第48報 特例冒険者
「ギルドとして、キミの功績へ金銭だけで応えるわけにはいかない」
「金銭だけでいい」
「私たちの体面がよくないんだ。諦めたまえ」
エリフィアは、1枚の分厚い紙を差し出した。
上部にはギルドの紋章が入り、その下に大きな文字が記されている。
特例冒険者任命書。
「本日付で、リカルドをA級相当の特例冒険者へ任命する」
「特例冒険者!?」
受付嬢が椅子を鳴らして立ち上がった。
「しかも、待遇区分がA級相当!? リカルドさんの冒険者ライセンスはD級ですよ!?」
「知っているよ」
「D級のまま、A級と同じ待遇に?!」
「そういうことになるね」
そこで、ネムハがヘラヘラと笑う。
「やだなぁ、先輩。驚きすぎですよ」
「驚くでしょう?! 特例冒険者は本来、一時的な権限付与などに、例外的に使われる制度ですよ! その場合でも、B級を部分的にA級相当にするくらいです!」
「何ーッ?! それはブシドーマスターがニンジャマスターになってスリケンを白刃取りするようなものではないですかーッ!」
「わかりにくくなる喩えをしないでください」
騒がしい二人を無視し、俺は任命書へ目を落とした。
特例冒険者。
A級相当。
「なるほどな」
そうなると責任が増える。
責任が増えると、面倒も増える。
「いらん」
任命書を2つに破いた。
「ええええええええええっ!?」
受付嬢の悲鳴が、執務室を揺らした。
「何をしているんですか!? 名誉です! 名誉なことですよ?!」
「肩書きで飯は食えん」
「食えます! 講演と献金で働かずして食っていけます!」
「誤解を招く表現はやめてくれるかな」
エリフィアだけは、まったく動じなかった。
「まあ、キミならそう言うと思っていたよ。だから……」
「だから?」
エリフィアが懐から紙を取り出す。
「もう1枚用意しておいた」
「いらん」
また破く。
「もう1枚」
「いらん」
取り出す。
破く。
取り出す。
破く。
「ストーップ! 何してるんですか! 無駄な時間を過ごさないでください!」
「あたしにも! あたしにもやらせてぇ!」
「いいよ。まだ100枚は残ってる」
「うおおおおお!」
「なんでそんなにあるんですか! 暇なんですか?! いや暇なわけないでしょ!」
「リカルドのためなら、時間は惜しまないよ」
「方向性が間違ってます!」
エリフィアがクックックと笑う。。
「さて、冗談はここまでにしておこうか。特例冒険者になることは、キミに明確にメリットがあるよ」
エリフィアは指を1本立てる。
「冒険者ランクはD級のまま。A級依頼を受ける義務も、部隊を指揮する義務も、式典へ出席する義務もない」
「なら、何が変わる」
「全支部でA級相当の身分保証を受けられる。通常はA級以上にしか販売されない希少素材の購入資格。上位研究施設と鑑定機関の優先利用権。禁書指定を含む資料の閲覧申請権」
「なるほどな」
「そういうことさ」
エリフィアの笑みが深くなる。
「キミの欲しがる素材や情報が、今よりずっと手に入りやすくなる。〈賢者の霊薬〉に関するものもね」
俺は、机の上に残された任命書へ手を伸ばした。
「受けよう」
俺は新しい任命書を受け取る。
エリフィアは、心底愉快そうに目を細めた。
「受けてもらえてよかったよ。これで、私のパートナーを侮る者も減る」
「パートナーじゃないが」
「将来の話さ」
エリフィアは気にした様子もなく、書類を整えた。
「特例冒険者としての権限は、本日から有効だ。各支部への通達はすでに送ってある」
「俺が断る可能性は考えなかったのか?」
「断らせるつもりがなかったからね」
俺は任命書を革袋と一緒に鞄へ収める。
「話は終わりか?」
「待ちたまえ」
エリフィアの声から、わずかに冗談の色が消えた。
「もう1つ、キミへ伝えることがある」
「今度はなんだ」
「今朝、教団の療養院から連絡があった」
エリフィアは、一呼吸置いた。
「聖女ディーナが目を覚ましたよ」
鞄を閉じようとしていた手が止まった。
「いつだ?」
「今日の明け方だ。まだ長く話せる状態ではないが、意識ははっきりしている」
エリフィアは、静かに続ける。
「目を覚まして最初に、キミの名前を呼んだそうだ」
俺は何も答えなかった。
ただ、装備の内側に残していた銀細工のチャームへ、無意識に手を当てていた。




