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霊媒師募集  作者: たまこ
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第四章 霊媒師OJT43

『貴子……』


お父さんは一言、娘の名前を口にして、それきり黙り込んでしまった。

それにつられてしまったのか、田所さんも横を向き目を伏せている。

目元に透明なビーズを散りばめて見えるのは、長いまつ毛に留まる涙のせいなのかもしれない。


父娘を中心に続く長い沈黙。

この時ばかりは社長もおとなしい。

ふと見れば、お父さんの背中が小刻みに揺れている。

__男は背中で語る、なんて定型文のような文句を聞いた事があるけど、今まさに、その大きな背中から、戸惑い、喜び、躊躇、懺悔……あらゆる感情が噴き出しているように見えた。



『お父さん……』


先に声を発したのは田所さんだった。


『なんだ!?』


娘の声にお父さんはバネ仕掛けのように飛び上がった。

そして拳を握り、娘の目線に合わせるかのように中腰になった。


『お父さん……私……』


『おぅ』


『……私……わた……し……私……』


田所さんはなんとか言葉を繋げようと必死になっている、が、嗚咽が邪魔をして続ける事ができない。

お父さんはそんな娘を前に、目を真っ赤にしながら続く言葉を待っていた。


『お父……さん……ごめ……んなさい』


『貴子、いいんだ、おまえは謝るな、違うんだ、俺がみんな悪いんだ。あの時、おまえが東京に行く前の晩、俺がちゃんとおまえの話を聞いていれば、おまえの気持ちをわかろうとしていれば……みんな俺が悪いんだ』


『違うっ!お父、さんが、悪いんじゃないの!わた、私が、お父さんに嘘ついたから、だから、』


『いいや、貴子は悪くねぇ。俺が貴子に嘘をつかせたんだ。情けねぇ親父だよ。娘がいなくなるのが嫌でよ、娘の希望よりテメェが寂しくなるのが辛くてよ、貴子を縛りつけようとしてたんだ』


『それでも、や、やっぱり私が、悪いよ』


『貴子……おまえは優しい子だ。東京に行った後もそうやって自分を責めて、自分だけでなんとかしようって頑張っちまったんだよな。昔から……小せぇ頃からそうだった。意外と頑固でよぉ……そんなとこは俺に似ちまったんだよな』


『私が悪かったんだもの、頑張るのは当たり前だよ、』


『違う、違うんだ。……俺がよ、意地にならずによ、貴子に戻って来いと言えていれば……もっと母さんの話を聞いてやれれば……そうすれば貴子はユリを連れて家に逃げて来る事がで出来たんだ……貴子が殺される事もなかったんだ。みんな俺の責任だ、俺が悪かったんだ……本当に……本当に……馬鹿な父親で申し訳ねぇ!もっと俺がしっかりしてりゃあよぉ……今も貴子は生きていたし、ユリが独りぼっちになる事もなかったんだ!貴子!許してくれ!俺は……俺は……オレは……あぁぁぁぁぁ!』


悲痛な叫び声がなにもない室内に響き、その声の主は床に崩れ落ちた。


俺のせいなんだ……!

ちっぽけな意地張っちまったから……!

なぜあの時、貴子の話をちゃんと聞かなかったんだろう?

なぜあの時、貴子が嘘をつかなければならなかった理由を考えなかったんだろう?

なぜあの時、母さんの話をきちんと聞かなかったんだろう?

なぜあの時、出て行く貴子を追いかけなかったんだろう?

なぜあの時、上京した貴子をすぐに訪ねていかなかったんだろう?

なぜあの時、連絡の途絶えた貴子を探しに行かなかったんだろう?

貴子が苦しんでいた時に、

貴子が泣いていた時に、

貴子が辛かった時に、

俺はなにも出来なかったんだ、

あの男をこの手で八つ裂きにする事もできなかった、

貴子の仇を取ってやる事もできなかった……!


____藤田林業、

そう刺繍された背が大きく揺れていた。

苦しそうな唸り声に嗚咽が混じり、何度も床に頭を打ち付けては変える事の出来ない過去を悔いている。

後悔してもしきれない悔しさと不甲斐なさ。

きっとこの11年、娘を助けられなかった自分を責めて責めて、それでも引き取ったユリちゃんには心配を掛けまいと、その辛さを奥底に閉じ込めて懸命に明るく振舞ってきたのだろう。

ここに来るまでのお父さんとユリちゃんのやり取りを見てきた僕は、今のお父さんとのギャップに胸が締め付けられる思いだった。

僕に子供はいないけど、大事な一人娘を手元に置いておきたいという父親の気持ちは容易に想像する事ができる。

田所さんが家を飛び出したあの夜だって、娘の話を聞かず頭ごなしに叱ってしまったお父さんだけを責める事が果たして正しいのか……娘への愛が深いがゆえのボタンの掛け違いだったのだと僕は思う。

ああ、だけどわかってる。

僕の考えはただのつまらない正論だ。

お父さんやお母さんからしたら、ほんの小さな掛け違いのせいで大事な娘が殺された事に違いはない。

正論なんかなんの意味もなさない。


『お父さん……』


ユリちゃんよりも少し高めの声。

頬に涙の痕を残した田所さんが膝をつきお父さんの肩に両手を置いた。

ビクッと大きく身体を揺らし、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を上げたお父さんは、間近で見た娘の顔に口角を歪め絞り出すように許しを乞うた。


『……貴子ぉ……ごめんなぁ……ごめんなぁ……本当にごめんなぁ……』


田所さんはそんなお父さんを優しく見つめ、そして目を閉じた。


『お父さん……ごめんなさい。辛い想いさせてしまって……親不孝でごめんね。私……田舎にいた頃……なんの不自由もなく暮らしてた。お金に困った事もないし、毎日おいしいご飯が食べられて、習い事だって好きな事させてもらえた……あの頃ね、今思えば恥ずかしいけど、そんな生活が当たり前だと思ってたんだ、あはは、馬鹿でしょう?当たり前なんかじゃなかったのに、あれは働き者のお父さんと家の事みんなしてくれてたお母さんがいて、私は2人の努力と愛情に守られていたって事、ぜんぜんわかってなかった』


『貴子……なに言ってんだ?俺が金を稼ぐのも母さんが家事をするもの、おまえを守る事もみんな当たり前のことだろうが、』


田所さんはそっと目を開けると、苦く微笑みゆっくりと否定した。


『当たり前じゃないよ……私は恵まれていたの。それなのに、田舎で一生を終えるのは嫌だなんて、ただそれだけの理由でお父さんとお母ちゃんに嘘をついて、上京しても自分1人でなんだって出来る気になって、思い上がって、』


『思い上がりなんかじゃねぇよ、貴子には夢があったんだろう?それをわかってやれなかった俺が悪いんだ、だから、』


『違う!違うの!!』


『貴子……?』


『ごめんなさい……違うの、嘘なの。私……お母ちゃんには美容師になりたいから東京に行きたいって言ったけど嘘なの。ただ、ただ田舎が嫌で、東京に憧れて、東京に行けば楽しい事が待ってるって、東京にさえ行けばあとはなんとかなるって……そんな浅はかな気持ちだけだったの。だから……バチが当たったの、だから頼れなかったの、自分が悪いんだから自分でなんとかしなくちゃって、それで……』


『な……馬鹿が……』


『ご……ごめんなさい……私……あの頃どうしても東京行きたくて……自分の事しか考えていなかった……ああ……くだらない嘘ついて、ごめんなさい……』


『馬鹿野郎が……』


『……本当に……ごめんなさい……』


『俺ぁ、こんな馬鹿に育てちまったのか……』


『ごめ……本当に……せっかく逢えたのに……失望させちゃった……』


歯を食い縛ってボロボロと涙を流す田所さんと、苦虫を潰したようなお父さん。

僕はたまらず声を上げかけた、が、不意に肩を掴まれ止められた。

振り向けば鋭い眼光で僕を見る社長と、その後ろで先代も小さく首を横に振っていた。

でも……!と言いかけたその時、蹲り泣いていたはずの70才は、またもやバネ仕掛けよろしく跳ね起きると眉を吊り上げ怒声を上げた。


『この馬鹿娘がぁ!!』


その音量は部屋中の窓ガラスがビリビリと震える程で、悪鬼再来に不覚にも社長の腕にしがみついてしまった……や、今の無かった事にしてください。



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