表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊媒師募集  作者: たまこ
48/1194

第四章 霊媒師OJT44

『いいか貴子、俺を舐めんなよ?』


『ご、ごめんなさい、私、嘘つい、』


怯えた子犬のような顔で言葉を繋げようとする田所さん。

だが自他共に短気を認めるお父さんはそれを許さず強引に割り込んだ。


『おまえが美容師なりたいなんて、それが嘘だって事くらい知ってたわい!!』


『え?』


せっかくの美人が台無しなレベルでのポカン顔、『え?』の一言を発した後、口を開けっ放しにした田所さんに、お父さんはこう続けた。


『だから!母さんは素直だからよ、貴子が美容師になりたいってのを信じてたみてぇだけど俺は嘘だってわかってた。大体よ、貴子は男の俺から見てもおしゃれとか化粧とか無頓着だったし、それにスゲェ不器用だっただろうが。そんな貴子がいきなり美容師になりたいなんて嘘クセェ事この上ねぇだろ。こりゃ東京に行きてぇだけなんだなってすぐにわかったさ』


『知ってた……んだ』


『そりゃあな、これでも俺はおまえの父親だし、母さんと違ってひねくれてるしよ。それに小学校の頃夏休みの工作はみんな俺が作ってたじゃねぇか』


『あ、うん。そうだったね』


『ああ……この馬鹿娘が……「嘘ついて出てきたから」そんなくだらねぇコト気にして親に頼らず無茶するなんてよぉ……でもな、やっぱり俺が悪いんだ。美容師になりたいからなんて嘘つかせちまったのは俺の責任だ。おまえの本当の夢は東京そのものだったんだよな。その夢を俺に言えば怒られると思ったんだろう?そんなふうに思わせちまったのは他の誰でもねぇ、この俺だ。すまん』


『お父さん……』


『貴子、何度だって言ってやる。おまえはなんにも悪くねぇ。辛かっただろう?恐かっただろう?痛かっただろう?助けてやれなくてごめんな、』


『……ううん、違うの、お父さん。確かに……東京での生活は大変な事も多かった。でもね、辛い事ばかりじゃなかったんだよ。就職して……期間は短かったけど仕事は楽しかったし、ユリが生まれた時にはこんなにかわいい子が私の娘だなんて信じられないって思ったわ。母親の私が言うのもなんだけどユリは本当に賢くて思いやりがあって、強くて優しい子、私の自慢の娘。ユリがいたから頑張れたの。ユリがいたから幸せだった。ユリは私の宝物。東京に来なければユリは生まれてこなかった。だからね……私の最後はあんな終わり方になってしまったけど後悔はしていない。ただ、』


田所さんはそう言うと穏やかに、それでいてまた泣き出しそうな顔でこう続けた。


『ただ、私のせいでお父さんとお母ちゃんを悲しませちゃった。親になってわかった。子供が先に死んじゃうのは、残された親はすごく辛いよね……私こそ意地にならずに頼れば良かったの。それなのに……本当にごめんなさい』


お父さんは躊躇っているように見えた。ゴツゴツと節立ったその手を宙に泳がせては引っ込めて、それを何度も繰り返してる。


『なぁ、貴子。結局はおまえを助けられなかった俺がこんな事言っていいのかはわからねぇ。でもな、おまえはユリが生まれた時「こんなにかわいい子が私の娘だなんて信じられない」って言ったよな。それは俺や母さんも同じでよ。おまえが生まれた時、俺みてぇな中卒で山の事しか知らねぇような男によ、貴子というかわいい娘ができてよ、俺ぁ、こんなに幸せでいいのかって、バチが当たるんじゃねぇかって思ったさ』


『ん……』


『小せぇ頃は身体が弱くてなぁ、しょっちゅう熱出してよぉ。そのたび生きた心地がしなかった。このまま死んじまったらどうしようってオタオタしてよ。だけど大きくなるにつれ丈夫になって元気にそこいらじゅう走り回ってなぁ。俺ぁ、おまえの成長が嬉しくて眩しくて誇らしくて……おまえは俺の宝物だ、俺のすべてだった』


『お父さん……ごめ、』


『ああ、違うんだ。おまえを責めてるんじゃねぇ。なぁ貴子、思い出してくれ。あの頃確かに俺達家族は幸せだった。優しくて働き者の母さんと良い子に育ったおまえがいて、俺は安心して山に行けた、これで母さんと貴子にうまいもん食わせてやれる、好きな物を買ってやれる、そう思うと働くのが楽しくて仕方なかった。毎日が本当に幸せだった。その後……辛い事はたくさんあったけどよ、それでも……あの幸せだった頃が消えてなくなる訳じゃねぇ。貴子だって好きで先に死んだんじゃねぇ。助けに行けなかった俺が悪いんであってお前が気に病む事じゃねぇ、』


お父さんはそこまで言うと、意を決したように拳を握り田所さんの顔の前に突き出した。

そしてその拳をおずおずと開き娘の頭に乗せるとワシャワシャとかきまわし言った。


『よく頑張ったなぁ……ユリを……ユリを守ってくれてありがとうなぁ……』


ユリちゃんのお爺ちゃんではなく貴子さんの父親に戻ったその優しい顔に、同じく娘の顔に戻った田所さんが、体当たりの勢いで父の胸にぶつかると声を上げて泣いた。


『お、お父さん、ごめ、ごめんね……!私こそ、ユリを……育ててくれて、守ってくれてありがとう、ありがとう、うぅ……う……うわぁ……!お父さん!お父さん!会いたかったよぉ……!』


お父さんは両手を上げて、自身の胸で泣きじゃくる田所さんを見下ろして固まっている。

が、やがて顔を歪め涙を流し、恐る恐る……壊れ物を扱うようにそっと両手をおろし交差させ、それはもう大事そうに娘を腕に抱きとめた。


『貴子ぉ!俺も……お父さんも会いたかった……!やっと会えた!やっと、やっと……!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ