霊媒師おまけ……バッドアップル-11
ダァッシャッ!!
いきなり吹っ切れた!
よし、今から雷神号をスカウトしに行こう!
ウダウダウジウジ、らしくもなく悩んでいたけどダメで元々。
断られても今と状況は変わらねぇんだ。
万が一、来てくれるってなったらラッキー。
確率低い ”ラッキー” だけど、言わなきゃなんにも始まらねぇ。
『センタソー、悪いけど急用が出来ちまった。アタシはひとっ走り虹の国まで行ってくる』
腰をバネに跳ね起きて、両手で顔をバシバシ叩いて気合いを入れた。
急なアタシにセンタソーはポカンとしたけど、すぐにハッ! と息を呑み、
『ただならぬその気合い、悪い霊を滅しに行くなら私も行く!』
と、積極的に話を拗らす。
ぜんぜん違えわ、ややこしいコトにすんな。
『そうじゃねぇ。だからおまえは休んでろ。帰りは少し遅くなるかもしれねぇが心配すんな。んで、もしかうまくいったらよ、……おっと、今はこれ以上は言えねぇな。とにかく行ってくる! あっ! 忘れ物! ブラシブラシ!』
ますますポカンなセンタソーに視送られ、部屋からブラシを引っ掴むと、その勢いで虹の国まで瞬間移動だ。
ブンッ、
と鈍い音をさせ、瞬き一つで到着すれば、ライトブルーのメタリック、リーがアタシに気がついた。
『朋美さん! どうしたんです? また遊びに来てくれたんですか? ケモさん達に教えてあげなくちゃ! みんな大喜びしますよ♪』
鎌首をうんと下げて、アタシと目線をバッチリ合わせて笑ってる。
その鼻先をバシバシ叩いて、アタシは声を張り上げたんだ。
『悪い! 今日は違えんだ! なぁ、雷神号ってドコにいる? アタシ、ヤツに会いに来たんだ!』
『雷神号さんに? ……あ! 手に持ってるのは犬用の高級ブラシじゃないですか。もしかして、彼にプレゼント? ふふふ、きっと喜びますよ。でも……彼の誕生日はもっと先のはずでは、』
『んもー! そんなコトよりドコにいるのか教えてくれってー!』
バシバシバシバシ!
答えるまでバシバシすっから!
リーの霊体じゃ痛くもなんともねぇだろうけど、それでもバシバシやめねぇから!
アタシの気迫に押されたリーは、不思議な顔で遠くに架かる虹を視た、……って、あそこかー!!
リーの答えを聞く前に走り出していた。
しょっぱなから全力疾走。
後から思えば瞬間移動をすれば良かったと思うけど……ははっ!
そんな余裕はなかったんだよね。
走りまくった。
前を視て、虹を目指して一心不乱にひたすら足を前に出す。
休まず走ればあっという間に虹は目の前。
弧を描く七つの色は半透明に輝いて、その起点だか終点だかを地面の中に埋めていた。
そして、肝心要の雷神号は………………いたっ!!
早朝の虹の国。
メインの広場とうんと離れた虹のたもとで雷神号は、1頭だけで黙々と走り込んでいた。
片道目測100メートル。
全力ダッシュで行って戻って行って戻って、キレイなフォームを崩さねぇ。
言ってた通りだ。
たとえ主が不在でも、たとえ誰が視ていなくても、雷神号は自分に厳しく訓練を重ねてるんだ。
あぁ……クソッ、なんでか知らんが泣けてくる。
昔の大和を視ているみてぇだ。
雨の日も風の日も、大和は毎日早くに起きて黙々と訓練してた。
誰も見てねぇ、誰も知らねぇ、それでも決して休む事なく、自分を律し続けてた。
重なるな……あの頃の大和の姿と。
ぼんやりと犬を視ていた。
会ったらすぐにかっさらおうと思っていたのに、すぐにでも声を掛けるつもりでいたのに。
真面目な顔で頑張る犬を視ちゃったら、ジャマしちゃ悪いと思っちまった。
だから、声もかけずに眺めていたんだ。
……
…………
しばらくして、雷神号はここでようやく動きを止めた。
数十本の往復ダッシュを消化した後、小休憩に入ったようだ。
話しかけるなら……今がチャンスか?
離れた場所での体育座り(極力ジャマにならねぇようにした)。
アタシは立って、犬に向かって手を振った。
『おーい! 雷神号ー! おはよー! 覚えてるかー? 朋美だー! バッドアップルの朋美ー!(ブンブンブン)』
手を振るついでに大声を張り上げた。
1回しか会ってねぇから念の為、名前を名乗ってアピールだ。
雷神号はすぐに反応してくれた。
霊体ごとアタシに向いて、開けた口から息を吐いて笑ってみせた。
『おはよう、朋美。もちろん覚えているよ。朋美の事も翔の事も、他のみんなの事もね。この間はとても楽しかった、ありがとう』
おっ!
良かった、忘れられてねぇみてぇだ!
1回しか会ってねぇのにアタシのコトを覚えてるのか……ほぉ、……もしかして脈アリだったりするんじゃねぇの? ……って、イカンイカン。
今のはダメだろ。
こういう思考はモテないヤツの典型だ。
たかだか目線が合っただけで、”コイツ、アタシに気があるのかも” となるのと同じ。
浮かれるな、気を引き締めろ(スッゲェ嬉しいけど)。
『”ありがとう” はコチラこそだ。アタシらもスッゲェ楽しかった。特に、ウチのランナーと雷神号の駆けっこがな』
『ははは、実は私もだよ。思いっきり走れて気持ちが良かった』
『そうか! じゃあまた競争しようぜ! ランナー、”次こそは勝つ!” って言ってたしよ』
『それは楽しみだ。……それで? 朋美はなぜここに? こんなに朝早くから、もしや私に用事があって来たんじゃないか? だとすると待たせてしまってすまなかった。匂いで分かっていたんだが、……なにせ訓練に没頭してて、後回しにしてしまった。無礼を許してくれ』
うっはー!
端っこで小さくなって目立たないようにしてたのに!
さすがは犬だ。
嗅覚、ハンパねぇ!
コソコソしてても匂いでバレてた!
ドキドキしつつも平静を装った。
雷神号は勘が良い。
アタシが犬に会いに来たコト、これもとっくにバレている。
ま、でもな、こんな早朝。
誰もいない虹のふもとに用もなけりゃあ来ねぇわな。
よし、言うぞ、言うぞ……!
積極的にアピールタイムだ!
『ん、あー、大当たりだ。アタシ、雷神号に会いに来たんだ。来てみたら訓練中で、ジャマしちゃ悪いと思ってさ。終わるまで見学してた。アタシの方こそ約束もなしに押しかけた。無礼を許してくれ。あのな、雷神号。今日はあんたに話があるんだ』
ヤベ、ドキドキしてきた。
でも、ここまで言ったら引き下がれねぇ。
出した刀、引っ込めらんねぇ。
『話? そうだったのか。分かった、聞くから話してくれ』
雷神号は答えながら芝生の上に横座り。
アタシを視上げて小さく鼻を鳴らしてる、……これは、アタシにも座れってコトだな?
OK、そうさせてもらうよ。
犬の前にアタシはドッカリ胡坐をかいた。
距離は近く、手を伸ばせば黒い毛皮にヨユーで届く。
『雷神号、…………おっとその前に。せっかくだからコレ渡しておくわ。犬用の高級ブラシ。黄泉の国で視つけたんだよ。あんたに使ってほしくてさ』
こんなの興味ないかな?
ただの押し付けになっちまうかな?
でもいいや、だってホントに使ってほしいと思ったし。
雷神号は差し出したブラシを視て、……そう、意外な反応をしたんだ。
『ブラシか……懐かしいな。昔生きていた頃、主は毎日私の身体をブラッシングしてくれたんだ。あれが気持ちよくてねぇ。それだけじゃない、幸せな気持ちにもなったものさ。朋美、ありがとう。遠慮なくいただくよ』
あ……雷神号の尻尾、地面をパタパタ叩いてる。
本当に嬉しいんだ、……ヤバ……アタシまで嬉しくなってきた。
『喜んでくれて良かったよ。それで……と、さっそくだが話をさせてくれ。単刀直入言う。雷神号、ウチの隊に入らねぇか?』
直球でいくしかねぇ。
アタシにしては珍しく、この数日間ウダウダ悩んだ。
でも吹っ切れたんだ。
アタシは雷神号がほしい、でも、雷神号の気持ちも大事にしてぇ。
話を聞いた雷神号はポカンとしていた。
言ってる意味がよく分からない、そんな顔をしてるんだ。
でも怯むもんか。
ダメで元々、気持ちだけはぜんぶぜんぶ伝えてやるんだ。
『びっくりしたか? でもアタシは本気だ。なぁ、しばらく隊に来てくれよ! あんたなら即戦力になる! 本当は正式な隊員に迎えてぇんだがよ、それは無理なんだろう? あんたのボスは他にいる。だから有期限……いつかその日がやって来るまで、それまで一緒に戦わねぇか? 一緒に現場に出たいんだ。仲間になってほしいんだよ』
気づけばアタシは雷神号の前足を握りしめていた。
両手でさ、骨太なモフモフ足を掴んでさ、まるで愛の告白みてぇに力入れて話したんだ。
雷神号はさらにポカンと黙っていたが、やがてしばらく時間が経って、開けた口から息を吐いて笑ってみせた。
そして言ったんだ。
『ああ、いいよ』
と。




