閉話 教師達の話し
皆さん覚えてますか?
魔法科の教師、ルール説明のジルアですよ。
今日と明日で閉話が二話入ります。亀進行で申し訳ありませんが、これからも宜しくお願いします。
観閲ありがとうございます。
side 魔法科の担任教師 ジルア・フォーキンス
「いやー、今年の編入生、如何しますかね」
上質な木材で作られた九角形の机の辺に中等部一年の授業を担当する教師八人と王立学園の学園長が座って、五枚の書類を悩ましげに眺めていた。
「今年は本当に優秀だからなぁ、下手な生徒を入れると下のクラスから文句が出てくる」
午後三時、おやつの時間。
僕を合わせた教師陣の話し合いは一向に進まなかった。
話し合いの議題は今年の編入生について。
毎年、編入生は慎重に選ばれるが、今年は前年の比ではないほど話し合いを重ねている。
何故ならば、今年の一年生には
王太子殿下、その婚約者、その婚約者候補、騎士団長子息、魔法師団長子息
を筆頭に名だたる高位貴族の優秀な子息、令嬢が揃いに揃った年なのだ。
同じ時期にここまで揃ったかと言いたくなるような揃いっぷりだった。
他の学年に比べても入学に求められる能力が桁違で、ここまで生徒の平均能力値が高くなったのは二十年前の、現在の陛下が在籍していたとき以来だという。
そんな中の編入試験だ。
この時期の編入試験は合格すれば必ずSクラスに入れる。
どんな生徒を入れれば良いのか本当にわからないのだった。
「でもやっぱり、実力主義が基本の学園ですから、試験時の映像でも見ていきますかね」
悩むのはわかるが、やっぱりここは実力主義の学園。
実力で決めなきゃならないだろう。僕の所に来た、あの子の事も見て貰いたいし。
「魔法科の合格者五人の映像を五位から流していきます」
五位の受験生は風属性魔法を使用していた。
詠唱が三十秒間に収められる風属性魔法の中で最も威力の高い魔法を使っている。
「おお、この魔法は……」
「うん、知識も判断力もあるわね。逸材だわ。」
ふふふん、そんな言葉、一位のあの子を見たら、絶対に言えなくなりますよ。
四位の受験生は同じく風属性魔法だったが、詠唱が短い魔法を連発すると言った方法だった。
「頭が良いな」
「うん、魔力もかなり節約できてるな」
三位の受験生は火属性魔法を連続して当て続けた。
「火属性魔法の利点は発動時間が長いこと。きちんと考えて魔法を使ってるわ」
「うん、流石三位だね」
二位の生徒は土属性魔法で巨大な剣を生み出し、的に突き刺した。
「土属性魔法は堅さが断トツだからな。良い使い方じゃないか」
「射程距離もきちんと掴めている様だし」
「やはり、今年は逸材が多いな」
逸材が多いだって? そんなの彼を見てないから言えるんだ。
彼を見たら此処にいる教員全員が絶句するに違いない。
彼を他の教師より数時間早く見たという事実に口角が上がる。
この気持ちはお気に入りの玩具を友達に自慢するときのような……ほのかな優越感だった。
『1935番 ラヴィウス・ユトア・シロワネア』
「はい」
涼やかな声で返事をして銀髪の少年が前に出てきた。
彼の長い手足に白い肌、公爵家の者に劣らない美貌、黒い魔力に染まる銀髪と赤みがかった銀の瞳はどちらもとても珍しい色彩で、その全てを備えた人間は貴族の中でしか生まれない。
それだというのに、彼は他の貴族のように豪華に着飾る訳でも無く平民でも稼いでいる商人の家ならば手に入る様な白の上下に黒のフード付きコートを合わせて、黒革の鞄を持っている。
唯一の貴族らしい装飾品は左耳に揺れる銀細工のイヤーカフだろうか? 美しいそれは一目で価値の有る物だとわかる。
『準備は良いですね。それではいきますよ』
彼が目をつぶり緩く編み込んでいた髪をほどく。
解かれた髪は毛先からから漆黒に染まっていき魔力を帯びてふわりと浮いてく。
彼がゆっくりと瞼を開くとさっきまで赤みがかった銀をしていた瞳が吸い込まれそうな漆黒に変わっていた。
『スタートです』
彼が右手を前に振ると莫大な魔力が溢れ出し水が出現する。
生み出された水は凍りつきながら自ら竜を形作り、的に全力で攻撃をあたえはじめる。
水属性の上位魔法、『氷竜の舞』だ。
この魔法は魔力を莫大に消費し、コントロールも難しい分、自在に操れれば相手に多大なダメージを与えられるというハイリスク、ハイリターンな魔法だ。
その氷竜が消える前に彼は右手の拳を握った。
それと同時に光弾が彼の背後に現れ、一直線に的を打ち抜いた。
光属性の中位魔法、『閃光弾』だ。
魔力を込めれば込めるほど大量の光弾を生み出すことが出来、人が反応出来ないようなスピードで飛んでいくという広範囲殲滅に向いている魔法だ。
竜が消えたと同時に彼が右手を下に下ろすような仕草をした。
それと同時に的に巨大な氷槍と細い光槍が無数に突き立てられた。
光属性と水属性の中位魔法、『氷槍』『光槍』だ。
『閃光弾』とは違い、魔力を込めることで威力が上がる魔法だ。一人を狙い撃ちするときなどに適している。
『ストップー、終了です』
彼が元の色に戻った髪を縛った所で、映像は終わった。
「い、今のは…………無詠唱」
「氷竜を無詠唱でなんて……」
「いや、何より凄いのは最後の光槍だよ。いくら同じ魔法だとしてもあれだけの数を無詠唱で同時になんて、魔法師団長じゃなきゃ出来無いと思ってたよ」
教員達は興奮した様子で隣の教員と話し合っている。
会議は一気に騒然とした様子になった。
「皆さん、この子は文句なしに合格ですよね? 」
僕は教員全員が頷いたのを見て、ほくそ笑んだ。
観閲ありがとうございました。