【第4話】初の戦闘
二人で茂みの方を見ると、160cmほどの身長で、茶色の肌、最低限の布を巻いただけのかなり獰猛そうな顔をしたものがこちらを見てニタアと笑っていた。
右手にはこん棒を持っている。
「ブラウンゴブリンにゃ。やっつけるにゃ」
そういいながら、どこからともなく剣を取り出して渡される。
「え、ごめんやばいかも、覚悟ができてない」
とはいえ、ぐずぐずしているのは得策ではないのは分かっているから、鞘から剣を抜いてみる。
持ち手の長さからして、片手剣のようだ。
両刃で銀色の刀身が微かに周りの風景を反射しているように見えた。
「やばいかも、オモチ・・・」
ゴブリンを威嚇するオモチより前に出れない。完全に足がすくんでいる。
あれに近づいてはいけないという本能がそうさせていると分かった。
俺のつぶやくような言葉を拾ってオモチが振り向く。
「そうだった。」
オモチはそういうと、決意を決めた顔をする。
(やばい、俺も動かないと)
そうは思うも、心がついていかない。
「もしボクがやられてしまったら、そのショートソードで応戦してほしいのにゃ」
「・・・」
いろんな感情が一気に駆け巡る。
口にしたい言葉もあったが、言葉にはならなかった。絶句というやつである。
さっきまでの甘い時間が恋しい。
オモチはさっと距離を詰めると、ゴブリンを翻弄しながら爪で傷をつけていく。
ただ、どう見ても軽傷。倒せそうな感じがまるでしない。
(俺も動かないと・・・)
そう思いながらも、ぼうっと、オモチが戦っている姿を突っ立って見ていることしかできなかった。
思考停止というやつである。
「あ」
こん棒が、横にジャンプしたオモチに当たってしまう。
運の悪いことにジャンプした先が、こん棒が振られた軌道上だった。
小さな悲鳴が聞こえた。嫌な音がした。
地面に受け身も取れずに倒れる。
ゴブリンはそれ以上こん棒を振ることなく、しゃがんでオモチをつかもうとした。
「おぃ・・・・おい!!」
慌てて駆け付け、でもゴブリンから2メートルほどで止まって必死に気を引く。
体がガタガタ震えていて、足元の大きな砂利石のせいで今にも転びそうだ。
すっかり意識をこちらに向けたゴブリンに対し、ショートソードの先端でけん制をする。
刃先が当たらない程度に突きをする仕草をしていたが、最初は警戒していたゴブリンも、うっとおしくなったのかギャアギャアと叫びながらこん棒を振り回して威嚇を始めた。
そうすると、そういう両者の勢いと距離感が変化して、ちく、ちくと刃先がゴブリンの体に傷をつけ始めた。
ゴブリンは大きな反応を見せずにギャアギャアと威嚇を続ける。
(くひい、痛そう、なんで痛がらないの?)
もちろんゴブリン側も攻撃をしてくる。
でもケイタ側は見え見えの軌道を避けたりショートソードでいなしたりしているので無傷。
---数分後、ちょっとだけちくちく攻撃に心の免疫ができたところで、少し強めにゴブリンの胸を突いた。
「ぐぎゃあ」
ゴブリンは黒いモヤになってすぐに霧散した。
ゴブリンがいた足元には1cmほどの赤黒い宝石が落ちていた。
「あ」
一瞬宝石に目を奪われていたが、すぐにオモチの事を思い出し、オモチのいた場所を見る。
「おつかれさま、にゃん」
オモチは出会った頃のように猫形態でエジプト座り(犬でいうおすわりの姿勢)をしていた。
「やっぱり演技だったのか」
声が震えている。
更に震える手でショートソードを鞘に戻す。
血は付いていない。
「そうにゃ」
「まだ手が震えているよ」
「仕方ないニャ、転移者は最初は必ずそうなるって先生が言っていたのにゃ」
「先生は転移者?」
「ボクの先生はケットシーにゃ。」
「ああ・・・まだドキドキしている、手も震えているよ・・・」
「すぐになれるのにゃ。転移者はみんなそうにゃ」
「そうか?」
次なる襲撃に備えて、手をぶらぶらしたり、背伸びをしたり、深呼吸をしたりして落ち着こうとする。
「・・・あ、落ち着いてきた」
「オモチは優等生だったけど、忘れていることもあって・・・」
オモチはそういいながら、ちょっともじもじして、視線をはずす。
「ん、なに?」
「名前は忘れたけど、転移者は慣れるのがはやくなるスキルを持っているはずにゃ」
「ああ、精神保護とか耐性系のスキルがあるんだな」
「そう習ったのにゃ」
「えらいな、オモチは」
「にゃにゃ・・・」
そういうとオモチは足にすり寄ってきた。
ちょっと撫でてから、抱っこする。
「怒ってないにゃ?」
「怒ってないさ、俺のためだろ」
「うん・・・」
オモチは抱っこされたまま俺にぎゅっと体を寄せてくる。
「じゃあ、数をこなせばいいか。結局は何事も繰り返しが大事ってことだな」
「そうなのにゃ」
「・・・了解。よし。 あ、そうだ、あれって魔石かな」
ゴブリンを倒した後、ゴブリンがいた場所に落ちた赤黒い石を見る
「そうにゃ、冒険者ギルドとかで買い取ってくれるから持って行くのにゃ」
「ああ、いいね。それ。」
疲労困憊だったけど、それを聞いたらちょっと元気になった。
魔石を拾って感触を確かめる。
少しザラザラしている。
中から鈍い輝きがあるのがわかる。
「魔石は魔素が固まったものと言われているにゃ」
「へえ、そっちなのか」
「そっちなのにゃ?」
「いや、魔物が長く生きた時に、体内の魔力が心臓とかで石になるっていう設定も読んだことがあったから」
「うにゃ、誰も本当の事は知らないのにゃ。いろんな説があるんだにゃ」
「ああ、諸説ありますってやつね」
「そうなのにゃ。」
「便利な言葉だよな。それ。まあ実際そうなんだろうけど」
「うにゃ。ケイタそろそろ行こう?」
「了解。方角はどっち?」
「川の流れに沿って森を抜ければ王都がみえるはずにゃ」
「了解、じゃあまたさっきの。」
「うにゃ」
せーのっ
「おーっにゃ。」
二人して、また右手を挙げておーっと言い合った。
誤字報告ありがとうございます。
反映させて頂きました!




