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霊媒師募集  作者: たまこ
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二十六章 霊媒師 誠と真-24

凄みの声で ”起きろ” と言われた田所は、薄く目を開け頭を振って、それを何度も繰り返す。

背中を丸めてぼんやりと、目の前の真さんを視てるんだか視てねぇんだか、目の焦点が合ってねぇ。


真さんは、そんなコイツをのんびり気長に待つはずもなく、乱暴に顎を掴むと潰すが如くに締め上げた。


『田所ォ、聞こえなかったのか? 俺はよ、おまえに ”起きろ” と言ったんだ。寝ぼけてねぇでとっとと起きろ』


ギッと骨の軋む音。

コイツの顎の片側はすでに俺が潰してる。

それもあってか田所は、痛みですぐに飛び起きた。


『ガァッ!! い、いてえっ!! うぁ!? あぁ? 顎、顎、……いてえ!! いてえよっ!! な、なんなんだ!? あ、あれ? 道は? 俺、どうなったんだ? ……あぁぁぁあああ!!! だからいてえっつってんだろ!! は、離せ……!! …………オマエ誰だよッ!!』


状況がまったく分からず ”離せ離せ” と喚く田所。

真さんは悪鬼の顔で不気味に笑うと、更に顎を締め上げながらこう言った。


『……俺が誰だか知りてぇか? そうか……おまえ、俺の顔を視ても分からねぇんだな。俺はよ、おまえの事はよぉぉく知ってる。生きていた頃、散々調べ上げたからな。

……田所(しゅう)、H県出身の生きていれば47才。地元では厄介者の鼻つまみ。学生の頃、おまえ女を殴ったよな。それで地元にいられなくなり、進学を建前に上京したがすぐに退学。親の金で数年ブラブラした後に就職してよ。そこで出会った藤田貴子と結婚した。結婚してすぐに子供が生まれたが、その頃にはもうおまえは会社を辞めちまってた。

ハァ……どうしようもねぇクズだ。だがおまえのクズっぷりはそれだけじゃねぇ。仕事もしねぇで飲んだくれ、妻と子供に毎日暴力振るってよ。挙句の果てには幼い娘を売ろうとして、それを止めた妻を絞殺。……以来、11年の刑務所暮らしをしていたが、最後は受刑者とトラブル起こして獄中死____違うか?』


…………真さん、そこまで知っているのか。

当時はネットも今ほど盛んじゃなかったはずだし、いや、ネットがあってもここまでは調べられねぇ。

なのに知ってる、俺が視たヤツの過去と完全に一致している。

これも執念か……大事な娘を殺したヤツへの強い怒りを燃料に、何年もかけ、コツコツ調べ上げたんだ。


『…………なんなんだよ……なぜそこまで俺の事を知ってる……ユリの旦那といいアンタといい、気持ち悪いヤツらだな……』


田所は青ざめていた。

自分が知らない人間が、自分の事を事細かに知っている事に、気味悪そうに眉をしかめて狼狽えている。


それを聞いた真さんは血が出る程に口を噛み、半歩前に田所と距離を詰め、そして____


『”気持ちが悪い”? テメェが言うな。俺からすればテメェの方が気持ちの悪い狂人だ。それより……俺が誰だか知りてぇんだよな? いいぜ、教えてやるよ。俺の名前は藤田真、…………ああ、そうだ。貴子から聞いた事くれぇはあるだろう? ……当たりだよ、おまえが殺した藤田貴子の父親だ。田所よ……俺は全部知っている。テメェの勝手な理由でもって貴子を殺し、幼いユリにも手を上げた、…………よくも……よくもそんな事をしてくれたなぁ……!! 俺はおまえを絶対に許さねぇ……!!』


____地を這うような低い声。


途端、田所はガタガタ霊体からだを震わせて、足を引きずり後ずさる。

真さんは無言の圧をまき散らし、悪鬼の顔で前に出た、その瞬間。


『うわぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!』


謝罪の言葉のひとつも言わず、田所は踵を返して逃げ出した。


俺はこの時、すぐに後を追おうとしたんだ。

だが、真さんはそんな俺を手で制し、かと言って追う事もしなかった。

代わり、真さんは静かな声で言ったんだ。


『誠……よく視とけ。俺がヤツを捕まえるから』


意味が分からなかった。

捕まえる気ならなぜ追わねぇ、突っ立ったまま奴の背中を視てるだけ、……やっぱり俺が追うしかねぇと、走るフォームに入ったその時、信じられねぇモノを視た。


真さんは俺の目の前。

素早い動作で両手両五指手指を絡めて、印を結びだしたんだ。


ババババババババババッ!!


なんだこの印……!

視た事がねぇ!

なんの印だか分からねぇ!

真さんは何をしようとしてるんだ!?

ああ待て、それも勿論気になるがそれより速度だ。

印を結ぶ動きが異常に速くてよ、手指が溶けて目で追えねぇ!


ウソだろ……?

俺は印に釘付けだった。

真さんは霊媒師じゃねぇ、生前は林業だ。

なのによ、複雑かつなげえ印を手元も視ねぇで結んでるんだ。


____絶対にユリを守る、

去年確かにそう言った。


____必ず何とかする、

その為に黄泉で修行を積んでいるとは聞いていた。


____なんだってしてやるよ……!

素人が霊力ちからを操る、口で言うのは簡単だがよ。

とてつもなく難がある、ちょっとやそっと努力したって限界がある、なのによ……!


真さんが印を結ぶ、視るのはこれで2回目だ。

1回目は俺んちで、エイミーの身体を乗っ取った。

あの時はえれぇ時間がかかってた。

手元を視ながらたどたどしくよ、ゆっくりどころの騒ぎじゃなくて、一つ一つ確かめながら、汗水垂らしてどうにかこうにか結んでたんだ。


あれから1年も経っちゃいねぇ、なのにコレかよ。

アンタ一体どんな修行を積んだんだ?



結ぶ印は失速もせず、それどころか更に速度が上がってく。

田所は途中で何度も転んでいるが、だいぶ先まで行っちまった。

ダイジョブか……?

間に合うか……?

視失っても霊視で探せば視つける事は出来るがよ、その間、奴はきっと悪事を重ねる。

【闇の道】が新たに来れば、また誰かが犠牲になる。

そんな事はさせたくねぇ……!

真さん、急いでくれ!



ババババババババババ……バッ!!


手指が止まった、……なにが起きる?

どんな霊力ちからが発動される……? ……と思った次の瞬間だった。

汗一つ掻いてねぇ、真さんは背筋を伸ばして胸を張り、そして____



ブワッッッ!!!



「つ、翼……!?」


”藤田林業”、金糸の刺繍で描かれた背中。

そこから左右に空に向かって闇色の、クソデケェ翼が2枚勢いよく飛び出したんだ。

言葉が出なかった、……真さんは悪鬼の顔で、メートル単位の闇の翼を背中に生やして前を視て、俺はそれをただただ眺め…………あ……ちげえな、これ……翼じゃねぇ。

よくよく視れば翼はうねうね波を打ち、それらはいくつも重なり合って____


ジリ……、真さんは足を擦って半歩前に、乾いた声で短く言った。


『行け、』


直後、背に生える闇色が一気に動いた。

重なり合って翼に視えた数多のそれは、一本一本ばらけて飛んで、宙を切って速度を持って田所の背中を追った。


それは半瞬だった。

”あっ” という間もねぇ、追って追いつき締め上げて、拘束された田所が俺らの元に連れ戻された。


『チクショォォォォ!! 離せ!! 離せよォォォォォ!!』


締め上げられた田所は宙に浮かんでいた。

真さんの背から生える闇色の、そのすべてに縛られ指一本動かせねぇ。



「……真さん、これは一体どういう事だ……?」


聞かずにはいられなかった。

だってよ……この黒いの……触手だろ?

悪霊を地獄へ送る【闇の道】、そこに生えてるのと同じヤツだろ?


田所をジッと視ていた真さんは、ゆっくりと顔を向け、こう、答えてくれたんだ。


『これが俺のスキルの一つ。チェーンソーでぶった切ったモノ、それを俺の中に取り込む事が出来るんだ。取り入れたら俺のモンになるからな。どうとでも自由に使える。さっき、誠を助けた時に闇の触手を切っただろう? あん時すでに取り込み済みだ』


チェーンソーで切ったモノを取り込める……?

ちょっと待て、簡単に言うなよな。

それ、簡単じゃねぇだろ。

さっき触手をぶった切ったが、あんなの、一瞬だったじゃねぇか。

あの時すでに取り込み済みで、それを取り出し思いのままに操ったって事なのか?

ウソだろ……?

いや……だが現に闇の触手を操った、俺はそれをこの目で視たんだ。



真さんは驚く俺に淡々と、


『……驚いたか? これな、先生に教わったんだ。誠も知ってんだろ? 瀬山彰司、元霊媒師のあのひとからだ。

俺はよ____黄泉の国に逝ってから、毎日毎日朝から晩まで血反吐の修行を積んできた。ユリを守りてぇ、貴子の仇を取りてぇ、婆さんの無念を晴らしてぇ、田所を血祭りに上げてぇ、……その執念でやってきたんだ、』


呟くみてぇにそう言った。

そして、ここで大きく息を吸うと目線を上に田所を視る。


『…………長かった、本当に長かった。やっとこの日がやって来た。俺はコイツを許さねぇ。貴子を殺し、死して尚ユリに害を成したんだ。ケジメ、つけてもらわねぇとよ、』


今度はフッと息を吐き、真さんは静かに笑った。

上げた目線はそのままに、一歩、もう一歩と前に出て、田所と距離を詰める。

締め上げられた田所は、霊体からだの自由を奪われて、唯一動く顔を下げるとガタガタ震えて言ったんだ。


『……ま、待て……! お、俺をどうする気だ……!』


はぁぁ……どこまでいってもテメェの事しか考えねぇな。

そこにいるのは通りすがりの男じゃねぇ、おまえが殺した貴子さんの父親だ。

田所よ、他に言う事ねぇのかよ。

呆れてモノが言えねぇわ、怒りで腹が煮えくり返る。

俺でさえこんなに腹が立つんだからよ、真さんはこんなモンじゃねぇだろうな。


『田所ォ……テメェはどうしようもねぇクズだ、……こんなクズ野郎に俺の貴子は殺されたんだ、』


怒りで声が震えてる。

目にはマグマが透けて視え、いつ爆発しても不思議じゃねぇ。

エイミーじゃねぇけどよ、危険度高きけんどこうの状態だ。

なのにここで、身勝手すぎる田所がマグマに油をぶちまけたんだ。


『…………ま、ま、待ってくれ……! お、俺は確かに貴子をった。で、でもよ、あれは俺だけが悪いんじゃねぇ、貴子とユリにも原因があったんだ。ま、まず俺の話を聞いてくれ、聞けばきっと分かるはずだ。だ、だからよ、この触手をほどいてくれねぇか? だ、大丈夫逃げたりしねぇよ、本当だ、約束するから、俺だけ縛られてるのは納得いかねぇよ!』


…………空気が変わった。

重く、なにかに押しつぶされそうな、ゾッとするよな圧迫感だ。

目線を横に滑らせば、鬼の形相、真さんが新な印を結びだし、かったるそうに口を開いた。


『おまえの言い訳なんざに興味はねぇよ。おまえが貴子とユリを殴った理由ワケも、貴子を殺した理由わけも、……万が一、いや、億が一、その蛮行に正当な理由があったとしても、そんなモン、俺にとっちゃどうでもいい話だ。おまえが貴子を殺した、その事実は変わらねぇんだからよ。勘違いすんな。話し合う気はサラサラねぇ。話したって分かり合うなぞ不可能だ。だからせめて痛みを知れ。貴子の痛み、ユリの痛み、婆さんの痛み、俺の痛みをだ、』


痛みを知れ、そう言葉を区切った直後。


『……あ……? あぁ……? あ、あ、あ、アガァァァァアアアアアア!!!』


真さんの背から生える闇の触手が一層ヤツを締め上げた。


ゴキュ!

ゴキュ!


と骨の砕ける音がして、更に触手は形状変化で無数の針が突起した。

針は奴の霊体からだを刺して、僅かな触手の隙間から、血がジワジワと滲みだす。


田所は、声にならない叫びをあげていた。







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