第二十八章 霊媒師 三年後ー19
うわ……恥ずかしい……今度はよりによって高校生……いや……中学の頃の僕だ……道端にしゃがみ込んで野良猫を撫でている……うわぁ……お次は小学生の僕だよ……やっぱり道で野良猫を……(ry
一体……なんなんだろう……みえてる景色は……過去……? まさか走馬灯とか言わないよねぇ……? やだ……なんかコワイ……あ……また景色が変わった……今度は…………え……? これ……なんだ……? 暗がりに……幼い頃の僕がいる……2才か3才かそのくらい……僕は酷く咳き込んで、僕は酷く泣いている……
____おかあさん、おとうさん、どこぉ……!?
____のどがいたいの、おせきもでるの、
____くらいの、こわいの……たしゅけて、
昔の僕が助けを呼んでる。
こんな事があったのかな?
あまりに幼く記憶にないけど、今の僕とおんなじように風邪が酷くて辛そうだ。
幼い僕は泣きじゃくっていた。
その場に座って背中を丸めて、暗がりが怖いのかジッとしたまま動かない。
どうしたものか、……いや、どうにも出来ないよな……だってこれは過去の記憶か走馬灯か、僕はベッドに転がりながら幻覚らしきを見てるだけ、…………だったんだけど、……え? なにあれ……?
僕は小さく息を呑んだ。
呑んだ息は咳を誘ってゴホゴホとむせ返る……が、それでも、視界に広がる幻覚らしきに釘付けになったんだ。
どこから現れたのか、そこにはもう1人の僕がいた。
中学生でも小学生でもない、年の頃は今の僕と同じくらい。
その僕は、泣いてる幼い僕の隣に座ったの。
____……ボソボソ……ボソボソ……
なにか……喋ってる?
はっきりとは聞こえてこない。
なんだかよく分からない……幻覚だか走馬灯だか知らないが、いろんな年の僕が出てきて、みている僕は混乱中だ。
視界の先の幼い僕は、泣きすぎて一層咳が酷くなった。
泣きながらゲホゲホしてさ、我ながら(……で、良いんだよね?)かわいそうになっちゃうよ。
そんな事を思いながら、いつ終わるとも分からない幻覚を見続けていると。
____……ボソボソ……ボソボソ……てあげる、
え?
なんて言ったの?
聞き取れなかった大人の僕の話し声。
最後の方だけ少し聞こえて、でもその後は喋らずに、片手をあげて幼い僕に向けたんだ。
そして、片手の五指を複雑に折り曲げ始めて…………ウソだろ……?
あれ、印じゃないか……!?
大人の僕は真面目な顔で、片手だけで印を結んだ。
結び切ると、その手を幼い僕にかざしてニコリと笑う。
小さな僕は目を閉じてその身をゆだね、僅か数分経った頃には咳もなにも止まっていたんだ。
………………今のは……回復霊術だったのか?
回復系は僕もよく使うけど、方法がまるで違うよ。
片手だけで印を結んで癒すなど、今まで1度もしたことが無い。
というか、片手の印は結べないんだ。
僕の知っている限り。
片手の印を使うのは、瀬山さんと…………”ペルソナ” だけ。
まさか……今、視界の先に視えている ”僕” は、幻覚に紛れ込んだヤツなのか……?
そう思った途端、僕の身体は金縛りにあったように固まった。
夢なのか、はたまた、夢の中に紛れ込んだ現実なのか。
気持ちが焦って判断がつけられない。
幼い僕を癒した ”僕” は、ふと立ち上がり目線を僕に向けたんだ。
そして、
____……ボソボソ……ボソボソ……けてあげる、
聞き取れないなにかを呟き片手をあげた。
同時、
『フッシャーーーーー!!!』
頭の上から猫又の威嚇の声が降ってきて、そっちに気持ちを取られてるうち、部屋の中が赤い光に包まれた。
眩しい……!
たまらず目を閉じ眉根を寄せた、その直後。
強い眠気に襲われて、どうにもこうにも抗えなくて、そのまま意識を失った。
……
…………
………………
やっと目が覚めたのは、夕方近くの頃だった。
窓から差し込む優しい光はハチミツ色で、その時にはもう……喉の痛みも咳も止まって、熱を測れば平熱まで下がってたんだ。
◆
”うなぁうなぁ” と大福は、しつこいくらいにまとわりついて離れない。
熱も下がって起き上がり、部屋の中を歩くたんびに小走りに着いてくる。
やだ……カワイイ!
思わず顔がニヤケちゃうけど、今回ばかりはそうも言ってられないや。
こんなにしつこくなるのはさ、いっぱい心配かけちゃったから……だよね。
「大福、ごめんよ。もう大丈夫だからね。熱もないし咳も止まった。喉だってぜんぜん痛くないよ。すっかり元気になっちゃった。ほら、おいで」
言いながら、両手を大きく広げると……ドン!
あはは、お姫が胸に飛び込んできた。
重量級のゴージャスボディーは、まるでお餅爆弾だ。
呆れるくらいにイチャイチャイチャイチャ。
僕らはヒシッと抱き合って、ハナチューデコチュー雨あられ。
こんなんしてると幸せ過ぎて、朝があんなに辛かったのがウソみたいに思えるよ。
今の僕は絶好調で、なんなら今から3キロくらいは走れそう(病み上がりだから控えめ設定)。
僕、風邪を引くと長引くタイプなのにな。
最低でも一週間、長ければ数週間は唸っているのに、こんなに早く治るだなんて、ミラクルとしか思えな…………そうだ……本当は、前例からしてこんな事はあり得ないんだ。
やっぱりあれは夢じゃなかった……?
僕の風邪を治したのは、ペr
ピンポーン
ハッ……と思考が中断された。
玄関チャイムの音がして、気持ちがそっちに持っていかれた。
誰だ……?
ここ最近は買い物もしてないし、宅配業者じゃなさそうだ。
なにかの勧誘? ……かもしれないな。
だとすると、対応するのがメンドクサイ。
悪いけど居留守を使ってやり過ごそう。
「大福、シーだよ」
お姫をギュッと抱きしめて、コソコソ小声で言ってみた。
とは言ったって、猫又のキューティーボイスは霊力が無ければ聞こえないけど。
ピンポーン、ピンポーン
う、まだ鳴らしてる。
でも出ないよ。
寝汗も掻いて髪もグチャグチャ、着ているジャージは10年モノのへっぽこだ。
着替えるならシャワーを浴びた後が良いし、絶対絶対出ないから。
息を潜めてお口にファスナー。
早いトコ帰ってください、そんな念をドアに向かって飛ばしていると(雰囲気だけね)。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン!
しつこっ!
ナニコレホントに大福バリにしつこいよ!
出ないったら出ないから!
ファスナーどころかお口を貝に、気配を消してドアを見る……と。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン!!
い、いやぁぁぁ!
コワイ! コワイよ!
どんだけピンポン鳴らすのよ!
ぜーったいに出ないんだからぁぁ!
異常なほどのピンポン攻撃。
僕は怖くなっちゃって、お姫を抱えてベッドに飛び込み、頭から布団をかぶってガクブルしたの。
そしたら、あろう事は今度はさ、
ガチャ、ガチャガチャガチャガチャ!
ひぃぃぃぃぃ!!
ドアノブガチャガチャし始めた!
コワイコワイコワイコワイ!
おかしいよ、まともじゃないよ!
フツーそこまでしないだろー!
ヤバイ、すこぶるヤバイ勧誘だ!
どうしよう、どんな人だか霊視で外を視たいけど、霊力を使えばぶっ倒れるしぃ……!
あばばあばばとテンパりながら、布団の中で震えていると。
ブーーー、ブーーー、ブーーー、
おぅあっ!!
今度はなに!? って、僕のスマホがマナーモードで鳴りだした。
こんな時に誰だよ!
画面を見れば、わお! 願っても無い救世主だ!
着信名に”清水 誠” と表示があって、その時僕は「強い人から着信キターーーー!(超小声)」と秒で画面をタップしたんだ。
「社長!? 良い所に電話くれたよ! 今どこ? 助けて! 今僕のアパートに不審者が来てるんだ! ピンポンピンポンドアノブガチャガチャずっとされてて、めっちゃ怖いの!」
切羽詰まって ”モシモシ” 略で助けを求めたその直後。
シン……
あ、ガチャガチャ止まった。
あ、あれ……?
不審者いなくなったのかな? と思っていたら……
【あ、ワリィ。怖かったか? 今、おまえんちの前にいるんだ。ピンポンとガチャガチャは俺がやってた。部屋ん中にいるはずなのに出てこねぇからよ。倒れてんじゃねぇかと思ってな。エイミー、調子はどうだ? 色々食い物持ってきてやったぞ! 俺が鍋を作ってやるから一緒にメシ食おうぜ!】
握ったスマホとドアの向こう、その両方から社長の声が聞こえてきたんだ。
えぇぇ……マジか……犯人、社長だったんかーい!




