【第6話】冒険者登録
盾の上に剣と杖が交差したマーク。
これが冒険者ギルドのマークらしい。
ありがちありがち。
でもこれを実際に目にすると、圧巻だ。
異世界なんだなと改めて思ってしまった。
看板の下に入り口があるが、大きな観音開きの扉が開け放ってあり、開放的だ。
ただし、外から見えるのは受付っぽいところだけで、込み具合が分かるぐらいだろう。
二人はドキドキしながら扉をくぐった。
手をつなぎたかったが身長の差で不可能だった。
今は猫型だが、人型であってもオモチは40cmほどしかない。
入ってすぐ、真ん前にカウンターがずらりと10個並んでいた。
ただ、現在はそのうち3つだけが解放されており、そこには誰も並んでいない。
そのまま右手を見ると、病院みたいな待ち合い席がずらりと並んでいるが、誰もいない。
左手を見るとそのまま食堂に続いている。
そこにはお酒を飲んでいる冒険者らしき人たちが見て取れた。
まっすぐ、開いているカウンターエリアへ向かうと、そのうちの2人が顔を上げた。
「こちらへどうぞ!」
かなり若い、中学生ぐらいの女の子に呼ばれそちらのカウンターへ行く。
ピンクのショートカットで、元気が有り余っている感じがする。
「ようこそ、冒険者ギルドへ!」
元気いっぱいに、頑張っているという感じで初々しい。
でもちょっとおじさんにはまぶしすぎるかも。
住む世界が違うっていうか・・・こそばゆい。
オモチが猫形態でカウンターに乗ってきた。
「かわいい猫ちゃんですね!」
そうでしょうと言いながらオモチの頭をなでる。
「こんにちは、登録で来ました」
「はい、うけたまわり、ますね」
そういうと、カウンターの下から書類を取り出す。
しゃがんだので後ろにトレーナーさんらしき人が控えているのが確認できた。
トレーナーさんも椅子に座っていたので気づかなかった。
金髪で、ゆるふわで肩にかかりそうなくらいの長さの髪をポニーテールにして止めている。
20代前半かなと思った。すごい美人だったが、少し難しい顔をしている。
受付嬢さんは、板の機械とケーブルでつながっているモロにプリンターというような
箱の上部に、新規登録者用用紙をセットした。
そして「あっ」と言って用紙を逆にセットしなおした。
「では、こちらの線の中に手をのせてください。」
差し出された板を見る。
木の板に手形の白い線が引いてあり、線の中には黒い石がはめ込まれている。
受付嬢さん側にケーブルが伸びて、プリンターにつながっているようだ。
とりあえず右手の手形だったので、右手をのせる。
「はい、ありがとうございます、読み取り完了です。」
プリンターにセットした紙が吸い込まれ始めたのを確認し、受付嬢さんはそう言った。
そして受付嬢さんは手形の板をカウンターの下に戻し、手を前に組んで紙が出るのを待っている。
「自動で名前まで書かれるのは便利ですね」
「あ、そうですね。これだと字を書けない冒険者さんも関係ないですからね!」
そう言って、受付嬢さんは食堂の方を見た。
(今の絶対聞こえたでしょ)
若いって怖い。
トレーナーさんも難しい顔をしている。
目が合ったので、会釈をしておく。
やっと印刷が終わったようで、受付嬢さんが紙の項目に指をさしながらチェックを始めた。
とりあえず、オモチから事前に貰っていた登録料をトレイに乗せる。
完全にヒモだな。
受付嬢さんが用紙を見ながら、首をかしげる
「あれ?あれ?」
そして後ろにいたトレーナーさんをちらりと振り返って見た。
分からないところはそのままにせず、先輩に聞くのは大事だ。
「あれ?先輩、すいません、職業の欄が、中級者って?あれ?
でも今日登録の初心者ですよね? 」
ただし、声はデカかった。
慌てたような顔をしてトレーナーさんが立ち上がって声を出そうとした同じタイミングで
後ろから大きな笑い声が聞こえた。
ちょっとキーンとした。うるさいなと振り返ろうとしたら、太い筋肉の腕が横から伸びてきて受付嬢さんが持っていた俺の新規登録者用用紙を奪い取る。
犯人の顔を見ると、酒臭い。こいつは完全に出来上がっているな。
あ、ここにきてまさかのテンプレが・・・ と考えていると
酔っ払い冒険者が大きな声で俺の職業部分を読み上げた。
「職業、中級の冒険者だって? ってなんだこの説明!」
受付嬢さんが何か言っているが冒険者さんは止まらない。
食堂にいるであろう仲間に向かって話し出した。
「おい、お前ら、魔法の才能がなくても自分の持っている属性は中級まで必ず使える。だってよ!こいつあすげえな!ははは! こいつ水しかねえけどな、ははは!」
こういうヤカラはどの世界にもいるんだな。
まあ前の世界では見たことはないんだけど。
って、なんかザコいな!
なんだその職業名!
俺ははっとして、オモチを見た。
オモチはむっとした顔を酔っ払いに向けていた。
オモチに失望されていないかな・・なんて考えが出て、目の前が少し暗くなった。
「アレスさん!それはやってはいけない事です!」
トレーナーさんの怒声で思わずびくりとなる。
すごい音量だった。
酔っ払いのアレスさんも今の怒声で一瞬で酔いがさめてしまったような顔をしている。
こっちに歩いてきていた別の冒険者たちが、コソコソと食堂の方に戻っていくのが見える。
酔っ払いのアレスさんは滅され、トレーナーさんの怒声で俺自身の負の感情も吹き飛んでしまったので、もういいかなという気分になった。
悪くなった空気、動けないでいる二人(受付嬢さんとアレスさん)。
まあここは俺が一肌脱ぐしかないな。
「トレーナーさん、ありがとうございます、アレスさんは今後は気を付けて下さいね」
アレスさんの持っている紙に向かって左手を出す。
「すまない」とだけ言って、おとなしく紙を返してくれる。
「うす」
受け取った紙をそのまま受付嬢さんに渡す。
「じゃあ続きを」
「あ、す、すみませんでした、私の声が大きくて・・・」
「いえ。次からは。」
「すいません・・・」
「あなたはまた研修からよ」
と、トレーナーさんが静かなお怒り声で通達する。
「すいません・・・」
受付嬢さんは泣きそうな顔をして、今度はトレーナーさんに謝る。
◇◆◇◆◇◆
その後はトレーナーさんが処理をしてくれた。
文字が読めるということで冊子を渡され、それをベースに話を聞いた。
個人情報に関しての部分で、ついでにと説明されたが、アレスさんがやったことは
俺が訴え出たら冒険者のライセンスをしばらく停止されるか、会議の結果によっては
ライセンスはく奪となる場合もあるらしい。
アレスさんは有能でお酒を飲まなければまともなのではく奪はないが、
悪質だったり、普段から素行が悪い冒険者だった場合は、ライセンスはく奪の可能性もあるとのことだ。
そして、本当にアレスさんを訴え出ないのか確認をされ、
訴えないことを伝えると、お礼と改めて謝罪をされたので受け入れた。
アレスさんは有能で、失いたくない人材なんだろうと感じた。
その後に今回は被害者だが、自分が加害者側にならないように気を付けてほしいとも言われた。
あなたはまともそうだから言わせてもらったと付け加えられた。
はたして、俺は冒険者になる事ができた!
ランクはF。
ランクはA~Fの6段階。
基本はAまでだが、同じAランクにしておけないような功績を上げた冒険者用にSもあるとのこと。
やっぱりあったなSランク。
俺はクレジットカードサイズの冒険者カードをしげしげと見つめた。
素材は不明。ちょっとくすんだ金色。
プラスチックと金属の中間の手触りがする。触っても冷たくない。
表面の左上に「ケイタ」という名前、右側に冒険者ギルドのマークがあり、
そのギルドマークの上に大きく"F"の文字が重ねてある。
下部には発行地区名、その下に発効日が書かれている。
裏面は何も書かれていなかった。
俺はカードをパーカーの内側に着ていたシャツの胸ポケットに入れた。
職業の「中級の冒険者」について聞いてみた。
なにやら騒ぐネタになるようなので念のためだ。
説明:魔法の才能がなくても自分の持っている属性は中級まで必ず使える。
トレーナーさんいわく、今まで見たことがないので、マニュアル通りの助言は出来ないとのこと。
表示されている説明から、上級者が行くような場所には行かないほうがいい、スキルはともかく、中級の魔法は上級の魔物にはほとんどダメージが通らないから気を付けてほしい
。それすらも絶対とは言い切れませんが、とのこと。なるほど。確かにそうかもしれない。
まあ、こういう微妙な気分になるのは前の世界で何度かあって、
とりあえずできることをやるしかないという結論にしかならないので
俺自身がこの結果に大きく失望を感じたということはなかった。
依頼は後日にと伝え冒険者ギルドを後にした。
その際、受付嬢さんと、トレーナーさん、あとアレスさんも見計らったように
玄関まで見送りに来てくれたので、もう気にしてないですと伝え、手を振って、
そして思わず笑ってしまった。サービス業だなぁと思ってしまった。
魔石売るのも今度だな。
今のところはお金は転移者支援金でまかなえているからな。
俺用に用意された支援金の残高は夜にでもオモチに聞こう。
誤字報告ありがとうございます。
反映させて頂きました!




