霊媒師エピローグ・小野坂水渦視点ー3
その言葉が嬉しくて、嬉しいけれど、今の見た目は化粧で作り出したもの。
素顔の私は昔とちっとも変っていない。
貴方は素顔を知っているのに、優しいから忘れたふりをしているの。
嘘をつかせてごめんなさい……と、言えば貴方に気を遣わせる。
だから、だから……
「………………だからウソはキライです、」
真意を濁して否定の言葉を口にした。
ああ、だけど、……言った傍から後悔が押し寄せた。
このタイミングでこんな言い方、もっと他にもあっただろうに。
私はいまだ、言葉選びに失敗をする。
足りない自分が恥ずかしい。
自分自身が情けなくなり口を噛んで俯いていると、
「ウソじゃない、ウソじゃないけど……でも、もしもアナタの言う通りだとしても、それはなんにも関係ない。見た目じゃなくて、優しいアナタが好きなんだ。アナタは僕がキライ?」
ゆっくりと、ほんの少し悲しい声でこう言ったのだ。
待って……貴方は何を言い出すの?
嫌いだなんて、貴方が私を嫌いになっても逆は絶対あり得ないのに。
「いいえ、いいえ……!」
先程言った ”キライ” は ”嫌い” の意味ではないと、必死になって訴えた。
岡村さんは息を吐いて微笑んで、そして。
「そうか……良かった。僕はアナタと一緒にいたい。だから結婚したいんだ。でも、……ん、よくよく思えば、自分で言ってアレだけど、アナタの方こそ僕なんかで良いのかな。僕は ”希少の子” で……この先、それによって色んな事があるかもしれない。もしかしたら、アナタに迷惑をかけるかもしれないもの、」
誠実な言葉と共に、心の奥の思いを聞かせてくれたのだ。
”希少の子だから迷惑をかけるかも”……だなんて、聞いていて心が締め付けられた。
確かに貴方は ”希少の子”、その名の通り希少な存在。
特別に霊力が強く、”現世” ”黄泉” の区別も無しに、未来に何か悪い事が起こった時には否応なしに最前線に立たされる。
貴方はそれが心配なのだ。
共に生きれば大小の違いはあれど、私を巻き込み差し響きがあるんじゃないかと気にしている…………が、何を今更。
元より私は貴方にだったら迷惑どころか何をされても構わない。
貴方の為なら私の命も魂も、今すぐ此処に差し出す事が出来るのに。
これまでずっと、そのつもりで生きてきた。
これからだって、気持ちは決して変わらない。
ちゃんと、伝えなくては。
私の言葉で、私の気持ちと私の覚悟を。
貴方に掴まれ手首は熱を持ったまま。
私は背筋を真っすぐ伸ばして涙を拭いた。
そして、私も貴方と同じように心の内を口にする。
「それこそ関係ありません。貴方に掛けられる迷惑ならば、その全てを喜んで引き受けましょう。申し上げたはずです。貴方は私が守りますと。この先ずっと、生きている間もその後も。永遠にです」
誓って言える。
今の言葉に噓偽りは微塵も無い。
例えば貴方が私を嫌いになったとしても、それでも気持ちは変わらないもの。
気持ちを言葉で伝えると、岡村さんは何とも言えない顔をした。
その表情は、いつかの海のカフェで見た……あの時と同じに見える。
私を見つめる瞳が深くて吸い込まれてしまいそう。
貴方は小さく息を吸うと、
「……ありがとう。これから先、色んな事があると思う。だけどきっと、そう言ってくれるアナタとだったら乗り越えられると思うんだ。アナタは僕を守ってくれると言ったけど、僕だってアナタを守る。だからこれから一生一緒にいてください。僕はね、アナタが思っているそれ以上に、アナタの事が好きなんだ、」
優しい目をして優しい声で、でも力強くこう言ってくれたのだ。
もう、……もう、せっかく涙を拭いたのに……ダメだ、まただ、涙が溢れてどうにもならない。
嬉しくて、幸せ過ぎて、嗚咽に邪魔され声が出なくて、返事の代わりに何度も何度も頷いた。
____その時だった、
視界の端に映る物が気になって、顔を上げると空から何かが降っていた。
なんだろうと涙を拭って見てみると……赤……橙……黄緑……青藍……紫、色とりどりの、それは綺麗な花びらだった。
虹の色した花びらは、月の明かりに照らされ光って舞っている。
弧を描き、飛ぶ花びらから仄かに甘い香りが漂う。
なんて美しい……なんて幻想的だろう。
これは一体何処から降るのか、目線を前に飛ばしてみると……あ……猫又。
私達より少し先、そこにいたのは大福だった。
大福は地面の上にしっかりと立ち、白くて長い四尾をゆっくり振っていた。
右に左に四尾が揺れるそのたびに、花びらが飛沫のように舞い上がっている。
ああ……大福、おまえだったの。
こんなに綺麗な花びらを……ありがとう、ありがとうね。
感謝を込めて、猫と、花びらと、その両方を視つめる私の隣では、岡村さんが手を振りながら大きな声でこう言った。
「大福! ありがとね、すごくすごく綺麗だよ! ねぇ、大福も聞いただろう? 僕は水渦さんと結婚する。家族になるんだ。僕と、水渦みうずさんと、そしてもちろん大福とも」
後ろ姿の大福は、顔だけクルリと振り返る。
そしてコクコク頷きながら、
『うなっ!』
と一言短く鳴いた。
力強くて可愛らしい鳴き声は、
月夜の空の高くまで響き渡ったのだ____
霊媒師エピローグ・小野坂水渦視点__了
霊媒師本編、エピローグも含め完結しました。
読んでくださるだけでも嬉しいのに、”いいね” や評価をくださった方々にも心より感謝申し上げます。
長い期間の連載でしたが、最後まで読んでくださって本当にありがとうございました!




