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マザー 1

マザコンな女と女が嫌っている男の話し。


「生きていたら結婚してください」


そう言って崖から戦場へ飛び降りた私は驚愕に目を見開くこの世で一番嫌いな男を脳内で殺した。


振り下ろされる剣を避けながら口の端が上がるのを止める事ができそうにもない。

一泡ふかせることができたと喜んでいる内に一人二人と切り倒していく。

絶望的に不利な状況の戦争に単騎で突撃しこれから死に逝く私の半生というものを片手間にで良いから聞いて欲しい。

この感動をこの無常を誰かに伝えずしてどうして死に逝くことができようか。

まずはそう。私は転生者というものらしい。

それを知ったのはこの世界の母親が壊れていくのを目の前にした時だった。

緩やかに床に広がる白銀の髪、虚空を見つめる紫色の瞳。

あぁ、なんて美しい光景だろうか。

響く母親の悲鳴もまるで幻想の中で響くベルの音色のようだった。

この人が私の母、この人が私の守るべき人。

そうだ、そうであるべきだ。

天啓のようにその考えが浮かんだとき唐突に思ったのだ。

私はこの世界の人間ではないと。

私は高校を卒業し短大を出た後、紙の製造に関わる会社の事務員となっていた。

もっぱらする事言ったら在庫のチェックや上司の指示で動く小さなミスもあるものの穏やかな日々を過ごしていた。

それが崩れたのは簡単だった。

上司の度重なるセクハラに耐え切れなかったゆえの自殺。

そう表向きはなっているだろうが結局のところは他殺だ。

上司にセクハラをされていたというのは事実だがたいしたものでもないし身体の関係を強要されるものでもないし騒ぎ立てることもなかった。

それがどうして殺されてしまったかというとその上司に惚れていた女に自殺に見せかけて殺された。

こっちとしてはただ迷惑だとしかいえない。

自分で言うのもなんだが容姿は人並み。

身長が低い事を覗けば極普通の女だった。

どうして私が上司から狙われたかというと単純に大人しそうだったから。

それだけだろう。

セクハラをされた上に理不尽な動機での殺害。

その後彼女はどうしたかったのだろうか。

彼を自分の物にしたかったのか、それとも自分の元へ来ないから復讐したかったのだろうか。

結局上司の未来はぼろぼろになる。

女とは思えない力で私を誘拐し殺す直前までまるで旅行の話をするかのようにべらべらと喋っていたが、そこまで喋っていなかった。

こうして私は死に、気付いた時は異世界で転生していた。

既に五歳まで大きくなっていた私はそれまでの記憶と転生前の記憶が交じり合うまで時間がかかったがそれよりまず母をどうにかして守る方が先だった。

周りは敵だらけ、母を守れるのは私だけであったからだ。

私はとある貴族の正妻の子だったが母と父は政略結婚の上、妾には子が三人も居た。

兄が一人、姉が二人。

私が末子ということになる。

そこまで妾を愛しているというのに私が産まれたことが不思議だが、母に合わせてくれたことには感謝しなくてはいけない。

兄弟仲はそんなに悪くなかった。

兄も姉も反吐が出るほどいい人間で、まるで私が悪者のようになっていた。

それはどうでもいい。何と思われても気にするほどの相手では無かった。

問題は妾だった。

まるで聖女のように振舞っていたが中身はただの阿婆擦れで兄弟も本当に父の血を継いでいるかも疑問だった。

隙を見ては男を連れ込み母に嫌がらせをしては私の評判を悪くするのを趣味としていたぐらいだ。

初めてそれを見たとき醜悪な化け物とはこの女の事を言うのだと子供ながらに思った程だ。

今思えばこれぐらいの化け物などそこらへんにいるのだけども人生で初めて見る悪という者が彼女だった。

母が壊れた原因もこの女がおこした事だ。

男に母を襲わせ不貞を父に知らせ屋敷から追い出そうとしたのだろう。

結果として失敗したが母は壊れ満足したことだろう。

そのまま死んでしまえばいいと思っていただろうが、私というイレギュラーがあったためそれは叶わなかった。


続きます。

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