閉話 隣の変人
閉話です。
もう一人の合格者、レアン視点です。
観閲ありがとうございます。
side レアン・ディディアン
合格者
351番 レアン・ディディアン
1935番 ラヴィウス・ユトア・シロワネア
俺は隣で小さくガッツポーズした男を見る。もう一人の合格者って…………こいつかよ。
隣のこの男は俺のことなど知らないだろう。ってか、俺も見かけただけだしな。
俺はジト目になりながら昨日のことを思い出した。
ーーーーーーー前の日ーーー
俺の名前はレアン・ディディアン。
伯爵家の令嬢とその執事の間に出来た子供、うん、我ながら実に不幸そうな肩書きだ。
こう言うと誰でも考えるだろ? 下町の恋愛小説みたいな禁断の恋をさ。
で、大抵そういうのって不幸な結末になる。
でも、現実では全部が全部そうなるって訳じゃない。
例えば俺の両親。
母ちゃんは武家の名門ガードナー家の四女で、兄妹の中でも一番『鬼神』と呼ばれたじいちゃんに性格が似ていて、『雪姫』と呼ばれたばあちゃんに容姿が似ていると言われていた。槍術の腕も凄まじく、学園時代はあの陛下と元魔術師団長様と一緒のSクラスに所属していたらしい。学園時代の二つ名は『紅蓮の白薔薇』だそうだ。
父ちゃんも、学園時代は執事ながらSクラスに所属していたらしい。
今は二人でパン屋をしているが、五年前までは父ちゃんはSランク、母ちゃんはAランクの冒険者だったらしい。
母ちゃんは四女で家を継ぐ必要も、政略結婚をする理由もなかった。
実際、母ちゃんの三人の姉はそれぞれ貴族と恋愛結婚したそうだ。
そんなわけで、俺の両親も恋愛結婚を許されて、じいちゃんとばあちゃんとの仲は良好だ。
つまり、俺はSランク冒険者とAランク冒険者の子供で、鬼神のじいちゃんに仕込まれた、生粋のサラブレッドで、従兄弟達の中でも俺が一番強い。
そんな俺だが、元々この編入試験を受けよう何ぞ全く思っていなかった。家にはお金持ち学園に払うような学費はないと思ってたからだ。
でも、俺はこの学園の中でも一番のクラス、Sクラスなら、学費を払わなくて良いことを知った。
そんなわけで、入学試験は間に合わなかったけど、編入試験には絶対に受かってやる。
と、意気込んで来たのだが…………
なんだ、この人混みは。
俺を圧死させる気かよーーーーー
と、思ったのだが、以外にも俺は圧死しなかった。それどころか俺から半径一メートルくらいの円で人が寄りつかない。
そういえば、と自分の顔面を触ってみる。
今の俺は明らかに平民の格好をしている。そりゃあパン屋なんだから当たり前だろう。
だが、俺は伯爵令嬢の息子。
超絶美人な母ちゃんに似て、かなりの美形だ。流石に王太子殿下とかにはかなわないが、そこら辺の貴族よりも貴族らしい顔をしている自覚が有る。
編入試験に来ている貴族といえば一度、王立学園の入学試験から落ちている。その中には平民に対する態度で落ちたプライドの塊のような奴もいるのだ。
そりゃあ、平民からしてみれば俺が貴族だった場合を考えて、近づきたく無いだろうな。
そんなことを考えていたら、いきなり俺の周りから半径一メートルを超えて人が居なくなった。
驚いて振り返ると、そこには………………変人がいた。
黒い魔力に染まる銀髪、角度によってルビーのようにも見える赤みがかった銀の瞳、すらっと長い肢体に白い肌、女に間違えそうなとんでもなく綺麗な顔、並みの貴族じゃないような容姿をしている。明らかに大貴族の坊ちゃんだった。
そのくせ、ちょっと稼いでいる商家なら手に入る様な白の上下にフード付きの黒いコート、貴族らしいのは耳についた装飾品だけというアンバランスな奴だった。
容姿は明らかに貴族、ならば大貴族の子息の酔狂だろう。
平民の格好をするなんてよほどの変人だ。どうやら、お付きの者も馬車も連れてないみたいだし。
その時のそいつの認識は、只の変人だった。
ーーーーーーー数時間後ーーー
俺は武術の試験だった魔物の退治を終わらせ、筆記試験までの時間潰しに学園内を歩き回っていた。
丁度、通りかかったのが魔法科の試験会場、覗いてみると、さっきの変人が前へ出てくる所だった。
変人の魔法を見てみるのもいいかなぁ、なんてことを思い、手近な席に座る。
次の瞬間、俺は息を飲んだ。
奴の銀の髪と瞳が黒い魔力に染まったのだ。
そこからは息も忘れて魔法に見入った。
奴が手を突き出すだけで魔力が溢れ魔法が形成される。
これ以上美しい物など無いと思わせるような鮮やかな動きだった。
俺の中で、変人は出来る変人に昇格した。
ーーーーーーー数時間後ーーー
筆記試験が終わり、明日の発表を残すだけとなったとき、俺は丁度受付の前に通りかかっていた。
向こうから、さっきの出来る変人がやって来る。
「済みません。
私、結果発表が明日だと思って無くてお金持ってきてないんです。
学園に私の遠縁の幼なじみが居るのですが、連絡取れたりしないでしょうか? 」
出来る変人はこの会場に居る人間なら誰でも知っている事を知らなかった。
「シルフィ、クロステア・シルフィア・グレステラ嬢です」
クロステア・シルフィア・グレステラだって、どんなに無知でもこの国の人間なら誰でも知っている名前だった。
何故なら彼女は王太子殿下の婚約者の令嬢なのだから。
その令嬢と親戚で幼なじみだって? この変人が?
「し、失礼ですが、お名前を伺っても宜しいでしょうか? 」
受付の人の言葉はもっともだ。
クロステア嬢に近づこうとしているだけの部外者の可能性もあるのだから。
「あぁ、私はラヴィウス・ユトア・シロワネアと申します。
えっと、大使の家系のシロワネア家と言えば通じますかね? 」
シロワネア家と言えば、グレステラ家の親戚の中でも一番有名な家だ。
しかも、それを断定するかのように、クロステア嬢の使用人を名乗る女子生徒がやってきて、変人に金を渡している。
彼女の話からするとこの変人が平民のような格好で金も持たずに行動するのは特に珍しい事でも無いらしかった。
俺の中で、出来る変人は凄く変人に進化した。
ーーーーーーー現実ーーー
回想を終えて、改めて隣の男を見る。
ラヴィウス・ユトア・シロワネアという妙に耳障りの良い名前に、何か面白い事が起きる、始まりの予感がした。
…………俺の中で、凄く変人はラヴィウス・ユトア・シロワネアに決定した。
観閲ありがとうございました。




