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霊媒師募集  作者: たまこ
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第二十八章 霊媒師 三年後ー56


~~~それから僕は、僕達は~~~


「もしもし? あ、社長、お疲れ様です、岡村です。F県の現場、少し前に無事終わったよ。うん、依頼者への説明もお会計もぜんぶ完了。ん? 大変じゃなかったかって? ぜんぜん、ヨユー! だから明日は代休だけど、もしも急ぎの依頼があったら僕が行くから連絡を……えぇ? ちゃんと休めって? んー、でも僕、忙しい方が性に合ってるみたいなの。だから急ぎの、……わっ! そんな怒んないでよー、分かった、分かりました、ちゃんと休みますって。うん、明後日は事務所に出社する。うん、うん、じゃあ」


担当現場の完了報告。

通話を終えて、スマホをポッケにしまった僕は、隣のお姫に笑いながら愚痴を吐く。


「大福ぅ、社長に怒られちゃったよ、ちゃんと休めだって。よく言うよねぇ。あれから(・・・・・)社長は、ハードな現場に次々僕を行かせたクセして、今度は休めときたもんだ」


当然お姫は、僕の味方をしてくれるものと思っていたのに、


『うなななななっ! うななな!』←訳:あたりまえにゃ! 休むにゃ!


社長に同意で、肉球パンチを食らってしまった(ご褒美……!)。


「うぅ……お姫にまで怒られちゃったら仕方がない。明日はゆっくり休むとするよ。でもその前に、なにか美味しいものを食べて帰ろう。ささ、れっつごー!」


『うななー!』←訳:ゴハンー!


……

…………


ひみちゃんが消えてしまったあの日から、早いもので数か月が経ち、季節は秋になっていた。

あの時、ひみちゃんの最後の言葉に従って、3日間だけ悲しもう、彼の事だけ考えて、彼の為だけ時間を使おう、……そう思って、無理してもらった休みの間は僕と大福、それと、心の中のひみちゃんと、みんなで一緒に水族館に行ってみたり、はたまた実家に帰ってみたりと、そんな風に過ごしてた。


休みが明けた次の日は、僕なりに区切りをつけて会社に出社。

心配かけた社長やユリちゃん、先代や瀬山さん、もちろん他のみんなにも、心の底から ”ごめんなさい” と ”ありがとう” を言わせてもらい、今まで現場に出られなかった分も含めて、ガンガンアサインしてください! と言ったんだ。

そんな僕に社長以外の全員が、”復帰早々、そんなに無理をしなくても……” と、気を遣ってくれたんだけど、唯一社長は真逆でさ、


____本人がイイって言ってんだからイイだろ!

____ハードな現場は全部おまえにアサインしてやる!

____張り切って行ってこい!


すこぶる笑顔で、ガチでハードな現場ばっかり割り振ったんだ。

もうね、泣けてきた。

だってすぐに分かったもん、社長らしい励まし方だよ。

悲しい時は時間が出来るとその事ばっかり考えちゃう。

だからあえてのハードな現場、だからあえての連続アサイン。

落ち込む時間を与えない作戦だ。

強引だけど、無茶振りだけど、気持ちがすごくありがたかった。


そんな調子で毎日毎日忙しくって、ひみちゃんを思い出せば辛いけど、最初の頃より幾分マシになったんだ。

仕事が僕を救ってくれる、まわりのみんなが救ってくれる、…………そして、水渦みうずさんも。


あの春の日の、ひみちゃんの為の3日間。

最終日の朝、水渦みうずさんが僕の前に現れた。

彼女は僕に、


____岡村さん、大変申し訳御座いません、

____私は貴方を愛しています、

____4年前に出会った頃からずっと、


こう言った、…………が、それだけだ。

あれから彼女は僕になにも言ってこない。

僕もなにも言えずにいた、……いや、聞こうと思った事はあるんだ。

でも、その事には触れてくれるなという圧がすごくて、そのままになっている。

だけど代わり、彼女はなにかあるたびに、僕の事を気にかけてくれるんだ。




F県で美味しいゴハンをたらふく食べて、スヤスヤ眠った新幹線。

東京駅で電車を乗り換え、座れたのを良いコトに再びコクコク居眠りしてさ。

なんのかんのとアパートまで戻って来たのは、意外と早い23時頃だった。

すごいや、F県って遠いようでそうでもない。

今日中に(・・・・)帰って来れると思わなかったよ。

新幹線って偉大だな。

で、帰って早々、僕はすぐにシャワーを浴びた。

今日も1日よく働いた。

熱めのお湯は汗も疲れも流してくれる。

気持ちがゆっくりほどけてく、……ほどけきりはしないけど。



シャワーを終えて、髪を拭きつつ部屋に戻ると、ベッドの上ではお姫がスースー眠ってた。

キミの野生はドコ行った!?……な、お腹丸出しヘソ天スタイル。

その寝姿は癒ししかなく、これが四尾の妖力高き猫又だとは思えにゃい。

ああ、可愛いなぁ。

この仔がいると救われる、視ているだけで幸せだ。

うぅ、このお腹、このおてて、ピンクのオハナがチョーキュート!

めっちゃナデナデしたいど……だがしかし、ココはガマンだ。

猫の下僕は己の欲より猫の安眠、決してジャマはするべからずだ。


僕はお姫を起こさないよう、静かに静かにお湯を沸かしてお茶を淹れ、床に座ってそれを飲む。

今夜のお茶はリンデンだ。

気持ちが落ち着き、安眠効果もあるからね。

これから寝るのにうってつけの一杯なのよ……って、忘れるトコだった。

そろそろ0時、スマホをバイブにしておかなくちゃ。

メールの音で猫が起きちゃう、そしたら下僕失格だ。


時刻は0時、3分前……そろそろ来る頃かな。

片手にカップを持ったまま、テーブルに置いたスマホの時計表示をジッと見る……2分前、1分前、30秒前、20秒前、10秒前、……3、2,1、


ブブッ、


来た。


震えたスマホ、画面上にはメール受信のマークがあった。

指先でタップをすれば、届いたメールが展開された。


~~~~~~~~~~~~~


FROM:水渦みうずさん

TO:daihukudaisuki@xxx.ne.jp

件名:


F県の現場お疲れ様でした。

今夜は満月です。


《添付ファイル(1件)》

~~~~~~~~~~~~~



………………ぷっ!!

や、もう、いつもながら素っ気ないメールだな。

件名は入ってないし、文章硬いし2行だし。


笑いを堪えてメールを読んで、添付ファイルを開けてみた。

するとそこには、青みがかったプラチナ色の満月が、……ああ、キレイだな……帰ってくる時気づかなかったよ。

僕はスマホを握ったまんま、そっと立って窓を見ると……あ……あった。

写真と同じ、プラチナ色の満月だ。

そのまま僕は、月をしばらく眺めてた。

この時間、あたりは静かで、聞こえてくるのは姫の可愛い寝息だけ。


…………メール、毎晩来るんだよな。

時間は決まって深夜の0時。

春のあの日の数日後から、毎日欠かさずくれるんだ。

件名無しで、文章は1行ないし多くて3行。

必ず写真が添付されてる。

最初の頃は返信してた、でも……


____返信は不要です、

____そんな時間があるのなら、

____とっとと早寝をしてください、


と言われてしまって、今では時たま返すだけ。


メールが来だして数日は、そのうちに止まるだろうと思ってた。

なのにぜんぜん止まらなくって数か月。

何の気なしに読んでたメールが、今では深夜の楽しみに変わってる。

笑っちゃうほど素っ気なく、まるでそれは業務連絡みたいなのに。

硬い文章、絵文字なんかもちろんなくて、感嘆符すらないのよね。

添付の写真も ”映え” なんか気にしない。

水渦みうずさんが見たモノを、そして僕に見せたいモノを淡々と送るだけ。


それなのに、……そう。

いつの間に、僕は彼女のメールが来るのを心待ちにしてるんだ。


月の写真を保存して、電気を消してベッドに上がる。

お姫はスースー、掛布団のド真ん中でお眠りあそばしてるからさ、僕はそれをジャマしないよう、はじにゴロンと寝転んだ。

うぅ、狭いな、でもダイジョウブ。

こんなのはしょっちゅうだもん、慣れっこだ。

そのうち姫も起きるだろうし、そしたらその時布団に潜ろう。

それまでは、薄い毛布をこうして掛ければ……ほらね解決、問題ナシ(姫に布団を取られるから、常に毛布を畳んで置いてあるのよね)。



猫の寝息を聞きながら。

薄暗い部屋の中、僕はぼんやり天井を眺めてた。

可もなく不可もない白い天井、……いや、今は暗くて薄灰色か。

実家から独立し、このアパートに移り住んで約10年。

初めての一人暮らしにウキウキしていた20代、それが今では34だ。

なんだか年々、時の流れが早くなってる気がするよ。

特に、霊媒師になってからは一層それを強く感じる。

特殊な仕事のせいなのか、それとも、”おくりび” の面々が面白すぎるせいなのかは分からないけど。


でもさ、この仕事に就いて良かったと思ってる。

そりゃあ色々大変だけど、霊媒師にならなかったらみんなと出会ってないんだもの。

”おくりび” の人達だけじゃない。

偉大な師匠の瀬山さん、マジョリカさんに大和さんと朋さんご夫婦、中村さんやかける君達、ユリちゃんのご家族だってそうだ。

生者と死者の垣根を越えて、たくさんの人達に出会えた。

それってすごい事だよね、本当に僕は幸せ者だ。

出来る事ならこの幸せを、ひみちゃんとも分かち合えれば良かったな……なんて事が、ふと浮かび、叶わぬ願いにかすかに胸がチクリと痛む。

痛むと同時に首元に手をやると硬い感触、……僕はそれを大事に大事に手に包む。


首元の硬い感触、それはペンダントだ。

とは言っても、普通の物とは訳が違う。

一般人には目に見えなくて、霊力者には視える塊。

花豆くらいの大きさで、僕の霊力ちからで造ったチェーンに通してあるの。

これはひみちゃんの形見、彼の霊力ちからと僕の霊力ちからを混ぜ合わせてさ、猫又の妖力で楕円に固めたものなんだ。

その昔、瀬山さんの霊力ちからを集めて造ったペンダント(あれ)とおんなじ。

あのペンダントは僕が呑んでしまったけれど、今はこうして、姿を変えたひみちゃんがココにいる、そう考えれば気持ちが少し救われる。


今はいないひみちゃんの霊力ちから、それは例のタオルに付着していた。

泣き虫な彼の為、僕の霊力ちからで造ったタオルだ。

春のあの日、マフラー代わりに巻いてたけれど、残る霊力ちからを集めようとは思わなかった、その発想は抜け落ちていた。

それに気づいて霊力ちからが消滅しないうち、急ぎ集めて塊にしたらどうだと、僕に助言をくれたのは……他の誰でもない、水渦みうずさんだったのだ。


思えばあれが始まりだった。


~~~~~~~~~~~~~


FROM:水渦みうずさん

TO:daihukudaisuki@xxx.ne.jp

件名:


岡村さんが首に巻いてたタオルには,

ペルソナの霊力ちからが残っているはずです。

それが消滅する前に霊珠れいじゅにしたらいかがでしょうか。


《添付ファイル(1件)》

~~~~~~~~~~~~~


あのメールがあったからこそ、ペンダントを造る事が出来た。

本当にもう感謝しかない。

ただ、添付の写真は謎だった。

開いてみたらフリカケまぶしたオニギリで、見た時は訳が分からず首を傾げて考え込んだ。

で、たぶんだけど、霊力ちからを混ぜて固めるから、そのイメージが彼女の中ではオニギリだったのかもしれない。

ま、聞いても答えてくれないから、予想でしかないけどね。



僕はあの後、助言のお礼にささやかながらプレゼントをあげたんだ。

中身はお茶のセットでさ、色んな種類のハーブティーとマグカップの組み合わせ。

それを渡すと彼女は固まり、“気を遣わせてすみません” と俯いた。

その反応に僕はなんだか焦ってしまい、余計なコトをしちゃったか? 返って迷惑だったかな? と気を揉んだけど、後日の深夜のメールには、お茶をそそいだカップの写真の添付があって……あれ? これってもしや喜んでくれたのか? そうなのか? なんて、ホッとしたのを覚えてる。



……はは、ははは、

まったくもって、水渦みうずさんは取り扱いが難しいや。

他の人ならプレゼントだって、”おっ! コレくれるのか? サンキュー!” で終わるのに(参考モデルは弥生さん)。

彼女は僕に優しくするのに、返されると戸惑うの。

まぁ、そうは言っても最初の頃よか難しくはないけれど、でも、でもさ、……本当に変わったよ。

自分の意見はハッキリ言うけど、そこにトゲはなくなった。

隠れていた優しさが、やっと表に出るようになったんだ。

彼女が変わればまわりも変わる。

昔あれだけ水渦みうずさんを怖がっていたらんさんも、今では普通に話してる。

それがなんだかすっごく嬉しい、……嬉しいの、


……ああ、

眠くなってきたな……

……目を開けてられない、

今にも眠りに落ちそうだ……

……ここ最近、

眠る前は彼女のコトを考えちゃう、

そうしようと……

思ってるわけじゃないのに…………すぅ……











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