その2
漁業で栄える地方都市:リック・ケイト
大きな港で毎日水揚げされる新鮮な海産物は
貴族や料理人の間でも評判で、肥えた舌を唸らせる
ケイト産の魚を食べようと、多くの旅人や冒険者が訪れる港町だ。普段は港から港へ船で運ばれる魚だが
陸路でも氷魔法で鮮度を保ちつつ各国に運ばれる。
街道には、それらの業者を狙う野盗もおり、被害に合う者が年に数度報告されている。
オグナ達、シスター・コーラの一行を乗せた馬車は
リック・ケイトを目指してゆっくりと歩みを進める。
二頭立ての木造馬車は、風魔法のエンチャントが施され、荷台は綿毛の様に軽い、驚く程に揺れも無く、車輪の音もいたって静かだ。
快適な馬車の旅
手綱を握っるニックから鼻唄が聴こえてくる
「ふふ〜ん♪ 揺れる若草〜行くよ幌馬車〜♪」
荷台で揺られるオグナに、シスター・コーラが話し掛ける
「オグナ様…武器はお持ちで無いのですか?」
斧槍の手入れをしていたジルガが割って入る
「その青い包みが得物ですかな?」
「ええ、得物という程ではありませんが…」
オグナが包みをほどくと、中から木の棒が出てくる
「槍?ん?木の棒…ですか?」
見れば見る程シンプルな木の棒
「はい、父が持たせてくれました。」
「杖術ですな!」
「はぁ?じょうじゅつ…?」とピンと来ないコーラ
「俺のは、お粗末過ぎて術と呼べませんよ」
「それは、槍術とは違うのですか?」
一緒聞いていたアフルレッドも興味がある様だ
「突けば槍 払えば薙刀 持たば太刀 杖はかくにも外れざりけり」
「ジルガさん、それは何にかのお呪いですか?」と問うコーラ
「刃の無い棒は、どこを握っても構えが成る。故に
その構えに応じて、槍の様にも剣の様にも扱えると言う意味の言葉ですな」
ほーと声をもらすローラとアルフレッド
「実際、厄介なもんだせ〜」とニックが背中に声を送る
「誠に、ニック殿の言う通り、その自在に変化する間合や軌道は、なんとも手の内が読みにくい。もし相手が手練れであれば…やり辛い戦いであるな」
「勉強になります!」嬉しそうなアルフレッド
「そう聞くとただの木の棒が、とても強い物に思えますね」と感心するコーラ
「そんな、すごい物じゃ無いですよ」
オグナ達が談笑していると…馬車の歩みがとまる!!
「どうしましたニック?」
「あれ見ろよ…」
皆、前方に目をやる
「野盗の仕業であるな」
「多分な」
「ひどい…」シスターの瞳に涙がこみ上げる
裸に剥かれ木に吊るされた女性の死体、
周りには横倒しの荷車。
積み込んでいたであろう荷はどこにも見当たらない無い。
激しく争ったのか、折れた剣や外れた矢が転がっている
地面に放置された複数の死体には
ゴブリンや犬型モンスターが集り、死肉を貪っている。
「モンスターならあんな殺し方しないわなぁ…」
「引き返しますか?」と声を殺すアルフレッド
彼の真剣な表情とは対照的にニックは、にやけ面のまま
「もう囲まれてちまってるよ…」
「数は?」
「ま!この数なら大丈夫っしょ!」
突然!!!!
木の上に潜んでいたゴブリンが馬車を目掛けて奇襲を掛けた!!!
「キキーー!!!」
ー ブシャッ!
と破裂するゴブリンの頭!
見れば、オグナの手に持つの棒が、ゴブリンの頭蓋をカチ割っている。
「ヒュ〜♪ やるねぇ〜♪」とニック
「戦闘開始!!!!」声と共にアルフレッドが剣を抜く
男達が馬車から飛び降りる
モンスター達が一斉に襲い掛かって来る!!
「ニックさんはハングリー・ドッグを!!
私とオグナさんで残りのゴブリンを叩きます!!!
ジルガさん!!!」
「うむ!!大地魔法【土の要塞】!!!!!」
馬車の前!モンスターから馬車を守る様に、
土の盾が形成される!
キャン!と絶命の声を出す魔犬!
突如、下から迫り出した地面に腹部をえぐられた様だ!
「コーラ殿と馬車の護りは拙僧に任されよ!!」
「お見事…」と言葉を残し。
ビュンとオグナが飛び出した!!!
勢いそのままにオグナの拳がゴブリンの顔面に食い込んだ。
バチャン!と鈍い音を立てながらゴブリンの体は吹っ飛んで行く!!
それも束の間!
今度は、左の手に持つ木の棒っきれを、ブンッと一薙!
4〜5体のモンスターを巻き込みながら!
そのまま棒を振り回す!
「…凄い」
「なんとも、剛者であるな!!」
「おい!アルフレッド!遅れを取るなよ!」
「わかってますよ!!」
「【鷹の目】!」
自身に身体強化魔法を掛けるニック
彼の放つ矢はモンスターに吸い込まれる様にヒットする。
「剣技!【四連鉄爪】!!!」
繰り出された剣撃は、さながら獣の爪痕!
一太刀でゴブリンを斬り伏せるアルフレッド
勝敗は明確
見る間に数が減るモンスター達
それから20分程
シスター・コーラは鎮魂の祈りをあげている。
吊るされた女性の遺体は、木から降ろされ
申し訳ない程度の布が体にかけられている。
その他の遺体も並べられ、額には葬いの小石が置かれている。
「モンスターの剥ぎ取りは終わったぜ!」
「これ…ニック」シスターの背後に立つジルガが
祈りを妨げぬ様にニックに注意の視線を向ける
「……どうぞ、安らかに眠って下さい…」
水色の淡い光と、ふわっと柔らかい風が辺りに起こる。
「よし…もうちょっとだけ頑張ろうな…」
オグナは戦闘で興奮状態だった馬を落ち着かせる為
今も優しく頭や首を撫でている。
「お待たせしました…さぁ参りましょうか」
シスターの顔に悲しみの色が伺える
馬車はまたゆっくりと進む。
しばらくの無言、ニックの鼻唄も聞こえない
静かな筈の、馬車の車輪の音が
やけに大きく感じられた。
日もとっぷりと暮れたころ
本日の夜営地も決まり、夕食を楽しむ 一行達
美味い料理は人を笑顔にする
今晩はオグナが切り分けてもらった鹿肉をみんなで頂く
「コレうまっ!!美味しいです!ジルガさん!」
「だろ!こんな顔でも、オッサンの料理は絶品なんだ!」ゴチン!拳骨が飛ぶ
「痛デ〜!」
「しかし、今日は、あっぱれであったな!オグナ殿」
「えぇ!!杖術と言うのがあそこまで凄い技術とは」
「バカ!アレはオグナだから出来るんだよ!」
「稀に見る剛力の持ち主ですな」
「お褒めの言葉、有り難く頂きます。でも皆さんも素晴らしい連携攻撃でした」
「まぁなぁ〜」
「ニックさん、口の横に食事が付いてますよ。」
5人の食事は愉快に進む
「そういえば、リック・ケイトの後はどちらへ?」
シスターが問う。
「ゲルババ大森林を抜けて、マリオンまで向かいます」
「ゲルババの大森林?はて?ゲルババに森林なんて?」
ジルガが頭を捻り考える。
(やべ…もうゲルババの辺りには森は無いのか!)
「マリオンと言えば、4聖域の1つ英雄エウロン様の生誕の地ですね」
「でも里帰りと…?」
「え!あぁ!里帰りの後の行き先も言ってしまいました」
「私も四英神に仕える身、一度は行ってみたいですね」
「四英神……?」
「マリオンには幾億もの花々が咲き誇ると聞きます!」
「いや〜小ちゃい只の田舎町ですけどね〜」
「え!マリオンの聖域がですか?!!」
4人がオグナを怪訝そうに見つめる。
(やべ!またやっちゃった…)固まるオグナ
「あっ!マリオンじゃありませんよ!シドウです!
シドウが田舎って意味で、聞き間違えました!」
ふーんと言う表情の4人
「では、そろそろ見回りに行きます。」立ち上がるアルフレッド
「拙僧は後片付けだ、ニック手伝ってくれ」
「はいよ〜」
「コーラ様とオグナさんは先に休んでて下さい。」
それぞれ動き出す4人。
1人火で温まるオグナ。
(ん〜…前世から時間が経ち過ぎてるよなぁ〜気を付け無いと話しが噛み合わん!)
「俺ってスゲェ時代遅れ…」
しっかり感じた世代を飛び越え過ぎたジェネレーションギャップ
オグナはこの夜、ちょっぴり枕を濡らした。




