第二十八章 霊媒師 三年後ー53
~~~3日目・火曜日~~~
AM8:30
神奈川県K市、岡村家玄関
「じゃあ帰るね。また来るよ」
『うなぁぅ』←訳:くるぅ
言いながら靴を履き、リュックも背負ってスマホはポッケに突っ込んで、帰る準備が整った。
後ろに立ってる母さんは、きなこを抱えて僕とお姫のお見送りだ。
「ええ、またいつでもいらっしゃい。あ、そうそう。今日のうちに宅急便出しとくから。お米とお味噌と醤油と缶詰。あとレトルト食品と洗剤も入れとくわね」
「わぁ! いつもいつもありがとう。救援物資、本気で助かるよ」
本当にありがたい。
お米とか重たい物は、買いに行くのも大変だしさ、なにより気持ちが嬉しいの。
こうやって実家に戻ってくるたんび、息子を想ってお土産いっぱいくれるんだもの(荷物になるから宅配で)。
「あらそう? こんなので良かったらいつでも送ってあげるわよ。そうだ、リンデンも入れておくわね。寝る前に飲むとよく眠れるから。英海、ここはあんたの家なんだからいつ帰ってきて良いの。なにかあったら、…ううん、なにもなくてもね。大福ちゃんもそうよ。英海の都合に合わせる事はないわ。イチニャンでも好きな時に帰っておいで。ササミいーっぱい茹でてあげる!」
『うなな!』←訳:ササミ!(歓喜の猫又)
「ほにゃにゃ!」←訳:ササミ!(便乗するきなこ)
”ササミササミ” と喜ぶ猫ズに親子でデレデレしまくって、最後は笑って手を振り合って、僕らは実家をあとにした。
結局、実家に2泊もしてしまった。
一晩泊まって帰るつもりが、アルバム見たりお茶を飲んだり、ゆっくりのんびりしちゃってさ、気づけは夜で夕飯食べて、さぁ帰ろうと思ったら、お姫ときなこがキャッキャと遊んで楽しそうにしてるじゃない(きなこの霊感は健在)。
それ視ちゃったら、これはジャマしちゃダメなやつ、無理っすわ、帰れませんわと2泊目決定しちゃったの。
ホントは昨日、遅くとも午後にはどこかにおでかけしようと思っていたのに…………ま、いっか。
実家で過ごしてのんびり出来たし、それに、ひみちゃんを覚えていたのは母さんだけじゃないって分かった。
聞けば、父さんも覚えていたんだ。
____英海のミエナイオトモダチ?
____覚えてるよ、”ひみちゃん” だろう?
それがすっごく嬉しかった。
ひみちゃんも喜んでるに違いない。
……
…………
………………
「さて、お姫さま。今日はこれからテクテク歩いて大仏さまを見に行こう。電車には乗らないで海沿いをお散歩しながら。今日も良い天気だし、気持ちよさそうだろう?」
この場所からなら歩いて行っても20分もかからない(実家出て数メートルのトコにいる)。
お姫と僕と、ここにはいないひみちゃんと、道草しながら楽しく行こう。
「ではでは、れっつごー!」
『うっなー!』←訳:れっごー!
さっそくテクテク、僕らは仲良く歩き出す。
空を見れば薄青色の広い空。
明るい陽ざしが降り注ぎ、まだ少し肌寒いけど春の気配もチラホラ感じる。
横をすぎるはEノ電の、ガタンゴトンと四両編成。
乗り物好きの姫のおめめがキラキラだ。
ああ、楽しいなぁ。
ひみちゃんも楽しいって思ってくれるかな。
ひみちゃん……”おくりび” のみんなとも会わせてあげたかった。
僕のフリじゃなくってさ、ちゃんと、ひみちゃんとして。
そんな事を考えながら歩いてた。
平日の午前中、人の数は多くもないが少なくもない。
この時間じゃ学生とかはいないけど、地元の人や観光の人、いろんな人が道を行く、………………ん……?
あれ……?
前から来る女性、……どこかで見たよな感じがするな……気のせいか?
前方目測150メートル強。
いまだ視力は2.0の僕だけど、さすがにこの距離、個体識別は難しい、……にもかかわらず、なんだかすっごく気になるの。
かと言ってジロジロ見るのも失礼だ(相手が女性ならなおさら)。
ま、気のせいだろ。
こんな所で知り合いに会う確率は低いもん、……と、思ってた。
けど違ったんだ。
向こうから来る女性。
その距離が削られるにつれ、僕は目を疑った。
「え……? なんでココにいるの……? 偶然……? てか仕事は……?」
頭の中ではハテナマークがポンポン飛んで、そしてとうとう、距離が詰まって互いに足を止めたんだ。
そして女性はこう言った。
「岡村さん、おはようございます」
「あ、ああ、おはよう。…………って、なんでアナタがココにいるの?」
「岡村さんを追ってきました。誰かを霊視で覗き視るのは実に3年振りです。雑作もないですね。アッサリと視つける事が出来ました」
霊視で居所探ったの?
それでわざわざ神奈川まで来たの?
え……?
どうしたのよ、水渦さん。
こんな所で知ってる人に会うなんて、びっくりしすぎて動揺してる。
しかもそれは偶然じゃなく、霊視で探して神奈川県まで来ちゃうだなんて、余程の急用?
や、だったらなんで電話しないの?
電話じゃなくても霊力を使って声を飛ばせば簡単なのに、わざわざ遥々こんなトコまで……ハッ!
もしかして怒ってる?(心当りはないけどさ)
知らない間に僕がなにかをやらかしちゃって、直接顔見て文句を言わなきゃ気が済まないとかそんな感じ?
でもな、怒ってるとかそんな顔はしてないのよね……むぅ、分からん。
聞きたいコトが多すぎるけど、あまりに多くてなにから聞いたら良いものか……とりあえず。
「えっと……水渦さん、今日は仕事じゃなかったの?」
薄っすら残る僕の記憶じゃ、水渦さんは今頃現場にいるはずでは……(先週まで事務仕事をしてたからみんなのシフトを知っている)
「ああ、仕事は休みました。突発で、」
えぇ!?
シレッと答えた水渦さん……なんだけど、僕はめちゃくちゃ驚いたんだ。
「突発!? 水渦さんが?」
「はい。今日だけはどうしても此処に来たかったので」
「ややや、待ってよ! 体調不良じゃなさそうだし、現場を飛ばして突発なんて今までなかったでしょうよ! どんな理由で、……って、その前に、水渦さんの現場は誰が行ったの……?」
僕は有給、弥生さんは育休中、この時点で2人減だ。
行ける霊媒師はいるのかな、いや……人数的に無理だろう。
聞いてるだけで汗を掻く、僕がアワアワ慌てていると、水渦さんは澄ました顔してこう言った。
「心配ご無用。現場には、私の代わりに先代と瀬山さんが向かってくれました。最強のツーマンセルです。安心して任せられますよ」
「えぇ! 代打がまさかのレジェンド2人!? マジか……そうきたか……半世紀ぶりのツーマンセル復活じゃん!」
そうだったのか、確かにそれなら安心だ。
てかむしろ、仲良し2人で現場に入れて喜んでるかもしれないよ。
「そういう訳で何も問題ありません」
キリッと一言、水渦さんはかすかに笑う。
「あはは、そうだね。これ以上はないや。……で? 水渦さんはどうしてココに? 会社を休んで僕を探して来たって事は、なにか急用があるのかな?」
聞いてみた。
東京都下から神奈川まで、電車で来るにも近い距離じゃないのにさ。
一体なんの用事だろう?
「用事、そうですね。正直、勢いだけで来てしまった感は否めませんが……申し訳ありません。社長から ”ペルソナ” の話を聞いてしまいました。その事で岡村さんがとても落ち込んでいるというのも、」
あ……話、聞いたんだ。
参ったな……内緒にする気はなかったけれど、でも……落ち込んでるとか言われると……なんとなく気まずいな、……そんな事を考えて、僕は……そう、なんとなく黙ってしまった。
水渦さんは、そんな僕をジッと見て、何度かなにかを言いかけて、口をパクパクしてたんだけど、少しして、小さな声でこんな事を言い出したんだ。
「……重ね重ね申し訳ありません。許可もなく貴方を覗いて、勝手に此処まで押しかけました。すぐに帰ります、……ですが、もし良かったら、一杯だけお茶を奢らせていただけませんか? どこかで座って温かいお茶を。私と、岡村さんと、猫又と、……それから ”ペルソナ” も一緒に、」
最後の方は尻すぼみ。
でも、彼女は言った、”ペルソナも一緒に” と。
その一言が沁みるほど嬉しかった。
水渦さんは僕の返事を待ちながら、おずおずと僕の首元に手をやった。
なんだ……? と思えば。
マフラー代わりに巻いてたタオルが乱れていたのか、優しく静かに整えてくれたんだ。




