
そう言うのじゃなくって、冒険者としてのキャンプにはやっぱり憧れるわ」
「いいですよね」
メリーさんは冒険譚の本なんかを読むので、そういうシーンを思い出しているのだろう。
顔がワクワクしている。口も半開きだ。間違いない!
さっきから相槌する度一瞬俺の事を見るけど、すぐ斜め上に視線が戻るのが証拠だ!
メリーさんは冒険者用品も扱っている関係で、いろんな人からちょっとしたエピソードを聞いたりするようだ。
メリーさん自体が冒険者に憧れがあり、反応も悪くないので冒険者達もちょくちょくいろんな話をしてくれるらしい。
俺はまだ会ったことはないけど、OFFの日の女性冒険者さん達が遊びに来るらしい。
買い物が無くてもおしゃべりに来いと言ってあるそうで時々来るそうだ。
昔教会に居た頃に治癒活動で知り合った人達らしい。
メリーさんと会話しながら思いついたことをノートに書いていく。
使えるなと思ったのが、ある熟練冒険者が、街での暮らしに疲れて山に入り
ガケの中腹に自力で浅い洞窟を掘って、中にテントを張ってしばらくの間暮らしたというエピソードだった。
ガケの中腹という事で、ハシゴを使ってからでないとたどり着けないようにしていたらしい。
もちろんハシゴは予備も含めて収納。
更に登り切った後にある入り口には罠も仕掛けておいたらしい。
ただしそちらは1度もかからなかったそうだが。
ふと祝福の泉のある森で、段差を登れずに魔物が溜まっていた場所があったのを思い出す。
穴を掘って、1か所だけに注意をすればよくするのはいい考えだ。
逃げ道を塞いでいるような気もするけど、ここは前の世界と違ってステータスもあれば魔法もある。
罠ではないが、入り口を壁でふさげば入ってこれなくなるな。
そういえば地球にもそういう住居の国があったな。
ちなみにこの住居の話はメリーさんが教会に居た頃に冒険者に聞いたらしい。
今とは違い、昔はまともな人も多かったらしい。
ある程度稼げるようになってから新人の頃の分と言って、多めに支払っていく人もチラホラ居たそうだ。
結局、お客が来ないことをいいことに、メリーさんとは午前中ずっと喋っていた。
誤字報告ありがとうございます。
反映させて頂きました!




