アリアちゃんと愉快な仲間たち
フィオナの誘拐を画策したヴェルガ真教は、全員が近くの街に連行されていった。
大聖堂と内通していた者もいたため、オルビス教からの事情聴取も行われるのだという。
一連の問題を解決したアリアたちは、かつてガルドとフィオナが住んでいた――
森にある丸太小屋を、久し振りに訪れていた。
「うふふ。ここに来るのも、久し振りね」
「はい、本当に。
空けていたのは1年ほどですが、懐かしく感じます」
フィオナとガルドが、しみじみと言った。
倉庫の下に隠していた鍵を取り出し、入り口の扉を開けると……少しだけ、埃っぽい空気が流れてくる。
「あたしも懐かしいですね。
あのときは本当に、いろいろありましたし――」
「本当ですね! アリア様、大活躍でしたもんね!」
腕に抱き着いてくるレイラの頭を、アリアはいつものように撫でて返す。
「レイラだって、大活躍だったからね。
まだ頼りなかった頃だけど……ああもう、こんなに成長しちゃって!」
「えへへへへー♪」
ふたりのやり取りを見たガルドは、おそるおそるザインに尋ねる。
「おい……?
あのふたりって、あんなに仲が良かったか……?」
「うん? オルビスを倒したあと、冒険者ギルドで出くわしてからは――あんな調子だな」
「ほう……。一体、何があったんだ?」
「……さぁて、ね」
ザインはアリアとずっと一緒だったが、レイラのことは特に何も聞いていなかった。
冒険者ギルドで再会したあと、アリアとレイラがふたりで話をしていて――
……抱き着いていったのは、アリアから。
『……レイラって、誰……だったんだろう……?』
――アリアが死に瀕して、口にした言葉。
あのふたりに共通する『前世』というものが存在するのであれば――
きっとその答えが、共有できたということなのだろう。
「ふむ……。レイラとは辛い別れになっていたからな。
仲良くできているなら、素晴らしいことだ」
ガルドはそう言いながら、扉の辺りを少し片付けたあと――
フィオナに呼ばれて、丸太小屋の中に入っていった。
ザインが庭のテーブルに目を移すと、アリアを中心に、メルヴィナとレイラの3人で話をしている。
メルヴィナも、オルビスを倒した直後は大変だったが……今では以前のように、明るくなってくれた。
さらに今回、ずっと心に棘が刺さっていた相手――闇使いのオスクロとも、因縁を清算できたのだ。
……そろそろ、過去には囚われずに生きていけるのではないか。
そう思うと、ザインの肩の荷も少しだけ……軽くなったような気がした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――問題が全て解決して、丸太小屋まで帰ってきた……となれば、夜は宴になるのが当然だ。
既に食材や酒は購入済みで、アリアの帽子で持ち込んでいる。
アリアとメルヴィナは台所に向かい、残りの4人は外でバーベキューの準備を進めていた。
「ガルドさん、火は点けますかー?」
「まだ大丈夫だ。やることがなければ、少し休んでても良いぞ?」
「いえ! アリア様から、準備をするように言われてるので!」
「お、おう……。
ああ、そうだ。魔力に余裕があったら、こいつに火の魔法を入れてくれないか?」
ガルドはポケットから、小さな黒い石を取り出した。
最近ダンジョンから出るようになった『魔石』というもので、魔法を介して簡単な力を付与できるのだ。
例えば火の魔法を使うと、簡単な防寒グッズになる……という具合だ。
「はい、承知です! ガルドさんも、こういうのを持っているんですね?」
「ああ、いざというときのためにな。大聖堂からの支給品ではあるんだが……」
「冒険者の間でも広まってるんですよ。
飲み物を冷やすために、氷の魔法が特に人気で~」
「なるほど……。それも良い使い方だな」
「ただ、私は氷の魔法は使えないので……。今回はご要望通り、火の力を入れちゃいますね!」
手際よく魔法を使うレイラを、ガルドは微笑ましく見つめていた。
そして、それとは違うことに思いを馳せる。
――魔石が見つかったのは、オルビスが倒されたあとだ。
つまりこれは、それまでオルビスが世界に広めなかった力……ということになる。
今は些細な使い道しかないようだが、今後は――
……アリアが技術を駆使してオルビスを倒したように、誰かが他の使い道を探していくかもしれない。
少しずつ、世界が変わっていく実感がある。
それは果たして、良いことなのか、悪いことなのか……。
ただ、それも結局は人間の選択だ。ひとりふたりではなく、人間全体の選択。
選択するという行為を、神から取り返した……人間の選択――
「……ガルドさん?
真面目な顔して、どうしたんですか?」
「あ、ああ。すまない、少しぼーっとしてたな」
ガルドはレイラから魔石を受け取った。
冷たかったその塊は、ほんのりと優しい温かさに包まれていた。
一方、その頃……ザインはフィオナと話していた。
「アリアさんとは、お付き合いしているんですか?」
「ぶふぉっ!?」
ザインが噴き出すと、少し離れた場所のガルドとレイラが視線を送ってきた。
何でもないことをジェスチャーで伝えて、改めてフィオナに向き直る。
「……俺とアリアは、そういう関係ではないですよ?」
「ヘタレですね♪」
「ぶふぉっ!?」
「……ああ、失礼しました。
最近の大聖堂は、言葉の乱れが横行しておりまして」
「は、はぁ……。
そういうフィオナさんは、大聖堂の方はどうですか?」
「いろいろありますよ? 今回も、そのひとつでしたし……」
――確かに今回、フィオナは誘拐されそうになっていた。
オルビス教の内部にも内通者がいたため、これからは大聖堂だからといって安心はできない――
「……大変そう、ですね」
「まったくですね。ガルドがいるから何とかなっていますが……。
でも、一生このままではいけないと思っているんです」
「と、言うと?」
「メルヴィナさんも待っているでしょうし、ガルドのことも解放してあげないとな……って♪」
「いやいや。あのふたりは……恋愛関係にはならないような?」
そう言うザインに、フィオナは冷たく笑う――素振りを見せる。
「そんなことを言って、タイミングを逃しても……知りませんよ?」
「だから、俺とアリアは違いますよ!?」
「はい、はい♪ まぁ、それは置いておいて――
より良く大聖堂を動かせるのは、やはりオリバーさんだと思うんです。
主教になるつもりがあるなら、私もお力添えをするのですが……」
「そうなればきっと、アリアも手伝うと思いますよ。
ああ見えて、すごく恩を感じていますから」
「それなら、もっとちゃんと連絡をすれば良いのに。
オリバーさん、アリアさんが連絡を寄越さないって……いつもぼやいてますよ?」
「ははは……。
ちょくちょく、そうは言ってるんですけどね……」
アリアは引き続き、特務裁定官という立場で外回りを続けているものの……大聖堂への連絡は、できるだけサボっていた。
ザインから注意しても逃げられるだけなので、ほどほどにせざるを得ないのだが……。
……そうこうしていると、台所からアリアとメルヴィナが戻ってきた。
「野菜の準備ができましたよー♪」
「お、そろそろだな。レイラ、火の用意を頼む」
「はい!」
そんなふたりを見ながら、メルヴィナが少し笑う。
「ふふっ。あのふたり、親子みたいですね」
「うーん、そうか? どちらかというと……犬じゃない?」
「まぁ……レイラさんは、アリアさんの後ろを付いて歩きますからね。
そう言われると、そうにしか見えなくなる……かも?」
ザインと話すメルヴィナの元に、アリアがやってくる。
そしてメルヴィナの持っていたトレーを受け取りながら、生温かい目で――
「あのふたりが親子だっていうなら、こっちのふたりは彼氏彼女かな~?」
「いやです」
アリアの言葉に、メルヴィナは即答した。
「……おう。
その気が無くても、このスピード感は俺の心を傷つける……」
「あはは。メルちゃんが好きなのは、ガルドさんだからねー」
「え、やっぱりそうなの!?」
「何でそうなるんですかッ!!」
メルヴィナは怒りながら、丸太小屋の中に戻っていってしまった。
しかし、すぐに次の食材を持って出てきた。
怒っていても仕事をする……メルヴィナは真面目な人間なのだ。
その後、フィオナから乾杯の音頭があり――
そのまま全員で、肉を焼き、野菜を焼き、謎の食材を焼いていく。
――夜空の下で、宴は続いていった。
アリアが少し離れたところで酔いを覚ましていると、フィオナがそこへやってきた。
「アリアさんとお話をしたくても、なかなか空かないんですよね♪」
「あ、すいません……!」
アリアは少し慌てるが、フィオナは優しい微笑みを向ける。
そしてそのまま、視線は他の4人の元へ――
……しばらくすると、フィオナが口を開いた。
「この1年間で、少しずつですが……いろいろと変わっている気がします。
楽しくもあり、不安もあり……って感じですね」
「そうですね。
でもそれが、自分たちで選択をしていく……ってことだと思いますよ」
「――オルビスという神は、何で人間から、その選択肢を奪ったのでしょう……?」
フィオナはこの1年、ずっと気になっていたことを……アリアに聞いてみた。
アリアなら知っているはず……だからずっと、次に会ったら聞こうとしていたのだ。
「オルビスは、『完全』を求めていましたから。
だからその対になる『不完全』を、人間の世界に見ていただけですよ」
「……そこに、愛はあったのでしょうか?」
アリアは少しだけ、考えた。
機械に感情は無い……それが、アリアの持論ではあった。
しかし――
「……あのとき、メルちゃんを殺さなかった。
もしかしたら、オルビスにも……愛は、あったのかもしれませんね」
ただ、それは別の理由だったのかもしれない。
今となっては、アリアには分かるはずも無い。
「……ふぅ。私も、神というものを見たかったです。
その辺り、今から詳しくお話をして頂けますか?」
「あはは、良いですよ。でも――」
「……ちゃんと全員、布団に移動させてから……ですね♪」
「面倒くさいですが、そうしますか……」
アリアとフィオナは、舟を漕ぐ4人を改めて眺めて――小さく、溜息をついた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数日後、6人は大聖堂に向かうことになった。
フィオナとガルドはそもそもの任務が終わったため、それ以外の4人はオリバーからの依頼が終わったためだ。
「この丸太小屋、落ち着くから好きなんですよね」
「あら、それならお譲りしましょうか?
アリアさんなら、綺麗に使ってくれそうですし♪」
「いやいや、それは申し訳ないので。
――ところで出発の前に、これを試しても良いですか?」
そう言いながら、アリアは帽子から……手のひらサイズの金属の塊を出してきた。
「これは……何ですか?」
「あたしの古代魔法の知識で作った、『カメラ』という機械です。
……平たく言うと、映像保存の魔導具みたいなものですね」
「最近のアリアの趣味なんですよ。
ちょっと全員で、撮らせてもらえますか?」
「おうおう、ザインくん。説明をありがとね」
「あいよぉ」
フィオナは少し、何かに引っかかった気がしたが――
……一旦それは忘れて、ザインの指示通りに並んでいく。
アリアを中心に、その左右にはフィオナとメルヴィナ。
レイラは定位置の、アリアの正面にかがむ形で。
身長のあるザインとガルドは、一番後ろの列に――
――カシャッ
少し軽い音が聞こえて、撮影は終了になった。
「よかったな、アリア。ずっとこの6人で撮りたいって言ってたもんな」
「うん。現像したら、みんなにあげるからねー」
「楽しみにしてるぞ。
何といっても、アリアの旅の集大成……みたいなものだし」
「いやいや。集大成には程遠いよ」
アリアはカメラに目を移してから、ザインの顔を笑顔で見上げる。
「――だって、あたしたちの旅は……まだまだ、終わらないでしょう?」
「ふふっ、そうだな!」
――神のいなくなった世界。
人間たちの世界は、これからも続いていく。
ただ、誰にも想像ができないからこそ――
……その未来は、何よりも価値があるに違いない。




