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【第40話】首都フルマラソン(1) (挿し絵あり)

そして翌朝。

いつも通り洗浄でスッキリしてから馬車乗り場へ行く。


「おはようございます」


「おお、きたか。こっちも今来たところだ」


屋台のオヤジが恋人と待ち合わせた時のようなセリフを吐きながら屋台の準備を始める。

隣の屋台のオヤジ達も準備の手を止めて挨拶を返してくれた。

いつきても3人セットだ。なかよし屋台三人組だな。


「よし、こっちはもう出せるぞ」


ボーッと待っているとジュース屋台のオヤジが声を掛けてきた。


「ではこっちのコップにお願いします」


俺は手を上に向ける。すると木製のコップが現れる。

ジュースは3種類。梨ジュースを5、リンゴジュースを5、ブドウジュースを5と入れてもらい収納していく。昨日のよる、ちょっと練習した通りに出来た。


俺には空間収納が無いので、オモチが俺の仕草に合わせて出し入れしてくれているだけだ。

オモチうまいなあ。頭をなでなでしてやる。


「いいコップだな」


ジュース屋台のオヤジがそう言ってきたのでメルスの町の雑貨屋で仕入れてきたと伝える。

今使っているコップが限界に近付いているので誰かに頼んで買い替えようかなと言っていた。


次に話しかけてきたのはサンドイッチ屋台のオヤジだった。

お皿を重ねて渡すと、朝焼き上がったパンに、レタス、焼いたベーコン、チーズを2欠片入れて木製のお皿に1つづつ乗せてくれる。できた順に収納していく。


このパンの中身は首都でもおなじみだった。

屋台ギルドでもあって作り方がマニュアル化されていたりするのだろうか。


「こっちも最後の仕上げが出来たからお椀をくれ」

他の屋台もそうだったが、最後の仕上げはここでやるようだ。


お椀に具だくさんのミネストローネを入れてもらう。

15杯分なので、ひとつの寸胴鍋が半分くらいになっている。


という事で、以下がオモチの収納に入った。

・梨ジュース  ×5

・リンゴジュース×5

・ブドウジュース×5

・サンドイッチ ×15

・ミネストローネ×15


収納持ちは一応秘密でと伝えて3人には少し多めにお金を渡し馬車乗り場を後にした。


そのまま歩いて国境を越え、サワコタへ入る。

馬車乗り場の総合窓口に行ってこの大陸の地図を購入した。

こちら側で買えば、首都付近が少し詳細になった地図が買えるからだ。



そして今は町の外にいる。



「オモチ、一緒に走ろうね!」


ふと思いついて、小学生の時の信じてはいけない言葉TOP3に入りそうなセリフを言ってみた。


「にゃ?ボクはケイタの後ろを走るにゃ」


ま、信じる以前に通じるわけないか。


俺はオモチの頭をなでる。

オモチは気持ちよさそうに目を細めた。


さて、このフルマラソンだがちょっと期待をしている。


これをハイペースで走り切れたら、たぶん身体強化 Lv9がLv10になる。

そして移動中はクイックアクションではなく、クイック・パワーの方を使えば

MPに負荷がかかってMP回復強化(Lv3)も上がる気がする。


この世界に来て感じるようになった、なんともいえない確信めいた予感だ。


-----------------------------------------

【クイックアクション】

 ステータスの速さと移動速度が2倍になる、消費MPは10秒に1


【パワーアップ】

 ステータスの力と物理攻撃力が2倍になる、消費MPは10秒に1


【クイック・パワー】

 上記2つが同時に発動される。消費MPは10秒に2

 両方覚えていないと使えない。


【MP回復強化(Lv3)】

 4秒にMPが1回復する。

 ※なのでただ走り続けている分にはMPが枯渇することはない。

-----------------------------------------


「じゃあ・・・」


俺の言葉を聞いたオモチは猫形態からケットシー形態になり、立ち上がる。

そして左手を胸の前でぎゅっと握りしめ、右手をそっと持ち上げ

俺の顔を期待した目で見上げてくる。

かわいいけど、いつまでも見てはいられない。


「がんばって、走るぞー!」「「おおー」」


二人して右手を突き上げる。


「よし!・・・クイック・パワー!」


「にゃにゃ」


オモチは猫形態に戻る。

しゃがんでオモチとハイタッチし、そして二人して走り出した。

高校時代は陸上部だったが、その時よりもかなり速いペースだ。


時々どこか痛くなったら走りながら自分にヒーリングを掛けて走り続ける。


「オモチ、夜は俺、目が見えないから、あの停留所の町で、一泊しよう!」


夕方に2つ目の町を目にとらえてオモチに提案する。

半日でこの町までこれたので既に2日を短縮したことになる。


「了解にゃ!」


二人は町の手前で歩きに変更する。


「はあはあ・・・結局あれから一度も止まらずに走ったからお腹もすいたな」


「よく止まらなかったにゃあ」


「大体初日はこうなんだよね。明日からは休憩入れると思う」


「わかったにゃ、了解にゃ」


俺が全力で走っているとき、オモチはずっと軽やかなステップだったし、

今の様子を見ると全く疲れていないようだ。さすが。


町の門から入って宿をとる。


外に出て屋台を物色しながら買い食いをする。

おいしいと思った串焼きのお店で串焼きをまとめ買いした。

1つのお皿に5本づつ入れてもらい、5皿、合計25本を収納した。


他にはめぼしいものが見当たらなかったので宿に戻り洗浄後に就寝した。


ヒーリングで回復していたが、どこか癒しきれない場所に疲れが溜まっていたのか、

すぐ寝てしまった。



◇◆◇◆◇◆


2日目


オモチに顔を舐められて起きる。


ゆすって見てもダメだったからだそうだ。

控えめに言ってご褒美だった。


早朝の時間は過ぎて、普通に宿の食堂で朝ごはんが始まっていたので頂く。


「兄ちゃん、寝過ごしたのかい」


昨日宿を取ったとき、この人に、早朝に宿を出るかもと伝えていたのだ。


「失敗しました」


「ははは、まあ今からでも遅くはないさ」


まあそうだな、大体の事は取り返しがつくか、

失敗だと思った事が実は大したことなかったり、失敗じゃなかったりする。


「そうですね、ありがとうございます。」


俺はとりあえずそう言って朝ごはんを2人分受け取った。


「頂きます」


「頂きますにゃ」


そういえば、オモチは語尾が種族特有のものではないと

カミングアウト(?)した後も、こうやって「にゃ」を付けて喋る。


「え? 変かにゃ?」


「ううん、かわいい」


「でもケイタも、クリフトさんと話すときにいつもとしゃべり方ちがうにゃ」


「まあ敬語っぽくは、しゃべっているかな」


「それにゃよ」


「その語尾が、ケットシーの中では敬語みたいなものなの?」


「ケットシー全体って訳じゃないけど、マナーの授業で習ってからは

 クセみたいな感じで、相手によっては自然に出てくる感じなのにゃ」


「あ~わかるわかる。」


俺も大体敬語で、意識してため口とかにしないといけないタイプだ。

その辺のガキんちょとも敬語でしゃべりそうになる。

オモチもそうなのか。



「ケイタ、はんぶんこ。たべて」


そういってオモチは自分の分の野菜とパンを差し出してきた。

肉はしっかりキープされている。


「・・・助かるよ」


別に野菜は嫌いではないが肉が無いときぐらいしか食べないそうだ。

ちなみにサンドイッチのように一口で肉と一緒に入ってくる場合は問題ない。


「はぐはぐ」


洗浄魔法がこの世にあって、本当に良かったと俺はオモチを見ながら思った。


宿を引き払い、町が遠くに見えるぐらいまで歩く。

食べたばかりでもあったのでちょうどいい。


「さて・・・じゃあオモチさん」


俺は右手を突き出す直前の位置に持ってきてオモチを見た。


「はいにゃ」


オモチは心得たとばかりにうなずく。


「がんばって、走るぞ~!」「「おー!」」


二人して右手を突き上げる!

そしてハイタッチをしてから爆走を開始する。



◇◆◇◆◇◆



マラソンは順調で食べる時以外は走っている。


何度か馬車を追い抜いたが、必ず声を掛けられた。

とりあえず「体力をつけるため」と言っている。


後から思えば、一人走ってくる冒険者に

後ろに脅威でもあるかの気になったのかなと思った。


今日は普通にお腹がすいたので、お昼休憩をとる。

屋台で買っておいたもので食べたいものをお互い食べる。


オモチは昨日の夜に買った串焼き。

俺は串焼きと、サンドイッチ。

二人で1つのブドウジュースを飲む。


このブドウジュースに限らず、この世界の屋台のジュースは

ほとんど薄められないので、かなり濃くておいしい。

ちょっとお高いジュースのような感じさえする。

そんなジュース、すぐにダメになるのではと思って、

いつまで飲めるのか、複数の屋台の人に聞いてみたら

自然由来の保存料のようなものがあると口をそろえて説明してくれた。


少し腹ごなしをしてから走り出す。

食事後は走っているとお腹が痛くなるのでヒーリングでごまかす。

少ししてまた痛くなって、というのを何度かやっている内に

消化されるので途中から平気になる。



「モンスターに襲われているにゃ」


今回もそんな感じで痛みが来なくなった頃、オモチがそう言った。

前方に馬車っぽいものが見えて、一旦足を止める。


「望遠」


2km程先で馬車が立ち往生しているのが見えた。

よく見てみると、わだちで出来た街道の横に生えている木が、不自然に揺れている。


「おおお。でかいトレントか」


枝がぺちぺち馬車を叩いている。


「行こうか」


「了解にゃ」


動いていなければ道端の巨木にしか見えない。ちょっとしたホラーだ。

更に近づくと馬車の向こう側に半壊した馬車が見えた。人が何人か倒れている。


トレントの射程に入らない位置で止まり、ポーションケースの中の

オモチから貰ったMPポーションを1つ飲む。


「ウォーターバレット!」

すうと大きく息を吸って、吐いてから魔法による射撃を開始した。


トレントは目の前の馬車だけを執拗に攻撃している。

お蔭でこちらは無傷で安全に撃ち続けられた。


5分程して幹が折れ、巨大トレントは黒いモヤに変わった。


巨大トレントは直径15cmほどの魔石と、大きな枝を1つ、

普通のトレントが時々落とす枝を3つドロップした。


オモチに魔石と素材の回収を依頼し、俺は回復に回ることにする。


手前の乗り合い馬車の人たちは大したケガはなかったが、

とりあえずエリアヒーリングを唱えておいた。

護衛は手に負えないと、一緒に馬車に乗っていた。


次に奥の半壊した馬車へ向かう。


ちょっと躊躇したが、エリアヒーリングで

まるっと回復させてみれば、幸い死者は居なかった。


服装からして教会関係者の集団だなと考えていると、名前を呼ばれた。


「ケイタさん、助かりました」


集団のうち1人が首都の城下町の教会の神官だった。


「エフテさん、こんなところで奇遇ですね」


エフテさんとはヒーリングでの治療で何度かタッグを組んでいる。


「巡回だよ。今回俺が代表で参加してるんだ」


エフテさんは今回の教会のない町を巡回する活動の参加者だそうだ。

悩みを聞いたり、奉仕活動をするらしい。3か月に一回、各教会から参加者を募って行われる。

そう言えば、そういうのがあったな・・・。


俺はほかの神官に紹介を受けた。

教会でヒーリングの奉仕活動を続けていたことを褒められた。

今度巡回にもぜひ来てほしいと言われた。

巡回の活動は神官とボランティアの人で行われているそうで、俺はボランティア枠だろう。



少し話した後、リーダー格の人がもう一つの乗合馬車の責任者と話をつけ、

一緒に乗せてもらい来た道を戻ると皆に告げた。


みんなで壊れた馬車の部品等を道からどかし、その後別れた。



改めてみんなにお礼を言われ、俺なかなかイケルなあと思った。

そんな事を考えながら走っていたら、後ろを走っていたオモチが並走して来た。


「さすがケイタにゃ」


さすケイと言ってくるオモチに思わず顔がニヤける。


「ははは、中級者って、外れかと思ったけどそこそこは行けるなあ」


「ケイタがすごいにゃ。同じ道具でも50%しか使いこなせない人と、

 200%使いこなす人がいるのにゃ。ケイタは200%の方にゃ」


「200は言い過ぎだけど、ありがと、オモチ」


オモチは俺がうれしくなるようにツボをついて褒めてくる。

本気で嬉しくて年甲斐もなく破顔してしまった。


夕方また違う町に到着した。


このペースだと、明日は首都だ。

挿絵(By みてみん)

100話記念で追加した挿し絵です。

串焼きのイメージです。

この文章を書いたぐらいの時期に描きました。

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