その7
いくつか、わかった事がある。
オグナはシドウから遥か離れた場所、
惑星のぐるっと反対側に位置する小国、イスリールに召喚された。
英雄エウロンを召喚する究極魔法との事だが
何度やってもオグナが召喚…もとい転送された。
英雄召喚と言われる魔法は召喚魔法などでは無い
その事に気付いているのは、エウロン本人
オグナのみだ
前世より1500年の時を経て
英雄エウロンの活躍は
歌になり、物語になり、
もうすでに伝説や神話に成りつつある
そして物語は
真実よりも聞こえの良い話し、都合の良い部分だけが残った様だ
オグナに転生を果たす前の姿
稀代の色男エウロン・カーズ
圧倒的な魔力と名声、それに加えて
生まれ持った【絶対的魅了】の能力で
数え切れない女性達と褥を共にした。
国中の女性がエウロンに《ぞっこんLOVE》だった
初めて英雄召喚を行ったとされる
イスリールの姫・ルーラ
ルーラも、そんな乙女の一人で
エウロンを一目見るなり恋に落ちた。
エウロン達一行は、魔王討伐の道中に
イスリールへ、たまたま立ち寄った
なんとも強い嵐が続き
3日の滞在を余儀なくされていた。
そんな初日
形式上、イスリール王に滞在の挨拶を済ませたその後、
1時間も経たないうちに
もう、ちゃっかりとルーラの部屋に忍び込んでいた
ルーラには初めての男性であり
たった一晩だけの恋人
もちろんエウロンは、
2度と会うつもりも無かったが
ルーラは別れを拒んだ
普段なら口八丁手八丁でその場をやり過ごすエウロンだったが、ルーラ姫が冒険に同行すると言い出した。
色々説得を試みたものの
エウロンと離れるのが余程嫌なようで
頑として引かない
あと、けっこうルーラが可愛かったので
エウロンは1つ提案をした
「姫に私の魂のお渡しいたします。」
するとエウロンは懐から自分の財布を取り出し
中から1枚の金貨に選び、口付けをした。
金貨にエウロンの唇が触れると
光のような物が金貨へ吸い込まれた。
「これに私の魂(ただの魔力)を刻印しました。」
金貨をルーラに手渡すと
「これは、貴女と私だけの秘密の魔法です。
どうしようもなく、恋しい夜は
この魂のかけらにお祈りなさい
どこにいても、このエウロン
姫のもとに、必ず馳せ参じます」
そんなこんなで
別れ惜しむルーラを置いて
イスリールを後にした
エウロンが金貨に込めたのは、転移の魔法で
その当時、けっこうな頻度で
夜な夜な姫に呼ばれていた。
そんなある日、いよいよ魔王の勢力が絶頂を迎え
各地に魔物が溢れかえっていた頃
イスリール上空に銀龍の群れが現れた。
絶体絶命のイスリールを救うため
ルーラはこの金貨を使い、エウロンを呼び出し助けを求めた。
その後、
初歩の転移魔法を込めた金貨は、イスリールの宝として保管される。
金貨とその物語は代々王家に語り継がれた
破滅の危機となった時、乙女の祈りが英雄召喚を可能とする、1枚の金貨
イスリールの国宝にして、英雄の遺産
魔法アイテム【救国の金貨】
この金貨の魔法の効力は
オグナへ転生したエウロンにも有効だったようで……
「もう一度です!もう一度です!姫様!」
「来たれ!」
(…どうしましょ…この空気……「これ夜這い用の道具です」なんて口が裂けても言えない…)
必死な2人姿に居たたまれ無いオグナであった。
〜 ボルドーにて 〜
「そうか、キコルは失敗したか…それで?
イスリールの秘宝は見つかったのか?」
何も無い空間から声がする
「……遺産は存在するようです」
玉座に座る男がニヤリと笑う
「そうか……やはり…イスリールに存在したか……英雄の遺産は、このボルドーにこそ相応しい……邪魔する者はわかっているな…何としても手に入れろ…行け」
玉座の男が、パッと片手を払う
「…仰せのままに」