第二十七章 霊媒師 繋がり-1
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時刻はド深夜、草木も眠る丑三つ時。
”なんか食わせろ、ユリにも会わせろ”、そう言って騒ぐ義祖父と連れだって、母屋へと戻って来た。
玄関入って靴を脱ぎ、廊下を真っすぐ歩いたトコロの突き当り……には客間がある。
去年、清水家と藤田家で顔合わせをした部屋だ。
客間を指さし、真さんにそれを言うと、
『ああ、この部屋だったな。……大和も元気か? 久しぶりに会いてぇけどよ、夜も遅ぇしまた明日だ。つったって、大和に俺の姿は視えねぇからなぁ……仕方がねぇ、猫に来てもらうか』
とまぁ、大福呼ぶ気満々だ。
視えねぇから諦める、じゃあねぇんだな。
そんなん聞いたら、親父スッゲェ喜ぶわ。
廊下を挟んだ客間の対面、左に行けばキッチンがある。
キッチン奥にはリビングがあり、毎日ここでユリと親父とメシを食ってる。
食事の用意は交代制で、3人だから3日に1度の順番だ。
昨日はユリが当番で、冷蔵庫にはユリの手料理が少しだけ残ってるんだ。
今夜はそれを食わせてやるよ。
真さん、アンタついてるな。
来た日がズレてりゃ出すのは俺か親父の手料理だ(それだって美味いけどな)。
んで、リビングを通り抜けたら、さっきより狭い廊下に出るからよ。
リビングを背中に右の端が親父の部屋で、左の端が俺達の部屋だ。
……
…………と、家ん中を歩きつつ、俺はペラペラ喋ってた。
ユリがここでどんな暮らしをしてるのか。
真さんはスッゲェ気になってるはずだ。
幸せなのか、大事にしてもらっているのか、まだ10代の若いユリは家事をちゃんとやれているのか……とかな。
だから、メシの支度は当番制とか、そんな話もしたんだよ。
ユリが来る前。
ウチはずっと父子家庭で、親父と2人で協力してやってきた。
メシも掃除も洗濯も、ずっと前から当番制だ。
ユリにばっかり負担をかける、なんてコトは絶対ねぇから安心しとけ。
真さんは、ユリの話ならなんでも嬉しいみてぇでよ、デレデレしながら聞いていた。
こんな顔を視ちまうと、早く会わせてやりたくなる、俺もなんだか嬉しくなる。
「ちょっと待ってろ、すぐに連れてくるから。あ、でもよ、寝てたらどうする? 起こすか?」
こんな時間だ。
寝ちまってても不思議じゃねぇ。
そう聞くと真さんは、
『いや、無理に起こさなくていい。寝かしといてやれ。なに、起きるまで待ってるから問題ねぇよ』
さすがだな、すぐにでも会いてぇだろうに孫ファーストだ。
ま、そう言うとは思ったけどよ。
とりあえず、部屋に行ってみるか。
もしもユリが眠っていたら、そん時は先にメシを食わせてやろう。
ユリの作った料理を温め、真さんに出してやるんだ。
つーか俺も腹減った。
霊力を使ってカロリー消費、腹がグーグー鳴っている。
廊下を歩いた突き当り。
「ユリ、起きてるか?」
コン、
と短くノックをしてからドアを開けると……
「マ、マコちゃん!」
ユリは起きていた。
部屋着の毛糸のワンピースの上、タンスの中から引っ張り出したか、俺のシャツをガウンみてぇに羽織ってよ、目が合うなり子犬みてぇに駆けてきたんだ。
ドンッ、
とぶつかるみてぇに抱き着くユリは、
「ごめんね、ごめんね、ケガしてない? マコちゃんばっかりごめんね、」
そう言ってグズグズと泣きだした。
あーあー、まったくユリは泣き虫だ。
ケガなんかしてねぇよ、心配すんな。
言いながら髪を撫ぜて頬も撫ぜ、指で涙を拭いてやる。
見上げるオデコに口づけてから、俺もギュッと抱きしめた。
「……もう大丈夫だ、ぜんぶ終わったからよ」
ユリは、腕の中で何度も頷いた。
鼻をすすり、子供みてぇに顔を押し付け ”ごめんね” と繰り返す。
そのたびに、髪から漂う甘い匂いに酔いそうになる。
愛しくてたまらねぇ、好きで好きでたまらねぇ、…………んだけどよ。
どうも気が散るな。
抱きしめたユリの頭の向こうには、一緒になって涙を流す巨大な龍と、両手で顔を隠しつつ、指はVの字、ちゃっかり俺らを視ている3霊。
そう、ユリの護衛につけておいた赤い龍の龍呼とよ、思業式神、壱号弐号参号が好き勝手に盛り上がり、暑苦しいコトこの上ねぇ。
でもよ、俺が安心して現場に行けたのはコイツらのおかげなんだよな。
「おまえら全員、ユリを守ってくれてアリガトな。明日になったらおまえらの好物を用意するからよ。今夜はゆっくり休んでくれ。還、」
感謝の言葉と帰還の言霊。
言い終えると式神達は、俺の中にスゥッと消えた。
改めて2人きりだ。
ユリの頬を両手で包むと見る見るうちに赤くなる。
目が合って、ユリは慌てたようにこう言った。
「マ、マコちゃん、みんなを還すの早いよ、ちゃ、ちゃんとお礼言えなかった。あのね、みんなすごく優しくしてくれたの。マコちゃんが心配で不安だったけど、みんながいてくれたから怖くなかったの」
「そうか、それなら良かった。お礼は明日にでも言えばいいさ。アイツらも喜ぶよ。それより……ユリ、眠たくねぇか? まだ少し起きてられるか?」
なんてたって真さんは孫ファーストだ。
ユリが今、眠いかどうか確認した方が良いだろう。
「大丈夫だよ、眠くない。心配で眠気なんか吹き飛んじゃったし、それに……話も聞きたい、」
優しく、そして少し不安気な笑顔だ。
気になってるんだろうな、父親がどうなったかってよ。
話すよ、ちゃんと話す。
でもよ、その前に……
「ユリに会わせてぇヒトがいるんだ」
俺はユリの手を引いて、リビングへと向かった。
ちっさい手だな。
俺からしたら赤子みてぇな手のひらだ。
柔らかくて湿ってる。
ユリの手が乾いていたコトは今まで1度もねぇんだよ。
曰く、”手を繋ぐとドキドキして手に汗を掻いちゃうの” って、耳まで真っ赤にさせるんだ。
エイミーじゃあねぇけどよ、俺の嫁は世界で1番可愛いわ。
「マ、マコちゃん、こんな夜中に会わせたい人って誰なの……? 私、部屋着のままだよ、こんな格好じゃあ失礼になっちゃう。着替えるから少し待って、」
奥の部屋で寝ている親父を気にしてるのか、ユリは小声でそう言った。
眉を下げた困った顔で焦ってる、それがまたスッゲェ可愛い。
「ダイジョウブ、心配すんな。そんなの気にしねぇよ。寒くねぇ恰好、あったけぇ恰好。それさえクリアしてりゃあよ、あのヒトはなんも言わねぇ」
「で、でも、でも、」
「大丈夫だって。会えば分かるから」
驚く顔が見てぇ、喜ぶ顔も見てぇ、どっちも見てぇ。
だから内緒、サプライズというヤツだ。
今夜まさか、真さんが会いに来るとは思ってもいねぇはず。
リビングで待ってる、その相手が誰なのかはユリの目で確かめるんだ。
ガラッ、
「待たせたな、」
引き戸を開ければ、そこにいるのは胡坐をかいた真さん。
”おぅ” なんて恰好をつけて、右手をスチャッとあげている。
俺の背中でモジモジしていたユリはというと、声を聞いて一瞬固まり、だけどすぐに顔だけ出すと、
「じ、爺ちゃん!?」
そう言って目をまん丸に驚いた。
でよ、そんな孫を目の前にした真さんは、
『ユリ、久しぶりだな。元気そうじゃねぇか』
精一杯ヨユーの顔でそう言ったけど、口はモゴモゴしてるしよ、そもそも目が笑っちまってる。
激嬉しいのがダダ洩れだ。
ユリはソワソワ。
子供みてぇな顔をして、俺を見上げて言ったんだ。
「マ、マコちゃん、爺ちゃんがいるっ!」
んぷ! 笑かすなって。
知ってるよ、連れてきたの俺だしな。
「ああ、いるな。ユリ、真さんに会えて嬉しいか?」
聞けば嫁はコクコク何度も頷いた。
ついでに義祖父もガコガコ頷く。
2人は同時に目を合わせ、同時に溶けた笑顔になった。
そんでよ、
「爺ちゃぁぁぁぁん!!」
『ユリィィィィィィ!!』
なッ!
ここまで息が合うものなのか……!
と驚くくれぇのシンクロで、同時に呼び合い同時に両手を大きく広げ、そして同時にタッと小走り。
祖父と孫はリビングの真ん中で両手を重ねて喜び合った。
あーあー、ユリはまた泣いちまった。
でもいいか、だってスッゲェ嬉しそうだ。
真さんは、さっきの閻魔がウソみてぇに笑ってる。
触れるコトは出来ねぇけどよ、ユリの頭をワシワシ撫でて、目尻をシワシワにしてやがるんだ。
なんだろな、なんでか知らんが2人をみてたら鼻の奥がツンとしてきた。
夫婦は似てくると言うけどよ、まさかと思うがユリの泣き虫がうつったか?
とりあえず、俺は1人リビングを後にした。
向かった先はキッチンで、冷蔵庫からユリの料理を取り出した。
皿の上にはシソを巻いた塩つくね、これがまた絶品なんだ。
つくねだけで白メシ3杯食べられる。
塩つくねをレンジに入れて温めて、浅漬けも用意した。
どんぶりに山盛りご飯をよそったら、お盆に乗せて持っていこう。
真さん、ユリの手料理を食べるのはいつぶりだ?
出したらきっと大喜びだ。
ははっ!
みてろ、爺さんを泣かせてやるぜ。




