【第53話】モノづくり職人展覧会(5) 防具の補強
次の日、職人展覧会2日目。
今朝は出かける準備をしていない。
既に目的の付与スキルは手に入れたし、それよりやりたいことがあったからだ。
いつものように教会の食堂で、とてもおいしく、ボリューミーで、質素な朝ごはんを頂いてからはオモチと部屋に戻ってきた。
クリフトさんには、防具の手入れをするので部屋にいますねと伝えてある。
まずは鎧の強化だ。
これにより生存率がぐっと上がる。
昨日寝ながらオモチの発言を思い出してみた。
俺は弱いほうらしい。
恐らくオモチの過保護もうなずけるぐらいに。
ちょっと衝撃的だった。
あのゴブリンの群れを一人で一掃した事で自分に自信を持ったところがあったからだ。
でもオモチが陰でサポートしてくれていたから出来た事だったんだよね。
オモチが探知で敵が来る方向と時間を教えてくれたから
俺はただ狙撃をしていただけ。それだけだったんだから・・・。
なのに俺はと、恥ずかしくなった。
うぐぐぐ。
付与装備で守りを固めて、やっと他人に並ぶなんて言われた時はそこまで? と思ったけど。
でも確かにこれで他の戦闘職の転移者に近づける気もする。
ステータスを、装備でカバーだ。
「さて、今あるのが、ええとこの・・・」
・革で出来た鎧 (所々薄い金属のプレートで補強されている革製のライトアーマー
・革で出来たベルト (色んなポケットなどを取り付けられるベスト形のベルト。サバゲーでつけてそうな、ミリタリーなベルト。)
・もらった片手盾 (片手用の金属の盾。金属部分は表面だけ)
・けが防止のロングブーツ(鉄のつまさきカバー+すね+ひざあて付き皮のブーツ)
・鉄の膝あて付きズボン (けが防止のズボン。裏面は少し分厚い皮が縫いつけられている)
正式名称が不明なものばかりだ。
もともと名前があったのかも分からない。
「そして込める付与のイメージが・・・」
机の上に置いたノートを見る。
・耐久性(防御力)アップ
鋼鉄1cmほど分厚い鉄板のイメージ。
うん、シンプル。
鋼鉄1cmとしたのは、1cm以上はMP的に難しいからだ。
1cmでギリギリ。
鋼鉄1cmでも相当だろ!と思ったけど、モンスターも中級以上になると安心できる厚さではない。
人間でも上級者のレベルになると、地肌がその位の防御力を持ってくるらしいけど・・・。
「オモチはもっと硬い?」
「うに。」
モフモフオモチは敵の攻撃に関しては鋼鉄数センチくらいの防御力を誇れるらしい。
こんなにやわらかいのに、ステータスによる補正とは不思議だ。
まあ1cmでも、鎧の性能だけで考えれば、重装備のヘビーアーマーに近い装甲には
なりそうだから、当分はこれでいいだろう。
「さて、やるぞ~」
「おー!」
左を見ると、右手を突き上げたオモチがいた。
緊張をほぐすために少しオモチの体を触っておく。
「よし、耐久性アップの・・・付与!」
手始めに皮で出来た鎧に付与を施す。
消費した低級魔石は12個。両手に6個づつもって、1分ほどで完了した。
「なかなか終わる感触が来なくてちょっと焦ったよ」
「お疲れ様にゃ。ちょっと休憩した方がいいにゃ。顔が青白いにゃ」
「ありがとう、かなりMP持って行かれた」
俺はベッドまでゆっくり歩いて寝転がった。
「ステータスオープン」
MP56/510
「うおお。 今の鎧の付与で、MPが450くらいとんだぞ」
「ふにゃあ。燃費が悪いのかにゃ?付与って」
「う~ん、でもこれだと、このレベルの付与が限界だね」
「そうにゃね」
まあ十分な気もするけど。
いや、もちろん油断はできないんだろうけど。
「・・・何か付与を補助をしてくれるものがあればいけるかな」
「うに、そうかもにゃ」
前の、魔法がそうだった。
素手で十分だと思っていたけど、杖を使ったら世界が変わった。
きっとそういうものがあるのかもしれない。
そそくさとメモ帳に考えた事を書いたらまた
二人でベッドに横になりながらMP回復を待つ。
・・・・一瞬寝てしまった。
「よし、どんどんやっていこうか」
「がんばるにゃ」
◇◆◇◆◇◆
「ケイタさん、ごはんよ~」
天使の声が聞こえる。
「あう、また寝てしまった」
「ふふ、お疲れ様」
にっこりと天使の笑みを浮かべるフローラさんをぎゅっとする。
「フローラさん・・・」
ぎゅーっとしていると頭を撫でられた。
「みんな待っているから、今は行きましょう?」
「・・・了解です」
「じゃあとりあえず収納しておくにゃ」
俺とフローラさんに挟まれていたオモチがそう言って付与された装備達を次々と収納していった。
左手にオモチを抱いて食堂へと移動する。
「その指輪素敵ね」
「ああ、これは付与体験で使った指輪なんですよ」
「へぇ~。」
む、これは催促だな!
何か考えないと。
フローラさんに似合うもの・・と思ってフローラさんを見ると
天使の期待した笑顔だった。
久しぶりに教会でお昼を頂く。
安定の質素さだった。
量も多くおいしいけどみんな飽きないのかな?
「付与はどうでしたか?」とクリフトさん。
「はい、一通りの付与は終わりました。
でも思ったよりも消費MPが多くて休み休みやってました」
「寝ちゃうぐらいね~」
フローラさんが笑いながらいう。
「そんなに大変なのですか?」
クリフトさんがちょっと驚いた顔をする。
「金属を含む鎧とかだったからかなと思ってます。
いつも着ている皮の鎧だけで、MPを450ほど使いました」
「え、そんなにですか」
「まあ。でもイスとかならそこまで行かないと思いますよ?」
その場にいたみんなが驚く。
「それって、大魔法ぐらいに使うんじゃ」
魔法にそこまで詳しくないシスターさんがクリフトさんに聞く。
「MP450なんて聞いたことないですね。付与だと一般的なんでしょうか」
「俺もそういう情報は。でも付与体験でも同じぐらい使いましたから、そうかもしれないです」
みんな大変だねとか、MP450もあるなんてすごいねとか言っている。
「昼からはちょっと出かけようと思います」
「分かりました」
ちらりとフローラさんを見ると、にっこりと微笑まれた。
◇◆◇◆◇◆
「どうするにゃ?」
「アクセサリーかな、革の腕輪のやつ」
「付与をする為の?」
「そうだね」
「なるほど、いいと思うにゃ」
という事でアクセサリーショップや防具屋を回った。
腕輪はがっしりとしたバンドタイプのモノや、
複数の腕輪を付けておしゃれになる感じのものなどがあったが、
うまく付与を乗せるには何かが足りない感じがして買うことはしなかった。
金属とか、宝石、魔石などが付いたものがいいのだろうか?
てシンプルな細い革製の腕輪なんかは、体積が足りない感じがした。
今日は良いデザインのものに出会わなかったけど、
ギリギリ付与が出来る細さの革の腕輪を見つけていろんな付与を施して
そういうのをいくつかつけるのがいいかなと思った。
色んなシーンで付け替えられたら強いと思う。
スピードタイプとか、パワータイプとか、液体・・はないか。
冒険者風の若い人が片腕に細い革の腕輪を5個付けにしているのを見たことがあるから、
そういうファッションがあるようだ。
あれらに付与が乗っているかは分からなかったけど。
あと、フローラさんに似合いそうなものはなかった。
ジャンルが違うしなあ。
冒険者じゃない人用のアクセサリーショップもきっとどこかにはあるんだろうな。
今はそんな感じの事を考えながら職人ギルド前の広場のベンチに座ってジュースを飲んでいる。
ちょっと高級な感じのする新鮮なブドウジュースだ。
「情報が足りないか~。
本より、やはり本職の人にヒントを貰おうか」
「何を聞くにゃ?」
「ええと、なんだろうな。
まあある程度、質問まとめてからだね」
メモ帳を取り出し、ああでもない、こうでもないとオモチと相談しながら書いていく。
「そうだ、どうせだからさあ」
ごにょごにょ。
「ふふ、じゃあ一回教会に戻るにゃ」
◇◆◇◆◇◆
一旦教会に戻り、にこにこ顔のフローラさんには事情を伝え
今度、冒険者用じゃないアクセサリーショップに一緒に行こうと約束をしてオモチと二人、部屋に戻った。
そして今は付与ブースの前にいる。
結局また3000円を支払い展覧会の会場に入ったのだが、今はケチる時じゃない。
ブースの中をのぞくと娘さんと目が合う。
今日はお弟子さんたちも応援に来ているようだ。
娘さんは話を切り上げてやってきてくれた。
「ケイタさん、いらっしゃい」
嬉しそうに笑う娘さんの、後ろに居るお弟子さん達からの視線が痛い。
娘さんに案内されて中に入る。
「親方」
「おお、来たかケイタ・・・なんだその装備は!?」
親方はまじまじと俺の装備を上から下まで見つめてきた。
そう、俺は今、付与された鎧を着てきたのだ。
じゃじゃーんと効果音が出そうな感じだ。
「はあ・・・大したもんだな。」
親方は上がっていた肩を下ろしながらそう言った。
「どうもです」
「はあ・・・。
さて、その顔じゃあもう結果は分かったようなもんだが、一応聞いておくぞ」
「はい」
「お前、うちに来ないか?」
「おじいちゃん!?」
お弟子さんたちもビックリしている。
「すいません、今はまだ行けません、もっといろんな場所を旅したいと思っているんです」
「旅か、なるほどな。でもそれで命を落としてしまうやつらだっているんだ、
うちのせがれと孫がそうだったようにな」
「そうなりそうだった、でしょ」と娘さん。
「ん? まあ、気が変わったら教えてくれ。
こっちは後継者やらなんやらを育てなきゃならないんだ」
親方は面倒そうにそう言って頭をかいた。
「そうですね・・・その時はお願いします」
「ふん、まあいい」
誠意をもって頭を下げたが、一生来ないと思われたようだ。
バレている。年の功か。
「・・・まあ城に来たら色々自由が利かなくなるってのは本当だ」
「はい、それは困ります」
「ふむ。だが外に出してモンスターに殺されるなんてのは気にくわない」
親方はそれだけは許さないと首を振る。
「まあそこは何とかやりますよ」
「ううむ。まあお前さんなら、そうだろうな」
親方は俺の鎧を見ながらそう言った。
「大したものだと思う」
俺の目を見て話を続ける。
「だが、だからと言って、ウチに来ないからと言って
お前のような逸材に、何もしてやらないってのも歯がゆい」
親方は顔を近づけてきた。
「お前、それ自前だろ。付与持っているんだろ?」
俺の皮の鎧を指でつんつんしながら親方がそう言った。
「えっ」と娘さん。
周りに聞こえないように言ったつもりのようだが地の声が大きい。
近くにいた息子さんと娘さんには聞こえたようだ。
娘さんは俺とドルク親方に見つめられ、「大丈夫、言わない」と言った。
「正確には前回ここで付与体験をした時に、
しっかりスキルとして発現しました」
「・・・なるほどなあ」
「なのでここにいる、あなた方のお蔭ですね」
恩に着せてくる感じがしなかったので、あえてこちらからそう言ってみた。
「いや、それを言うならこの国の方針だから俺のお蔭ってのもちょいと違うな」
このブースも兵士の給料もお金は国が出している。
ドルク親方はニヤリとしながらそう言った。
この若造が俺の事を試しやがって、と表情で語ってきているようだ。
「あはは、すいません」
苦笑で返すしかない。
「じゃあよ、外部に持っている弟子の枠で、お前に付与の事を教えてやろうか」
「え、大丈夫なんですか」
「俺の抱えている工房の弟子たちには付与が発現しているのがまだ居ない。
お前はそいつらに教えるための練習台ってことにする」
何人かの弟子がこちらに聞き耳を立てているのが分かった。
「それいいですね、ありがとうございます」
「ああ。だが直接時間を割いて教えてやることは出来ないから、有用な本を貸してやる」
「本当に助かります」
自分で自分の目が光ったのが分かった。
「うむ。これだ」
親方は恐らく収納系の何かから出したであろう本を渡してきた。
「ありがとうございます」
「弟子に写本はさせているが、返してくれよ。高いんだ」
「はい、かならず。いつまでに返せばいいとかはありますか?」
「ない。それは俺の持ち物だし内容は分かっているからな」
重厚な本を頂く。
軽く中身を見ると、図を交えていろんな解説などをしているのが分かった。
「あと、もう一個お前に渡したいものがあるんだが」
そう言って今度は1つの便箋を渡してきた。
「付与装備のガワを作っている工房だ。
主人にそれを見せれば色々と用意してもらえるだろう」
「まじですか、ありがとうございます、師匠」
「なに、調べれば分かるような店だ」
ドルク師匠は俺の師匠発言に思わず笑ってしまいながら照れ隠しをする。
「いえいえ、この紹介状が大きいです」
「はっはっは。そうか。一応お前は弟子ってことにしてあるからな。話合わせておけよ」
便箋を指でつんつんしながら親方がそう言う。
「あまり詳しくいうとボロがでそうなので適当にごまかしておきます」
「はあ、そのままいえばいいよ、元々才能があって付与体験で開花した、そこで弟子になったって」
息子さんがそう言った。
「「たしかに。」」
俺と親方の声が揃った。
「もう、息の合った師弟ね」といって娘さんが笑った。




