ナツコイにて
不良な佐々木君とオタクな景子さんの始まりの話し。
とある学校のとあるクラスに景子さんという女性が居ました。
ごくごく普通の高校生でしたが、少し周りの人間とは違ったのです。
オタクでしたがこれは大した事ではないのです、それとは別に前世の記憶があったのです。
それも昔の記憶というのなら良かったのですが平行世界の記憶とやらでこの世界とは違う知識に前世であるとは思えず、
程ほどにリアリストだった景子さんは選ばれし俺の記憶が……などと怪しい事は思っていなかったのでオタクの意識が合わさって妄想の産物だと疑っていなかったのです。
というのも家族もオタクというサラブレット。
父親はゲームオタク、母親はアニメ漫画オタク、兄はゲーム会社のシナリオライター姉はイラストレーターという世の中には羨ましいと思う人が数えきれいない程いるでしょう。
そんな環境にいたものですから妄想に生きるどころか現実と空想の区別がしっかりとした子に育ったのです。
景子さんは現実と過去の記憶が違った事があれば妄想の影響かと軽く流していたのですがそうもいかない状況に陥ってしまったのです。
それは高校二年生に上がり夏に差し掛かった昼休み時間の事です。
どんな学校でも進路について考えなくてはいけません。
景子さんもプリントに希望する進路を書いて提出したのですが一人だけ提出していない人がいました。
その人は進路に悩んでいるのか分かりませんでしたが、周りからは不良と呼ばれる人だったので誰も彼に提出してくれとは言えなかったのです。
学級委員の愛美さんと景子さんはそこそこ仲が良かったのでもう一人の学級委員である男子の吉岡君は頼れない男だ。
と、さっさと見切りをつけて代わりに言ってあげようなどと思ったのです。
実は精神年齢が高い景子さんは肝っ玉が据わっていました。
若いのにプリントを書かせる事なんて簡単だと思ったのです。
愛美さんの為に人肌脱いでやろうと、いつもと同じように机に腕を乗せ寝ている彼に近付き予備のプリントを差し出しこう言いました。
「佐々木君、適当でいいから書いてくれないかな。それか、めんどくさかったら私が変わりに書いておくよ」
そう、巨大ロボットのパイロットと書いてやるよ。と、心の中で付けたし密に笑っていた景子さんの表情はまるで菩薩の如き神々しさがありました。
後に佐々木君はそう語りましたが、それはにやけているとしか思えない表情だと周りの人間は言うでしょう。
どうするかと約一名が語る菩薩のような目線で彼の返事を催促しました。
周りの人間は何やってんだお前早くそいつから離れろと動いたら巻き込まれると逃げることも出来ずに見守っていた時です。
「まだ決まっていなくて悩んでいるんだ。一緒に考えてくれないか?」
佐々木君の返事は予想外の反応でした。
何故かと言うと景子さんの菩薩うんぬんと、とち狂ったような言葉から分かるように数分前まで気にもしなかったというのに恋のラビリンスに落ちてしまったのです。
まったくもって青臭い事です。
なので佐々木君は無駄に良い頭で考えました。
この人間の事をもっと知りたいが自分で書いたら接点が無くなり書いてもらってもその後どうなるか分からない不安要素があるからです。
此処で一緒にといえばもっと話せるし悪い噂しかない自分に堂々と話せるくらいなので前の席に座ってくれるかもしれないからです。
悪い噂のほとんどは合っているので久しぶりに登校すると周りの人間は一斉に離れていくぐらいなのですから。
合っていないのは親がヤがつく職業じゃないのと女性関係の派手さぐらいで喧嘩するのも揉み消すのも当たり前、女ですら殴る非道っぷり。
流石に親も渋い顔をしましたがそこは頭の良さと口の上手さで黙らせました。
学校にほとんど来ないのにテストで上位に食い込むいやらしさがあります。
正直に面が良くなければこんな性格にはならなかったのだろうと思いますが佐々木君はかなりの男前だったので人生を舐めくさって生きてきたのです。
そんな人生に飽きてきたときに景子さんの反応に胸キュンしてしまったものですから頑張りました。
まったくない恋愛知識をフル騒動して縋るような視線もつけての一言がこれです。
微妙ですが景子さんには効果がありました。
「いいよ。前に座ってもいい?」
周りは退避し始めています。
昼休みは半分も残っています。
佐々木君の望み通りに景子さんは前に座り、確かこの人頭良かったよな。不良の癖に、不良の癖に、大切なことなので二回言いました。
頭の中でマイブームであるネタを考える余裕すらあるので軽やかに前に座り佐々木君の目を真正面から見つめました。
佐々木君の造形の良さに呪詛を吐きながらもそんな自分に笑っているので始終にこやかです。
媚びる風でもない笑みに佐々木君はますます上機嫌です。
先ほどから佐々木君の雰囲気も柔らかいので男前度が上がりっぱなしです。
青春しているなぁと景子さんも上機嫌です。
「進路は進学?それとも就職?」
まずは基本から、そう尋ねると
「進学だ」
こんな問題児何処が受け入れるんだと思うでしょうがそれはそれ、大人の事情があるのです。
話を伸ばす為に入れる学校がある事には触れず景子さんの進学先を聞き出そうと考えています。
執着心が人より若干、いや、かなり高い佐々木君は既に進学先ですら追いかけるか自分と同じものにしようと考えていました。
こういう人間がストーカーになるのでしょう。
さっき気になり始めたのに恐ろしい事です。
「そっかー大学の名前とか分かる?学校案内の本持ってるけど見る?」
景子さんの親切メーターは今にもはちきれそうです。
進路の悩みはビックイベント、かつて成人してあの頃に戻って青春しとけば良かったとお酒を飲みながらぐだぐだしていた景子さんはこの手のイベントに弱いのです。
わざわざ自分の席まで行き本をもって戻ってきました。
付箋もついているので景子さんが行きたい学校はまる分かりです。
ちなみに佐々木君は立ち上がる時に景子さんのパンツが見えないかなと気持ち悪い事を考えていました。
こういう人間がストーカーになるのです。
景子さんのブームにあやかり二回も言った大切な事なのでこの後正夢の如く佐々木君はストーカーになります。
「どんなのが良いとかある?」
本を見るために頬に滑り落ちた髪を耳にかけながら景子さんは尋ねます。
そんな真剣な景子さんに対して佐々木君は俺がその髪をかけて以下規制しなければいけない言葉を考えつつもっと会話を伸ばす方法を考えます。
本当に気持ち悪い男です。
大切なことでもないのに何度でも言いたくなります。
「良く分からないからあんたの行きたいとこは?そいやあんたの名前は?」
さも、親切にしてもらって俺の名前を知ってるのにあんたの名前知らなくて悪いけど教えてくれないかという男好きな女なら即落ちる笑顔を浮かべ名前を聞きだそうとします。
自分の顔の造形の良さを分かっています。
景子さんは顔が良くとも惚れた男がタイプという恋愛感だったのでそれ程効果はありませんでしたが、噂通り酷い奴だと認識していますが、良い所もあるじゃないかと評価は上がっています。
まんまと罠に嵌っています。
「ん、私は益田景子だよ。よろしくね。それでね、これとこれかな、本当はこれに入りたいんだけど微妙なんだよねぇ」
パラパラと捲りながら指を指していきます。
名前を照れくさそうに話す姿に悶絶していますがそれは置いておいて、景子さんが入りたいと言う大学は運良く佐々木君の薄暗い関係にある大学でした。
勉強を教えると言って距離を縮められると心の狼は涎を垂らして勉強会という餌の前でお座りしています。
二人でその大学を眺め佐々木君はこんな学校に行けたらいいなという顔をしています。
役者にでもなれるのではないでしょうか。
「此処いいな」
「やっぱりそう思う?施設も言いし新しいし、でも倍率が高いんだよね」
入りたいなぁでもなぁ塾はやだしなぁ。
だってアニメ見れなくなる。とは言わずに倍率の所為にしています。
建前と本音の違いというやつです。
「でも佐々木君なら行けると思うよ」
憎しみを込めて呟く景子さんの姿は哀愁をもかもし出しています。
それを佐々木君は俺と一緒に通いたいのかと斜め上に捕えています。
反応から恋愛的名好意を持たれていないのは分かっている佐々木君ですが、この様子なら落とせるという根拠の無い自信を感じていました。
「微妙なんだろ。行きたいなら頑張ればいいじゃねぇか」
ちょっとできる男を演出しています。
景子さんもその言葉に驚き佐々木君の目をまじまじと見つめます。
その真剣な目に景子さんの無駄に燃えやすい魂が燃え滾りはじめました。
「そうだよね!!諦めちゃ駄目だよね!!」
キラキラと目を輝かせる景子さんに、純粋とは程遠いところに生きてきた佐々木君は今にも浄化されそうです。
そんな様子にも気付かずに景子さんはまだまだ燃え上がります。
「オープンキャンパス行くの止めようと思ったんだけど行ってみるよ。佐々木君のお陰だね」
はにかむ景子さんに佐々木君はさっきからもう悶え死ぬ寸前です。
呼吸が出来ないという経験をしたのは初めてなのでしょう。
それでもチャンスは逃しません。
「それ、他にも行くやついるのか?」
「いないよ」
「俺も一緒に行っていいか」
疑問系に見せかけて断定系でした。
此処で本性が少し出ていますが気付かずに輝かんばかりの笑顔で承諾します。
実は他にこの大学を望んでいる人間が居なかったので誰を誘おうか悩んでいたのです。
出来れば一人は嫌だったので喜んでその申し出を受けていました。
少しイケメンと一緒に居るなんてドキドキするなと暢気に考えています。
それどころではないのですが、さほど異性と関わり合いになった事のない景子さん。
前世でも年齢=彼氏居ない歴という状態でした。
まさか自分がという浅はかな考えです。
後々後悔するとも知らず佐々木君のやけに熱っぽいありがとうという言葉で完全に逃れられなくなってしまったのでした。
そうして二人は膳は急げとばかりにオープンキャンパスの予定を既に決めています。
連絡先まで交換してしまっています。
教室にはもう二人以外には残っておらずこの状況に疑問を思う人間なんて居ません。
居たとしても佐々木君が黙らせるでしょうが。
こうして二人の仲は急速に近付いていきますが、景子さんが気が付いた時には既に佐々木君の腕の中に囚われてしまったのでした。
これから盛り上がるところですが続きません。




