第二十八章 霊媒師 三年後ー7
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3月第2土曜日 AM11:41・某ショッピングモール内
「ヘーイ! チェリーボーイ! さっきのパンツにはこのベルトが合うと思うがどうだ!」
あぅ……キーマンさん!
だからね、外でその呼び方はチョット……!
だってほら、まわりのお客さんが一斉に僕らに注目しちゃったよ。
めっちゃヒソヒソされてるし、主に僕を、憐れむように見てるんだ。
や、だから、その、チ、チガイマス、僕はもう34だし、さすがにそれは違いますから!
「キ、キーマンさん!(コソコソ)外で ”チェリーボーイ” は止めてって言ってるでしょぉぉ!(コソコソコソ)」
ぶつかるように肩を寄せ、ジャラジャラついてるピアスを避けつつ、耳元でコソコソ抗議をしてみたの。
が、キーマンさんはどこ吹く風で、僕のおなかにベルトをあてると「ワーオ! ベリィグゥゥッ!」と親指立てて聞いちゃいない。
あーうん、そうだよね。
この人が僕を ”チェリーボーイ” と呼ぶようになってはや4年(要は入社当時から)、すっかり定着……いや、癒着してるのだ。
今さら止めてと言ったところで、ムダムダムダァ! なレベルに来てる。
困っちゃうなと思うけど、真面目な顔で僕のベルトを一生懸命選んでるのを見ちゃうとさ……ははは、ま、いっかってなっちゃうのよね。
そんなキーマンさんは今日も激洒落だった。
肩までの茶色い髪を、ポニテライクに1つにまとめてスッキリと。
彫りの深い目鼻立ちはハリウッドスターを思わせる。
長身の細身の身体はしなやかで、シンプルなスキニーパンツと薄手のニットは黒で統一……と、珍しくベースはかなり地味な装いなんだけど、その代わりにアウターが派手だった。
コートでもない、ダウンジャケットでもない、纏っているのはボリューミーでロングなポンチョ。
首元の黒から始まり裾は濃紺、とってもキレイなグラデーションで、まるで夜空の色なんだ。
その夜空には、雪の結晶が散りばめられてる。
青みがかった白い糸で細かな刺繍がしてあるの。
驚いたコトに、この刺繍をしたのはキーマンさん本人だというのだ。
ポンチョ自体は1000円の激安品で、刺繍で華麗にカスタマイズをしたんだって。
やっぱりこの人器用だわ。
今度僕もやってもらおうっと。
「ヘイ! ジェーンの意見をletg me know! チェリーボーイのさっきのパンツにこのベルトはどうだろう?」
キーマンさんは、嵐さんに意見を求めた。
てか、相変わらず呼び方のクセが強いな。
嵐さんの ”嵐” の文字を ”ハリケーン” に見立ててさ、”ジェーン” ”キャサリン” ”ドミニク” と、この3つの名前をローテーションで呼ぶんだもん。
嵐さんは、キーマンさんに負けず劣らず真面目な顔でベルトを凝視。
そして大きく頷くと、感心しきりでこう言ったんだ。
「なるほど……さすがはキーちゃんだね。すごく良いと思うよ。パンツがダークブラウンだから、ココで同系色の渋めのオレンジは良いアクセントになる。ただバックルがシンプルすぎてツマラナイかなぁ……ねぇ、キーちゃんのストックで恰好良いバックルなんかない? あればそこだけ取り替えようよ」
え!
僕のもカスタマイズしてもらえるの!?
やだ、嬉しい!
今日来て良かった!
2人に選んでもらった服は、とにかくまわりに評判なんだ。
前に1回、キー嵐チョイスの服を来て実家に帰った時なんか、”もしかして彼女が出来たの!?” とぬか喜びをさせたくらい(彼女が選んだ服だと思ったらしい。父さん、母さん、あの時はゴメンナサイ)。
キーマンさんと嵐さんは、あーでもないこーでもないと、熱くファッションを語り合ってる。
スゴイ熱量だ。
その隣では、お姫が ”ふはぁ……” とあくびをしてて、僕はすっかりおまかせ状態。
あはは、なんだかんだと楽しいや。
本当は……ちょっと迷ったんだ。
今日、来るかどうかを。
でもさ、せっかく誘ってもらったんだし、やっぱり来たらこんなに楽しい。
朝イチからモールに来てさ、あっという間にそろそろお昼だ。
ベルトを買ったらみんなでゴハンを食べに行こう。
その時にさり気なく、……嵐さんに聞いてみようかな。
この間のメールの事と、それと……社長から電話がいかなかった? ってさ。
◆
混んでるピークを避けようと、ベルトの他にマフラーを見に行って、それから遅めのランチタイムは午後1時過ぎ。
まだまだ人はいるけれど、待たされないで席に着くコトが出来た。
「ここの和食は天ぷらが美味しいんだよ」
僕の隣にちょこんと座る、嵐さんがニコニコ笑って教えてくれた。
ああ……なんか嬉しいなぁ。
昔と違って、嵐さんは僕と話しても緊張しなくなったんだ。
目を合わせても大丈夫だし、顔が真っ赤になる事もない。
この4年間、休みが合えばチョコチョコ会ったりしてたしさ、年は離れているけれど、なんていうか波長が合うから一緒にいても楽ちんなんだ。
「へぇ、じゃあ……僕、あったかいお蕎麦と天ぷらのセットにしようかな。お刺身もついてるから、お姫とシェアして食べられるし」
午前中にたくさん歩いて腹ペコだから、ボリュームメニューをチョイスした。
そして同じく腹ペコの、キーマンさんは ”すき焼き定食”、嵐さんは ”海老と根菜天丼” を。
決まった所で備え付けのタブレットをポチポチしたら、セルフオーダー完了だ。
……
…………
「「「 ごちそうさまでしたー!」」」+『うなぁ!』
男3人 + イチニャン、美味しいランチでお腹もいっぱい。
デザートまでぺろりと平らげフル充電だ。
おなかの皮が突っ張れば目の皮たるむ……を即実践の大福姫は、”うなうな” 小さく独り言ちつつ僕のお膝でアンモニャイトに大変身だ。
ぷーぷーすよすよ、小さな寝息がガチ可愛い。
食後の飲み物が運ばれて、それぞれカップに手をやった。
一口飲めばさらに満足、ココからはちょっとのんびりお喋りタイムの始まりだ。
「午前中はナイスなショッピングが出来たな!」
白い歯をキラッとさせてキーマンさんがそう言った。
飲み物はブラックコーヒー。
ノンミルク、ノンシュガーの大人の味だ。
「3月は春物も買えるし、冬物はセール価格でお得だよね」
オレンジ色の髪の毛先がクルクル遊ぶ嵐さんは、髪と同色フルーツジュースを飲んでいる。
「午後は靴を探したいんだよなぁ。スーツで履いてもおかしくなくて、動きやすくて柔らかい素材のが良いの。現場で走る時、革靴じゃ辛くて……」
戦利品を足元に置き、午後の買い物にも意欲を見せつける僕。
飲んでる物はジャスミンティー、五臓六腑に染み渡る。
それから僕らはお喋りに花を咲かせて楽しい時間を過ごしたの。
午後の買い物はどこから回ろうから始まって、弥生さんちの双子ちゃんが激カワイイとか、大和さんのお料理動画が面白いとか、次から次へと話題が飛んで、しばらくたってひと段落着いた時。
僕は、……どうしても気になっちゃって、どうしても聞いてみたくて、アノ件を、嵐さんに聞いてみる事にしたんだ。
「ところでさ。嵐さん、木曜日に僕にメールをくれたでしょ? その事で少し聞きたい事があるんだけど……」
話題が落ち着き、出来た隙間に聞いてみる……と。
嵐さんは、あからさまに挙動不審になっちゃって、フルーツジュースを持ったり置いたりし始めた。
「メ、メール? あ、ああ……えっと、きょ、今日一緒にお買い物しようって……お、送った件だよね?」
あ……これまた怪しい。
嵐さん、言葉のつっかえがぶり返してるよ。
最近はこういうの、僕とキーマンさんの前ではなくなってたのに。
「んと、ソッチじゃなくてその前のメールの方。ショッピングのお誘いの前にもう1通くれたじゃない。C県の現場で、嵐さんは僕に似た人に助けてもらったんでしょう?」
「そ、そ、そう! に、似てる人! 岡村さんじゃない人に助けてもらったの! そ、そ、それがどうかした?」
あーやーしー!
てか、面白いほどテンパってるよ。
これもう怪しいとかのレベルじゃないよ!




