閑話 一連の騒動を終えて
その日の夜。午後十時半。
書斎のテーブルで、桂木律と藤村が神妙な顔つきで向かい合っていた。
藤村が一連の出来事を報告していた。
主に澪の義妹・瑠璃の予想外の訪問と、澪が使用人達に素性を明かしたということだ。
「——以上が報告となります。
特に、前者の出来事は私も冷や汗をかきました」
「ご苦労。
まさか朝比奈の者が訪ねてくるとはな。やはり妬みか……」
「十中八九そうでございましょうな。
しかし、澪様はご立派でしたぞ。しっかりとご自身の言葉で意思を伝えられましてな」
「ほう、藤村がそこまで褒めるとは珍しいな」
茶化すように言う律に藤村は苦笑する。
「お恥ずかしながら、澪様は孫のような存在だと認識しているようでございましてな……。いやはや、困ったもので……」
「全くだ。
初めの頃、俺が興味を持って会ってみたいと言っても必死に止めてきたのは誰だったか……」
「面目ありません……」
藤村はそう言うと律に深々と頭を下げる。
「頭を上げろ、藤村。謝ることではない。
俺より藤村や使用人達の方が、朝比奈澪の成長をより実感しているだろう」
「は……。仰る通りで。
そもそも、使用人達は澪様が普通ではないとは勘づいていたようですが……」
その時のことを思い出したのか、藤村が口元を緩めながら言った。
律もつられて表情を崩す。
「そうか。万一、使用人達が不信感を抱いたらと思っていたが、杞憂だったな」
「我々使用人達は皆、そのような人柄ではありませんのでな」
穏やかに答える藤村を見て、律は顔をほころばせた。
「そうだな。俺達は皆の支えがあってこそだ。
これからもよろしく頼むぞ」
「御意」
律は藤村の返事を聞くと、顎に手を当てて考え込む。
「それにしても、朝比奈の義妹は今後桂木家の門をくぐらせない方が良いだろうな。厳格さや平穏が損なわれるし、家の者にも悪影響だ。
実際、使用人達が心配して聞き耳を立てていたのだろう?」
「はい。彼女達の仕事を止めてしまったことは心が痛みましたな」
「ならば、明日にでも手紙をしたためるか。
金輪際門をくぐるな、とな」
「承知いたしました。では明日はそのように手配しておきましょう」
それから藤村はスッと顔を引き締めると、真面目な声で言う。
「律様。耳の痛いお話にはなりますが……」
「なんだ?」
「頻繁に夜会に足を運んでおられますな?
隠居されている和正様も、そのことだけが後ろ髪を引かれておりまして……」
「…………………………」
律は目を閉じて小さく息を吐いた。
桂木和正は律の実父で、現在の桂木家の体勢を整えた人物でもある。
内容を察した律は口を結んだ。
「そろそろ……娶られる方を決められては如何でしょうか?」
この話は彼が当主に着任してから散々言われ続けているものだった。
毎回濁されるため、藤村は全く期待していなかった。
それでも、失礼を承知の上でいつも通り催促した。
——今回も濁されるでしょうな
しかし、目を開けた律から返ってきた言葉は違った。
「そうだな……。真剣に考えるか」
第二章 完
このお話で第二章完結となります。
そして、大変申し訳ございませんが、事情により一定期間休載とさせていただきます。
時期が決まりましたら活動報告でお知らせしますので、
しばらくお待ちください。
ここまでお読みくださってありがとうございました。




