第二十章 霊媒師 瀬山 彰司ー98
光る珠の薄明りに照らされて、僕じゃない僕の声……その姿が浮かび上がる。
そこには鏡でよく見る顔があった。
あれは……【僕】だ。
今の僕とおんなじ恰好、お下がりのジャージ上下にTシャツ姿でへたり込む。
どういう事なの……?
とりあえず……聞いてみるか、
「…………あのさ、キミは……僕なの?」
____そうだよ、
【僕】はそう答えた。
目の前の【僕】の口は声に合わせて動いているのに音はしない。
声は頭の中に直接入ってくる。
「…………こんな所でなにしてるの? てかココどこ?」
____ココ? ココは僕の中だよ、
恨めしそうな顔をして【僕】は僕をジッと視ていた。
”僕の中”って……よくわからないけど、僕のココロの中ってやつなのかな……?
「光る珠がいっぱいあるね、それはなに? もしかして、瀬山さんと僕と大福の霊力?」
____チガウよ、分からないの? これは真珠だよ。前に先代から教えて貰っただろう?
真珠……? 先代……? ああ……そういう事か……耐えきれない程の辛さやストレスに晒された時、希少の子はその辛さを霊力で包む。
霊力の膜が幾重にも重なって、”辛さ”を保護して丸めて、真珠に似たモノになると言っていた。
それが……あれなんだ。
____こんなモノが出来るくらい辛いのに、なんでみんなを滅そうとするの?
「…………だって……仕方ないじゃないか。僕が滅さなければ【闇の道】がやってくる。キミだって視ただろう? みんなを……あんなのに乗せる訳にはいかないよ」
____そうだけど、分かってるけど、でも嫌だ……! みんなで長を滅したよ、長はもういない、未来に起こるはずの惨事をみんなが食い止めたんだ! なのにさ、どうしてそこは評価されないの!?
「評価……されるべきだと思うよ。でもさ、過去の被害者達はどう思うかな……? みんなのせいで怪我をした人がたくさんいるんだ。その人達から見れば、みんなはやっぱり悪霊だよ」
言いながら改めて思う。
みんなはさ、僕にとって大切な仲間だ。
だけど被害者からすれば違うんだ。
その罪を【闇の道】は決して許さないだろう。
____なんだよ……なんでだよ……そんな正論、誰でも言えるよ……!
なんで味方になってあげないの? 長を滅するの、簡単じゃなかったよ、みんな頑張ったじゃない、キミは一緒に戦ってすぐ傍で視てたのに、今のみんなが悪霊じゃないって誰よりも知ってるのに……!
「……うん、そうだね……誰よりも知ってるよ。でも過去は変えられない、」
____変えられないって……それも知ってる! でもキーマンさんが言ってた、過去は変えられないけど未来は変えられるって! ねぇどうにかならないの?
どうにかしたいよ、どうにかしようよ!
目の前の【僕】は大声を上げると蹲って床を叩き始めた。
バカみたいに泣きながら駄々をこね、どうにかならないのかと喚き散らしている。
僕がさっきしたいと思った事だ。
普段の僕なら絶対にしない事。
僕は【僕】にどう声を掛けたらいいか、それが分からないでいた。
四つん這いで蹲り、床を叩く【僕】の下では、振動なのか光る珠がゆっくりと転がり始める。
白いだけの小さな真珠は、いつの間にか色をつけ、赤や青、緑に紫、黄に橙……まるでみんなの霊力の色みたいだと思ったんだ。
その時だった。
____あぁ……あぁ……!
【僕】がなんとも情けない声を上げた。
そして床に這いつくばると両手をシャカシャカ動かして、転がる真珠を必死になって集めだしたんだ。
____ごめんね、ごめんね、
【僕】は何度も謝りながら、すべての真珠を集めると、その上に覆いかぶさりお腹の下にそれを隠した。
色のついた真珠……たくさんあったな。
あれはみんなだ。
数えてないけど、きっと27個あるはずだ。
「………………」
僕は何にも言えなかった。
だって【僕】は僕だもの。
偉そうに説得しようとしたけどさ、言ってる事は理解出来る。
僕だって同じように思ってる。
____ねぇ、
顔を伏せたまま、【僕】が何かを言いかけた。
「………………なに?」
____頑張ってよ、
「……………………」
____どうにかしてよ、
「……………………」
____キミしか救えない、今しか救えない、……正論なんかクソッタレだ、
「”クソッタレ”って……弥生さんみたいだな、」
____”クソッタレ”って、こういう時に使いたくなるんだって分かったよ、
「うん、」
____とりあえず……ペンダント、
「ペンダント? ……これの事?」
首に下げる小さな塊、マーブル模様の霊力の珠だ。
これがどうしたの?
____みんなをさ、滅したフリしてペンダントに隠せばいい。そうすれば【闇の道】をごまかせる、
「そ、そうかな? ごまかせるとは思えないけど……それに、ずっと閉じ込めてる訳にはいかないよ。それはそれで可哀そうだ」
____もう! キミはおバカなの? 隠してる間に何か手を考えるんだ! そんな事も分からないなんて呆れちゃう!
「え……おバカって……僕はキミだよ?」
____知ってる、僕はキミでキミは僕だ。……お願いだから粘ってよ、足掻いてよ、最初から諦めないでよ。そうじゃないと僕は僕を嫌いになる、
小さな声でそう言うと、【僕】はソロソロと顔を上げた。
お腹の下に27個の真珠を隠して、涙と鼻水でキタナイ顔になりながら。
僕はその場にしゃがみ込み、【僕】に向かって手を伸ばした。
生者とも死者ともチガウ、心の中の【僕】って触れるのかな……?
「……あのさ、ゴメン、……僕は、」
【僕】は僕の顔を視て……笑った……?
あと少し、もう少しで手が____
____届く前、僕の身体にドンッと何かがぶつかった。
それはリアルの方の感触だった。
僕は【僕】に触れる事なく目を開けて、途端視界に入ってきたのは……
『岡村ぁっ!!』
翔君だった。
泣き顔の17才は僕にタックルで抱きついている。
この子も涙と鼻水でグチャグチャなのに、ちっともキタナクなってない。
これが若さというものか。
10代と30代の差を、とくと視せ付けられてしまったよ。




