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冷酷と噂の名家当主に嫁ぐことになりましたが、私はただの雑用係です  作者: 月森 かれん


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27話 安堵と迷子

 澪は慎重にお茶を入れ、湯のみを乗せたお盆を桂木家のテーブルまで運ぶ。

移動している間、周囲の視線を集めている気がしたが、気のせいだと言い聞かせた。


 「失礼いたします……」


 どうにか一滴も溢さずに、音も最小限で、お茶を出し終える。

鷹司幸一郎は澪に会釈すると、穏やかな声で話しかけた。


 「どうもありがとう。

おや? 君は初めて見る顔だね?」


 「え、ええと……」


 「入って二ヶ月の新人です。

まだ場馴れしていないため、不手際があるかもしれませんが……」


 桂木律が助け舟を出した。

鷹司幸一郎はゆっくりと頷くと、再び澪に視線を戻す。

しかし、口元は笑っていても目は笑っていなかった。

 澪は自分を観察されているような気がして、背中を汗が一筋流れた。


 「なるほど。桂木家の例の試練だな」


 「試練、ですか……?」


 「私達の間ではそう呼んでいるよ。

良い取り組みだと思うがね。他家の使用人も多く来ているから、教育にも繋がる」


 穏やかな声で語る鷹司幸一郎に、澪は相槌しか打てなかった。




 会話が途切れて、周囲のざわめきしか聞こえなくなった頃。


 「ご苦労。もう下がっていいぞ」


 澪の耳に響いた凛とした声に振り返ると、桂木律がテーブルの陰で桜井の隣を指し示していた。


 「失礼致します」

 

 澪は鷹司幸一郎に一礼すると、少し早足で桜井の隣に向かう。

 桜井は西洋のポットを手にしたまま、澪をニコニコと眺めていた。

その何とも言えない表情に、澪は不安になって尋ねる。


 「桜井さん。先程のはいかがでした? 私、上手くできていましたか?」


 「ええ。少なくとも失敗ではありません。平凡ですね」


 ――平凡なんだ


 キッパリと言われて、澪は少しだけ傷ついた。

だが、お茶を溢したわけでもなく味が渋かったわけでもないため、平凡で良かったのだと言い聞かせた。


 「家の者以外への初めてのお茶出し。

あそこまで出来れば十分ですよ」


 「でも、平凡なんですよね?」


 「はい、平凡です。ですが、夜会では大抵何をしても平凡なんです」


 「え? 桜井さんも平凡なんですか?」


 澪が驚いて尋ねると、桜井はしっかりと首を縦に振る。


 ――何をしても平凡? どういうことなのかしら?


 気になって尋ねようとしたが、桜井の目つきが少し鋭くなったのを見て、

澪はおずおずと背筋を伸ばした。


 ――そうだった。使用人同士で話すなと、律様から注意を受けたんだったわ



 やがて、鷹司幸一郎がテーブルから去り、桂木律も他家を回るために席を外した。

 2人は黙々とテーブルを掃除し、次の来客に備える。

しかし、桂木律が不在にしているからか、誰も訪れなかった。



 澪は緊張から解放された反動で用を足したくなった。

すぐに小声で桜井に話しかける。


 「桜井さん、すみません。お手洗いはどちらでしょうか?」


 「扉を出て右、突き当たりです。

一直線なので迷わないと思いますよ」


 「ありがとうございます。

少し席を外しますね」 


 澪は微笑んで桜井にお礼を言うと、背筋を伸ばして歩き、廊下に出た。

 人一人歩いておらず、大広間の賑やかさとは正反対で、本当に同じ場所なのかと澪は不安に思った。


 「お手洗いなんだから、時間をかけていたら心配されてしまうわ」 

 

 澪は小さく首を振って、右の突き当たりを目指した。




 用事を済ませた澪は、廊下に出て愕然とした。

来る時は急いでいて気がつかなかったが、大広間と同じデザインの扉が何枚も並んでいる。


 「私、どの扉から出てきたんだっけ?」


 澪はその場に立ち尽くした。

次回は5/16更新予定です

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