表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第4章 生命の満ちる場所
41/68

滝の中には

 外から聞こえる鳥の声で、ザインは静かに目を覚ました。

 窓の外には青空が気持ち良く広がっている。

 ……その反面、身体はどことなくダルかった。


「……あれ? いつの間にか、眠っちまったのか」


 どうやら食卓の下で、薄い布団に包まって眠っていたようだ。

 近くの扉をおそるおそる開いてみると、そこではメルヴィナがソファの上で眠っている。

 アリアの姿は――そう思ったところで、彼女が階段から下りてきた。


「あ、情報屋。おはよー」

「おう、おはよう。昨日はいつの間にか、眠っちまったんだな」

「そうだねぇ。ようやくガルドさんも見つかったし、緊張が解けたのかもね」


 それだけでもないような……とザインは思ったが、とりあえず納得することにする。

 実際に眠気の方は、すっかり取れていたのだ。


「お前の方は……何だか眠そうだな?」

「うん。フィオナさんと話し込んじゃって、徹夜だったからねぇ」

「おいおい、フィオナさんに無理をさせるんじゃないぞ?」

「あたしの心配、どこー?」


 アリアは目を軽くこすりながら、そんな不満を口にする。

 何となく、庇護欲が湧いてくるものの……庇護するには強すぎるヤツだからな、と思い直す。


「今日はお昼前に出発だって。みんなで軽く冒険しよ~って話になって」

「ふーん? まぁ、天気も良いしな」

「そんなわけで、あたしは少し寝てくるねぇ。情報屋はメルちゃんと一緒に、準備しておいて~……」


「お、おう」


 アリアは欠伸をしながらふらふらと、応接室に入っていった。

 ザインは昨晩の食器を片付けて、洗い物を始める。

 ……しばらくしても、メルヴィナは起きてこなかった。

 てっきりアリアが、寝る前にメルヴィナを起こしてくれるものだと思っていたが――


「きゃーっ!!?

 アリアさん、どこを揉んでるんですかッ!!?」

「は、はぁ!?」


 ザインが慌てて応接室に行くと、ベッドの上で、メルヴィナに絡みついているアリアの姿があった。

 メルヴィナの髪は乱れていて、突然現れたザインを前に、涙目になっている。


「ザインさん、助けて……!」

「お、おう……。

 えぇっと、アリアの身体を――……って、掴めねぇ!?」


 それは当然、アリアの異能『対象化拒否』がそうさせているのだ。

 アリア自身が眠っていても効果を及ぼす、実に厄介な異能……。


「えっと、メルヴィナの方を……触っていい?」


 メルヴィナはおどおどしながら、アリアに耐えきれずに承諾した。

 ザインはメルヴィナの身体を軽く持ち上げて、ゆっくりと引きずって動かす。

 するとアリアの身体もそれにつられて動き、そして……ソファの下に落ちた。


「――んべっ!?」


 アリアは変な声を上げて一瞬だけ起きたが、ソファの上に戻って再び眠り始めた。

 その傍らにはメルヴィナと、彼女の肩に手を回すザインの姿が――


 ……このあと、メルヴィナの平手がザインの頬を襲った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 フィオナの部屋には明るい日差しが射し込み、窓からは気持ちの良い風が入ってくる。

 華奢な椅子に座ったフィオナの前には、大きな身体のガルドが床に座っていた。


「――フィオナ様、やはり眠そうですね」

「うふふっ。徹夜なんて、しばらくぶりですからね」


 聖女であることが判明して以降、覚えることや考えることが多くなり、眠れなくなる夜も多かった。

 しかし最近は教団に絡んだ問題も少なく、ガルドもいたため、しっかりと眠れている。


「オレたちが眠っている間に、どのような話をされていたのですか?」

「……昔話、かしら? 実はアリアさんと誓約を結んでいるから、詳しい内容は話せないの」

「誓約まで……したのですか。それではオレは、深くは聞けませんね。

 ただ――……あの3人は、フィオナ様に害を為す者ですか?」


 真面目な表情のガルドを見て、フィオナは優しく答える。


「ええ、敵ではありません。私たちを害するということも無いでしょう。

 アリアさんは彼女の目的のため、私たちが必要……ということは間違いありません」

「……オレも、なのですか?

 フィオナ様なら分かるのですが、何でオレが……」

「ガルドの場合は、単純に戦闘力が欲しいから。

 探せば他にもいるかもしれませんが――私が聞いた限り、あなたが打ってつけだと思いますよ♪」

「はぁ……。強いだけの連中なら、他にもいるでしょうに」


 ガルドは軽く横を向いてから、溜息を漏らした。

 強さが認められるのは悪くないことだが、仲間になるというのは別の話だ。


「それはそれとして!

 今日、アリアさんたちと冒険することになったんです!」

「冒険? 森の中を、ピクニックでもするんですか?」

「はい。森の奥の、滝を見に行きましょう♪」


 その言葉に、ガルドは顔を青くした。

 そこには巨大な、この付近のヌシの魔物が棲んでいるのだ。

 近付かなければ襲ってくることは無いが、水源である川の中流に位置しているため、迷惑に思う人たちはいる――


「まさか、討伐をするとか……?」

「できるなら、それも良いですね♪」


 フィオナの明るい笑顔に、ガルドは困りながら顔を手で覆った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 2時間後、アリアは目を覚ました。

 応接室を出ると、ザインとメルヴィナは気まずそうに、それぞれ外に出る準備をしている。


「あれ? 何かあったの?」

「いやぁ、実は――」

「何もありませんッ!」


 メルヴィナは声を大にして言うと、アリアの後ろに寄ってきた。

 そこからは何をするでもなく、ザインと距離を置いている。


「ダメだよ、情報屋。メルちゃんが可愛いからって、ちょっかいを出したりしちゃ~」

「それ、お前が言う……?」

「……そこだけは、同感です」

「えぇー? ケンカしてるの? してないの?」


 3人が喋っていると、2階からガルドがゆっくりと下りてきた。

 身体が大きいので狭くるしく見えるが、慣れたもので、その動きはスムーズだ。

 階段を下り終えると、アリアを一瞥してから台所に入っていった。


 フィオナから何か聞いたのか……とアリアは思ったが、それよりも、台所から流れる香りの方に注意がいった。

 ……小麦粉を焼いたような、素朴な香り。

 それを感じながら、アリアはメルヴィナを慰めた。


 その間にザインはふらっと外に出て、近くの切り株に腰を下ろす。

 しばらくすると、アリアがひとりでザインの元を訪れた。


「……何か、ごめん」

「ん? あー、メルヴィナから聞いたの?」


 アリアはこくりと頷いた。

 悪いところがあれば、たまには素直に認める。

 それが我らのアリアちゃんだ……ザインはそんなことを思った。


「まぁ、メルヴィナも気が動転してるだけで……。すぐ忘れるだろ。

 ……忘れてくれるとイイナァ」


 ザインは遠くの空を、少し悟ったような顔で眺めていた。

 アリアは同じ空を見た後、改めてまわりを見てまわる。

 昨日は中に入るまで、あそこのテーブルで話をしていたっけ――


「そういえば情報屋の昔話って、昨日初めて聞いたんだよねぇ。

 ……いつか、何があったか教えてくれる?」

「――ふっ。別に、話すことでもないさ」

「そう?」

「でも、アリアがどうしても聞きたいっていうなら――」

「よーし、じゃぁおやつ取ってくるね! フィオナさんが、何か焼いてるみたいだったし!」


 ザインは続きを話すことは……やぶさかではなかったが、アリアは一瞬の間に去っていった。

 アリアの方を振り向いたザインの視線が、完全に宙を泳いでいく。


「――……ははっ。あははははっ♪」


 ザインはひとしきり笑ってから、改めて空を見上げた。


「まったく。そういうところが、本当によく似てるんだよなぁ……」


 しばらく空を見上げたあと、ザインは大きく伸びて、丸太小屋の中に戻っていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――昼前に出発して、1時間もすると大きな滝に辿り着いた。

 広々とした青い空の下、高くそびえる巨大な岩。

 ところどころに生えた苔と、力強く流れる清らかな水。

 激しい音と圧巻の迫力が伝わる中、細かい水飛沫が霧のように飛んでいく。


「おー、すごいねぇ」

「私、滝は見るのが初めてです……!」


 アリアとメルヴィナが景観に目を奪われている中、ガルドが注意を促す。


「不用意に近寄るなよ。滝つぼには、ここのヌシが棲んでいるからな」

「今日は、それを討伐するってことか?」


 ザインの言葉に、ガルドは静かに頷く。

 ガルドとしては、敢えてそんな危険を冒さなくても……とは思ったが、フィオナの要望であるなら仕方が無い。

 ……実際、討伐の要請は近隣の住民からも相談されていたのだ。


「それではみなさん、私が支援魔法を掛けますね。いわゆる、身体強化というものです」

「あたしは要らないので、他の人に手厚くお願いします!」

「わかりました。あとは、怪我をしたらすぐに教えてくださいね」

「はーい♪ ……ところで、ここのヌシってどういう魔物なんですか?」

「なぁに、騒げばすぐに出てくるさ。……ほら、もう出てきたぞ?」


 ガルドは滝つぼの中を、軽く指差した。

 滝つぼは想像以上に広く深く、何かの目がギラリと光った。

 そしてゆっくりと、辺りに何かが這い出てくる。


「あれは……触手? うーん、また触手かぁ……」

「相手はタコ、かぁ。……今回のは、柔らかそうだけどね」


 ふたりの脳裏には、監獄があった街での記憶が蘇ってくる。

 ギデオンとヴィクトリアが変容した魔物……あれにも、触手のようなものが大量に生えていたのだ。


「――今回、本体はアリアさん以外で倒してください。

 アリアさんは、攻撃するなら足だけにしてくださいね♪」


 その提案に、アリア以外はぎょっとした。

 ザインとメルヴィナは、アリアがいればすぐに終わるのに――と思った。

 ガルドは、危険な相手に対して全力でいかないとは――と思った。

 そしてアリアは――


「たくさん刈ったら、今日はたこ焼き……ってこと!?」


 その声に、フィオナが冷静な声で答える。


「すいません、アリアさん。

 ……青のり、今、切れてるんです」


 ツッコミどころが満載の中、ザインはとりあえず……1つだけツッコんだ。


「食う気かよ!!」


 ――悲しいことに、それが戦いの合図となってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ