127 孤児院の子供達
おはようございます。私ことアリスティアです。って遊んでないでここは何処だろう?
見慣れない建物。木を編んだ籠に布をクッションにして自分が入っていた。誰かに保護されるとは……まあ死にそうになったらクート君が察知して助けてくれただろうし、シャドウ・ウルフが影に入ってるとはいえ、運が良い。
部屋には多くのベットがある。多分子供部屋かな?でも10個以上ある。随分と子沢山な家だね。
そして部屋には誰も居ない。
まずは自己チェックだ。足は少し汚れているが、清潔なハンカチで止血されてる。痛いが動けない程じゃ無い。
「ア~ア~……声が出る。多分明日の朝には効果が切れそう」
変身薬の効果は試薬なので1日の筈だ。声が出ると言う事は夜なのだろう。
どうしよう勝手にお外で夜を過ごしちゃう。これはお説教案件だ。分身を生贄にしよう。
「……………」
部屋を探索しようとしたら少しだけ空いたドアから怒鳴り声が聞こえてきた。それと何かを殴るような殴打音。
もしかして危ない場所に連れて来られた?ちょっと気になるのでドアから隣の部屋をのぞき込んだ。
「だからよ~これじゃ足りねえって言ってるだろ?いい加減何人か売り払うか?」
「お゛、お゛ねがいじます……この子達だけ゛は」
「だったらスリでもなんでもやれって言ってるだろ?テメエみたいな役立たずでもスリくらい出来るだろうが! 」
「止めろ俺は多めに集めただろ。これ以上手を出すな! 」
「それだけじゃ足りねえんだよ。これじゃ酒代にもならねえ。全く役立たずなガキ共だぜ」
数人の大人が子供を苛めていた。私と同じくらいの少女と少し年上くらいの少年が後ろの子供を庇いながら大人に殴られていた。
ここってどういう場所?これがスラムの日常なのか?ちょっと目に余る。その時、少女と私の目が合った。私は目の刻印が目立たないように半目にしてるので身バレはしないだろうが、少女が分からないように奥に隠れててって感じのジェスチャーをしているので奥に引っ込んだ。
「明日からは銅貨20枚持って来い。じゃなきゃお前等は用済みだ。奴隷商にでも売り払うか」
「良いっすね兄貴。俺も賛成ですわ。それにこのガキなら少しくらい値が付くでしょ」
「わ、分かりました。明日からちゃんと持ってきますから」
「お、おい」
「ほらよ。これでも食って明日も頑張りな」
何と酷い連中なんだ。今日だけで逮捕案件が増えすぎだ。しかも王国の将来を担う子供に罪を犯させようとするとは……許すまじ。
将来的にアーランドも庶民が通える学校を作る予定なのに、これじゃ先が思いやられる。
取りあえず部屋に戻って来た子供達の誰かが私を助けてくれた恩人なのだろう。当然お礼は出すよ。これでも王族だからね。助けられて無償とかありえないから。
「目が覚めたんだ。静かにしててね。あの人達に見つかると売られちゃうから。
それとご飯は…食べる?」
差し出される黒いパン。初めて見た。これが硬いと有名な黒パンか。取りあえず貰っておこう。
両手で挟んで噛みつくが、噛みきれない。硬いだけじゃ無くて時間が経ってる奴だ。無論貰った以上は食べ残さない。パンの4分の1くらい貰ったが、食べるのに20分程掛かった。
「だから反対だって。猫なんか飼える訳ないだろ。それに鳴いたら連中にバレるぞ」
「でも綺麗な猫だし、もしかしたら良いところの飼い猫かも。
勝手に食べたら怒られるかも」
「バレやしねえよ。誰がこんな所まで探しにくるもんか」
ちょ! 私は美味しく無いよ。食べ物じゃないよ。今は猫だけど人間だよ。
「食べるのは勘弁してほしい」
「「「喋った! 」」」
「五月蠅ぇぞ糞ガキ共が! 」
直ぐに隣の部屋から怒鳴り声が響いて皆が委縮した。
暫く静かにすると、私を囲むように子供達が円陣を組む。。声を潜めながらの静かに話し合おう。
「何で猫がじゃべるんだよ」
「それは私が猫じゃないから」
「どう見ても猫だろ……あれか?魔法生物って奴? それとも魔物? 」
どれも違う。でも怖がってると言うより面白がってるのが少年と少女の後ろに隠れていた小さい子供達。止めるんだ髭を引っ張るな。尻尾は触っちゃ駄目。腰を揉むな~~!
暫く子供と言う脅威に晒されたがリーダー格の2人がやんわりと助け出してくれた。子供達はハンターの様な目で私を見ている。おのれ子供達許さん。
「で、なんで話せるの?」
少女が私を持ち上げながら話しかける。私は身をよじって床に降りる。抱っこは嫌いなのだ。
「ちょっと用事でね。後は……魔法薬の失敗? 」
間違ってはいないだろう。魔法薬は別の失敗作の方を飲んでしまったが故の猫化だ。明日には元に戻るが猫生活も意外と面白そうだ。この薬は別の使い道があるので研究を続けよう。
「魔法使いなの? 」
少女が問う。
「そうだよ偉大な魔法使い(になる予定)だよ。
ところで私を助けてくれたのは誰?お礼をしたいんだけど」
「私」
やっぱり目の前の少女か。
「名前は? 」
「マリだよ」
マリか。私と同じ7歳のようだ。(私の誕生日は少し先)
しかし……女の子だよね?髪はボサボサだし服もボロボロだ。
「お礼に幾つかお願いを聞いてあげるよ。荒唐無稽な願いじゃ無ければ大抵は叶えてあげる」
「良いの! 」
まあ、こんな生活をしていれば願い事は大体想像がつく。でもお礼は重要。
「じゃあ……この子達に美味しい物を食べさせてほしいの。もうずっと満足に食べれていないから」
「…………」
驚いた。普通ならお金とかだと思ってた。自分が助けたのだから自分の物を要求すると思ってた。横の少年も少し驚いてる。
私はじっとマリを見る。嘘は無い。私もその程度は見極めれる。
彼女は良い目をしている。信用出来そうだ。じゃあ、彼女を使ってスラムの改革を始めよう。必要なのはスラムの住民だ。どうせ私主導だから誰が御旗でも構わない。
「だ、駄目? 」
「別にいいよ。でもそれで良いの? 食べ物は一度食べれば終わりだよ。次の日は?その次の日は良いの? 」
「流石にそこまでお願い出来ないよ」
「私にかかれば、此処に居る全員を養うのは簡単だよ。でも、自分の力で得られない物にはあんまり価値は無いけどね。
何がしたい?何を願うの? 私が出来る事ならなるべく叶えてあげる」
マリは少しだけ考えると願いを口にした。
「私は……普通の生活がしたい。でも家族が居ないから普通の生活は出来ないかもしれない。だから普通に働いて幸せに生きたい。もうこんな生活は嫌」
だよね。先を見れない生活なんて私も嫌だ。未来は輝くべきだ。宜しい、その願いを叶えてあげよう。
「良いよ。じゃあ私が雇ってあげる。貴方達は運が良い。この将来の大魔導士のアリスティア・フォン・アーランドが君達の生活を保障しよう」
「まさか王女様なの? 」
「然り。私はスラムの視察に来てたの。皆反対するからこうして変身薬を作ってね。まあ変身薬は失敗だったけど君達に会えた。
君達はもうここに住む必要は無いよ」
「それは駄目。ここは神父様が残してくれた大切な場所なの」
「じゃあここでも良いよ。でもあの大人達はどうするの?と言うか誰よ。神官でもなさそうだけど」
マリは余り私の事を信用してないね。横の少年もそうだ。でも証明は先。
話を聞くと、1年前にここの神父様が流行り病で亡くなり彼等が来た。彼等は神父様が借金をしているから返せと言っている。
証書もあるらしいが、全員ほぼ文盲でマリと少年でも簡単な読み書きしか出来ないから真偽不明だそうだ。
これは十分怪しいね。証書は私が確認する事にしよう。普通はこの子達に返済義務は無い。
私はマリ達に待つように頼むと部屋のドアを少しだけ開けて貰う。隣の部屋では酒をたらふく飲んでテーブルで寝てる大人達。数は5人。
「取りあえず『入って』」
「わふ」
私の影……まあ夜だから影は無いけど、足元から影の様な獣が寝てる大人たちの足元に飛び込む。隣で息をのむ子供達。
「あれはペットだから大丈夫。まあ安全策だね。じゃあご飯にしようか。お肉ならイノセントバッファローのお肉があるから焼いて食べよう」
「そんな高級品何処にあるんだよ」
「この中だよ。開け宝物庫の扉」
宝物庫のカギは私が常に身に付けてる。猫でも持てるように形が変わってるのは謎仕様。私でも解析不能なのだ。
そして現れる豪華絢爛な扉。勝手に開いた扉の中には大理石よりも綺麗な謎の石の柱や床。散乱する魔道具達。前より増えてるね。
「お菓子庫のドアを開けて」
「今H2Aロケットの部品作ってるから無理」
「良いから開けて。猫のままじゃ絶対に開かない」
「むう仕方ない」
近くでロケットを作ってた分身にお菓子庫の封印を解除させる。ゴーレムの警備は使用禁止にされたので、コンクリートで囲い封印してるのだ。指紋認証と魔力波によるロックが掛かってるので宝物庫内から取り出すのは今は出来ない。猫だからね。
しかし、後から思ったのだが、宝物庫内で封印しても【クイック・ドロー】で取り出せる。無論私が持てるレベルと言う制限があるが、これも食べ過ぎ防止の為に制限する必要があるのではないか?
取りあえず改善点として記憶の隅に置いといて、私は魔法使いっぽいとんがり帽子を被ると子供達を案内する。
「ここはケーキが置いてある。右の部屋はクッキーで左はパイなどがある。お皿を取って好きに食べて良いよ。それと冷凍庫にお肉はあるけど調味料は無いから好きに焼いて。そこら辺で適当にたき火を起こして良いから」
「ちょっと待った。場所によっては引火するからこっちでやって。それと煙は困る。ちょっと厨房作って来る」
分身が男の子たちと共にお菓子庫から出て行く。男の子はお肉の方が良いようだ。無論ケーキなどをお皿に盛って行ったが。
むう、私は料理出来ないから厨房無いんだよね。コーンフレークに牛乳を投入するくらいなら出来る。因みに紅茶の腕は……まあ不味くは無いと思うよ。誰も飲もうとしないけど。
私は時間外なのでおやつは食べないが、子供達は物凄い勢いで食べてる。ちょっと量が減ってきたかな?もう少し保存しとかないと私の精神の均衡が乱れそうだ。家族にも溜めこんでる事が発覚したので好きに溜めこもう。いざとなれば非常食にもなるからね。
後、お肉はペットの餌の予備だ。
「こんなに美味しい物を食べたのは初めて」
「今後は普通に食べれるよ」
「何でこんなにしてくれるの? 」
マリが口元をクリームでいっぱいにしながら話しかけて来る。私は近くに置いてあるハンカチを渡す。
「そりゃ私は王族で、君達が国民だからだよ。私にも誇りはあるからね。
国民を守るのは当然だと家族も言ってるから。でもお父様もお兄様もスラムに手を出せる程暇も無いし、政治的な敵も多いからね。自由に動ける私が代行してるだけ。
それに王国もお金ないからね。貧乏は嫌」
普通の状態なら真っ先に手を出すだろうが、色々忙しいのだよ。でも忙しいを言い訳にする訳にもいかない。
お金は有限で、出来る事には限りがある。お父様達に出来ない事は私が変わる。代わりに政治の方は任せる。私に政治能力を期待してはいけない。まあ、それを良い訳に社交界から逃れてるんだけどね。ダンスは面倒。テーブルの上に甘味があるのに自由に食べれないんだよ?出る意味ないじゃん。
「よく分からない」
「分かるようになるよ。君達は今後私の元で働く事になる代わりに王国に税金を払って貰うからね。その代りに生活は保障する」
失業率の低下こそが税収の増加に繋がる。無理な増税は必要ないのだ。更に言えば経済力の向上で出生率の上昇を促すなど色々良い面がある。
最も経済が成熟すると出生率が下がる事もあるが、今の王国ならば問題ない。まだまだ成長出来る余地があるのだ。
まあ、彼女達が払う税金は微々たる物だろう。税制は余り知らないが、働いてる人は税金を払う決まりだから彼女達も払う事になるだろう。安心しなさい中流階級には持ち上げるから。
まずは彼女達を労働者として工房を作ろう。魔道具を生み出す魔道具は出来ている。負担もそんなに無い。と言うかレンジでチンするだけだ。
それを商会に売って利益を出す。魔道具は売れるし、一番売れる収納袋を作らせるから利益もウハウハだ。
必要なのは魔道具を卸す商会だ。ポンポコ商会で良いだろう。ポンポコさんは信頼できる商人だ。悪い事には成らない。商会の経営を傾けた事が有るが、将来の利益の為だし。今は安定して砂糖を売ってるだろう。
「じゃあ食べたら今日は寝よう。明日は忙しくなる」
まずは家族の説得だが問題ないだろう。王国にも利益を出せば文句は出にくい。既に飛空船で利益を出してるし、マーサさんの所は他の領地持ちの貴族が嫉妬してるレベルだ。王国にも儲けて貰うよ。
だから邪魔はさせない。
 




