【第45話】東の森へⅡ
次の日、朝ごはんを頂いてからは夕方の治療の時間に戻ることを伝え教会を後にした。
実は俺一人だけみんなと別行動を取っているのがちょっと心苦しい。
フローラさんは誰も気にしてはいないけど、ケイタさんは気にするよね~と言っていた。
この教会は宿泊施設として開放していないのに俺は宿泊している。
前にそれを指摘した冒険者もいる。
その時はクリフトさんが、俺が教会関係者と言って話を終わらせていた。
実際に、俺は神官の恰好で治癒活動に参加してはいる。それをつかいうまく説明していた。
トラブルになる前になんとかしたいところだな~とか、
神官ってどうやったらなれるのかな~とか、
低級冒険者って苦手~とかオモチと話しながら東の森の入り口まで走った。
今日は喋りながらで20分で着いた。
「よし、では今日はこの杖を使って進むぞ!」
俺は収納の指輪から杖を取り出し掲げて見せた。
収納から右手に直接杖が現れる瞬間が何とも言えず、ちょっとテンションが上がる。
それだけでなんだか強くなったような、熟練者になった気持ちになる。
「さてオモチさん、薬草ルートでお願いします」
「了解にゃ、もうしっかり復活しているって森の精霊さん言っているにゃ」
「どんだけここ人が来ないんだよ」
薬草を独占しているようで気が引けるが、どうせ誰も来ない。
森の中をジョギングする速度で進む。
最初の頃は捻挫などが怖かったが、今はステータスの恩恵で
ケガをしにくいし、やってしまっても自前の回復魔法がある。
もう取れてさえいなければ大丈夫なのだ。取れてさえいなければ。
取れてしまったら・・・オモチに泣きついて、くっつけて貰おう。
ゴブリンには出合頭の頭にウォーターバレットを打ち込む。
一瞬で黒いモヤになる。
ぶっちゃけ杖を持って走るとか、杖経由でウォーターバレットを撃つよりは手から撃った方が早いと思うが、今後の為にと考えなおす。
魔石を拾うのに少し止まったりするがそれ以外はずっと走りっぱなしだ。
ちなみに魔石を回収する魔法は聞いたことがないそうだ。
軽快に深い森の中をジョギングしながら惨殺を繰り返す中年男性。
響き的にはなかなかにヤバイ。
ゴブリン界の都市伝説とか、怖い話になりそう。
「はやく寝ないとケイタって怖い人間がくるよ~」ってな感じで。
しかし撃ち漏らしはない。よって目撃者もいないので大丈夫だ。
「ケイタ?薬草採取ポイントにゃ」
「了解」
おかしな妄想をしていたら次の薬草採取ポイントに到着していた。
「さあやりますか」
ちなみにしばらく前から薬草採取ポイントしか回っていない。
理由は毒消し草やスタミナ草は薬草と違って根を採取するから
来年まで寝かせる必要があるからだ。
オモチのアドバイス通りに間引くように採取したので、
栄養状態が良くなり、来年には今年より少し多くなる見込み。
そして俺の薬草採取もずいぶんと手慣れたものになった。
まず俺の小指は6cmくらいだ。
小指をぴんと伸ばし、地面に指先を当てるようにして、
薬草に添える感じで長さを確認したら人差し指と親指で薬草をつまみ、
地上5cmのところで刈る。
薬草をつまんだまま、すぐ横の薬草をつまんで同じように刈る。
手の届く場所に薬草がなくなったらカニ歩きで横移動をして、
薬草をつまんで・・・・というのを10本集まるまでやる。
納品する場合は1束になったらその辺の草か何かで束ねる。
今回は納品しないので、薬草を束ねずにそのまま湿らせた布で包んで採取用の袋に入れる。
これを採取ポイントのすべての薬草に行う。
ものの5分で10束、100本が採取できた。
「もし薬草採取というスキルがあるなら、LV10かもしれない」
「確かに異常な速さにゃ。手慣れすぎにゃ。
職人芸って、こういうのを言うんだろうにゃあ」
「こういうのは昔から得意なんだよね。子供の頃は器量よしとよく言われたよ」
自分の腰にヒーリングを掛けつつどや顔をする。
「前の世界には回復魔法ないはずにゃ」
オモチが鋭い切り口で口撃してくる。
「いや、この年になって草刈りはしてないから。
子供の頃はじいちゃんの畑とか、親戚の畑を手伝ったりしたんだ」
「へぇ~」
そういえば誰にも確認したことはないけど、じいちゃんは恐らく
帰省してきた孫たちを楽しませるために畑を借りていたんだろうなと
大人になってから思うようになった。
「親に連れられてじいちゃんの家に帰省すると、毎回芋ほりだったよ。
多分しっかり世話してたんだろうな。でっかい芋が掘れるんだよ」
「へぇ~。ボクもその畑に行ってみたいにゃあ」
「一人で?」
「ケイタが居なかったら行かないにゃ。そんなの寂しすぎるにゃ」
「わるいわるい。冗談だよ」
「もう・・・」
「ええとね、さっきのはタイムアタック系全般だよ、ゲームとか、仕事とか」
草が多い部分に座ってオモチを抱き上げる。
ゲームでも仕事でもノートを作って、早くいい結果を出す方法を考えた。
自分がいつもどこでミスるとか、同じことでもどういうタイミングだとミスるか、
やられるとか書き出して、1つづつじゃあどう動いたらいいか考えていくのだ。
考えたら実行しないと意味がないのでまとめテキストを用意して
仕事だったら合間の暇な時間や、ゲームだったらマッチング中やロード中に
読み返すようにすると忘れずに実行出来ていい。
毎回自分なりの最強が安定して出せる。
結果がでたらそれはうれしかった。
「タイムアタックってなんにゃ?」
「え~と、いかに早く、正確に終わらせるかを競うってことだよ」
「にゃるほどにゃあ、いかに早く、正確に終わらせる・・か」
オモチが感心したような顔で俺を見つめている。
でも失敗もあったなあ。
仕事で作業の見直しをやった時、前任者のよりはるかに効率が良くなって
前任者の事を下に見てしまった。
居なくなってから、バカにするような発言を一時期した。
オンラインゲームとかでも良くないけど、現実の会社でそれをやってしまった。
調子に乗ってしまった。
気づいたときは申し訳なかったし、恥ずかしくなったものだ。
そして俺が次の担当者に仕事を引き継いだ後に気づいたんだけど、
前任者は、残業を効率よく付けるためにあの手順を踏んでいた、って事に気づいた。
彼にとって、あれが一番いいやり方だったんだ。
その時、色んなことを考えている人がいるんだなと思った。
他の人に言ったら、今気づいたのかって言われたけど。
仕事を効率よく早く終わらせる。
残業を効率よくつける(それなりに忙しく見せる、納期には毎回間に合う)
つまり効率にもいろいろある。
俺も今からスローライフで行くんなら・・・・いやいや。
短縮した時間でほかの楽しい事をやればいいじゃないか。
「うん、そうだよ、早くても仕事が雑だったり、
ミスがあったら台無しなんだ。意味がない、時間の無駄」
「にゃるほどにゃあ・・・」
おもちは右手を口元に当ててフニフニとうなずいている。
思わずちゅうとやってしまう。
「・・・まあ、とりあえず次いこうか」
「うん、じゃあ・・・次はこっちにゃ」
「よし」
◇◆◇◆◇◆
「お湯玉!」
「ガッ!ガボッゴボッ!」
目の前のゴブリンナイトが黒いモヤに変わる。
「この杖すごいな、行ける気がしたからやったんだけど、本当に行けたよ」
「もう怖いものなしにゃね・・・」
オモチが呆れた顔をしている。
今、俺はお湯玉を杖経由で使ったのだが、ちょっと閃いて、
中々口を開けてくれないゴブリンナイトにそのまま打ち込んでみた。
そしたら口の皮を破き、歯をへし折ってノドに到達。
慌ててすぐにノドをふさぐようにお湯玉を展開し火傷・窒息をさせたのだ。
歯をへし折った時のお湯玉の硬さは鉄球なみだ。
これが5m先のゴブリンナイトに1秒もかからずに着弾していたので、
すごい威力だったと思う。
見てて、えげつないと思った。
オモチが言う通り、確かにこれだと怖いものはない。
「思ったより水魔法がえげつないぞ、オモチ、どういうことだ?」
「えげつないかは、使う人間次第なのにゃ」
オモチが素でそう返してきた。
とりあえずオモチが悶絶するまでこちょこちょしてやった。
「にゃううう・・・」
俺の左腕の中からオモチが恨めしそうにジト目でにらんでくる。
逃げずに甘んじてこちょこちょを受け入れているのはオモチなのに。
さて、現在俺たちは東の森の中層にいる。
今までゴブリンナイトのせいでこれなかった場所だ。
お湯玉無双で中層の壁は取り払われたのだ。
もちろん用心はしている。
いつでも奇襲に対応できるようにしているし、
ケガをした際にはポーションを使えるように時折、
エアでポーションを取り出し飲む練習をしながら中央へ攻略を進めているのだ。
「ふう・・・」
右手に持った杖をしげしげと見つめる。
杖すごい。素手とは比べ物にならない。
メルスの町のおばあちゃんに教えてもらわなかったら、
もうしばらくは素手で四苦八苦していただろうな。
ありがとう、また食器の消費に貢献に行くよ。
空を見ながらそんなことを考えていたらオモチが肩に乗ってきた。
「この辺りから、また毒消しの草とスタミナの草が取れるにゃ」
「おお、じゃあ行っとこうか。問題ないよね?」
「ケイタはゴブリンナイトを倒せるにゃ、恐れるものはないのにゃ」
「じゃあ行こう。えっと、採取方法のノートは・・・あった」
一応頭の中には採取方法は残っている。
でも念のため毒消し草とスタミナ草の採取方法をさらりと復習する。
「よし」
オモチへOKのサインを送る。
「じゃあ行くにゃ~」
「ゴーゴー」
◇◆◇◆◇◆
ガサガサ。
「もうそろそろ引き返さないと治癒の時間になるにゃ」
「分かった、戻ろう」
--------------------------------
今日の成果
薬草の束 ×20
毒消し草の束 ×4
スタミナの草の束 ×5
※すべてオモチの空間収納行き。
--------------------------------
「ケイタさんお疲れさまでした。どうぞ」
「イーストさん、お疲れ様です」
顔見知りになった門番さんとあいさつを交わし城下町に入る。
東門は出入りが少ないのですぐ覚えたとこの前言われた。
「いつかは、泊まりで行ってみたいね、東の森」
「そうにゃね」
東の森と呼ばれている森は、実はさらに巨大な森林へと続いている。
向こう側までずっと森で、熱い事にそこは手つかずの資源の宝庫があるらしい。
ただし王都側から離れるにしたがって敵が多く、強い個体が多く出る。
俺がそこに挑むのはもう少しレベルが上がって、
ステータスも装備も強化されたらという話に落ち着いている。
「じゃあ、テントを組み立てておかないと」
「そうにゃね、じゃあ帰ったら一緒にやるにゃ」
「魔物除けも考えないと」
「ん~、それは雑貨屋さんで魔物除けを買ったほうが早いかにゃ」
今までは経験値が欲しかったので魔物除けは買わなかったが、寝ている間となると必要だろう。
そんなことを言っているうちに教会に着いた。




