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6・塗り潰す
巫女。魔王。一面の銀世界。
痛む頭を押さえながら、リサと呼ばれた彼女はすべてを思い出していた。
次から次へと溢れ出す記憶は鮮やかすぎて、目眩を感じるほど。
主のいない部屋でひとり、彼女は嘲笑った。
なんて愚かなのだろう。この世界で彼女に幸せなどあるはずがないのに、夢見てしまった。
夢なら覚めなれば良いのにと、願うことすら罪深い。
すべてを思い出した彼女は、もうこの部屋には居られないと思った。
記憶がなく、どこの誰とも知れない自分を拾ってくれた優しい人を、自分の事情に巻き込むことはできない。
ウィオルに告げるかどうか迷った。
面倒を見てもらった手前、黙って居なくなるのは不義理だと感じた。しかし、告げれば巻き込むことになるかもしれない。
迷った挙げ句、彼女はウィオルの帰りを待った。
別れの言葉くらいは自分で言いたかった。
……この時の選択を、一生後悔することになるとは、思いもしなかったのだ。