【第39話】ゴブリンの群れ退治(2)
「最初に比べて森全体的に、モンスターの反応がかなり減ったにゃ」
「おお、頑張ったもんなあ」
魔石を拾った後、木を背に座って休憩していると、膝の上でオモチがそう言った。
回復魔法は気疲れまでは癒せない。
ボーッとする時間がいる。
「探知でみるかんじ、この周りにはもうゴブリンが居ないにゃ。
今なら安心して親玉の討伐に向かえるにゃ」
オモチはくりっと俺を見上げてそう言った。
「ふふ、そうか、向かえるか。じゃあ頑張ってみようかな」
戦闘狂オモチの発言に、俺はある程度認められたかなと思ってうれしくなる。
よしよしと、オモチを撫でながら考える。
今回の長期戦で俺の切り札を2枚、じっくり試して再認識できた。
今はもう根拠のない恐れや不安はない。
油断だけはしないよう自分を諫めながら前を見た。
◇◆◇◆◇◆
俺たちは更に残党ゴブリンを倒しながら進む。
さすがにグンリカイの町側にはまだゴブリンがいるようだ。
終わらない戦闘に少し気疲れする。
しかしすごい規模の群れだ。
これが本当に馬車のにおいだけで移動してきたのだろうか。
オモチに聞いてみたけどそこまでは分からないと言った。
まあそうか。
ちなみに意味がないから短杖は収納してもらった。
先に進んでいると時折オモチより情報が入る。
敵の大将は周りの全ゴブリンをこちらに投入しているらしい。
こちら側だけではなく、国境の町グンリカイ側に展開していたらしい集団も
俺をめがけて大移動しているとの事。
狙撃と移動。
段々と心の疲労がたまっていく。
そのせいか絶え間なく俺を殺しに来るゴブリンに少し恐怖心が芽生えてしまったけど
気が付いたらもうどこかに行った。
恐怖耐性のお蔭か、魔法でワンパンだから怖がる必要がないと頭が理解したか。
「ははは」
「にゃにゃ!?」
オモチが目を丸くして、口を開けて俺を凝視した。
俺は慌ててオモチに説明する。
これは前の世界で聞いたストレス解消法兼、健康法だと。
免疫上がると。運気も上がる?
「びっくりしたにゃ、でも今は戦闘中にゃよ?なんでこんな時に健康法なのにゃ」
オモチがジト目で責めてくる。
「健康法でもあるけど、ストレス解消のつもりだったんだよ」
「モンスター倒すのに忌避感はもうないって言ってなかった?」
「ん~、連続で殺し続けるところがちょっと来るところがあったんだよね」
「え、大丈夫にゃ?」
「うん。わるい、ちょっと試してみたかったんだ。そこまでびっくりするとは思わなかった」
「気がおかしくなったり、敵を殺すのを楽しむようになったら終わりにゃ」
「まあ、今は大丈夫だよ」
「何かあったらオモチにいうこと。いいにゃ?」
「わかった。その時はよろしく」
「了解にゃ」
オモチは自分の胸をポフリと叩いた。
流れで俺もオモチの胸をモフリとしたかったけどやめておいた。
オモチが検知して、俺が魔法で倒していく。
完全に作業と化した状態で更に進んでいく。
今度はあまり考えないようにして、最短でこなすことに集中する。
細い道になってからしばらく歩くと前方に何かが見えた。
「望遠」
望遠を使うと馬車の残骸と大きなゴブリンが数体確認できた。
「あれがゴールかな?」
「そうにゃね」
オモチはいよいよにゃね、とにっこり笑う。
完全にピクニック気分だ。
どっちが油断しているんだか。
まあこのレベルならオモチは本当にピクニックなんだろうけど・・・
ゴブリンはちらちらと、こちらを見ているが俺に気づいてはいないようだ。
どうやら俺ではなく、道の延長線上を見ているだけのよう。
「この道の先で一体何が!」とか言っているのかもしれない。
「森の中へ入って、右側から攻撃をしてみようか」
ゴブリンがずっとこちらを見ている。お互い見通しが良すぎるので
さすがにこのまま行かないほうがいいだろう。
森の中は走りにくいので、奇襲に失敗したらアウトかもしれないが、
でも今回はこれがベストな気がしたのでオモチに作戦を伝える。
「了解にゃ」
まあ問題無いでしょうと、オモチは軽く答えた。
そんなオモチを見て、ふいに首都の東の森での事を思い出す。
以下回想。
まだゴブリンナイトへの対応が出来なくて、逃げ一択だった頃だ。
中層を攻めていた時にエンカウントしてしまったゴブリンナイトに
水の銃弾の雨を浴びせ体制を崩したのを見て、さあ逃げようという時、
俺は濡れていた枯れ葉に足を取られ、思いっきり背中からこけた。
息が止まって体が動き出すのに3秒ほどの時間がかかった。
しかも足をひねったようで、すぐに立ち上がれない。
ヒーリングを・・だめだ集中できない。
魔法は無理と判断しポーションに手を伸ばしたが、
背後に気配を感じて振り向く。
ゴブリンナイトがとっくに追いついていて、剣を振り下ろそうとしていた。
と、いうところでゴブリンナイトは黒いモヤに変わった。
視線を下ろすとそこにはオモチが居た。
「・・・オモチ、強い?」
右手にポーションをつまんだ状態で、そんな間抜けな質問をしてしまった。
「まあ・・・今のケイタよりは強いにゃ」
俺はポーションをケースに入れ、ヒーリングでひねった足首と痛めた体を回復し、立ち上がる。
ふう。危うく、オモチに惚れそうになってしまったぜ。
「そうなの?」
「ある程度強くないと転移者のサポートなんて無理にゃ」
「へえ・・・レベルはいくつなの?」
「それは言えない決まりにゃ」
「禁則事項」
「そうにゃ」
「3桁到達者?」
「ん~・・まあそうにゃ」
3桁到達者とは、冒険者用語で、レベルが3桁行っている強者の事を指す。
「やば」
このモフモフ、やばいじゃん!
「ケイタもなれるにゃ」
「ありがと、がんばるよ」
俺の微妙になった空気を察してか、オモチがすり寄ってきたので抱き上げてギュっとした。
回想完了。
◇◆◇◆◇◆
ゴブリン種なら最上位クラスじゃないと敵ではないオモチを引き連れ森の中を歩く。
今回、この中々の規模の群れを率いているのがそうかと聞いたら違うとの事。
最上位はダンジョンにしか出ないらしい。
風下である右側から歩いて、ようやく馬車の残骸と大きなゴブリン数体と、あと倒木が見えた。
オモチからよくわかったね、と言われてから知った。
今後の事もあるので、正直に偶然だと伝えた。
更に歩いて馬車を通り過ぎ、倒木の方に行く。
ここからなら、最悪倒木の反対側に逃げて街道を走って国境の町へ逃げられるかもしれない。
「ではさっそく」
オモチに小声で伝えると、オモチはうなずいた。
「・・・馬車を覆うように、ファイヤークリエイト」
通常なら1m以内でしか発動しないファイヤークリエイトも、
魔力操作レベル10とイメージの複合技で10m先まで届く。
ちなみにイメージは、超長いチャ●カマン・・・
馬車が静かに燃え始める。
半壊しているので火の回りが早い。
少しして中にいた小柄だけど強そうな上位種っぽい赤鬼とか、
外にいた上位種達もギャーギャーと慌て始めた。
多分、「今度はなんだ!どうなってやがる!」と言っていると思う。
いい感じにかく乱出来たのでファイヤークリエイトをやめて、
ウォーターバレットで狙撃していく。
スナイパーよろしくの一発必中だ。
すぐにこちら側にいるゴブリンナイト以外を仕留めることが出来た。
小柄の強そうなゴブリンがこちらを指さしながらギャーギャー叫んでいる。
怖いな~赤鬼。見た目が凶悪。恐怖物質を固めて作ったんじゃないかって思えるぞ。
周りに散らばっていたゴブリンたちが慌ててこちらへ駆け寄ってきているので、
あれが司令塔かもしれないが、俺としては赤鬼が短期で突っ込んできた方が怖かった。
とりあえず小柄司令塔ゴブリンの口にただのお湯玉を3つ放り込んでおく。
放った後の制御はしていないが、口の中とノドをまるっとヤケドして悶絶している。
そして駆け寄ってくるゴブリン上位種にはウォーターバレットのヘッドショットで応戦する。
運のいいことにゴブリンナイトは小柄ゴブリンを守るためか、こちらには来ていない。
走ってきた上位種を殲滅、黒いモヤになったことを確認してから
赤鬼とゴブリンナイトを見据える。
ゴブリンナイトは口をキュッと結んで静かにこちらを睨んでいる。
俺の仕業と分かるように手を掲げてからウォーターバレットを
しゃがんで悶絶している赤鬼に数発撃ち込んだ。
すると狙い通り怒ってギャーギャーと威嚇し始めた。
ポポポンとゴブリンナイトの口にお湯玉を投げ入れ、ノドで固定する。
そして小柄ゴブリンを見ていると、苦しそうにこちらへ顔を上げた。
息をするのすら苦しいのだろう。
早く楽にしてやろうと思ってウォーターバレットでとどめを刺し黒いモヤにする。
しばらくするとゴブリンナイトも黒いモヤに変わった。
「お疲れ様にゃ。これで全滅にゃ」
「ありがとう」
ウォータークリエイトで馬車の火を消す。
ふと倒木を見ると、根元から無理やり倒したような感じだった。
根っこがブチブチと切れている。
「ゴブリンが考えた作戦だったのかな」
「そうかも。でも早めに情報が拡散されて、馬車1台だけの犠牲だったにゃ」
「だな」
二人で魔石を回収後、そのまま倒木を迂回して国境の町へと歩き始めた。
「少し走れば夕方にはグンリカイの町に入れるにゃ」
「了解。じゃあ・・・クイックアクション!」
【クイックアクション】
ステータスの速さと移動速度が2倍になる、消費MPは10秒に1
ちなみにMP回復強化の効果で4秒にMPが1回復する。
なので走り続けてもMPが枯渇することはない。
という事で二人は高速で街道を駆け抜けた。
「ケイタ、沢山の人間が森を出たところにいるにゃ」
「お、討伐の人かな?」
ケイタは魔法を解除し歩いて森を出た。
すぐにキリっとしたリーダー的な空気を出すオッサンが駆け寄ってきて話しかけてきた。
「こんにちは、向こうの町から来た人かな?」
ちょっと渋い声だ。
「こんにちは。はい、そうです」
「俺はここの責任者のネツキ・バソだ」
そういって手を出してくる。
家名持ちなので、貴族なのかな。
鎧からは気品と実践的な防具っていう雰囲気を感じる。
「俺はケイタです」
握手をする。すぐに本題に入ってきた。
「倒木はどうなっていましたか? モンスターは居ませんでしたか?」
「倒木はまだありますよ、モンスターはいません」
「え? 本当ですか? サメヌさん、みんなに伝えて、
迂回路の整備を一回止めて確認にいくから、馬と人も集めておいて」
「わかった」
リーダーっぽい人は後ろにいたサメヌという人に伝える。
後ろにいたサメヌさんとやらは、すぐに走り出した。
「情報ありがとうございます。お蔭で迂回路の整備をやらずに済みそうだ。
いや、将来的にはやるんでしょうけど街道ですからね、
専門の人が通常の時間を掛けてやってくれた方がみんなも安心しますから」
ちょっと言い訳っぽくなっているけど、言っていることは的を得ている。
「確かに」
グンリカイの町への道を歩きながら事情を聞いた。
今から数年前まで使われていた森を大きく迂回するルートの
街道を使えるようにする予定だったらしい。
ネツキさんはやはり貴族で、三男坊なので冒険者をやって領地に貢献しているらしい。
今回の旧街道の整備は二番目の兄が放置してきたものだったのに
兄から丸投げされてしまい、工事は死ぬほど気が進まなかったらしい。
「いや~、しかしとんでもないスピードで走ってくる人間がいるって聞いて
追われているのかと思ったけどモンスターの反応がなかったからおかしいなって。
ケイタ君は馬ぐらいの速度で走れるんだね、すごいね」
「あ、バレてましたか」
「ええ、モンスターを警戒して森を監視していましたから」
ネツキさんにはキャンプ地のはずれまで送ってもらい、そこで別れた。
準備が出来たら森の中に様子を見に行くそうだ。
◇◆◇◆◇◆
予定通り、夕方には無事町に入れた。
馬車乗り場には出発前に話をした屋台のおじさんもいた。
「こんにちは、戻ってきました」
「あれ、兄ちゃんか、戻れたの?」
「はい、倒木はまだですけど、もうたむろしていたモンスターはいません」
「おお~、そうかそうか」
「そういえば、ここの商品はお椀を持ってきたら、
そこに入れてもらうことは出来ますか?」
「大丈夫だよ、町の人も冒険者も、お椀持参の人はいるよ。
でも今日はもう売り切れちゃったけどね」
「じゃあ明日の朝また来ますね」
「お椀何杯ぐらいだ? 収納持ちってことだろ?」
「はい。では15杯分お願いします」
「おお、うれしいね。じゃあ明日は多めに作っておくよ」
会話を聞いていたサンドイッチ屋と、ジュース屋さんにも同じお願いをして
とりあえず夜ご飯用にサンドイッチとジュースだけ1つづつ買った。
行きで取った宿に行き、部屋を確保する。
「あ~疲れたね~」
「今日はゆっくりするにゃ」
「そうだね、これで明日から首都まで馬車で10日だもんね。は~やれやれ」
この前の馬車は小走り程度の速度だった。
全力で馬を走らせたらすぐにバテてしまうから無理なんだろうけど、
もっと早くならないかなと思う。
というのも、うかつにも日本にいた頃のバスや電車の速度と比べてしまい
最初の数日はすごいストレスだった。
途中からは戦闘に参加したり、オモチとおしゃべりして気を紛らせたけど
またあの10日が来るのかと思うと気が滅入る。
「ちなみにオモチが一人で全力で走ったら、ここから首都までどのくらいなの」
「2日くらいかにゃあ」
オモチが俺の膝の上でそう答えた。
「へえ・・・俺が走ったらどれくらいかな」
「う~ん、やってみる?」
「そうだね・・・馬車は暇だったしね」
少し悩んだけど、ちょっと走ってみることにした。
道は馬車のわだちの跡でなんとかなるだろう。オモチもいるし。
「本気にゃ?」
「うん、やるだけやってみようかな」
「にゃんと。・・・わかったにゃ」
オモチは少しだけぽかんと口をかわいく開けたが、すぐに了解してくれた。
急遽、首都までのフルマラソンが決まった。
俺は引き締まってきたお腹を見て、やるからにはやるぞ!と思った。
◇◆◇◆◇◆
「あ、そういえばさ、あの屋台のオヤジさん」
「にゃあに?」
ベッドの上で二人してまったりしていた時にふと思ったので聞いてみる。
「熱々のスープの屋台の・・あれを沢山収納でって言っていたけど、
普通の収納は時間止まらないよね」
「止まらないにゃ」
「う~ん」
「よく分かっていないだけじゃないかにゃ。収納のこと」
「そういう事? まあとりあえず口止めのお願いは、しようか」
「それがいいと思うにゃ」
熱々で思いつく。
「最悪、熱々スープは水魔法で冷ましてごまかすこともできるよね」
そして逆もできる。
「おお。名案にゃ」
「任せてよ」
「さすがケイタにゃ」
さすがさすが~と言いながらオモチがすり寄ってきたので捕獲して
ちゅうとやった後に気のすむまでナデナデモフモフとした。




