その2
骨身の塔の扉が開く
普段開かれないこの扉が
最後に開かれたのは、いつの頃か
カビと埃の酷い臭い
壁のいたる所にシミがあり
松明の火に照らされると
なんだかそれすら人の顔に見える
それが一層、薄気味悪さに拍車をかける
高くそびえるこの塔は、上に進むにつれて
若干細くなった円錐台の形をしている
中の造りは、天井まで続く吹き抜けになっており
中央に巨大な柱が一本立っている
その太い柱を囲う様に螺旋階段が設置され
この階段が、どこぞ不気味な異界へ誘う蛇にも思えてくる
モンスターの気配こそ無いが、墓所特有の静けさ
やはり嫌な空気のせいで
あまり長居は、したくない所だ
「銀龍の骨つっても…骨だけパッと見てもなぁ…やっぱわかる部分と言えば頭の骨だよなぁ」
オグナが闇に目を凝らす。
左手に持つ松明では些か心許ない。
ぐるっと中央の柱の周りを一周したが
今のところ、骨の一本も転がっていない。
「やっぱ上かなぁ…」
長い長い螺旋階段の先を見上げる
はぁーと出る大きなため息
よし! とオグナが気合を入れて!
階段に足をかけた…その時!
壁や柱のシミ達が、目を見開いてオグナを見つめた。
空気が途端に冷気を帯びる
オグナも警戒に力が入る。
ゴゴゴゴゴゴっと!骨身の塔が震え始める
「まずいッ!!」表へ取って返すオグナ
ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
骨身の塔が哭いた
その叫びは遠く聖都:ヌアダにも届いたと云う
なんだ、なんだ、と慌てて外に飛び出た街の人々
イスリール全体が何かに脅える様に震え揺れる
王女たちも城から外に出た!
「姫様!何事でございましょう?またボルドーからの攻撃でしょうか?」
「…いえ」
「しかし我々の魔法障壁には何の反応も」
「違うわ、ユッケ!あれを見なさい!!!」
王女が示すその方向、正面にそびえる、骨身の塔!!
人々は我が目を疑った。
1500年間、変わらずにあった風景の一部
動くはずの無い建物が、ぐにゃりとその姿を変えている
意思を持った生物のように蠢くそれに
誰一人、悲鳴も出せずに見つめていた。
変形を続ける建物が、ギュッンと一瞬!!
卵の様に丸まったかと思うやいなや!
ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
巨大な羽を大きく広げて、姿を現わす『死』の姿
《冥界龍:骸の龍》
に、逃げろぉお!
わぁーーーーーーーーーーーー!!!!
一斉に逃げ出す人々
「骨身の塔とは良く言ったもんだ」
ドラゴンの足元、オグナが構える
「塔、その物が銀龍の骨と身ってわけか!」
折り重なった幾千もの龍の死体
巨大過ぎる骸の龍を作り出す
"許すまじ…許すまじ"
狙いは、たった一人の男!
一族を皆殺しにした憎き人間!魔道士エウロン!!
おそらく、オグナがこの塔を訪れなければ
時の終焉まで、骨身の塔として在り続けた銀龍達の骸
しかし、確かに感じたエウロン気配、魂の波長。
不意に訪れた復讐の機会、一気に溢れる怒りと怨念
それらは全てが、オグナへと向かう!!!
ー【瘴気の吐息】
毒の竜巻が吹き荒れる!
凄まじ破壊力の風、地面がバターの様に削り取られる
これを難なくかわしたオグナ
「ちっと!厄介だなぁ」
ー【龍の毒爪】
間髪入れずに攻撃を繰り出すドラゴン
巨大な爪は、超スピードの骨の城壁!
なぎ払うように振られた左の前脚がオグナに迫る!
「やるしかねぇか!」
ドォーン!!大きな衝撃音!!!!
見るとオグナの右腕がドラゴンの攻撃を受け止めている
爪に纏った毒の影響でみるみる服が溶けていく
ぐっ!!!力を込めたその刹那!!
ビリビリと溶けた服を肉体が押し破り、筋肉の大群勢が顔を覗かせる
隆起した筋肉、盛り上がる力こぶ!!!
丘を思わせる発達した胸板!!
大砲の砲身よりも太い首筋!!
ロッククラムが出来るほどにそびえ立つ、広い背中!!
深い渓谷を思わせる腹筋の割れ目!!
太ももは大地を締め上げる世界樹の根の様だ!
この世の筋肉!
それを一点に集約した様な猛き姿!
沸騰した血液に!筋肉が喜び勇む!
これぞ!シドウの者の証【益荒雄】の姿!!
「オラぁ!よっと!!!」
ふわっとドラゴンの巨体が宙に浮き
背中から地面に叩きつけられる
「骨だけじゃ強くなれないぜ」
地面に手の平を押し当てて、そのまま大地を
むんずと鷲掴む!
オグナの背中や肩が、より一層 ムキっと盛り上る!!!
んーーーーーー!と全身!力を込める!!
その筋肉は、いつにも増して猛々しい!
ボコン!!!
大きな音と共に、大地がとれる!
ソレをかついで
オグナは地面を蹴って、空へ飛び上がる!
「筋肉付けて出直しな!!!!!」
倒れるドラゴンの真上から!
山の様に大きな岩を!!ビュンと一投!!!!
さながら威力は隕石の如く!!
波打つ大地と!!衝撃音!!!!
こだまするドラゴンの断末魔!
やがて戻ってくる、いつもの静寂!
骸の龍はピクリとも動かない
討伐完了!!
見事に地面に着地するオグナ
「あ…!」っと、まずい顔をする
「やべぇ…頭蓋骨、残ってるかな?」
頑張って岩の下を探すのであった。
「・・・」
城から見たい王女とユッケ
「・・・」
「あの…」
「あの」
可愛らしい王女の顔はみるみる赤くなり
「あの!バカゴリラーーーーーーーーーーーー!!!!」
その怒鳴り声は、遠く聖都:ヌアダにも届いたとか、届かなかったとか