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霊媒師募集  作者: たまこ
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第二十八章 霊媒師 三年後ー6

スマホの画面をジッと見たまま固まっていた。

意味が……分からない。

朝から事務所にずっといるのに、僕がらんさんを助けた?

どうやって?



懸垂に飽きたのか、それとも僕が気になったのか。

社長は鉄パイプから両手を離すとトンッと軽く着地した。

で、怪訝な顔して言ったんだ。


「どうした、エイミー。さっきから口開けっぱなしだぞ?」


え! ウソ! 

やだなーもー、うっかりポカンとしちゃったよ。


「えっと、うん。あのね、今、らんさんから変なメールが届いたの。これなんだけどね、」


僕は軽く顔を引き締め、改めてスマホの画面をそのまま見せた。


「お、見ても良いのか! じゃあ見せてもらうぞ。なになに……? エイミーが? ……らんを助けた? ………………、」


ね?

意味が分からないでしょう?

僕は朝から事務所にいてさ、報告書が面白くってランチ以外はこもりっぱなし。

らんさんは今日はどこに……と、ホワイトボードに視線を移せば、C県まで人形供養に出てるとあった。

東京の事務所とC県の現場、ササッと行ってササッと戻れる距離じゃない。

助けるなんて物理的に不可能だ。


らんさんから事情を聞かなきゃ分からないけど、もしかして……僕に似た人がたまたまC県にいたのかなぁ? 自分で言うのもなんだけど、僕の見た目は量産型で十分あり得る話だよ。あははは」


自分で言って自分で笑う自己完結。

僕は当然、ココら辺で社長の茶化しが入るものだと思ってた。

”平凡でも良いと思うがイメチェンしてもいいんじゃねぇか?” あたりから始まって、”スキンヘッドがお勧めだ!” とか言い出しそう。

この人はいくつになっても変わらない。

今年で38になると言うのに、出会った頃のままなんだ。

ま、そこが良いトコロではあるんだけど、…………って、ん?

あれ? おかしいなぁ、なんにも言ってこないじゃない。


時間にすれば十数秒。

社長は黙って頭を掻いて、でもその後は、眉をハの字に照れた顔してこう言ったんだ。


「話の途中でわりい。ちょっとションb……いや、トイレに行ってくる。ははっ! 実はな、さっきからずーっとガマンしてたんだ。そろそろ行かねぇとヤベェコトになる」


えっ!?

そうだったの!?


「ちょ! 子供じゃないんだからガマンとかしないでよぉ!」←万が一の事態(・・・・・・)に怯える僕

「健康に悪いコトはしちゃダメだって言ってるのにぃ!」←旦那さんの健康第一なユリちゃん



”とにかく早く行ってきて!” 、僕とユリちゃん、声がピッタリ重なった。


そんな僕らに社長はゲラゲラ、笑いながらドアに向かって歩き出す。

まったくもう、困った大人だ! なんて言いつつも、僕もつられて笑いながら見送った。

社長はふざけて ”ヤベェヤベェ” と騒ぎながら、途中、素早い動作で通りがかりのデスクの上からなにかを掴んでポッケに入れた。


ん?

今のなに?

なにを掴んだ?

トイレに行く時、女性なら化粧ポーチを持ってくコトもあるけどさ、男は手ぶらがデフォルトだ。


事務室から社長が出ていき、ユリちゃんはさっき撮った旦那さんの懸垂動画をウットリ見てる。

僕は……なんとなく気になって、社長のデスクに目をやったんだ。

一体なにを持って行ったんだろう?

記憶を頼りに間違い探し、数分前にあったモノで今はないモノ、それは…………あ、分かった、社長のスマホだ。


なんでスマホ……?

電話をするなら事務室ここにたくさん電話機があるのに。

メールだってそうだ。

パソコンからも送れるのにさ、なんでわざわざスマホを外に持ち出したんだろ。

普段の社長はそんな事はしないのに。

なんか……胸の奥がザワザワするよ。

漠然と落ち着かないのは気のせいだろうか……?


ザワつく胸を落ち着かせるべく、会社に置いてるティーセットで(私物)お茶を淹れた。

今日のチョイスは、オレンジの皮を剥いて乾燥させたオレンジピール。

効能はストレス緩和に整腸、鎮静、気持ちが元気になるお茶だ。


「ユリちゃんも一杯どう? オレンジピール好きだったよね?」


聞けばニコニコ、「オレンジ大好き! 飲みたいです!」と元気なお返事。

可愛いなぁとココロの中で和みながら、2人でお茶を飲んだんだ。



「あぁ……なんか落ち着くぅ……」


一口飲んでホッと一息。

僕が言うとユリちゃんも、


「本当ですねぇ……とっても良い香りで気持ちがほわんとしちゃいます」


ふにゃっと笑ってそう言った。


しばし2人で ”ほわんとタイム”。

一口飲むたび ”あー” とか ”ふー” とか渋めのため息。

ゆっくり一杯飲み干す頃には、ザワつく気持ちが少しだけ落ち着いたんだ。

僕はポットに手を伸ばし、空になった2個のカップにおかわりチャージ。

本当は社長にも飲んでほしいと思ってるのに、あれから全然戻って来ない……ので、2つしかないとっておきのマカロンを僕とユリちゃんで食べちゃうコトにした。

ま、社長がいても ”数がないなら俺はいいからユリに食わせろ” って言うだろうけど。

甘くて美味しいマカロンをペロリと食べて大満足。

社長不在の事務室で、僕とユリちゃんはゆるい会話をほわぁっとやり取りしてたんだ。



「社長、遅いね。トイレに行ってから15分は経ってるよ」


「そうですねぇ……どうしたんだろう」


2人してドアを見たけど、うんともすんとも言いやしないくて閉じたまま。

最初はさ、本当にトイレ? と勘ぐったけど、どこかに一本電話をしたと仮定しても(誰に?)社長の性格上、長電話はしないと思うんだ。

だとすると、電話の後にホントにトイレに行ってるのかもしれないよ。

んでんでこの長さ……というコトは…………ははーん。


「もしかして、おなかの調子が悪いのかな? だとすればオレンジピールは整腸作用もあるから持ってこいなんだけど」


相手は女の子だからね。

あんまり下品にならないように、社長の ”おなか事情” を予想してみたんだけど、ココでユリちゃんは、サラッととんでもないコトを言ったんだ。


「おなかの調子かぁ……たぶんそれは無いと思う。社長ってすんごく健康だから、今までに風邪を引いた事もないし、おなかの調子が悪いとか、胃が痛いとか、頭痛がするとか、そういうのなんにもないの」


「えぇ、ウソだろ……? 風邪を引いた事がないってのは前に聞いたコトがあるけど、それだけじゃなかったんだ。胃腸もなにも強いんだ。てか頭痛すらないってどんだけ健康体なのよ、羨ましい。こりゃあユリちゃんより長生きするって約束、本気で守られるんだろうなぁ」


いやぁ、大したモンだわ。

その頑丈さ、僕にも少し分けてほしい(や、ガチで)。


「ふふふ、そうだと良いなぁ。この先2人でうんと長生きして……いつか、私が先に死んでしまっても、黄泉の国にはすぐに逝かないって決めてるの。だって、社長には霊力ちからがあるから、私が幽霊になっても姿が視えるんだもん、……それに……ちょっとでも離れるのは私がイヤだから……ゴニョゴニョ」


「きゃーーーー! あっまーーーーーい♪ もう! 社長もユリちゃん大好きだけど、ユリちゃんも社長が大好きだよねぇ……! あぁん! 恋って良いなぁ! 夫婦って良いなぁ! ……って、イカン。今の先代みたいになっちゃった。でもさ、本当に、」


”良いと思う” と続けようとしたのだが……


にゃにゃにゃにゃーん!


途中でメールの着信音が聞こえてさ、ほっぺの赤いユリちゃんが ”どーぞどーぞ” と言うもんだから、先にそっちを開いたの。


「あ、またらんさんだ。なになに……?」



____岡村さん、さっきはヘンなメール送っちゃってゴメンネ! あのね、勘違いだった。ボクを助けてくれた人、岡村さんに似てたけど別の人だった。だから気にしないで。それで話は変わるけど、今度の土曜日キーちゃんとボクと3人で服を見に行かない? 岡村さんはしばらくカレンダー通りの勤務でしょ? 僕とキーちゃん、今度の土曜はお休みだからどうかなかと思って……



へぇ……らんさんを助けてくれた人、僕に似た別の人だったんだ。

そっかぁ……ふぅん、そっか。

じゃあ勘違いだったって事なんだね、なるほど。

それで……と、今度の土曜日に3人でお買い物かぁ。

うん、楽しそうだ。

らんさんもキーマンさんもオシャレだからね。

僕の服とか靴とかバッグとか、そういうの見てもらいたいな。

もちろんOKだよ。

霊媒師は基本休みがバラバラだし、現場の進捗によって予定もコロコロ変わっちゃうし、3人で休みが合うなんて滅多にない貴重な土曜日だ。

でもさ____



ガチャ!


メールを何度も読み返す中、ドアが開いて社長が部屋に戻って来たんだ。

大袈裟な手振り身振りで ”あぶなかった!” と大騒ぎでさ。

そんな社長と目が合って、その時彼はニカッと笑った。

優しい顔で、でも力強く。

僕は曖昧に笑い返し、それで……もう一度メールの画面に目を落とし、読み返してみたんだよ。

ぜんぶじゃない、1文だけ。



____岡村さんはしばらくカレンダー通りの勤務でしょ?



ねぇ、らんさん。

僕達しばらく会ってないのにどうして知ってるの?

僕が今、カレンダー通りの勤務だってコト。

誰かに聞いた?

それはもしかして、社長からなのかな。








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