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雪花舞う  作者: 芍薬
4/19

4・予感

 彼女を拾って、一週間が過ぎた。

 そろそろ限界だろうとは思っていたが、とうとう彼は上職の呼び出しを受けた。


 執務机の向こうで、腕を組んだ壮年の男は強面(こわもて)にいつになく真面目な表情を載せている。

 客観的に見てかなり厳つい顔だが、ウィオルは特に何か思うでもなく彼を見返した。


「ウィオル・グラン。俺はこれでもお前を買っている」

「左様で」

「行き倒れを拾ったことは、まぁ良い。だがな、ここは連れ込み宿ではない。自室に隠したままとはどういうことだ。いつ報告があるかと待っていたんだが」

「とんと気がつきませんでした」

「嘘をつけ。わかっていてバックレていたことなど、とうに調べが付いているわ」


「アホたれ」と吐き捨てた男……隊長デガンは渋面(シブヅラ)を隠そうともしない。

 対するウィオルは淡々としたものだ。

 来るだろうと分かっていたものが来ただけなのだから、動揺するまでもない。


 深々とため息をついたデガンは投げやりに促した。


「それで、どんな女なんだ」

「どんな」


 問われると答えるのが難しい。

 ウィオルは彼女の姿を思い描いてみる。

 夜空の色の髪と瞳、それに黄みがかった白い肌。頼りなげに下を向く姿に、彼は同情を覚えていた。

 外の世界に放り出すには、彼女は余りに無力に見えた。


「上手く説明できません」

「相変わらずだな、お前」


 結局、身のないやり取りを幾ばくか続けたあと、ウィオルは解放された。

 ひとまず彼女を連れてこい、そうでなければ追い出すと重々しく申し渡して、疲れたような表情のデガンにしっしっと手を振って追い払われる。


 ウィオルとしては、デガンを馬鹿にしているわけではない。

 前の配属場所の上司と比べ、格段に話のわかるデガンのことはそれなりに敬っているつもりだ。

 ……伝わっていないようだが。


 自室に戻ると、彼女は部屋の掃除をしていた。

 ウィオルに気がついて顔を上げ、パッと表情を明るくする。


「お帰りなさい」

「……ただいま」


 いまだに、やり取りがぎこちない。

 まっすぐに向けられる笑顔に戸惑うのだと言ったら、少し情けないだろうか。

 天涯孤独のウィオルには、お帰りを言ってくれるような人はいなかったのだから、多目に見て欲しい。


「ウィオルさん」

「何」

「……何かあった?」


 問われて見れば、真顔の彼女が此方を見ている。

 まっすぐ見つめる瞳の奥で、不安そうな色が揺れていた。

 思わずウィオルは手を伸ばした。

 ぱす、と彼女の頭の上に置いた手で髪を掻き回す。

 彼女の年齢は不明だが、ウィオルよりは下だと思う。成人しているか、していないか位の年頃ではないだろうか。


「一度、うちのボスに会って欲しい」

「ボス?」

「隊長だ」


 取って食いやしないよと言えば、彼女は少し照れたように笑った。分かってるよと肩を竦め、ウィオルの手を握る。

 小さな両手にきゅっと力がこもる。


 ウィオルは浮かんだ予感を胸の内に収めた。

 この雪山にたった一人で倒れていた彼女。

 事情を探ってしまったら、見送ることしかなくなるのだろう。

 この部屋の外に出たら、きっと何かが動き出す。

 それを止めることなど、彼にはできやしないのだ。

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