第二十八章 霊媒師 三年後ー50
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ひみちゃんの最後の言葉を聞き終えて、僕は、……僕は、…………魂が抜けたみたいになったんだ。
変えられない過去の世界で彼の背中を視送って、その後、ノロノロと霊視解除の印を結んで、閉じた瞼を再び開ければ住み慣れたワンルーム。
僕はそこのベッドの上で仰向けになっていた。
『……うなぁ、』
視界に広がる天井の、それに割り込み覗き込むのは大福だ。
猫又は心配そうに僕を視て、頬をザリザリ優しく舐めてくれたんだ。
「…………ひめ、ありがとね。……あのね、僕、聞いてきたよ。ひみちゃんの最後の言葉」
僕は寝たまま手を伸ばし、小さな頭を包むように撫でつけた。
湾曲させた手の中で、姫は黙って僕の話を聞いている。
「……ひみちゃん、僕にいっぱい言葉を残してくれてたよ。それにいっぱい笑ってた。泣き虫のクセして頑張ってた。きっと最後だから、笑顔でサヨナラしたかったのかもしれないね、」
ああだけど、最後の最後で姫の猫語に号泣してたな。
でも……うん、あれはノーカウントで良いだろう。
嬉し泣きだし、……本当に嬉しそうだったし。
それから僕は、何も言わないお姫に向かって一方的に話をしてた。
ひみちゃんがあんな事を言っていた、こんな事を言っていたと、しつこいくらいに延々と。
本当は分かってた、こんな話は必要ない。
だって、ひみちゃんが話してた時、お姫は一緒にいたんだもん。
最初から最後まで、僕が聞いた話のすべてを知っている。
だから、……話すまでもないんだよ。
それでも止められなかった。
黙ってしまえば僕はどうにかなりそうで、それをやめれば息が出来なくなりそうで、……すごく、怖かったんだ。
姫はなんにも答えない。
代わり、寝っ転がった僕の胸に乗っかって香箱座りをしてるんだ。
知ってる話を一方的にされてるのにさ、辛抱強く聞いてるの。
「それでね、ひみちゃんは僕に言ったんだ。”やっぱり無理しなくていいよ。キミはキミの幸せを最優先で考えな。生きたいように生きるんだ” って。良いのかなぁ。僕は基本ナマケモノだし、生きたいように生きていいなら、なんにもしないで姫と一緒にダラダラしたいよ。それに……”希少の子” なんて言うけどさ、別に僕はなりたくてなったんじゃないもん。……そうだよ、なにが ”希少の子” だ、なにが ”希少の霊力” だ。そんなモノがあったって、友達ヒトリ救えなかった、…………救えなかったんだ」
…………僕は何を言ってるんだ?
こんな事、グチグチ言ってみたってさ、お姫が困るだけじゃない。
なのにどうして止められないんだ。
姫はそれでも黙ってた。
僕のネガティブを否定もせずに肯定もせずに。
ただただジッと胸に座って僕を視て、……ああ、違うな、それだけじゃないや。
無言の中で、猫の四尾が僕を優しく撫ぜている。
大福……ありがとね。
フワフワ尻尾が僕のおなかを撫ぜている。
右に左に行ったり来たり、まるで天使の羽ホウキだ。
お姫はなんにも言わないけれど、僕の事を心配してる、慰めようとしてくれている、気持ちがすごくありがたい。
だからしっかりしなくっちゃ、元気を出して今すぐ起きてゴハンも食べて、大福に ”もう大丈夫” って言わなくちゃ……と、頭の中では分かっているのに身体がどうにも動いてくれない。
情けない……僕は弱い人間だ。
駄目だな、こんなじゃ駄目だ、頑張らなくちゃ。
ひみちゃんだって、こういうのは望んでないよ。
なんのためにメッセージを残してくれたか、それをよくよく考えるんだ。
ひみちゃんに比べたら僕なんて…………
…………ああ、でも。
大福ごめん、ひみちゃんもごめん、
僕、思い出しちゃったよ。
メッセージでひみちゃんは、こんな事を言っていたんだ。
____3日間だけ悲しんで、
____そのあとは元気になって、
と。
…………ねぇ、大福。
ひとつ、お願いをしても良いかな。
ヘタレな僕に3日間だけ時間をちょうだい。
4日を過ぎたら元気になるから、約束するから。
ひみちゃんは仕事柄……で、良いのかな?
彼は ”希少の子” のサポートとして、今までのほとんどを僕の中で過ごしてきた。
途中のたったの4年間だけ僕と一緒にいたけどさ、その前もその後も、ずっとずっと独りでいたんだ。
それがようやく外に出て、念願叶って僕やみんなと会えたというのに、あっという間に消えてしまった。
それがすごく悲しくて、淋しくて、悔しくて、……僕の中に、どうしようもないくらい悔いが残ってしまってるんだ。
もっと僕に出来る事があったんじゃないのかってさ。
ごめんね。
今さらなのは重々に分かってる。
でも……だからせめて3日間だけ、ひみちゃんの為だけに時間を使えたら。
もしかしたら、どこかで彼は喜んでくれるかもしれない。
それと同時。
彼を想って思いきり悲しむ事が出来たなら……たぶん僕が救われる。




