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霊媒師募集  作者: たまこ
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第二十八章 霊媒師 三年後ー54

____どこかで座って温かいお茶を、


水渦みうずさんに誘われて、向かったカフェは国道沿いの海が見える2階建て。

白の板壁、入口ドアには植木が飾られ、その近くには黒板ボードにメニューが手書きで書かれてる。

ランチに早いこの時間、そんなにお客は入ってない。

席は飛び石、落ち着いた雰囲気だ。



カフェに入ると2階の席に案内された。

大きな木枠の窓際で、その向こうにはパノラマビューの海がある。

ちらほらと、浜辺にいるのはサーファーさんと、犬と遊ぶ飼い主さん達。

声まで聞こえてこないけど、窓を通して見る外は、誰も彼もが楽しそうで幸せそうだ、分からないけど、……そう、見えるだけかもしれないけど。



そんな事を考えてたら、僕はボーッとしていたようで……


「岡村さん、」


水渦みうずさんに名前を呼ばれてハッとした。


「ああ、ごめん。窓の外を眺めてた。なんというか平和だなぁって思ってさ」


……って、なにが平和なんだ?

我ながらよく分からない事言ってるな。


「平和、ですか……そうですね。少なくとも此処に悪霊はいませんし、それに……こんなに静かな朝は久しぶりです。家にいると姉と兄が賑やかなので」


あ……今、”()” って言ったよね。

その呼び方、なんだか僕まで嬉しくなっちゃう。

水渦みうずさんのお姉さま、愛華さんと婚約者だった本橋さんが入籍したのは去年の事だ。

結婚を機に、本橋さんは水渦みうずさんの兄となり、今では3人一緒に住んでる。



「あはは、愛華さんも本橋さんも元気だもんねぇ。そりゃあ毎日賑やかでしょうよ。でも良かったじゃない。家族揃ってみんなで笑ってサイコーだ」


本当にそう思うよ。

特にアナタはこれまでずっと独りでいたんだ。

だから、賑やかくらいでちょうど良いの。


「サイコー、ですか……確かにそうかもしれませんけど、一応彼らは新婚です。私というコブ付きで良いのだろうかと思いますよ」


はぁ、と小さくため息一つ。

困った顔はしてるけど、嫌な顔はしていない。


「良いんだよ。だって2人が結婚した時、アナタが家を出ようとしたのを必死になって止めたのも2人じゃない。あの時ね、実を言うと愛華さんから電話が来たんだ。”みぃちゃんが家を出ないように説得してぇ!” って。一緒にいたいんだよ、……家族だもん、大事な人だもん、離れたくないに決まってる」


……あ、ヤバイ、

そんな話をしていたら、言った言葉が自分に返って鼻の奥がツンとする。

こんな所で泣きたくないのに。

ここはカフェで、多くはないけど他人ひとがいる。

それだけじゃない、僕の前には水渦みうずさんもいるんだよ。

カッコ悪いな、どうしよう。

トイレに行くって席を立とうか迷っていると、


「岡村さん、窓の外を見れば良いんです。私はこっちを向いてますから」


水渦みうずさんは目線を逸らして、そう言ってくれたんだ。


言葉に甘えて窓から外を眺めていると、幾分気持ちが落ち着いて、鼻の痛みが引いてくる。

危なかったよ、大の大人が外でうっかり泣くトコだった(会社は良いの、身内しかいないから)。


とまぁ……そんなピンチを脱した直後。

お店の人が注文取りに来てくれて、それから程なく、僕らの前には琥珀色したジャスミンティーが運ばれた。

ああ、良い香りだ。

なんだろう、お茶の効果か力が抜ける。

窓からさしこむ優しい陽ざし、……向かいに座る水渦みうずさんの、髪を明るく照らしてる。


……

…………


僕の正面、水渦みうずさんは静かにお茶を飲んでいた。

背筋を伸ばして目を伏せて、時々、窓の外に目をやって、広がる海を見つめてる。

さっきから黙ったままで、気配をうまく消してるの。

水渦みうずさん……どうしてわざわざ神奈川県まで来たんだろう。

さっき、社長から僕の話を聞いたと言ってた。

もしかして、心配してくれたのかな。


水渦みうずさん、」


声を……かけてみた。

黙ったままでも不思議な事に、気まずい感じはまったくしない。

水渦みうずさんは、たぶんきっと、僕の方から話をするまで、待つ気でいるんじゃないのかな。

分からないけど、もしもそうなら今の僕にはありがたくって、だからこそ話がしたくなったんだ。


名前を呼ばれ、「なんでしょうか」と短く応える水渦みうずさん。

視線が合って、光の加減か頬がほんのり染まって見えた。


「社長から、どこまで聞いてる?」


社長にはぜんぶ話した、アナタはどこまで知ってるの?

水渦みうずさんは少し黙って、だけどすぐにこう言った。


「おそらく全てです。誤解しないでほしいのは、社長は何も面白おかしく話したのではありません。岡村さんをとても心配してました。出来る事なら ”ペルソナ” を取り戻してやりたい、何か良い方法はないだろうかと、相談の為に話をしたのです」


そうだったんだ……元々、僕の話を身内にするのは構わないと思ってた。

そんな理由なら尚更だ。

社長の気持ちがありがたいよ。



それから僕は、ポツリポツリと話をしたの。

感情が昂って、うまく言葉に出来なくて、途中で何度か鼻の奥が痛んだけれど、そのたび彼女は海を見ながら待っててくれた。

多くは語らず僕の話に頷くばかりで、いつものキツイ口調が出ない。

水渦みうずさんは、ただひたすらに聞き役となり、僕の辛さや悲しみを受け止め続けてくれたんだ。


「…………僕、今更だけど思うんだ。いっその事、ひみちゃんに僕の身体を渡してしばえば、乗っ取らせてしまえば良かったのかなぁって。そうすれば、僕が人質みたいになって、消されずに済んだかもしれないじゃない、」


言いながら苦笑した。

我ながらくだらなすぎる ”もしも” だよ。

本当に今更すぎて、言ってもなにも変わらない。

でも、そんな事は分かっているのに、それでも口からもれてしまった。


……と、その時だった。

それまで黙って聞いていた、水渦みうずさんが静かな声で言ったんだ。


「どうでしょうね。試してないので分かりませんが、可能性はゼロではないかもしれません。ですが、その方法は ”ペルソナ” が良しとしないと思います」


「彼が……? ……でもさ、ひみちゃんは結局僕を乗っ取る事はしなかったけど、最初の方は結構本気で乗っ取るつもりだったって、笑いながらだけど言ってたよ。僕にイジワルしてやるんだ、うんと困らせてやるんだ、……そう思ってたって」


「意地悪して困らせてやる、……ですか。まぁ、それ自体は嘘ではないのでしょう。ですが ”ペルソナ” は貴方の事が大好きで、おそらくは、自分以上に大事であると思います。そういう想いが強ければ強い程、そしてそれが上手く伝わらないと……時に、意思に反して真逆の事をしてしまう。憎まれ口を叩いたり、嫌がらせをしてみたり、……要は、行き場の無い愛情が暴走してしまうのです、」


そこまで言うと、水渦みうずさんは冷めたお茶を一口飲んで息を吐き、小さな声で話を続けた。


「彼は最初から、貴方を乗っ取るつもりなど無かったのだと思います。本当の目的は、貴方に気づいてほしかった、貴方と話がしたかった、貴方に思い出してほしかった、……ただ、それだけの事だったのではないでしょうか」


「………………」


「彼の立場がどういうものか、それはよくは分かりません。ですが、貴方と直接会う為に相当なリスクを背負って外に出た。そこまでする彼が、自分自身の保身の為に貴方の身体を奪うなど出来るはずがありません。…………そう、私には、それが良く分かるんです」


ひみちゃんは最初から僕の身体を奪うつもりはなかった、

僕に気づいてほしかった、

僕と話がしたかった、

僕に思い出してほしかった、

ただ、それだけだった____


____水渦みうずさんに言われた言葉、


僕はそれを頭の中で、何度も何度も反芻させた。


そうだ……僕の身体を本気で乗っ取るつもりなら、彼ならいつでも出来たんだ。

僕より豊富な知識があって、僕より高いスキルもあって、僕の霊力ちからを奪ってしまえば動きを封じる事さえ可能。

手間取る理由がどこにもない、……そうだよ、瀬山さんの口寄せだって、ひみちゃんはそれを難無く解してしまった。

そんな彼がした事は、僕の霊力ちからを加減をしながら奪った事と、会いに来て ”僕を忘れたひでみなんかダイキライ!” と泣きながら文句を言ってただけだった。

僕の身体を乗っ取るんだと連呼したけど、結局口だけだったじゃない。

2人だけで話をする為、大きなフィールド作ってさ、思い出の木の公園まで作ってさ、ブランコ乗ってシーソー乗ってお弁当食べて……あの時ひみちゃん、すごくすごくはしゃいでた、すごくすごく笑ってた。


そうかぁ……僕は誤解していたよ。

僕の事、最初は怒って嫌いだと思ってて、途中から許してくれたんだと思ってた。

違ったんだね、……ひみちゃんは、最初から僕に会う為だけに来てくれたんだ。

でもさ、だったらだ、それならそうと最初から言ってくれたら良かったのに、……ああ、これも違う、言えなかったんだよね。

水渦みうずさんが言ってたもの、


____そしてそれが上手く伝わらないと……時に、

____意思に反して真逆の事をしてしまう、

____憎まれ口を叩いたり、嫌がらせをしてみたり、

____要は、行き場の無い愛情が暴走してしまうのです、


って。


ひみちゃんには僕しかいなかった、それなのに忘れてしまった。

だからそれが悲しくて悔しくて、意思に反してあんな事しか言えなかったんだ。


…………鼻の奥が痛くてたまらないや。

僕はなにも分かってなかった。

水渦みうずさんに言われなければ、ずっと誤解をしたままだった。


僕は俯き目を押さえ、まわりの他人ひとに気づかれないよう、出かかる嗚咽を呑み込んだ。







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