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霊媒師募集  作者: たまこ
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第三章 霊媒師研修2

「やっぱり私と岡村君は運命の赤い糸で結ばれていたんだねぇ!」


そう言って自身の小指に絡まる赤い電流を、得意気に僕に向けるのは子供のような笑顔ではしゃく先代だ。

赤く光る電流、先代曰く“運命の赤い糸”は真っ直ぐ僕の人差し指へと続き、時折パチパチと小さくスパークしながらもしっかりと両間を繋いでいる。

す、すごいぞ!

本当に繋がった!

僕の投げた電気がちゃんと先代に届いてる!

幽霊である先代と直結されてる!

やったーっ!

これで“幽霊”と“生きた人間”の見分けがつくようになったんだっ!



『株式会社おくりび』入社5日目。

研修初日から毎日放電の訓練を受けていた僕は、とうとう自分の意志である程度の放電ができるようになった。


訓練開始から最初の3日間は、何度やっても静電気程度の放電しかできなかったのだが、見かねた社長が“放電能力を高める言霊”として、

『この浮気者―!お仕置きだっちゃーっ!』

これを裏声で唱えてから放電すれば力が増幅されるのだと教えてくれた。

だけどどうも怪しい……社長、言いながら途中笑ってたし。

大体“浮気者”ってなんの話?“だっちゃ”って仙台弁?そもそもなぜ裏声で?

これ、絶対言霊じゃない気がする。

躊躇する僕に対して「俺を信じろ!」というココ1番の社長の真面目顔にほだされて、思い切って唱えてみのはいいけれど出るのはやっぱり静電気だけ。

社長はといえばヒーヒーと大笑いしながら、しっかりスマホを僕に向けていて……あれ、絶対僕の言霊動画とってたんだと思う、、お願いですから消去してください。

僕はとにかく、もうその言霊を唱えなるのが嫌で、嫌で仕方なくて、でもそれがかえって原動力になったのか、言霊無しでも放電出来るように、そりゃあ必死に頑張ってきたのだ。

その甲斐あってか、4日目から5日目の今日にかけ桁違いに放電量が増え、幽霊である先代に協力してもらい放電させてもらったところ、無事、電気の架け橋が繋がったのだ。


正直ほっとした。


霊媒師として入社したのに、“幽霊”と“生きた人間”の区別がつかないままでは仕事にならない。

それに……教え方に多少の難はあるものの、僕の為にこんなにも親身になって教えてくれる社長に応えたいと思うんだ。

前の会社でも研修はあったけど、ここまで熱くなかったから。



「エイミー、この短期間でよくやったな。第一段階は合格だ!」


「ありがとうございます。社長のおかげです!」


「エイミーの立ってる場所から先代まで……大体1mくらいかな?今の段階ではこれが最大飛距離だろう。これから少しずつこの飛距離を伸ばしていこう。2m、3m、と伸ばしていって最終的には100mくらいまでいければ、“幽霊”と“生きた人間”との切り分けだけじゃなく、応用でほかの術に生かす事ができる」


「ほかの術にも?」


「そう、例えば結界だ。一般的な結界は幽霊を弾いて立ち入りさせないようにするのもだけど、これにエイミーの電気を編み込めば、幽霊が感知圏内に入り込んだ時に赤く光るようにもできる。セ○ムっぽい感じでさ」


「なるほど」


「ほかにも応用できる事はたくさんあるぞ!マスターすればエイミーのスキルアップに繋がるし、給料だって上がるかもしれない。だから気合で頑張っていこうな!」


「はいっ!」


お給料があがるかも__

僕はちょっと嬉しくなった。

前の会社では『お客様相談センター』に配置換えされて、主任なんて任されたはいいけれど、役職付きは残業代が出ないとか責任ばかりが大きくてその見返りは少なかった。

なのに頑張ればお給料が上がる可能性があるなんて言われたら、やっぱり素直に嬉しくなってしまう。


「だからな、エイミー。こないだ俺が教えた“放電能力を高める言霊”、アレをまた、プッ!使え!いいな!ププーッ!」


社長……すでに笑ってるじゃないですか。

もう騙されませんよ。


「言霊?岡村君、言霊教えてもらったの?どんな言葉を選んだんだい?」


と、先代は興味津々。


「はぁ、教えてもらったというよりも、騙されたというべきか……言霊は、えっと、なんだったかなぁ」


僕は、あのふざけた言霊をここで口にするのが恥ずかしくて口籠る。


「騙された?ああ、また清水君にからかわれちゃったのかな?」


「まぁ、そんなところです。でも、結果的には社長のおかげで放電できるようになりました。そこは感謝です」


これは事実だ。

チラリと横を向けば社長が得意気に頷いている。

先代は僕と社長を交互に見てからこう言った。


「清水君はねぇ、“仕事はできるが行動に難あり”だからねぇ。でも人は悪くないんだよ?岡村君も戸惑う事があるかもしれないけど、仲良くしてあげてね」


あ!やっぱり“難あり”な人なんだ。

この一週間で僕もそう思ってましたけど、社内評価も同様なんだな。

なんか、納得。

に、しても、眉を八の字にして笑う先代は、もはや社長のお父さんみたいだ。

そんな親心にまったく気付いていない社長といえば、


「先代、心配ないですよ!俺とエイミーはすっげー仲良くやってますから!こないだなんて一緒に駅前のカフェに行って、って、あー!先代にカフェなんて言ってもわからないか!なんて言うのかなぁ、まあ、うまいメシ屋?ちょっと量が足りないけど2人前頼めば何とかなるし。なんなら今日の昼にでも一緒に行きますか!」


こないだまで男がカフェに行くのが恥ずかしいと言っていたのはどこの誰ですか?

予想通りカフェに行った事がないという先代は、若い子が行くお店なの?と、行く気満々のようで刺身定食を頼むんだとニコニコしている__あれ?なにこの既視感、先日はカフェに牛丼が無い事を説明したような……とにかく先代、カフェに刺身定食は無いと思います。


「あのー、大変申し上げにくいのですが刺身定食は無いと思います。でも他にたくさんおいしいものがありますから。あ、でも、良く考えたら先代は幽霊だから行ってもごはんは食べられないんじゃないですか?__あっ……!」


僕は言い終えて後悔した。

カフェに誘われて喜んでいる社長に“幽霊だから食べられない?”は、ひどい。

軽い気持ちで言ってしまったが、今のはあまりに無神経だ。

先代だって、そんな事は百も承知だろう。

食べられないけど気分だけでも味わいたい、きっとそう言う事なんだ。

なのに自分が恥ずかしい……先代に謝りたい。

ああ、でもここで謝ったらかえって“先代は幽霊だから”と強調していると思われないだろうか?余計に悲しませる事にならないだろうか?

ああ、なんで僕はこう考えが浅いのだろう……?

こんな時、社長ならどうするんだろう……?


ぐずぐずと悩む僕の思考を遮断したのは社長の声だった。


「なに言ってんの、エイミー!確かに先代は死んじゃってるから食べられないけど、メシの味はわかるし腹いっぱいにもなるよ?あー!もしかしてそんな事も知らないのかよっ!ははっ!エイミーばっかだなぁ!」


右手で僕を指差して、左手を自身の腹にあてながら、ゲラゲラと僕をばかにする社長に、先代の雷が落ちた。


「ばかもん!なぁにが“そんな事も知らないの”なの!それを教えるのが清水君の役目でしょうがぁ!まったく34歳にもなって中身は4歳児だよ!ごめんね岡村君!“幽霊と食事”については改めて研修してあげるからね。習ってなければ知らなくて当たり前なんだから気にしなくていいよ。ほら、清水君はちゃんと岡村君にあやまりなさい!」


顔を真っ赤にさせて社長を叱り飛ばす先代。

怒られて逃げ回っている社長。

僕はほんの少し呆気にとられ、そして笑ってしまった。


「岡村君!なに笑ってるの!相手が社長だからって我慢しないで怒っていいんだよ!パワハラで訴えてやんなさい!」


「なに言ってんだジジィ!エイミーはちゃんとギャグだってわかってるっつーの!」


「この!またジジィって言ったな!新人さんが来たらちゃんと“先代”って呼ぶようにあれ程言ったのに!」


「うるせー!ジジィに“先代”なんてキモチワルイんだよ!あーもーやめやめ!ジジィはジジィだ!」


社長……先代の事ジジィなんて呼んでたんですか?

この人、めっちゃ失礼だわ……。

だけど、だけど、僕はこの人に何度も救ってもらっているのかもしれないな。

今なら、うまく言えるかもしれない。


「あの、社長も先代も、ありがとうございます」


僕の一言でフリーズする2人。


「「なにが?」」


うわあ、この2人息がピッタリだ。


「いや、その、色々と、です。それと先代、さっきは僕、無神経な事を言いました。ごめんなさい」


さっきまで何をどう言ったらいいのか分からなかった僕なのに、するりと謝る事ができた。


「ん?岡村君なんの事?無神経なのは間違いなく清水君だよ!この子は新入社員で入ってきた時からずーーーっとこの調子でねぇ、まったく、本当に、若い子はこれだから……」


「へへっ!若い子だってよ?」


「社長、今の発言は恥ずかしいです。僕も含めて30才オーバーは決して若くはありません。むしろオッサンです」


「なに!俺はまだまだ若いぞ!あ、でも確かに20代の頃よりパワーは落ちたようなきがするなぁ……」


え?ウソでしょ?

素手でフライパン潰す人が、あれでパワーダウンしたっていうの?

ヤバイ……この人、本当に野獣なのかもしれない。


「あー、ジジィが追いかけまわしたから腹減ってきたわ。ちょっと早いけど、3人でカフェに行くか!そこで“幽霊と食事”の話してやるよ。口だけで説明すんの難しいから、その方がいいだろ」


ピピピピピピピピ__


やわらかな電子音が鳴った。


一瞬僕のスマホが鳴ったのかと焦ったけど、着信は社長のスマホだった。


「もしもし?あ?あー、あー、あー、マジで。あ、そう。うん、うん、うん、OKわかった!心配すんな!その現場、かわりに俺が行くよ!あ?あーあーあー!ダイジョウブだ!俺1人じゃないから。前にライ○しただろ?そう、そう、そう!期待の大型新人エイミーと一緒に行くから!問題ない!じゃあな!」


現場?

かわりに俺が行く?

期待の……大型新人エイミーと一緒に?

って、僕の事だよね?

え?え?え?


通話を終えた社長がくるりとこちらに振り返る。


「エイミー、カフェはまた今度だ。今なウチの霊媒師から連絡がきてお祓いの現場にどう頑張っても辿り着かないらしくてな。うん、そうだ。間違いなく霊に妨害されてる。だからな、かわりに俺らで現場行くぞ!場所は東京都H市のアパートだ。俺の車で行けば1時間もしないうちに着くだろう」


「えぇ!!僕も現場に行くんですか!?大丈夫でしょうか?僕、社長の足引っ張らないでしょうか?」


「ダイジョウブ!心配すんな!初現場でエイミーが舞い上がって失敗しようが、足引っ張ろうが、それを含めて俺がぜんぶなんとかしてやる。それに、どうせジジィも一緒に行くんだろうし」


「わかりました。僕、社長の足を引っ張らないように、が、が、頑張ります!」


「ははっ!エイミー声が震えてんぞ?でも良く言った!それでこそ霊媒師見習いだ!じゃあ、行こうか!」


通常の4倍、社長の背中が大きく見えた。

お祓いの現場入りなんて確かに恐い。

社長の言う通り声も膝も震えてる。

だけど、この人と一緒ならなんとかなるかもしれないかなあなんて思ってしまうのは、僕が更に社長に毒されたという事だろう。


とにかく今から始まる霊媒師OJT、たくさんの事を学ばなくては。


あーーーでも、やっぱり怖いーー!

頑張れ!僕!


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