第二十七章 霊媒師 繋がり-2
『うぅ……美味い……うぅ……うう……美味すぎるるるぅぅぅぅ!』
真さんが号泣してる。
塩つくねを前にして涙をダバダバ流してる。
いやな、気持ちは分かるよ。
実際、ユリのメシはスッゲェ美味いし。
でもよ、さっきとえれぇ違いだな。
田所を地獄に送った後、真さんは俺に背を向けコソコソ泣いてた。
なのに今はどうだ。
俺とユリが視てるっつーのに、そんなの気にせず泣いている。
”美味い美味い” と泣きながら笑ってるんだ。
ユリは、そんな真さんを視て大いに慌てていた。
「じ、爺ちゃん! ただのつくねに大袈裟だよぉ!」
焦った顔でそう言って、だけどやっぱり嬉しそうだ。
自分が作った物をこんなにも喜んでいる、ユリの眉はハの字だが、それでも顔が溶けちまってる。
ユリ、良かったな。
俺も夢中で食べていた。
塩つくねをモグモグしながら白飯もバクバク食べる、箸休めにキュウリの浅漬け。
霊力を使ってカロリー消費、すきっ腹にこの御馳走はたまらなく幸せだ。
つーか、真さんは俺以上に幸せを感じてるんだろな。
なんてったってユリのメシを食うのは1年振りだ。
真さんは死者だからモグモグ咀嚼は出来ねぇけどよ、俺達生者が ”さあ食え!” と言ってやれば、口の中に味が広がる。
美味くて懐かしい、気持ちの入った愛情料理が味わえるんだ。
『本当に美味い、優しい味だ。……ユリ、誠、ありがとな。俺はとっくに死んじまって、なのにこうしてユリの料理が味わえる。夢みてぇだ、幸せで幸せでたまらねぇ。でもよ、ユリと誠と3人でメシを食った、なぁんて話をしたらよ、貴子と婆さんに文句を言われそうだ。お父さんばっかりズルイ! ってな』
厳つい顔してデレデレしている真さん。
ユリもおなじだ。
顔をふにゃっとやっこくさせて、
「じゃあ、今度はママと婆ちゃんにも来てもらおう。それで、お義父さんも一緒にゴハンを食べるの。家族みんなで」
幸せそうに、嬉しそうに、そう言ったんだ。
夜食を終えて腹も心も満たされた。
ユリはニコニコ、嬉しそうな顔をして食後のお茶の用意をしてる。
「悪いな。腹がパンパンで動けねぇや」
俺が言うとユリはブンブン首を振り、
「ううん。マコちゃんも爺ちゃんも座ってて。今おいしいの淹れてるからね。マコちゃんはカモミールで良い? 夜遅いからこれが良いかなぁって」
お茶セットのハートのカゴにストックしてあるティーバッグから、ノンカフェインをチョイスした。
さすがはユリだ、こういう気遣いは俺には出来ねぇ。
下手すりゃ夜中にコーヒーを出しちまう。
「爺ちゃんは緑茶で良い?」
ユリが聞くと、
『あぁ? ああ、うん、そうだな……なぁ、ユリ。今言ったカモ……カモナントカってのはなんだ? よく分かんねぇけど、俺にもそれを淹れてくれ』
真さんはユリの傍にサッと移動でそう言った。
んでよ、こっからまた大騒ぎが始まったんだ。
『それでよ、カモナントカってのは外国のお茶なのか? それ美味いのか? 誠が好きなお茶? ハーブテー? 聞いたコトねぇな、……あっ!! ユリ、ポットからお湯を出す時はよそ視をするな! ヤケドしたら大変だろうが! ちゃんと前向いて集中してお湯を入れろ! ユリは小せぇ頃からそそっかしいから爺ちゃん心配だ。視た目と違ってあわてんぼうだし、……そういやあ(ニヤニヤ)、さっき誠に言われたんだ。ユリのあわてんぼうは俺に似ちまったってよ(デレデレデレ)。そうかなぁぁぁ?(ニヤニヤニヤ)そんなに似てるかぁぁぁ?(デレデレデレ)ま、田舎でも近所のヤツらによく言われたけどな。てコトはよ、やっぱり俺に似てるんだろうなぁ(ニヤニヤデレデレ)、あっ! ポットのお湯が跳ねてんじゃねぇか! 気を付けろ、もっと集中してだなぁ、』
ユリの背中にへばりつき、右に左にチョロチョロしながらあーでもねーこーでもねーと口煩せぇ。
最初はニコニコしていたユリも終いには、
「んもー! 爺ちゃんじゃまー!」
プリプリと怒っちまった。
ははっ!
そりゃあ怒るわな。
メシを食って茶を飲んで、一息ついた後。
約束通り、田所がどうなったのかをユリに話した。
とは言っても詳しくは話してねぇ、ザックリだ。
ユリは心が優しく怖がりで、あとよ、すぐに自分を責めちまう。
なんでもかんでも自分が悪いと思い込む。
だから言わねぇ、……特によ、小せぇ頃の夢遊病の話とよ、田所が闇の触手に捕らわれた時、
____ユリ! 貴子! 助けてくr!!
と、妻と娘の名前を呼んだ事は絶対だ。
言わなくて良い事ってあるんだよ。
真さんも同じ事を考えたのか、示し合わせた訳でもねぇのに余計な事は喋らなかった。
話した事は単純に、俺が田所をボコった事と、俺がヘマして噛まれた事。
それから、俺のピンチに(これは勘違いだが)真さんが空から降って助けてくれた事、真さんがハンパねぇスキルを習得してた事、……だ。
……
…………
ザックリだがすべての話を聞いたユリは、
「そっか……父親《あの人》はもう……」
小せぇ声でポツリと言った。
お茶の入ったカップを両手で持って膝の上にのせている。
俯き加減で丸める背中が、……えらく小さく儚く見えた。
「ユリ、もう大丈夫だ。田所は二度と姿を現さねぇ。最後はな、真さんがヤツをやった。すごかった、まるで手練れの霊媒師みてぇでよ。高度な印を難なく結び霊力を発動させたんだ」
本当にすごかった。
ボコるくだりは聞かせたくねぇが、真さんの血反吐の努力は伝えてぇ。
「爺ちゃんが……? 霊媒師さんみたいだったの? え……でも、霊感なんてなかったのに、」
驚くユリは真さんに目をやった。
真さんは照れているのか頭をガリガリ搔いている。
「ああ、正直俺も目を疑った。ウソだろ? って思ったよ。ユリを守りてぇ、だから必ずなんとかすると、去年、真さんは言っていた。その為に黄泉の国で修行をしてると聞いてたけどよ、まさかあそこまでなぁ……ありゃあ、並大抵の努力じゃねぇよ。ユリの為に必死になって頑張ったんだ。だからよ、俺は結局なんもしちゃいねぇ。真さんがユリを守ったんだ」
とまぁ俺なりに伝えたんだが、真さんはなんでかアタフタ慌てちまった。
『バッ! 違えわッ! 本当は誠だけでカタがついたんだ。なのに俺が早とちりしてジャマしちまった。悪かったな……でもよ、誠はその後、俺に任せてくれたよな。そのおかげで長年の胸のつかえが取れた。これからは前だけを向いていける。家族の事だけ考えられるんだ』
家族の事だけ……か。
ああ、そうだな。
田所はもういない。
真さんがケリをつけたんだ。
ユリの為に、貴子さんの為に、婆ちゃんの為に、それから真さん自身の為に。
「いやマジすごかったんだって! 印は結ぶは、背中から触手は生やすは、マグマは出すわで、ウチの会社にスカウトしてぇと思ったわ!」
深夜のドーナツはカモミールと相性バッチリ、まるで俺とユリみてぇだ。
ユリは ”こんな時間にドーナツなんて” とガマンしてたが……んぷ、ユーワクに負けて結局食ってる。
意外なコトに真さんも甘いモンが好きらしく ”こういうのは別腹だ” とゴキゲンだ。
「えぇ! スカウトしたいくらいなの? 爺ちゃん……すんごい! 元々霊力なんてなかったのにビックリだよぉ! でも……修行、大変だったんじゃない? 相当頑張ったんでしょう? 爺ちゃんは困難にぶつかるといつも言ったよね。”出来ねぇじゃねぇ、やるんだよ” って。そういうのって口で言うのは簡単だけど、実際はそうじゃない。やっぱり爺ちゃんはすごいなぁ……本当に尊敬するよ」
最初ははしゃいで、だが最後の方は声のトーンが真面目になった。
そんなユリは ”おくりび” の事務担当で霊媒師じゃあねぇ。
でもよ、霊力を少し持っているから、会社を守る植物結界の管理を任せている。
週に2回、社屋に絡む蔦の葉に霊力をたっぷり流し込むんだ。
作業自体は簡単だけど、霊媒師でもなんでもねぇ事務員がそれをするには難がある。
最初は上手く出来なかった、何度も失敗した、だけどユリは諦らめなかった。
努力に努力を重ねてよ、時間をかけて出来るようになったんだ。
その経験から、スキルの習得がいかに難しいかを身をもって知っている。
だからこそ、”尊敬する” と自然に言葉が出たんだろうな。
真さんはスッゲェェェェ照れていた。
頬を真っ赤に大汗掻いて、口を尖らせソワソワしてる。
孫に褒められ感無量といったトコか。
んで、
『ユリこそ大袈裟だ。俺はよ、ただただおまえを守りたかった。だからちっとばかし力を入れただけだ。それにな、俺はツイてたんだよ。なんてったって教えてくれる先生が最高だ。霊力もある、技術もある、根性も真っすぐでよ。瀬山先生が懇切丁寧に教えてくれた。ありがてぇ話だよ、本当にな』
と目を細めて言ったんだ。
つーか……よくよく考えたらスゲェよな。
瀬山彰司さんと言ったら霊能界隈でのレジェンドだ。
亡くなって結構経つのに、いまだ瀬山さんを超える霊媒師は出てこねぇ。
百年に1人の逸材と呼ばれ、日本中の霊媒師が教えを乞いたいと切願してる。
でも瀬山さんは滅多な事では教えねぇんだ。
口寄せもジジィ以外は拒否をするから会う事すら難しい。
その瀬山さんから直接指導を受けた者はたったの2人。
霊媒師であるエイミーと……生前は林業で、霊 能 の レ の 字 も なかった真さんだけ。
他の霊媒師共がコレを聞いたらハンカチ噛んで悔しがるわ。




