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霊媒師募集  作者: たまこ
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第二十八章 霊媒師 三年後ー57


休み明けの出社日は、強い雨が降っていた。

朝だというのに辺りは暗く、空を見れば分厚い雲が光を一切通さない。

足元が悪い中、僕は背中にリュックと姫を背負ってさ、傘をさしつつどうにかこうにか会社に到着したんだよ。


「おはよーございまーす!」

『うなー!』


ドアを開けて事務所に入ると、


「おぅ! エイミー、大福、モーニン!」←ガチな筋トレ中の社長

「おはようございます。雨は大丈夫でしたか?」←癒しのユリちゃん


いつもの2人の出迎えに、ホッと息を吐いたんだ。


「いやー、雨スゴイね。傘さしてても、跳ね返りでズボンの裾がビシャビシャだよ」


電車もやけに混んでたし、通勤だけで大変だった。

こんな日は、事務所の中でお茶飲んで、お喋りしながらのんびりまったり過ごしたい……と思っていたけど、今日に限ってそうは問屋が卸さなかった。


「エイミー、着いて早々(わり)いんだけどよ、これから埼玉に行ってほしいんだ」


ゴッ!!


両手に持ってたダンベルを、デスクに置いた社長が言った(1つ10キロ、2つで20キロ)。


「埼玉? うん、良いよ。依頼内容はどんな感じ?」


まずは即答。

ゆっくりまったりしたかったけど、依頼があるなら仕方がない。

その代わり、とっとと行って、とっとと終わらせ、美味しいものでも食べに行こう。


「ああ、場所は埼玉T市の外れ。内容は……なんだ、そこそこ悪い霊がいてな、ソイツを祓ってきてほしい。つーかよ、もうすでにミューズが入ってんだわ。それのヘルプに入ってくれ」


ん?

そこそこ悪い霊?

水渦みうずさんのヘルプ?


「社長、行くのはぜんぜん構わないけど……その現場、ヘルプ必要?」


聞いてみた。

だって、入ってるの水渦みうずさんでしょう?

あの人、霊相手ならほぼほぼ無敵なスキルの持ち主。

1人で十分対応可能な現場じゃないの?


その質問の社長の返しは、


「……うっ、」


言葉に詰まって頭に汗を浮かべてさ、いまひとつ要領を得ないんだ。

と、そこに横からユリちゃんが滑り込み、いつもよりも早口でこう言った。


「ほ、ほら! 水渦みうずさんはスキルはとっても高いけど、内気というか……えと、どちらかというと、お話は得意な方じゃないでしょう? 岡村さんには悪霊さんの説得をお願い出来たらなぁって。マコちゃん、そうだよね!」


ユリちゃん?

会社なのに ”マコちゃん” 呼びになってるよ?(良いけど)


「お、おう! そうだ! ミューズは口下手だからな! エイミー、おまえが行って助けてやれ!」


社長?

なに急にユリちゃんに寄せてるの?


なんだか様子がヘンじゃない……?

そんなコトを考えながら、2人をジッと見ていると。


『うななうななな! うななな!』←訳:それはタイヘン! すぐ行くにゃ!


背中を姫にドンケツされて急かされて、あれよあれよと埼玉県に向かう事になったのだ。




~~~埼玉県T市・Cランク案件 水渦みうず視点~~~


バ、バババ、バラバラバラ、

バババ、ババババババ、

バババババ、ババ、バラバラバラ____



____トタン屋根に雨、



頭上から、響き落ちるは鬱々しい水の音。


明け方から激しくなったこの雨は、ラジオ曰く、勢いを殺さないまま深夜まで続くという。


雨は好きじゃない。

冷たくて、淋しくて、不安になるから。

それはとても遠い過去、……そんな昔の記憶など、残っているはずもないのに覚えてる。

捨てられた赤子のあの日。

肌に打ち降る雨粒の、その感触が蘇る。



それでも。

昔程では無くなった。


昔の私は雨が降れば、雨に濡れれば、絶望的な孤独感に叫び声をあげていた。

今思えばどうかしてると思うけど、どうにも抑えが効かなかった。


どうして生まれてきたのだろう、

どうして生きているのだろう、

いつまで生きればいいのだろう、


何度も何度も自問自答を繰り返し、答えが解らず泣き叫び、髪を毟り肌を引っ掻き、壁に頭を打ち付けていた。

心の奥の深い場所では、”助けて助けて”、そればかりを唱えていたけど、口から決して漏らさないよう、奥底に住む弱い私を殴りつけ、唾を吐いて捻じ伏せた。


表面では。

口を開けば言葉は矢となり、辺り構わず誰それ構わず傷付けてきた。

そうすれば、もう二度と私なんぞに関わろうとしないだろうから。

独りでいたいと切に願った。

人の幸せがあまりに眩しく、見ていると目が潰れそうになった。

自分が持っていない物、欲しくて欲しくてたまらない物。

それを難無く持ってる周りが妬ましくて仕方がなかった。


だから独りが良い、独りの方が苦しくないと信じてた。

いつまで生きるか解らないけど、それまでどうにか時間を潰し、死んだら臓器も角膜も、すべて譲って灰になる日を今か今かと待っていた。

そう、……醜い容姿は人を不快にさせるけど、臓器なら他の人と変わらないはず。

取り出した心臓は、誰に嘲笑されるでもなく、誰かの役に立てると思った。

せめて最期にそれくらいの善行を、私にも出来る善行を。


人を傷付け生きていくしか出来ない私は、早く命が終われば良いと思ってた。

あの人に会うまでは。


あの人と初めて会ったのは4年前。


”おくりび” の中途採用、新入社員の評判は上々だった。

霊力ちからが強く、素直で明るく覚えも良い。

OJTではたった1人でフィールドに隔離されたが、右も左も分からない中、霊の話をとことん聞いて呪縛から解き放ったという。

今はただの素人だけど、教え込めば相当な手練れになると……そう聞いた時、私には関係のない話だと思っていた。

仕事上で関わる事があったとしても、おそらくは、すぐに向こうが拒絶する。

小野坂とは組みたくないと、陰でこそこそ言われるのだと思っていた、……それなのに。


蓋を開ければ逆だった。

あの人は、私がどんなに酷い言葉を放っても、決して拒絶をしなかった。

なにを言われてもへこたれなくて、私の機嫌を取るでなく、委縮するでなく、ただただその都度、思った事を口にした。



____だからなんですか?

____施設育ちはそんなに偉いんですか?

____不幸な生い立ちなら他人を傷つけてもかまわないと?

____家族でハーブティーを飲む僕の言う事なんか聞く価値もないと?

____僕と水渦みうずさんの過去を取り替えない限り、

____理解し合う事は出来ないと?

____冗談じゃない!

____そんな事は不可能だ!

____出来ない事をワザと言って他人を拒絶しているだけだ!



出会ったその日、あの人は顔を真っ赤にこう言った。

それを聞いた時、私は内心酷く驚いたのを覚えている。

大抵の人間は、暴言に顔をしかめて私と距離を取ろうとするが、それは正しい対処の仕方。

それなのにあの人は、あろう事か距離を取らずに詰めてきた。

暴言を流さずに、真っ向から反対意見をぶつけてきた。

だから私は、それ以上詰められないよう ”その正論には反吐が出る” とこちらから拒絶をしたのに、



____僕はこの会社に入社して、

____会社を通して水渦みうずさんと繋がりが出来たんです、

____これから先、

____助け合ったり笑い合ったり、

____仲良くなれたら良いなぁと思っています、

____過去は関係なく、

____今日から新しくです、



そう言って綺麗な、……綺麗な笑顔を私に向けた。

茶色の瞳はどこまでも澄んでいて、そこには恐れも侮蔑もなくて、一瞬、自分が醜女しこめである事すらも忘れてしまった。

頭の中が白くなり、その白い部分にあの人が流れ込んでくるような気がした。

それがあまりに温かすぎて、常に抱える負の感情が息を潜めて、戸惑う気持ちが徐々に膨らみ……自分の中で何が一体起こっているのか分からなくなる程だった。


それからの数日間、……私は、原因不明の体調不良に見舞われた。

呼吸が浅く、動悸息切れ顔の火照りが止まらない。

風邪を引いたと思ったけれど、喉の痛みも咳もなく、ただ、微熱だけは出続けていた。

仕事を休む程ではないが、なんとも気味が悪かった。



原因が解明したのは、更に数日経ってからの事だった。

神奈川のポ現の現場に、志村さんとあの人と3人で入った日。

あの現場には、揃いも揃ってふざけたオタクの幽霊達が、我が物顔で霊障を起こしていたのだが。

その中に一霊(ひとり)、やけに強気な霊がいた。

40代中頃の男性霊で、霊体からだが大きく声も大きい。

私はあの時、生者も死者も大勢が視ている前で、その男性霊に ”このブス女” と容姿について口汚く怒鳴られた。

ああ……と、思った。

またか……とも思った。

その手の侮蔑は慣れているけど、……それでも、言われるたびに胸は抉られ、逃げ出したい程恥ずかしくなる。

ましてやその場に会社の人が、志村さんとあの人もいて、それを思うと居た堪れない。

同情なんかされたくない、気を遣われたくない、私は何も気にしてないと思われたい。

無意味な虚栄に歯を食い縛り、顔を上げ、表情を消し去ったその時。



____おい、今の取り消せ!

____水渦みうずさんはブスじゃない!



突然、

あの人が誰よりも大きな声でそう言った。


耳を……疑った。

一体どうしてしまったのか、

何をそんなに怒っているのか、

まさか私を庇ってる……?

否、そんな事があるはずがない、

私のような醜女しこめを、

私のような嫌な女を、

自意識過剰も程がある、

でも、だけど、


訳も解らず頭の中は渦を巻き、

その直後、

私は再び体調不良に見舞われた、


呼吸が浅くなる、

動悸が始まり息が切れ、

顔と耳が熱くなる、

視界は霞み狭まって、

あの人だけが映り込む、



…………ああ、

体調不良の原因が解ってしまった。

きっと、そういう事なんだと自覚した時。

私は戸惑い、恐怖すら感じていた。







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